「商工とやま」H15年10月号
特集
富山空港、東京便ダブルトラック化から1年

アクセスの選択肢がぐんと拡大、富山の活性化にプラス効果を期待!


 昨年7月1日、全日空(ANA)のみだった富山空港からの東京便に日本航空(JAL)が参入し、1路線2社運航のいわゆるダブルトラック化されて1年が経ちました。それまでの1日6往復から8往復になったこともあり、今年6月末まで1年間の東京便利用者が、前年に比べて約24万人も増加。110万人を突破しました。このダブルトラック化によって、どんな影響があったのでしょうか。今後の展望も含めてレポートしました。

 

東京便利用者が24万人もアップ!

◆航空需要を大きく底上げ

 県航空対策課が発表したデータによると、昨年7月から今年6月まで1年間の東京便利用者数は110万人を突破。前年に比べて24万人も多くの人が東京便を利用したことになりました。
 この要因としては、1日8往復になって輸送力がアップし、利用者の利便性が向上したこと、さらには2社体制になって競争原理が働き、料金値下げによる格安チケットが登場したことなどが集客力に結びつき、新たな需要を生んだと考えられます。
 実際、昨年7月には片道7千円というチケットや、往復航空券と東京のホテル宿泊費がセットで2万円強というパックも発売されています。インターネットで気軽にチケットを入手したり、割引きシステムなどを上手く使って頻繁に東京に出かける人も増えており、これまでJRオンリーだったサラリーマンの出張形態が変わってきているのも事実。今や「飛行機は高い」というイメージは過去のものになってしまった感があります。


◆両社とも採算ラインをクリア

 1年間で24万人もの利用者が増えましたが、航空会社別の内訳をみると、当初、利用者がJALに奪われると思われたANAが対前年比98・5%の微減でほとんど影響がなく、新規参入したJALの利用者数がそのまま上乗せされた結果になっています。
 また、この1年間の平均利用率をみてもANAが67・3%、JALが66・2%と両社とも採算ラインと言われている60%を大きく上回り、好調なスタートだったと言えます。

 

アクセスの選択肢が拡大!

◆ANAはほとんど影響なし、JRは?

 では、東京便の24万人も増えた利用者は、どこから生まれたのでしょう。航空運賃がJR並み(時期やチケットの種類によっては価格がJR以下も)に安くなったことで、これまでJRを利用していた人が飛行機に乗り換えたのでしょうか。JRにたずねてみました。
 「富山から東京方面へのJR利用者数は、前年比100%を維持しており、直接的な影響はありませんでした。JRでは東京へのアクセスとして『首都圏往復フリーきっぷ』を積極的にアピールすることで応戦しています。この切符は従来の『東京往復割引切符』の料金(富山発着21,300円)はそのままに、首都圏での乗り放題エリアの拡大(成田、鎌倉、奥多摩まで)、越後湯沢のほか長岡乗り換えや寝台特急『北陸』のB寝台利用可など使い勝手の良さをパワーアップさせました。また『はくたか』は1日11往復中、10往復を魚津駅に停車させることで、県東部の利用者も数多く集客させたほか、主要駅には無料駐車場も整備しました」(JR西日本金沢支社 北陸地域鉄道部)。


◆目的にあわせて選ぶ時代

 このように、東京便のダブルトラック化は、JRやその他の交通機関にも競争力を誘発し、私たち利用者に選択の幅を広げてくれました。今や、東京に出かけるお客様の目的はビジネスや観光など多様になってきています。早く着きたいのか、料金が安いほうがいいのか、出発・到着時刻を確実にしたいのか。何を優先するかによってエア、レール、バス、そしてマイカー、それぞれの特性を自由に使い分ける時代になったようです。
 例えば日帰り出張で東京での滞在時間を最大にしたい場合は、ANAの1便で上京し、JRの最終「はくたか22号」で帰る方法があります。価格の安さだけなら高速バスの利用も考えられるでしょう。

 

観光客をもっと富山に!

