「商工とやま」H17年1月号

新春座談会
四副会頭に聞く「富山の新しいまちづくり」 (3)


◆観光振興に「みゃあらくもん大賞」

【濱谷】富山県はこれまで製造業、つまり物を作って売って所得をあげてきましたが、その分遅れていたのが観光の分野です。観光とは県内外からお客様を呼び寄せることと考えれば、そういう人をもてなすための雇用も生まれるわけで、これから力を入れなきゃいけないと思います。

 観光には「街道観光」や「産業観光」「街なか観光」などいろんなジャンルがあります。

 観光についてみなさんがそれぞれ思っておられることをお聞きしたい。

【中井】富山で嫌いな言葉があるんです。「旅の人」(※1)と「みゃあらくもん」(※2)の二つなんですが。この言葉を無くさないと富山の観光振興はないと思います。

【朝日】同感です。遊んでいる人を悪人のような呼び方をする。

 山陰の米子の郊外にJRAが4000台駐車可能な場外馬券売場を作りました。そこには遊園地もあるそうで、休日にはお客さんでいっぱいになる。子供づれでも遊べる。ここが観光の拠点になって、ここから境港やいろいろな所へ行ったりしている。

【濱谷】富山は街の中を2時間ばかり散策するような「街なか観光」が一番遅れていると思います。

【朝日】観光とはただ見るだけでなく、「食べる」などの体験がついてまわる。ハコモノだけつくってこれが観光と言っても意味ないと思う。

【小林】「食」で人を引っ張るとか、定着させるのはいいと思います。見るのは1回で満足するが、「食」は2回3回とひきつける。富山へ行ったらあそこの寿司を食べたいとか、カニを食べたい、ブリを食べたいとか。「食」でリピート客を誘わない手はないなと思う。たとえばアルペンルートへ行ったら富山を通過するのでなく、富山で何かうまいものを食べる。できれば一泊してもらうことになれば、「街なか観光」に繋がると思います。

【増山】「街なか観光」といえば、堤町通りの池田屋安兵衛商店さんでは丸薬の製造器具を展示し製造風景のビデオを流しているだけなんですが、観光客が大勢バスで来て、それらを見て雰囲気に浸り、5千円くらいのお土産を買う。滞在時間はせいぜい30分くらいだそうだが、ほかに薬を目当てに何回も来る観光客もいるようです。そうしたミニマムの展開でやっているからうまくいっているのです。

【小林】観光、駅前整備、中心市街地の活性化はみんな一つ一つの問題として分けて考えないほうがいいですね。これからはみんなで町全体として何かをやると言うことが大切です。その中で個性を出せばよい。

【朝日】同業の店を集めてセレクトできるようにすればと思うがなかなかしようとしない。そばでも薬師(くすし)そばなどいろいろあるんですが。

【濱谷】これからの地域再生で成功するかしないかの決め手はネットワーク化です。つまり協同体制ができているかどうかです。富山はあまり協同が成り立たない。あなたのいい物とこちらのいい物を組み合わせてネットワークを組んでやりましょう、ということが少ない。

【中井】それが「旅の人」「みゃあらくもん」ということばに集約されています。これらをなくしていかないとよくならない。とにかくみんなでやろうと言うのが下手な県民ですね。みんなでやって、成功すれば俺がやったと言うし、失敗すれば俺は知らないと言うし。

【濱谷】誰かが何かやろうとすると「そんなことやってもだめだ」と足を引っ張る。

【中井】そういった県民性、市民性を変えるキャンペーンやイベントでもり上げないと街づくりは成功しないということです。

【増山】まず「みゃあらくもん大賞」でも作らないといけないですね。

【濱谷】一月に城跡公園で行われる左義長まつりのチラシに市民プラザ(大手町)のそばまつりの案内を載せるとか、水墨美術館に近代美術館のパンフレットをおくとか、そうした出来ることから協同して取り組むべきです。



