「商工とやま」H16年5月号

 特別企画 当所青年部創立30周年記念
      地域を巻き込んだスポーツ振興

神戸製鋼ラグビー部GM 平尾誠二(神戸製鋼ラグビー部GM)
      VS
当所青年部会長 旭哲也(当所青年部会長)

 1928年創部の神戸製鋼ラグビー部は89年(昭和64年)の日本選手権から7連覇を達成し、黄金時代を築いた。

 その時の中心が現在のゼネラルマネージャーの平尾誠二氏や大八木淳史氏らである。平尾GM率いる神戸製鋼ラグビー部(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)は昨年創設されたジャパンラグビー・トップリーグで初代チャンピョンに輝いた。

 その平尾GMに当所青年部の旭哲也会長がインタビューしましたので、その概要をご紹介します。(2月12日、神戸製鋼神戸本社にて)


◆日本のラグビーの競技力アップ

 トップリーグ優勝おめでとうございます。初代チャンピョンになられたわけですが、今回の神戸製鋼ラグビー部の戦いについて感想をお聞かせください。

平尾 私は2〜3年かけてチームを立て直すつもりでいたので、そうした中で、トップリーグの初代チャンピョンになれたことは非常に良かったと思います。恐らく、選手らも優勝ということは考えていなかったと思います。

 このトップリーグというシステムはどうでしょうか。

平尾 トップリーグは、もともと日本のラグビーの国際的競技力を上げるために、平成15年に創設されたもので、その成果は大きかったと思います。私たちは今回優勝したものの、2敗しています。それは1チームだけが強いのではなく、トップの数チームが同等の力を持っているということを意味します。そういう力関係が、これから更なる向上をしていく上で非常に重要な条件ではないかと思います。

 野球にしても1チームが独走してしまうと面白くないですよね。

平尾 そうですね。巨人が独走するようなことが、何年も続いたら面白くありませんよね。力が拮抗しているから面白いのです。

 私の中で一番記憶に残っているラグビーの試合といえば、1991年、神戸製鋼と三洋電機が激突した全国社会人大会決勝戦での、あのイアン・ウィリアムスの60メートルトライです。平尾さんからワンバウンドで受け取った後のプレーでしたね。私はこの試合を秩父宮ラグビー場で見て、今でもすごく憶えています。平尾さんにとって一番印象に残っている試合は何ですか?

平尾 今、旭さんが言われた試合も非常に印象深い試合でしたが、私の場合、特にこれと言った試合はありません。あの時に何を考えていたか、どうしてそういうプレーをしたかということは、頭の引き出しに全て入っていますが、ビデオを見るなど、きっかけがないとなかなか思い出しません。



◆NPO法人を創設しスポーツ振興

 富山はご存知のとおり薬(売薬)の街で、沢山の製薬メーカーがありますが、最近、平尾さんが出演するタケダの新アリナミンAのCMをよく見ます。

平尾 この商品はセルフケアマネージメントがキーワードです。それと、私の場合は、もうひとつの目的として、NPOの資金確保です。私が主宰するスポーツNPO法人SCIX(シックス)の活動資金を確保するために割り切って出演しました。

 シックスの運営は、いかがですか?

平尾 今は認知度も上がってきたし、社会的な価値やNPOの役割は果たしていると思っていますが、財政的にも厳しいものがあります。

  シックスに関しては、神戸製鋼のほか、数社の企業から支援いただいております。こうした地域企業からの支援により、着実に力をつけながら認知度や社会的価値を高め、スポーツの振興を図っております。



◆神戸の地域振興のため地元企業とタイアップ

 神戸の地域振興といった一面もあるのではないでしょうか?