◆冬も集客できる観光開発を

 さて東京便というと、私たちはとかく富山から東京・首都圏に向かう利用を考えがちですが、実際は、東京から富山に訪れる利用者が増えなければ高い利用率は確保できず、経済効果も期待できません。
 航空会社では「今後も需要を伸ばし、採算ラインの利用率をキープしていくには、富山へのビジネス客に加え、富山への観光客増加が不可欠」と話しています。富山は春から夏、秋にかけては、立山黒部アルペンルートや五箇山などの魅力ある観光資源がありますが、積雪の影響を受ける冬季間の観光は今ひとつ…。今後は年間を通して集客できる観光開発が必要です。


◆首都圏マーケットは3千万人

 これからの時代は「観光・コンベンション」がキーワードです。地域や産業を活性化するには、東京に出かける人を増やすよりも、富山にいかに人を呼び込むか、その対策の方が重要です。
 富山県の人口が112万人であるのに対し、東京・首都圏は全体で3千万人。この大きな可能性をもつマーケットに対して、航空会社などの関係企業や団体、地元が富山の魅力をアピールし、数ある観光地から富山を選んでもらうことが大切になってきます。


◆バラエティに富んだ観光を提案

 ダブルトラック化による利便性の向上は、旅行代理店にも様々な影響を与えています。県内の旅行代理店では「航空運賃が安くなったほか、ネットでのチケット購入が増えた影響で取り扱い高は伸びないものの、観光客の数は確実に増えています」(JTB富山支店)と、ダブルトラック化を評価しています。
 各旅行代理店では、富山空港の便数の増加、そして近隣空港との連携が進めば、今後ますますバラエティ豊かで便利なパック商品が提案できると考えています。


◆能登・小松空港とも連携を

 その実践の一つがこの夏(7月7日)開港した能登空港や小松空港とのタイアップを図った商品。JTBでは能登空港開港記念として羽田−能登の往復航空券とホテル・旅館1泊をセットにしたパック(2万3千円〜)を発売しました。空港は富山や小松に変更可能な北陸周遊型の商品で、人気を呼んでいます。
 「能登空港の開港は富山を含めた北陸観光のバリエーションが広がり、追い風だと受け止めています。金沢や能登半島など有名観光地を抱える石川県の空港なので、確かにライバルではありますが、うまく連携して“能登から氷見・富山に移動して宿泊”といった富山への流れを作っていきたいですね」(JTB富山支店)と意欲的です。
 こうした旅行代理店の取り組みには、県も少なからずバックアップしています。県航空対策課では昨年、東京の旅行代理店に富山の観光パック商品を企画してもらい、そのチラシやパンフレットの作成に補助金を出しました。また今年は県観光連盟が中心となって旅行代理店の商品企画やパンフレット作成をサポート。今後もこうした取り組みを行っていく予定だそうです。


◆グローバルな視野に立った集客も

 もちろん、富山空港の利用者は東京便だけではありません。現在、就航している大連便、ソウル便、ウラジオストク便などの利用者を富山へ、さらには国内の他路線便へリンクさせていくという広い視野に立った取り組みも、環日本海交流の拠点「富山」に求められる課題といえるでしょう。
 中国に関しては現在、県航空対策課がビジネス・観光ともに渡航者の多い上海便の誘致に取り組んでいます。中国はこの9月から個人旅行の短期ビザが免除されたことで渡航者の増加が推測されており、上海便も就航すれば高い搭乗率が期待できるでしょう。また大連便については、富山県と友好提携している遼寧省に対し、来日する際の入国ビザ免除申請を計画中。富山からも中国からも、行き来しやすい環境が整いつつあります。
 「上海便誘致は今年3月から本格的に取り組んでいます。実現すれば富山からの観光客増大はもちろん、中国の巨大マーケットを相手にした観光誘致が期待できると思います」(航空対策課)。
 一方、富山空港ではこうした利用客増加に向けて現在、ターミナルビルの整備(平成18年完成)を行っています。分離している国内線・国際線が一つのビルに入り、国内線のチェックインカウンターもリニューアルされる予定で、より便利に、機能的になります。


◆空港からのアクセス整備も重要

 多くの観光・コンベンション客を誘致するには、航空会社がアクセスの利便性を向上させるだけでなく、富山の魅力を県全体でアピールしていくことが大切です。
 富山の代表的な観光地には立山黒部アルペンルートや宇奈月、五箇山などがありますが、いずれも「郊外型」であることが特徴。せっかく羽田から1時間で富山に着いても、その後のアクセスが悪いと不満が高まってしまいます。こうした首都圏からの来県者には、旅行代理店が移動効率の良いパック商品を企画していくことも必要ですが、空港から観光地までの二次交通を整備していくことも課題といえるでしょう。


◆もてなしの心を醸成していく

 そしてもう一つはソフト面からのサービス向上。観光・コンベンションに携わる関係者が忘れてはならないのはホスピタリティ精神(もてなしの心)です。交通機関、観光地、旅館などが心を一つにし、利用者の側に立った心遣いやサービスを提供していくことが大切。もちろん、富山県に住み、富山を愛する私たち県民一人ひとりも「ようこそ、富山へ」というおもてなしの心をもって、できることから始めていきたいと思います。


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