「商工とやま」H16年2・3月号

特集

路面電車化と超低床車両(LRV)の導入で富山港線を再生



▲高岡市と新湊市を結ぶ
万葉線に新しく導入された
低床車両
 富山市は、現在のJR富山港線を路面電車化し、富山市民の重要な交通手段として再生させるため、「富山港線路面電車化検討委員会」(座長:橋本昌史帝京平成大学教授)を設置して検討を進めてきました。昨年11月にそれまでの3回の検討結果を整理した「中間とりまとめ」が発表されましたので、その概要を編集部が報告します。


◆北部地域と中心部を結ぶ重要な都市内鉄道

 現在の富山港線は、JR富山駅と富山市北部の岩瀬浜を結ぶ全長8キロの単線・電化路線でJR西日本が運行しています。大正13年の開業以来、80年もの間、富山市北部の重化学工業地帯の発展を支える動脈として、また、北部地域と中心部を結ぶ都市内鉄道として、市民の日常生活を支えています。


◆「利用者減少」→「ダイヤの間引き」の悪循環

 しかし、近年の経営状況は厳しく、沿線の人口が平成7年から12年の5年間で約3%減少したのに対して、富山港線の利用者数は約25%も減少しました。これは、沿線には住宅、事業所などあり、潜在的な交通需要は低くないものの、富山港線の利便性の低下、モータリゼーションの進展などにより顧客をクルマに奪われた結果と考えられます。いわば、「利用者の減少」→「ダイヤの間引き」→「さらなる利用者の減少」という全国の地方鉄道において見られる典型的な悪循環に陥っているのです。このまま放置すれば、さらに運行サービスレベルの低下を来たすことは必至で、路線の存続が困難になることも予想されます。


◆北陸新幹線整備や在来線の高架化に合わせての選択肢

 一方、10年後に予定されている北陸新幹線の開業(富山〜東京間)に合わせて、北陸本線や高山本線の在来線を高架化する事業が進行しています(これについては、現在国会で審議中の平成16年度の政府予算案に盛り込まれています)。
 このため、北陸新幹線の富山駅付近の本格的な建設工事が始まる平成18年度までに現在の北陸本線や高山本線、富山港線を移設する必要があります。その際に、この富山港線を、(1)一部区間を多額の費用を掛けて一時的に移設し、北陸本線などとあわせて高架化する(工事期間はバス等で代行運転する)(2)平成18年度までに路面電車化して再生する(3)平成18年度をもって廃止し、バスで代替輸送する、のいずれかを早急に決定しなければならない状況となっています。


◆富山港線への不満・改善点

 検討委員会では、平成15年10月に沿線住民へアンケート調査を実施しました。
 それによると、富山港線を「利用したことがない」「年1・2回しか利用しない」を合わせて、約7割の住民がほとんど利用してない状況です。
 また、「日中の運行本数が少ない」こと(ほぼ1時間に1本)や、「終電の時刻が早い」こと(現在は富山発21:23)に対する不満が高く、これらを改善することが利用者ニーズに応えるために必要であることが分かりました。


◆路面電車化が望ましい

 「中間とりまとめ」では、前述の選択肢のうち、(2)の富山港線を路面電車化する案が富山市のまちづくり計画に整合した計画であるとしています。
 その理由は次のとおりです。

■(1)の富山港線を多額の費用をかけて移設・高架化したとしても、既存のネットワークやサービスレベルに変化が生じないため、現状以上の魅力ある公共交通にはならない。
■(3)の富山港線を廃止し、バスで代替することは、定時性の確保や、輸送力の問題があり、北部地域の公共交通のさらなる衰退につながっていくことが懸念される。


◆高齢者や環境に優しい路面電車

 これに対して、(2)の路面電車化する場合は、新駅を設置したり(600m間隔)、運行頻度を多くし(日中は15分間隔)、終電時刻を遅くすることなどにより利便性を向上させれば、一定の需要が回復し、路面電車を軸として徒歩、自転車、バス等を組み合わせた交通体系を整備することが可能となることから、高齢者などが安心して利用でき、環境負荷低減にも貢献する公共交通システムを形成することができる、としています。


◆鉄道高架化により駅南北の一体化が可能

 さらに、現在進められている北陸本線などの鉄道高架化事業が約10年後に完成すれば、地平レベルで駅南北が結ばれ、新・富山港線(路面電車化)は、駅南を走る現在の市内電車と接続することが可能となり、北部地域と中心市街地が結ばれることになります。


