工芸都市高岡2022クラフトコンペティション

地場産業の活性化を期して始まった「工芸都市高岡クラフトコンペティション」も今年で35回目を迎えた。今回のテーマは「気配」。応募作品には「『出品者のクラフト観が反映されているもの。』クラフトとは何か?が作品から感じられること」、「『更新された視点が添えられているもの。』これまでの工芸・クラフト技術やクオリティだけでなく、『これから』を作品が示唆していること」が求められ、“未来のクラフトの気配”を探る野心的な取り組みとなった。

今年のテーマは「気配」

withコロナの気配がただよう2022年春。大治将典、小林和人、寺山紀彦、辰野しずかの審査員4人により、応募要件の基準についてディスカッションが行われた。その中で、「クラフトはただ機能するだけでなく、空間に配された時に漂う『気配』を人は受け取っている……」という主旨の会話があり、そこから議論が深まりテーマが「気配」に決定したのであった。

本年度の応募は190作品、うち77作品が一次審査(写真審査)を通過。そして9月6日(火)に行われた二次審査では、審査員が入選作を手にとって吟味し、受賞作9点が選定された。(小林和人氏は、新型コロナ感染のため、二次審査にはオンラインで参加された)


大治:今回のテーマは、応募要件について皆さんと話し合った時に出た会話をヒントに「気配」と決めました。この課題に出品者がどう答えているかという視点での作品の見方がありますし、われわれが選んだグランプリ、準グランプリ、優秀賞の3作品をとおして、「審査員は気配をこう感じたのだな」という出品者サイドのとらえ方もあります。その意味では、受賞3作品はわれわれ審査員から出品者へのメッセージにもなります。ですから今回は単に1等、2等、3等を決めるのではなく、3作品の組み合わせが発する“気配”も大事になってくるのではないかと思います。まずは審査員の皆さんの、受賞作選定にあたっての抱負や意気込みをうかがえますか。

辰野:私はグランプリなどを受賞した作品を見て、クラフトの未来を感じるきっかけになったらいいと思っています。世の中のクラフトがどのように進化していくのか、それを見据えて審査した方が、未来がうかがえていいのではないでしょうか。

寺山:私は、若い次世代の作り手が受賞作を見て影響を受け、新しいもの作りを始めるようなきっかけが生まれるような作品を選びたいです。また、「この技術は今までもあったけど、それをこの作品では違った視点で使っている」など新しいことにチャレンジしていることがうかがえる作品にスポットを当てていきたいと思います。

小林:昨年のグランプリ受賞作(薪ストーブ)は、どちらかというとプロダクトとしての高い完成度が印象的でした。今年はテーマが「手間」から「気配」へと変わり、募集条件に「出品者のクラフト観が反映されているもの」、「更新された視点が添えられているもの」という2項目が加わり、技能の高さだけを評価するのではなく、作り手個人の視点や、同時代におけるクラフトの在り方を問うような姿勢が評価されるのではないかと予想しています。

大治:それでは受賞作3作品と、審査員賞ともいえる「個人的な視点賞」を選ぶために、入選作を手に取りじっくりと見て、また皆さんと印象を語り合いたいと思います。(この後、各審査員が3票ずつを投じ、受賞候補作品を絞り込む)

驚きの2段構えがある

大治:審査員の皆さんの投票結果を見ると、「Niji」(緻密に螺鈿を装飾した作品)、「un named」(杉を一刀彫した作品)、「Vase floating on the lake」(結束バンドを染色し壺状に編み上げた作品)、「組/絡」(胡桃樹皮を素材にした作品)の4点の評価が高いようです。それぞれについて皆さんの意見をうかがっていきます。

辰野:「組/絡」の作者は、作品の素材を手に入れるために自ら山に入り、自然素材を入手されています。私は別な機会にそれを知ったのですが、この作品の胡桃の樹皮もそうです。作者コメントにはそのあたりが触れられていませんが、制作に臨む姿勢も、作品の形も素晴らしいと思います。

小林:こうして審査委員の評価が高かった作品を集めてみると、一方に工芸的な素材や技法を新たなアプローチから捉え直す方向性があり、また一方には工業製品を素材に選び、それを工芸的なプロセスで仕上げた作品がある。その対比の妙はおもしろいですね。

辰野:そうですね。私なりには、螺鈿の「Niji」は技法系クラフト、樹皮の「組/絡」は環境系クラフト、結束バンドの「Vase……」は新規系クラフトというふうにとらえました。

寺山:見た目のバランスもさることながら、そういう視点で見るユニークさもありますね。こちらの一刀彫(un named)も素晴らしいですよ。二つを接着しているのでなくかたまりの杉を削り出して、この形にしています。