◆水辺の観光にひとひねり

【濱谷】富山には、神通川やいたち川、松川がありますが、水辺空間の活用について伺います。

【小林】いずれにしてもこんなに水に恵まれている町というのはないと思う。

【増山】富山の観光資源として水をどう表現するかは重要ですが、何か仕掛けがいると思います。

【朝日】水の都で知られる松江で、印象的だったのは、観光船の船頭さんがマイクをつけて自分たちで松江の歴史や風景の説明をしてくれた点です。舟にはモーターがついているので舟をこぐことはない。さらに寒くなったらコタツを出すそうです。一時期は客が減ったそうですが船を新しく作ったり、いろいろな改革で客が増えたそうです。その点富山の観光船はあとひとひねりが足りない。

【小林】何にしても松川の水量が少ないんじゃないかと思う。

【増山】松川は城址のお堀には繋がっていない。ほんのちょっと工夫するとできると思うが。

 また、他の都市と違って最大の問題点は、富山の川は急流すぎるということです。50年に1回の洪水が起きたときにどうなるかと考えると、そういう可能性があるところにはやっぱりお役所がOKを出さない。

【濱谷】アメリカのサンアントニオ市では、そういうことが起こらないように、川の底に大きなトンネルを掘って、洪水が起きたらここに水を流すわけですね。

 水辺を利用した観光づくりということを富山は絶対やるべきです。

【小林】先日、富山市が城址公園の再整備について、「浮城」と呼ばれたかつての富山城を再現する計画を発表されたが、私はいい発想だと思いました。

【濱谷】ただ、行政がそういうものを作るときに民間から、「そういうもの作るなら私がそこに出て商売したい」という人が現れてこないことには全体は動かない。そこで飲食店や土産物店をやったほうがいいとかいう意見はいっぱい出てきますが、それも「行政に作ってほしい」となってしまう。自分で商売をやるという人が富山の場合は出てこないといけません。



◆舟から見る富山は絶景

【中井】舟は癒しなんですね。年を取ったら舟に乗ってのんびりするのがいい。

【小林】私は時々松川の舟に乗るが、もうちょっと距離があるといいなと思います。少し乗っている時間が短すぎますね。

 松川のまわりでも富岩運河の両側でも、市や県がお金をかけて歩道やベンチなどを作っている。全部そろってるんだけどそこから発展するものができていない。

【中井】それから人通りが少ないんですよ。人通りがあるのは桜の季節だけ。期間限定です。飲食店が何軒かあればいいが、ない。じゃあ俺が出すかという人には思い切った応援などをしないと、なかなかいませんね。

【濱谷】そういう人がおられると観光ポイントができあがっていくと思います。

【小林】最初の「ぶり街道祭り」のとき、舟にブリを乗せて岩瀬から富岩運河を通って環水公園まで行ったことがありますが、舟から見る景色はいいですよ。富山の新しい顔になると思いました。

【増山】環水公園から岩瀬までの富岩運河に舟を走らせたらいいんじゃないですか。

【中井】そういうことができればみんなが観光に活用できるわけですね。

【朝日】そうすれば たいした観光になりますよ。

【増山】舟で岩瀬まで行ってライトレール(新型路面電車)で帰ってくる。反対方向でもいい。それと産業観光を組み合わせると面白い。

【濱谷】水辺の回遊性、いわば水のループですね。

 本日はありがとうございました。今後とも当所の活動にご尽力いただきますよう、お願い申し上げます。



(注) ※1 旅の人…県外から来た人
※2 みゃあらくもん…本業をおろそかにして遊びまわっている人、道楽者


プロフィール

■小林 紀男 氏
大成産業(株) 代表取締役社長
富山間税会会長、富山県間税会連合会会長、富山県自動車販売店協会理事・顧問、日野自動車販売店協会会長、富山本願寺責任役員などを務める。

■朝日 重剛 氏
朝日印刷(株) 代表取締役会長
富山県印刷工業組合理事長、全日本印刷工業組合連合会理事、富山県中小企業団体中央会副会長などを務める。

■増山 三雄 氏
(株)米三 代表取締役会長
(協)中央通り商栄会理事・会長を務める。

■中井 敏郎 氏
東亜薬品(株) 代表取締役社長
富山県薬業連合会理事、富山県医薬品工業協会副会長、富山企業団地(協)副理事長、富山県更正保護事業協会理事、富山間税会副会長、公正取引委員会独占禁止政策協力委員、富山市薬業貿易振興会副会長などを務める。

■濱谷元一郎 氏
富山商工会議所 専務理事

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