「商工とやま」H16年1月号

特集
富山は美酒・美肴の宝庫!

清らかな水と良質の米、
そして造り手の心が醸した富山の地酒に乾杯!


お正月は何かとお酒を飲む機会が多く、なかでも私たち日本人に日本酒は欠かせません。日本酒は平安時代に今の製法の基礎が確立。米と水を原料に醸すという極めてシンプルなお酒ですが、興味をもって何種類かの日本酒を飲み比べてみると、その味わいや香り、喉ごしは多種多様。全国各地では、気候風土にあったその土地なりの地酒があり、産地の特徴や郷土料理との相性なども見られるようです。では、富山の地酒はどんな表情をもっているのでしょうか? 今回は富山の地酒の現状や酒蔵の取り組みをレポートするとともに、日本酒の楽しみ方やおいしい飲み方も考えてみました。


■原料に恵まれた富山の地酒

▼上質な米と名水をふんだんに使用
 日本酒は米(酒米)と水を材料に造られるお酒ですが、富山の酒蔵は、砺波地方で栽培される良質な酒米の一つである五百万石や酒米の高級ブランドとして知られる兵庫県産の山田錦の使用率がトップレベル。しかも、立山連峰からの湧水や黒部川、常願寺川、庄川の伏流水などの名水に恵まれており、旨い酒を造り出す基本条件を軽くクリアしています。
 また、日本酒を仕込むには低温発酵が求められますが、積雪が多く、冷え込む朝の多い富山は酒造りに適した気候なのです。

▼富山は能登杜氏と越後杜氏が中心
 日本酒の製法とその管理法は世界で類を見ないほど複雑、巧妙であるといわれています。日本酒を醸造する酒造技能者(蔵人と呼ばれる)を統括して酒づくりの技術的な面に責任を持つのが杜氏と呼ばれるエキスパート。富山の酒蔵は「能登杜氏」と「越後杜氏」が主体となっています。
 一般的に能登杜氏はコクのある味、越後杜氏はすっきりした切れ味を出すのが得意だといわれますが、酒蔵の最高責任者である蔵元(社長)との協議によってそれぞれの酒蔵の味を醸し出しています。いずれにせよ、その味は人の技と感性で生み出されるものなのです。

▼地元の酒を多く消費する県
 成人一人当たりの日本酒消費量では、富山県は新潟、秋田、石川に次いで全国4位(国税庁調べ)。上位はいずれも日本海側にある県が占めています。
 現在、富山には25の酒蔵があり、恵まれた原料や気候、そして高度な技をもった造り手のおかげで、他県に比べて「吟醸酒」や「純米酒」といった高級酒の割合が高いのが特徴です。また、県内消費量の約7割が県内ブランドだというデータからも「富山の地酒はおいしい」ということが裏づけられています。

▼富山の地酒は辛口が主流
 日本酒は地方色が良く出る酒だといわれますが、富山の地酒にはどんな特徴があるのでしょうか。
 各県の主要銘柄を分析し、平均値を算出した調査結果(図1参照)では、富山の地酒は淡麗辛口の傾向が強いという結果が出ています。
 地酒の味はその地域の人々の食生活、つまり一緒に味わう料理と関係が深いといわれています。富山は新鮮な魚料理が自慢ですが、魚と相性がいいのは、お酒自身の旨みや香りはもちながら、すっきりと切れる辛口とか。少し控えめに料理に寄り添うようなお酒が好まれているようです。ただしこれはあくまでも平均値。お酒は嗜好品ですので、自分の好みのお酒が一番おいしいのです。


■深刻化する日本人の日本酒離れ

▼消費量はピーク時の半分に
 しかし残念なことに日本酒全体の消費量は年々減少しています。昭和48年の約176万キロリットルをピークに減少を続け、近年は半分近くの90万キロリットルに減っています(図2参照)。
 特にバブル崩壊後は減少傾向が一段と進行した。これは日本酒業界に深刻な影響をもたらし、小さくなったシェアの獲得をめぐって厳しい生き残り競争が起こっています。

▼現代の食生活に合わなくなった
 日本人の日本酒離れの原因としては、まず食生活の洋風化があります。洋食にあわせてビールを飲む家庭が増え、食卓に日本酒が上らなくなってきたからです。冠婚葬祭や懇親会などでも、日本酒を酌み交わすシーンは減っています。
 また近年は、アルコールの種類が増え、消費者の選択肢が広がったことも影響しています。ワインブームや焼酎ブーム、低アルコール酒ブームなどに押され、日本酒を選ぶ人が減っていることも事実です。
 「入門の酒が日本酒だった世代が次第に高齢化し、飲酒量が減ったことも原因の一つです。今の若い世代はビール、焼酎、ワイン、ウイスキーなどいろんな酒を飲みます。ブームに左右されやすいのです」(富山県酒造組合専務理事・古市明紀さん)。