小林:驚きました。ひと目見ただけでは別々に成形したものを後から接合しているかのようですが、実は一刀彫りなのですね。

辰野:シンプルな作品ですけど、印象強いところがありますね。

寺山:この作者は、元は宮大工の方で、その時に習得された技術を応用されているようですね。表面の加工も極めて丁寧で、自然にできたひび割れがいい味を出しています。

大治:家に置いて、オブジェとして飾るもよし、コーヒータイムのサイドテーブルとして使うもよし。そんな感じがします。

小林:一般的には乾燥によるひび割れは極力避けるものだと思いますが、それを表情として受け入れ、魅力に転換する姿勢も共感できます。

大治:この作品は、一見、削り出された2つの部材が接合されているように見え、1本の木には見えません。でも1本の木なのです。それがわかった時の印象の差が大きく、それが作品の力になっているような気がします。

小林:驚きの2段構えがあるわけだ。

寺山:「un named」は技法とアイデアが融合していて、上位の入賞は今後の高岡クラフトコンペへのメッセージになるのではないですか?

プレゼンテーションへの熱意も大事

小林:この作品は国産の杉材を素材に選んでいる点も意義を感じました。どうしても「和」なイメージに引っ張られがちな針葉樹の新たな魅力に気づかされたように思います。

辰野:ひび割れを受け入れているのも、自然素材をそのまま受け入れるという、普段のものづくりの姿勢の表れかもしれませんね。

小林:また、宮大工の既存の枠組みにとらわれず、その技術を応用して刷新された価値を創出している点も高く評価できるでしょう。

大治:では一刀彫(un named)、螺鈿(Niji)、結束バンド(Vase……)の中で3賞を決めます?

寺山:いやいや、もう少し議論しましょう。

大治:実は私は、シルクを使った「維飾り」(つなぎかざり)が気になっています。私にとっては「Niji」と「維飾り」は同じカテゴリーで、工芸系の技術の粋が違う用途に用いられていて興味深いです。螺鈿は従来は箱などの装飾として用いられてきましたが、ここではオブジェに利用されています。シルクは、本来は糸、紐、布として利用されますが、「維飾り」では装飾品として提案されている。そこに用を超えて意味や美しさから人にアプローチしようという純粋さを感じます。それと確かに結束バンド(Vasa……)は魅力的な作品ですが、上部に透明なパイプのようなものが見えるのが気になります。そこの収まりをもう少し丁寧に仕上げて欲しかったという思いがあります。

辰野:上の部分が、壺の口のようにあいているのは、器として用途が発展する気配も感じられますね。でも大治さんがおっしゃるように……。

小林:開口部のディテールが少し気になりますね。第一次審査は写真審査で行い、この作品のグラデーションが大変きれいだったので皆さんの評価も高かったという記憶がありますが、実物の仕上がりというのは、作品を評価する上では前提条件といえるかもしれません。

寺山:今ふうにいうと映える作品ですね。結束バンドをわざわざ染めてこのグラデーションを出しているところはすごいです。

大治:では、樹皮(組/絡)、一刀彫(un namede)、結束バンド(Vase……)で3賞を?

寺山:いやいや螺鈿(Niji)は外せないのではないでしょうか。これは技術的に素晴らしい作品です。

小林:大治さんの今の話は、結束バンドにはもう少し頑張って欲しいところがあるから、1等、2等の候補は、樹皮と一刀彫ということですか?

大治:そうです。辰野さんの話をうかがって、樹皮作品にはメッセージ性があるように思います。ただこの作品は、作品そのものが持つ訴える力というか、作者のプレゼンテーションへの熱意というか、そのあたりが少し弱いような気がします。例えば、展示に当たっていくつか数を増やすとか、大きさや意匠を変えたものを数個加えるとかすると、作品自体がインパクトを持ってくるのではないかと思います。

辰野:確かにそうですね。皆さんのお話をうかがって、作品自体が持つ力、プレゼン力が大事だとわかってきました。

小林:逆に、組の出品でなく単品でどこまで訴求できるかというところも見てみたいですね。いずれにしても、この作者の将来には大きな可能性があるようにも思えます。

グランプリには力強いこの作品を

大治:どうでしょう、皆さん。受賞3作品は、一刀彫、螺鈿、結束バンドに絞られてきたように思いますが……。

辰野:作品自体の訴える力でいうと、一刀彫がグランプリでいいのではないかと思えてきました。木を彫ってできる隙間の仕上げもきれいで、作者の技術の高さがうかがえます。

寺山:一刀彫はとても力強い作品です。それでいて、細部の仕上げがとても丁寧で、年輪が美しく見えます。作品の企画・デザイン、つくり方は、今後のコンペへのメッセージにもなると思います。