◆路面電車化には大きな期待

 沿線住民へのアンケート調査でも、富山港線の路面電車化については関心が高く、富山港線の路面電車化の計画に対しては、「賛成」と「どちらかといえば賛成」を合わせて約8割の方が賛意を示しており、富山港線の路面電車化に対する沿線住民の期待の大きさが窺えます。
 また、新駅の設置や高頻度運行、終電時刻を遅くすることなどによるサービス改善を前提とした路面電車化を実現すると、住民の約6割の方が「利用機会が増えると思う」と回答しています(図1参照)。さらに、将来の市内電車との接続にも期待しています。

図1/路面電車化時には、運行が15分感覚、駅間距離約600Mを目安に数カ所の新駅を設置、 超低床車両の導入等を計画していますが、このとき実際に富山港線の利用機械が増えると思いますか?

 このように、富山港線を路面電車化し、サービスレベルを向上することで、潜在的な利用者ニーズを満たし、富山港線の利用者の増大と活性化を図ることができる、としています。


▼図2
◆超低床の新型車両(LRV)を導入

 新・富山港線(路面電車化)は、現状の富山港線の設備を活用することを基本とし、路面電車が走行できる設備に改良しますが、奥田中学校前踏切から富山駅北口広場(当面の起点・折り返し)までは一般道路に軌道を新設します(図2参照)。
 車輌については、「あらゆる市民層にやさしい交通機関」という方針から100%低床であることが望ましく、また、必要輸送力の確保と過大な投資の回避という観点、さらに、沿線への環境負荷の軽減、将来の高速走行の可能性を勘案すると、欧州の水準に準拠した低騒音で高ブレーキ性能のLRV(Light Rail Vehicle)仕様でデザイン性に富んだ車両を導入します。
 このLRV(路面電車)を導入している国内の都市としては、熊本・広島・岐阜・鹿児島・松山・高知・岡山・函館があるほか、今年1月からは高岡の万葉線でも導入されています。
 また、地方都市において利便性が高いと感じられる運行頻度を考慮して、列車本数を、15分程度の間隔で運行する計画を基本とし、富山駅における北陸本線の運行ダイヤに合わせることも必要で、運行時間の延長を図ることが望まれます(表1参照)。
 なお、路面電車化にあたっては変電設備の改修、車両の「行き違い施設」の設置、踏切等の保安設備の改良、ホームの方式の変更、車両基地の増設、道路計画と連動した線路や架線の敷設、八田橋の改修、乗降場の設置、などの施設の改良・改修や新設も必要で、これらに要する費用は約45億円程度が見込まれています。


▼図3 日本の路面電車


◆収支は3千万円の赤字、大きな社会的便益

 需要予測結果をもとに、一定条件で収支を試算した結果が表2です。開業以降は、収入は年間2〜3千万円程度、支出を下回わりますが、現在の市内電車と接続できるようになれば運賃収入と運行経費がほぼ均衡することになります。また、社会的便益の試算結果からも、路面電車化のケースが最も高く、運賃収入の不足を公共側が負担するとしても十分社会的な価値があることになります。


◆第3セクターを設立して経営

 経営主体については、公営企業は公費の投入により安定的なサービスが提供できる反面、事業経営の柔軟性や効率性に欠けます。また、民間企業は効率的な経営ができる反面、公的支援が得にくいものとなります。こうしたことから、市民の協力と理解を得ながら経営する第3セクターが最もふさわしく、民間からも出資を募って、4月にも運営会社(第3セクター)を設立し、民間の効率経営と公的支援の充実が両立でき、かつ地域の公共交通としての位置づけを明確にします。


◆市民の理解・協力と魅力ある富山市づくり

 以上、富山港線の路面電車化の「中間とりまとめ」の概要をお知らせいたしましたが、平成18年度に開業を実現するためには、富山市や県は、広く市民の理解と協力を得ながら、各種計画の調整、JR西日本や富山地鉄との連携・協力についての具体的内容の検討、財源確保方策の検討、市民・企業との協働による推進・協力体制の確立などを進めていく必要があります。検討委員会では、引き続き収支計画、便益計算、公的支援のあり方等について検討を行い、3月末までに最終のとりまとめを行うことになっています。