■「地産地消」への取り組み

▼地物を見直すスローフードの動き
 最近、スローフードという言葉をよく耳にします。地元でとれた安全な食べ物や飲み物をゆっくりと味わって健康な食生活を取り戻しましょうという運動です。
 日本酒にも近年、「地産地消」という取り組みがあります。地元の材料で造った地酒を地元の人々に消費してもらおうというものです。確かに兵庫県産の山田錦は吟醸酒造りには最適な酒米で、県内でも大量に仕入れられていますが、やはり県産の酒米にもこだわりたいもの。そんな考えのもと、富山県農業試験場では今から5年ほど前、雄山錦という酒米を開発しました。

▼県産の雄山錦で醸す地酒の味
 雄山錦の特徴は、豊醇な味を出す山田錦と、すっきりとした味を出す五百万石の中間のイメージ。ふっくらとまろやかな味わいを出すことができます。価格も高価ではないので、これまでと違う酒を醸してみたいという酒蔵が次々と雄山錦の酒造りに挑戦し、現在11の酒蔵が雄山錦で醸した地酒を発売しています。
 「今までにない味が出るという意味では興味のある米です。しかし、日本酒は1年に1度しか造れないものなので、うちではどんな酒にしていくか試行錯誤の段階です。今、地酒に必要なのはブランド力。雄山錦の酒も新しい富山ブランドとして確立されるといいですね」(桝田酒造店社長・桝田敬次郎さん)。


■新しい日本酒の楽しみ方の提案

▼時代にあった酒造りに取り組む
 現在、県内の酒蔵では、富山らしさをアピールした商品を開発したり、個性的なボトルに入れて販売したりと現代のライフスタイルに適した日本酒の価値創造に取り組んでいます。
 「歴史や伝統を守ることも大事ですが、新しい技術を取り入れ、品質の向上を目指しながら進化していくことが必要。これは伝統工芸や伝統産業と同じだと思います」(古市専務理事)。
 また、酒販店も積極的なPRを展開しています。富山県小売酒販組合青年会連合会では、昨年から県内26のお店が団結して地酒拡販運動を推進。居酒屋に県内全蔵の地酒を置いたり、FMラジオでキャンペーン番組を放映したりして、地酒と親しんでもらう仕掛けづくりに取り組んでいます。

▼日本酒と上手につきあう
 私たち飲み手も、今一度、日本酒の良さを見直し、おいしい飲み方を考えてみてはどうでしょうか。
 例えば飲む場所を変えてみる。いつも家の中で飲んでいる酒を外に持ち出して、庭や公園で自然を感じながら飲むというのも粋なものです。
 酒器にこだわってみるのもいいでしょう。夏はガラスの酒器でキンと冷やした冷酒を、冬は焼き物の器で熱燗を飲んでみる。見て、触れて、五感で楽しむ地酒は、新しいおいしさをもたらしてくれるはずです。
 また最近はホームパーティが流行っていますが、みんなで持ち寄った地酒を飲み比べるのもいいでしょう。難しい言葉は抜きにして、自分の好みの味を語り合いながら飲めば、新しい発見があるかもしれません。

▼郷土の恵みが醸された地酒
 「固定観念にとらわれることはないのです。日本酒をワイングラスで飲むのもいい。また“大吟醸は冷酒で”と言われますが、寒い冬などは35度ぐらいの“ぬる燗”がいけます。直火は避けてゆっくりと温めてください。おいしくいただけますよ」(桝田社長)。
 日本酒の世界でも価格破壊の波が押し寄せ、安売り店やスーパーなどでは大手メーカーが造るパック酒が氾濫しています。パック酒も「安い」という一つの価値観ではありますが、味はそれなりで消費者の日本酒離れの原因の一つになっています。「酔うだけの酒」というのは寂しいものです。
 その点、富山の地酒は品質にこだわり、個性を主張しているものばかり。郷土の歴史や自然、文化、そして造り手の心までが内包された富山の地酒には、これからも愛着をもって付き合っていきたいと思います。

■日本酒の種類
特定名称使用原料精米歩合香り・味などの要件
純米大吟醸米・麹50%以下固有の香味、色沢が特に良好
純米吟醸米・麹60%以下固有の香味、色沢が良好
特別純米米・麹60%以下香味、色沢が特に良好
純米米・麹70%以下香味、色沢が良好
大吟醸米・米麹・醸造アルコール50%以下固有の香味、色沢が特に良好
吟醸米・米麹・醸造アルコール60%以下固有の香味、色沢が良好
特別本醸造米・米麹・醸造アルコール60%以下固有の香味、色沢が特に良好
本醸造米・米麹・醸造アルコール70%以下香味、色沢が良好

