「商工とやま」平成18年6月号

特集 「ガラスの街とやま」が、いま、面白い。

 富山市は、富山ガラス造形研究所や富山ガラス工房を中心に、地場産業の振興を目的としてガラス工芸の人材育成及びガラスの街の発展に取り組んでいます。皆さんも富山市の中心市街地で素晴らしいガラス作品をご覧になったことがあると思います。これら作品群も富山市の取り組みの一つです。
 そこで今回の特集は、世界的に見てもレベルの高い富山のガラスの誕生から今日までの歴史を辿るとともに、様々な角度からガラス文化の発展と普及に取り組む、富山のガラスの新しい動きと、その魅力についてご紹介します。

■なぜ、富山でガラスなのか

 富山にはもともと地場産業としてのガラス工芸はありませんでした。薩摩切子や江戸切子のような歴史があったわけでもなく、ガラスの原料が採れる産地でもありません。ではなぜ、富山市がガラスに取り組むことになったのか、その歴史を振り返ってみたいと思います。


■市民大学「ガラス工芸コース」の人気がきっかけに

 昭和58年頃、富山市では新しい時代の高等教育機関として、専門学校の設置を検討していました。一つは国際化の時代に対応した、国際教養学科の英語コース。もう一つは、家庭生産学科としてのガラス工芸コースでした。この2つのコースが後に、富山外国語専門学校と富山ガラス造形研究所へと発展していくことになります。

 富山市は昭和60年に、まず生涯学習の一環として、富山市民大学に「ガラス工芸コース」を開設しました。気軽に趣味としてガラスを楽しめるとあって人気となり、現在までに約1万人以上の方が受講しています。その盛況ぶりから、富山市では市民のニーズと確かな手応えをつかみました。これをきっかけに、本格的なガラスの人材育成と、地場産業として、ガラス文化を富山市に根付かせる取り組みが始まったのです。 

   ■富山市民大学ガラス工芸コース 富山市八人町5-17  TEL 076-431-9655


■人材育成をめざして、富山ガラス造形研究所を開校

 平成3年、全国初の公立のガラス専門の高等教育機関として、富山ガラス造形研究所が開校しました。

 富山市教育委員会「ガラスの里・ガラス美術館推進班」の川上貴裕さんに同校の特徴についてお聞きすると「専門学校ではありますが、大学と変わらない高度なカリキュラムと最高級の設備を整え、開校以来、日本、アメリカ、チェコのトップレベルの講師陣によって指導されています。ガラスの専門教育機関としては非常にレベルが高く、大きな公募展でも受賞を重ねるなど優秀な人材を輩出してきました。富山のガラスは、全国的にも高い評価を得ています」との説明を受けました。

   ■富山ガラス造形研究所 富山市西金屋80番地 TEL 076-436-2973 URL


■全国から集まる学生達
 富山ガラス造形研究所では、これまでに約230名の卒業生を送り出してきました。

 そのうち、県内出身者は1割未満で、卒業生は富山をはじめ、全国で活躍しています。

 卒業生の約9割はガラスに関わる仕事に従事し、最近では、短大や大学のガラス科で教育者として活躍する卒業生も増えてきたそうです。

 同校には、美術大学や短大で学んだ学生が全国から集まってきており、県内出身者の割合は低くなっています。しかし、全国に巣立っていった優秀な卒業生が富山のガラスの素晴らしさをPRしていますし、今後は県外とのネットワークもさらに強化することが期待されます。

 設立当初から現在まで、富山ガラス造形研究所は全国で唯一の公立のガラス専門教育機関ですが、その後、武蔵野美術大学をはじめとして全国の美術大学などでガラスコースの設置が相次ぎました。ライバルが増えたことで、今後は、より高度なレベルを目指し、富山独自の魅力を打ち出していくことが求められています。 


■富山ガラス工房の開設
プロの作家の育成と、地場産業の発展を目指す


 実は、ガラス制作には高いコストがかかります。ガラスの原料は24時間溶解炉で溶かし続けないといけないため燃料代が高く、土地や建物、設備にも何千万円といった費用が必要です。研究所を卒業してこれからデビューしようとする若手作家にとっては、かなり敷居が高い世界だと言えます。

 そこで富山市では、若手のガラス作家の育成と地場産業としてのガラスの発展を目指して、平成6年に富山ガラス工房を開設しました。独り立ちまでの3年間、工房で技術を磨きながら販売のノウハウなどを学び、様々な分野に人々とのネットワークを広げる狙いがあります。さらに、平成9年には富山ガラス個人工房が開設され、現在4棟8戸で制作活動が行なわれています。平成16年には、レンタル工房やギャラリー、ショップスペースも増設されるなど、若手作家が活動しやすい環境が整えられてきています。 

■世界で一番の設備!

 富山ガラス造形研究所のレベルの高さは海外から招いた講師によって世界的にも有名になり、富山ガラス工房は現時点では、世界で一番規模の大きな、ガラス文化を普及させるための工房です。

 設備も最新で、例えば欧米でガラスの創作に携わっている人々の間では、富山のガラスはとても有名だとか。地元ではあまり知られていないことですが、実はすごい場所なのです。

 そのことを市民の皆さんにもっと知っていただきたいのです。そして、若手作家が富山に定住しながら作品を制作し、富山でガラスを勉強すれば、世界でトップレベルになれるというような環境作りが整備されつつあります。ベネチアやボヘミアに比べると後発ですが、富山には発展途上の大きなエネルギーを感じます。多様性やオリジナリティに溢れていますし、個人のカラーで創作できる土壌があります。これから、大きな可能性があることを実感しました。

 現在、30名以上の富山ガラス造形研究所の卒業生が県内に定住しています。今後も定住者を増やし、地場産業として発展していくためにも、富山ガラス工房の果たす役割は大きいと言えます。


