「商工とやま」平成18年5月号

特集
人も活気も運びます、富山ライトレール開業! 〜北前船の町 岩瀬の魅力を再発見〜

 富山市のJR富山港線の路面電車化が完了し、4月29日(土)いよいよ七色の低床型車両(愛称・ポートラム)が走り出します。
 今回はライトレールの魅力も含め沿線で行われている新たなまちづくりの動きや魅力ある史跡・名所・観光施設などをご紹介します。
 皆さんもポートラムに乗って小旅行に出かけませんか。


■地域密着型の公共交通としてリニューアル

●JRから第三セクターの運営へ

 富山駅と岩瀬地区を結ぶJR富山港線が、富山ライトレール(路面電車)として地域に密着した新しい公共交通に生まれ変わります。

 富山港線は大正13年、富山北部工業地帯と岩瀬地区の発展を目的に、民間が出資した富岩鉄道が前身です。昭和18年には国有化(国鉄富山港線)され、戦後の高度経済成長期には工業地帯の貨物輸送の大動脈として活躍。その後はJRの運営になっていました。

 そして近年、マイカーに押されて乗客が減少傾向にありましたが、公共交通を望む市民の声を受け、路面電車化による街づくりの検討がなされてきました。そして将来の北陸新幹線開業による富山駅高架化の具体化もあり、既存の路面電車と接続させた南北一体交通網を形成していくことも展望して、平成16年春、当所も出資して第三セクター「富山ライトレール株式会社」が設立されました。以来、整備事業が急ピッチで進められ、この春の開業となりました。


●利便性が大幅にアップ!

 路面電車になってまず変わったのは新型の超低床車両です。モダンな車両は、高岡の万葉線「アイトラム」と同型の二両連結タイプで、車椅子やベビーカーでも楽に乗り降りができるバリアフリー対応で振動や騒音が少なく環境にもやさしい仕様となっています。

 運行本数も大幅に増え1日あたり上下約132本で、朝のラッシュ時が10分間隔、昼間〜夜8時までは15分間隔、その後は30分間隔。30〜60分間隔だったJR時代に比べると、特に朝夕のラッシュ時が便利になり、終電もこれまでの21時30分から23時15分へ(平日・富山駅北発)。新駅も4駅(富山駅北を除く)増え、文字通り「市民の足」として気軽に利用できる路面電車になります。


●おしゃれなデザインでイメージを統一

 富山ライトレールは利便性の向上だけでなく、新しい時代の路面電車としてのデザイン性にもこだわっています。車両をはじめ電停(停留場)、シンボルマークなどは全て、一貫したデザインコントロールが施され、イメージの統一が図られています。

 車両は立山の雪をモチーフとしたスノーホワイトを基調にアクセントカラーを配し7色で展開。4つのデザイン案に対して市民アンケートを実施し、最も得票数の多かったものを採用しています。さらに、車両インテリアもグレーを基調に環境への優しさをイメージしたグリーンを使ったおしゃれなものになっています。

 また13の電停に、周辺の歴史や観光スポットを紹介する壁面パネルを設置。そのデザインを富山市在住(または勤務)のデザイナー15名に依頼しました。環水公園や富岩運河、岩瀬曳山車祭などのモチーフが個性豊かに表現され、乗客の目を楽しませてくれるものとなっています。


■かつて北前船で栄えた港町の息吹を呼び戻す取り組み

●独特な建築様式をもつ岩瀬の家屋

 富山ライトレールの開業にあわせて、今、岩瀬地区では木造家屋が連なる歴史的な街並みを復元、修景する取り組みが行われています。

 岩瀬地区は江戸時代前期に港町が形成され、江戸末期から明治期は北前船の寄港地として、また加賀藩の官道として栄えました。岩瀬大町・新川町通りには、明治6年の大火後につくられた歴史的価値の高い家屋や土蔵が数多く残っています。

 例えば、客人専用の出入り口「切抜け門」や「スムシコ」と呼ばれる竹を細かく組み込んだ格子などは、岩瀬独特の建築様式で、明治ロマンの雰囲気を今に伝えています。


●また立ち寄りたくなる街並みを

 こうした歴史的街並みの修景事業は桝田酒造店・専務の桝田隆一郎さんを中心に、今から5年ほど前から始まりました。桝田さんは、まず近くの木材店を修復し、蕎麦打ちの職人を招き蕎麦屋を開業、昨年からは森家の土蔵群を再生し、酒店、ガラス工房、陶芸工房などを誘致、「今後も周辺の家屋や土蔵の修復整備を進めていきたい」と熱き思いを語っていただきました。工事には富山国際職藝学院の上野幸夫教授や卒業生が協力し、明治時代の写真などを検証しながら、当時の街並み、景観の再生に取り組んでいます。

 「廻船問屋や倉庫、土蔵を再生し、そこに職人やアーティストを招いて“住みながら働ける場”を提供しています。モノづくりに触れ、新しい発見に出逢える街…。そういう心地よい街を20〜30代のネクスト・ジェネレーションの人達と一緒につくっていきたいと思っています」と桝田さん。


●富山市が修景事業を創設

 こうした民間の動きにあわせて、富山市では昨年7月、伝統的家屋の外観などの維持や修復を行う費用などを助成する制度をスタートさせ、これまでに一般住宅や銀行など8件を認定しました。老朽化が進んだり、アルミサッシによって当時の風情が失われた家屋に対して、木製格子による修復が、また銀行は、周囲の景観にあわせて外壁やドアなどの改修が行われたほか、当所岩瀬支所でも改修を予定しています。市では現在も改築予定の15軒の認定に向けて協議を進めています。


■誇りに思える街、愛着のもてる街をめざして

●観光ボランティアグループが発足

 富山ライトレール開業による観光客の増加が見込まれることから、「観光ボランティアグループ」が誕生し、これまで観光スポット約20ヵ所について、勉強会を実施しています。

 地元郷土史家で同グループ代表の清水幸一さんは「自分の町に愛着をもついい機会になったと思います。これからは、この町の一員だという気概をもって観光客を案内していきたいと思っています」と意気込みを語っています。

 同グループは4月29日、ライトレールの開業とともに活動を開始し、観光客のガイドをはじめ、当日のクイズラリーのサポート役も行うそうです。


●かつての港町気質で地域を盛り上げる

 「岩瀬の人々は、昔から時代の情勢を敏感に捉え、住民一丸となって受け入れてきました。今、街並み修景に対する補助制度が始まり、自分たちの街に誇りをもってPRしていこうという、気運が高まってきました。ライトレールの開業は、岩瀬の街に観光客を呼び込む起爆剤。みんなで心を一つにして街を盛り上げていきたいですね」と清水さん。

 かつて、海運の旅人達が頻繁に町に入ってきては新しい情報や流行を積極的に受け入れてきた北前船文化。そんな岩瀬の港町気質が今、また勢いをもって復活しつつあります。

 今後はライトレールが開通し、街が整備されて大勢の人々の来訪が期待されますが、大型バスが通り過ぎるような観光地ではなく、落ち着いて街を探訪し歴史や潮の匂い、人情なども感じ取ってもらえる街、『また訪れたい』と思えるような街になっていってほしいものです。


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