■富山県の酒蔵とその特徴(資料/富山県酒造組合作成のパンフレット)
ラベル写真満寿泉(富山市・桝田酒造店)
北前船で栄えた港町・岩瀬にある酒蔵。常願寺川の伏流水を仕込み水に、能登杜氏が醸す大吟醸が人気。
ラベル写真富美菊(富山市・富美菊酒造)
呉羽山麓にある蔵。材料を吟味し、越後杜氏伝統の手造りの技を随所に生かしたこだわりの酒を醸す。
ラベル写真吉乃友(婦中町・吉乃友酒造)
富山の酒米と自家製酵母を使った純米酒にこだわる。燗で旨さが際立つ濃醇辛口の酒。
ラベル写真鷹泉(大山町・鷹泉酒造)
鷹泊と呼ばれる立山の湧水で仕込んだ酒。飲み飽きしないやや辛口のすっきりとした味わいが特徴。
ラベル写真風の盆(八尾町・福鶴酒造)
坂の町、八尾にある古い酒蔵。滑らかな味を大切にし、飲み飽きしない味をモットーにしている。
ラベル写真おわら娘(八尾町・玉旭酒造)
創業二百年。地元八尾の人々と共にいきてきた蔵。さらりとした中に切れがある深い味わいを目指している。
ラベル写真黒部峡(朝日町・林酒造場)
伝統の技に新しい技法を取り入れることが信条。立山の雪解け水をイメージするような切れのある味。
ラベル写真幻の瀧(黒部市・皇国晴酒造)
日本アルプス剱岳から百年かかって湧き出る黒部の名水を使い、ベテランの越後杜氏が醸す。
ラベル写真銀盤(黒部市・銀盤酒造)
明治中期に創業。山田錦や雄町の高級米を惜しみなく削り、翌朝に残らない上質な酒を醸す。
10ラベル写真北洋(魚津市・本江酒造)
大正十四年創業。名前は豊穣な北陸の海を意味する。片貝川の伏流水で淡麗辛口の酒を醸す。
11ラベル写真蜃気楼(滑川市・宮崎酒造)
富山湾の神秘「蜃気楼」にあやかり、本当の幻の酒を造りたいという思いから命名。淡麗辛口。
12ラベル写真千代鶴(滑川市・千代鶴酒造)
江戸末期の創業。伝統の技術で醸す辛口の本醸造。新鮮な魚を引き立てるさわやかな味わい。
13ラベル写真白緑(上市町・有澤酒造場)
土蔵造りの小さな酒蔵。剱岳の名水を使い、昔ながらの手造りの技法で超辛口の酒を醸す。
14ラベル写真曙(氷見市・高澤酒造場)
漁師の町・氷見にある。曙関の横綱昇進パーティの鏡割りに採用された酒。手造りの自然な味わい。
15ラベル写真藤波(氷見市・藤波酒造)
明治初期の創業。一貫して切れのある喉ごしと、飲み飽きしない味の追求に取り組んでいる。
16ラベル写真勝駒(高岡市・清都酒造場)
日露戦争の戦勝を記念して命名。やさしい香りとさらっとした飲み口。米の旨みが生きた酒を醸す。
17ラベル写真日本晴(高岡市・日本晴酒造)
庄川の伏流水を仕込み水に、歴史とロマンを秘めた手造りの味を醸し出している。
18ラベル写真勝関(高岡市・戸出酒造)
明治二十三年創業。庄川の伏流水と地元の五百万石を使い、すっきりと口当たりの良い手造りの酒を醸す。
19ラベル写真北一(小矢部市・黒田酒造)
「北陸で一番であれ」の願いを込めて命名。地元の料理と一緒に親しまれる酒を丁寧に醸す。
20ラベル写真若鶴(砺波市・若鶴酒造)
文久二年創業。品質本位を貫き、コクがあってしかも喉ごしのよい酒を造り続けている。
21ラベル写真太刀山(砺波市・吉江酒造)
砺波平野で収穫される五百万石を使い、庄川の伏流水でゆっくりと醸した酒。切れの良い辛口。
22ラベル写真立山(砺波市・立山酒造)
明治二十三年にパリ万博に出展。山田錦と五百万石を使い、スキッとした旨みと切れをもつ酒を醸す。
23ラベル写真若駒(井波町・若駒酒造場)
木彫の里・井波にある酒蔵。庄川上流の伏流水を使い、手間暇かけて造り上げる辛口の酒。
24ラベル写真成政(福光町・成政酒造)
佐々成政が医王山に槍を刺した際、湧き出した水で醸造。やや辛口のすっきりとした味わい。
25ラベル写真三笑楽(平村・三笑楽酒造)
五箇山にある蔵。古来より生きる蔵の菌と能登杜氏の熟練の技とカンによるこだわりの酒を醸す。

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