小林:この一刀彫の「un named」は、高度な技術と発想の冴えの融合によって生まれた作品といえるでしょう。

大治:皆さんの評価が高いようですから、グランプリは「un named」でいいですね。

全員:はい。(といって皆が拍手)

大治:では準グランプリ、優秀賞を決めましょうか。候補は螺鈿(Niji)と結束バンド(Vase……)ですが。

辰野:いずれの作品にもメッセージ性がありますね。螺鈿には伝統技術の更新という面があり、結束バンドには、新しい素材への挑戦という意味があります。結束バンドが素材になり得るのがわかったら、クラフトコンペの応募者の幅が広がるのではないかという期待もあります。

大治:日本のアート関連のコンペや展示会で、プラスチックを素材とする作品はまだまだ少ないのが現状です。従来の一般的な考え方でいうと、結束バンドの作品は「海外アートコンペで入賞して日本に凱旋してきました」という体ではなく、ここ日本の高岡のクラフトコンペで受賞するというのはインパクトの大きいものになると思います。

辰野:若手のアーティストの中には、樹脂を溶かして作品づくりに使っている人もいますが、彼は高岡のクラフトコンペは意識していないと思います。でも今回のクラフトコンペで樹脂製品が入賞したら、少し流れが変わってくるかもしれませんね。

小林:螺鈿についてですが、今までの高岡クラフトコンペの応募作品には「ここに螺鈿を使う意味はあるの?」というものも見受けられました。でも今回のNijiはそのような無理やりの印象はなく、貝片の配置の仕方にも新鮮味を感じました。

大治:ここに「22万円」という表示がありますが、これは1個の値段ですか、それともこの5~6個のセット価格ですか?

事務局:1個の値段です。

辰野:私だったらセットで一式100万円にする。その方がわかりやすいです。

大治:私もその方がいいと思います。

辰野:ちなみに結束バンドはいくらですか?

事務局:40万円です。

大治:価格を明示することもメッセージです。100万円も40万円も、びっくりするほど高くはない。アート作品に比べると安いものです。

辰野:では螺鈿(Niji)が準グランプリでいいのではないですか。

寺山:私もそう思います。一刀彫、螺鈿、結束バンド、この並び、この組み合わせが今回のコンペではいいように思います。

小林:私も皆さんと同じ思いです。

大治:それでは螺鈿の「Niji」が準グランプリ、結束バンドの「Vase……」が優秀賞に決定しました。

全員:(拍手)

閉塞感を吹き飛ばす2作品が地域貢献賞に

大治:では次に地域貢献賞に行きましょう。先ほどから角田悠紀高岡市長、塩谷雄一高岡商工会議所会頭がお見えになって、地域貢献賞の市長賞、会頭賞を選ばれています。

角田:私は市長賞としてこのボトルクーラーの「Thermal Sake Cooler HIMURO」を推したいと思います。コロナ禍にあっておうち時間が増え、テーブルウエアへの関心が高まっています。そのニーズにこのクーラーはマッチし、また本市の伝統技術や基幹産業の素材であるアルミが使われ、市の活性化につながるのではないかと期待されます。使いやすいボトルクーラーですので、多くの方にご利用していただきたいと願っています。

大治:これはボトルを濡らすことなく冷やす工夫がなされているのです。

角田:それは素晴らしい。市長賞としてますます推薦したくなりました。

大治:地域貢献賞・高岡市長賞はボトルクーラーの「Thermal Sake Cooler HIMURO」に決定しました。

全員:おめでとうございます。(と拍手)

大治:塩谷会頭はどれを選定されましたか?

塩谷:私はこの箸置きの「はなやぎ」がいいと思いました。この箸置きが食卓にあると、はなやかな気配が感じられますし、2年半のコロナの閉塞感を吹き飛ばし、世の中を明るくしてくれる気配を感じます。

大治:「はなやぎ」は地域貢献賞としてわれわれ審査員も注目していた作品です。表面に着色の加工をしているのか、ガラスそのものに色をつけているのか、製法については不明なところがありますが、モザイク模様にガラスが光って食卓を華やかにするところがいいと思います。作者は確かお生まれは県外でしたが、今は八尾に拠点を移して創作活動をされているそうです。

塩谷:県外から越されてきた方でしたか。ますますのご活躍を期待しています。

大治:地域貢献賞・高岡商工会議所会頭賞は、箸置きの「はなやぎ」に決定しました。

全員:おめでとうございます。(と拍手)


大治:「個人的な視点賞」については審査員各自で選んでいただき、「講評」でその選定理由を紹介していただきたいと思います。受賞作選定の審査はこれで終了しますが、途中、各作品に対して出た評価は、作者に対するエールとご理解いただき、創作活動に邁進していただけたらと思います。この審査会から、どのような気配を感じていただいたでしょうか?

個人的な視点賞

各年の審査レポート