表1
■15分間隔(日中)の場合(編集部作成案)
(平日・富山駅発車時刻)
6時0  20   40
7時0  15  30  45
8時0  15  30  45
9時0  15  30  45
10時0  15  30  45
11時0  15  30  45
12時0  15  30  45
13時0  15  30  45
14時0  15  30  45
15時0  15  30  45
16時0  15  30  45
17時0  15  30  45
18時0  15  30  45
19時0  15  30  45
20時0     30
21時0     30
22時0     30
23時
注:編集部で作成したもので、実際とは異なります
■現在のJR富山港線時刻表
(平日・富山駅発車時刻)
6時0  19     52
7時30
8時01     34
9時58
10時 
11時11
12時57
13時 
14時04
15時08
16時14    38
17時16 54
18時26
19時11
20時08
21時23
22時 
23時 
注:平成16年1月現在

表2
■収支試算の内訳
(単位:百万円)
 開業後年数1年目6年目11年目15年目
  平成18年平成23年平成28年平成32年
収 入運輸収入213200236227
運輸雑収入
収入計219206243234
支 出人件費168168168168
諸経費46464646
固定資産税24151718
支出計238229231232
償却前損益−19−2312
※この表は現段階の試算であり、今後の検討により試算値を見直す場合があります

〈収支試算の前提条件〉
(1)乗客数 開業時/約4,200(人/日)と仮定
        市内線直通運転時/約5,000(人/日)と仮定
(2)運行間隔 富山駅〜岩瀬浜駅 15分間隔と仮定(早朝、及び20時以降30分間隔)
(3)年間走行距離 約350,000(km/年)と仮定
(4)職員数 28人と仮定
(5)1人当り人件費 6百万円(1年当り)と仮定
(6)経費単価 動力費40、修繕費40、その他経費50(円/km)と仮定



望月明彦助役
▲富山港線の路面電車化について答える
富山市の望月明彦助役
 富山港線の路面電車化について、富山市の望月明彦助役にお話を伺いました。


▼路面電車の評価が高まる

――なぜ路面電車なのでしょうか。

◆望月◆路面電車といえば「ちんちん電車」=昔の乗り物、というイメージがあります。全国にかつては多くの都市で走っていたものですが、クルマ社会の進展により、現在では18の都市で19の路面電車しか残っていません。
 しかし、二酸化炭素の排出抑制やエネルギー問題への対応から、路面電車の評価が見直されてきています。お年寄りやベビーカーなどが乗り降りしやすい低床式で、性能やデザインもよい新型車両(LRV)の導入も進んできています。


――ヨーロッパやアメリカでは、路面電車の復活をさせた都市が増えてきているとか。

 欧米では路面電車(LRV)の採用に積極的です。ドイツのカールスル―エ(人口約28万人)、フライブルク(同20万人)フランスのグルノーブル(同16万人)、ストラスブール(同25万人)、イギリスのマンチェスター(同40万人)、ベルギーのアントワープ(同50万人)などのヨーロッパの中堅都市のほか、自動車交通が発達しているアメリカの都市でもここ10数年で路面電車(LRV)の建設ラッシュになっています。従って、富山市の路面電車も貴重な価値資源の一つであると思います。


▼将来は中心市街地へ直通

――富山駅の南北が連結し、現在の市内電車と接続すれば、利用者はもっと増えるでしょうね。

◆望月◆富山港線と既存の市内電車が連結すると、北部地区から中心地区へは直通になるのですから、バスやマイカーから路面電車への転換など新たな需要増加も期待でき、北部地域のみならず中心市街地、ひいては富山市の活性化にもつながっていくと思います。


――折角作った路面電車に住民の方々が乗っていただかないといけないですね。

◆望月◆路面電車化の効果をより大きく発揮するとともに、より確実で継続的な事業性を確保していくためには、運営会社がサービスレベルを向上させ、需要のさらなる拡大に取り組むことが重要ですが、あわせて沿線住民の方々をはじめとした幅広い人々の、富山港線を利用しようという意識の高まりが必要です。


▼愛称やデザインを募集

――具体的には、どのようなことが考えられますか。

◆望月◆基本的には運営会社が決めることですが、例えば、、市民の方々に親しみを持ってもらうために、新・富山港線(路面電車)の愛称や景観にマッチした車両デザインを募集したらどうでしょう。そのほか、沿線に立地する企業には、マイカー通勤から新・富山港線(路面電車)を利用した通勤への転換、商業施設や商店街等には、無料券(あるいは割引券)の発行などの各種取り組みを幅広く展開していくことが期待されます。

 そのほか、沿線のバス路線と新・富山港線の連携強化によるバス&ライドや駐輪場整備によるサイクル&ライドの促進などもぜひ検討したいテーマです。


――開業までは2年余りですね。

望月◆そうです。大変短い期間ですが関係者のご理解を得て実現を図ってまいります。


――有難うございました。
戻る