平尾 今回の神戸製鋼ラグビー部は1人勝ちでした。観客動員数は他のチームの倍近くあり、また、多くのスポンサーもついており、認知度もナンバーワンです。ローカルの放送局ですが、神戸製鋼の試合だけ11試合中7試合も放送してくれました。

  これは、「世界を目指そう」から「さらにローカルに」へチーム方針を変更したことも影響していると思います。ローカルをメインに捉えたほうが、実は世界に近づくのではないかと考えたのです。自分たちの地域にしかないものを活用していくという考え方です。

  例えば、英語がペラペラに話せて世界を飛び回っている商社マンより信楽焼を50年作ってきた名人の方が世界に通用すると思います。やはり、ローカルを極めた方が世界に近づくと思います。

  そういう観点から、神戸に全てを集中しました。Jリーグ・サッカーチームのヴィッセル神戸が使用している神戸ウィングスタジアムをホームグラウンドにし、観客も自分たちで集めました。ローカルを極めた方が絶対に世界に通用すると思ったのです。今年からそういう戦略に変えたわけですが、やはりその方が良かったのです。

 私がコベルコにいた時も、自分の会社だと思うと自然と応援に力が入りました。

平尾 そうですね。そこからさらにローカルに攻めていきます。外へ拡大していくと、力が分散するため、投資対効果が低くなります。それよりもローカルに集中した方が良いですよ。



◆情報発信でファンを獲得

 インターネットの存在も大きいですね。富山では、残念ながらラクビーの試合が放送されることは少ないですが、インターネットのおかげで情報収集はできます。

平尾 神戸製鋼ラグビー部のホームページの制作も、あの吉本興業と組んでやっています。今まではそういう仕事も社内でやってきましたが、素人ではやはり限界があります。

  私たちは、これから、ラグビーの認知度をいかに上げるか、いかに集客力を高めるかを本気で考えなければならず、仕事はプロに任せたほうがよいと思います。情報もすぐに更新しなければ意味がありません。ホームページの制作を吉本興業に任せていますが、やはり、お金は掛かります。しかし、お金を掛けることでホームページのアクセス数も増え、認知度も上がり、ファンが増えます。こういう好循環を作っていかないといけないと思います。

 今は、メールで試合の速報を見ることができますよね。

平尾 ラクビーの試合速報を常時配信しています。そこまでやっていかないと、情報化社会のニーズに応えられません。いくらチームが強くてもそれだけではダメですよ。



◆スポーツ VS テレビゲーム

 神戸(兵庫)では2006年に国体が開催され、また、ヴィッセル神戸がトルコの人気選手・イルハンを獲得するなど、相乗効果も期待できるのではないでしょうか。

平尾 私はいつも「小さな戦いはもう終わりだ」と言っています。

  要するに「オリックス VS ダイエー」や「野球 VS サッカー」という小さい戦いは終わりました。今は「スポーツ VS テレビゲーム」であり、「スポーツ VS 塾」です。そういう観点で考えると、小さなコンフリクト(衝突)があってはいけません。

  そこで力が消耗してしまい、大きな戦いができなくなるからです。結局、そういうことでスポーツが廃れてしまいます。

  今の子供たちはテレビゲームや塾などで屋内に籠もりがちです。子供たちにサッカーや野球、ラクビーといったスポーツの楽しさをわかってもらえるように、オリックスやヴィッセル神戸、そして地域の方々と連携してスポーツの振興を図っていくことが重要だと思います。こういうことが最終的には、神戸の活性化に繋がっていくと思います。


 本日は大変お忙しいところ有り難うございました。

※当所青年部は今年度、創立30周年を迎え、記念事業として9月3日(金)富山国際会議場で平尾誠二氏を招いて講演会を開催することにしています。詳細は本誌等でご案内いたしますので、多くの皆さんのご参加をお待ちしております。



■お問い合わせ先 当所青年部事務局(当所専門相談課内) TEL076-423-1172

平尾誠二氏・プロフィール
1963年1月21日京都生まれ。同志社大学卒業。(株)神戸製鋼所に入社し、同ラグビー部を7年連続日本一に導く。87年から3大会連続でワールドカップに出場、91年大会ではキャプテンとして日本代表の初勝利を導いた。現役引退後、97年2月から2000年11月まで日本代表監督を務める。現在、神戸製鋼ラクビー部のゼネラルマネージャーとして、チームの運営に当たる。NPO法人SCIX理事長。『気づかせて動かす』『勝利のチームメイク』など著書多数。



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