■楽しいガラス体験

 富山ガラス工房は整った設備があり、地元ガラス作家の作品製作や販売、そして異業種間交流も行われています。加えて最近は、一般の方が気軽にオリジナル作品を作ることができる体験教室が人気となっています。年間約3000人の方がガラス制作を体験しているそうです。

 富山ガラス工房・創作工房ディレクター名田谷隆平さんからは「小さなお子さんから、大人の方まで、一般の方と一緒に作品を作ることで、私たちも教えられることが多いのです。自分たちの作品だけを黙々と作れば効率はいいのかもしれませんが、いろんなバックグラウンドを持った方と触れ合うことで逆に勉強になりますし、子ども達からもエネルギーをもらっています」と目線をお客様に置き、一緒になって創作する楽しさをお話いただきました。

 体験教室では、プロのガラス作家と一緒にペーパーウエイト作りや吹きガラスなどを体験することができます。一人の体験者に2人の作家が付き添い一緒に作品を仕上げていきますから、初めての方でも安心です。最近では誕生日や結婚、出産などの記念品を手作りする人も増えているそうです。また、町内会や企業、学校などからもグループで体験を申し込むこともできます。


■市民に親しまれる多彩なイベント

 富山ガラス工房では、体験教室以外にもユニークなイベントを開催するなど、市民がより身近にガラスと触れ合うことができる試みが始まっています。4月には男性限定の「ケジメの盃」というイベントが開催されました。人生の節目にある男性達が、自分で作った盃で桜とお酒を松川の遊覧船で楽しむというもので、約40名の方が参加しました。今後も、工房での体験教室だけではなく、ガラスをコミュニケーションの手段にしたイベントや、異業種・異文化との交流が続けられていくとのことです。

 また、富山ガラス工房では、オーダーメイドのガラス作品も制作しています。例えば、ゴルフコンペや地域のスポーツイベントなどのガラスのトロフィーや楯など、1個からのオーダーも可能です。この他にも、赤ちゃんの手形や足形をガラスに残すこともできます。ガラスの繊細な美しさは、記念品や贈答品としても、きっと喜ばれると思います。


 富山ガラス工房では、ガラス作品制作の素晴らしさを知っていただくため、個人やグループ・企業・団体の方のためにガラス制作の体験コースや体験講座を開いています。ご希望の方はお気軽にご相談下さい。
<体験コース>
○ペーパーウエイト/1人1500円、15分 45名以内
 あなたのオリジナルデザインのペーパーウエイトを、作家と一緒につくります。
○吹きガラス/1人2500円、30分 30名以内
 オリジナルデザインの花瓶や器を作家と一緒につくります。

   ■富山ガラス工房 富山市古沢152 TEL 076-436-2600 


■ガラスの街とやまに向けて、様々な事業を実施

 富山市では、平成9年からビューティーロード事業として、駅前から市役所までの舗道にステンド・グラス仕様のプレートを設けたり、市内の橋の一部にステンド・グラスを取り入れるなど、都市空間の中にガラスを積極的に取り入れています。

 また、それと並行して、富山市ではガラスの美術館の建設についても検討されています。

 美術館の収蔵を前提とした作品収集は進められ、国内のみならず海外の質の高い作品も数多く収集されています。

 そこで、平成16年度には、それらの収集した作品を積極的に活用する事業をスタートさせました。

 中心市街地の建物、道路、公園などを活用し、街角に作品を展示する「ストリート・ミュージアム・プロジェクト」です。街全体をガラスのミュージアムにしようという試みで、大手モールやホテル、市役所の前などに作品が展示されています。以前からあったミニケースギャラリーに加え、より大きな作品が屋外エキシビジョン・ショーケースの中に入れられ、設置されています。また、富山国際会議場1階には、文化勲章受章者で富山ガラス造形研究所の顧問でもあった故藤田喬平氏の作品や、チェコの巨匠の大型作品などが展示されています。佐藤美術館のロビーにも富山市所蔵のガラス作品が展示されています。一度ゆっくり足を止めて、ご覧になってはいかがでしょうか。


■市民プラザや国際会議場にも作品を常設展示

 富山市民プラザの2階には、常設の展示ギャラリー「トヤマグラスアートギャラリー」が設けられています。年数回のテーマ展を通して、富山市が所蔵するガラス作品を無料で見ることができます。

 そして、富山国際会議場のアートサロンでは、ガラス作品の展示と販売を行っています。お手頃な価格のグラスやトンボ玉から、高価なアート作品まで揃っていて、気軽に作品に触れることができます。

■トヤマ グラスアート ギャラリー
 富山市大手町6-14 富山市民プラザ2F 10:00〜18:00
 入場無料、休/毎週月曜・祝日の翌日・年末年始

■富山国際会議場アートサロン
 富山市大手町1番2号  TEL 076-424-5931
 9:00〜18:00 休/年末年始(12/29〜1/3)

■公募展も開催

 平成14年、富山市ではトリエンナーレ方式で行なう3年毎の全国公募展「第1回現代ガラス大賞展・富山2002」を開催し、平成17年には「第2回現代ガラス大賞展・富山2005」と、愛知万博関連事業「光と空間の捕捉-チェコ現代ガラス展」を同時開催しました。この他、今年2月にはオーバード・ホール開館10周年記念「舞台の上の美術館」に富山市所蔵のガラス作品を出品したり、タレントのはなさんがデザインした作品を販売するなど、新しい試みも始まっています。これらは、ガラスの街とやまを内外にピーアールするイベントとして注目されました。


■20年の歴史を新しい価値につなげる

 富山市民大学にガラス工芸コースが開設されてから約20年。ガラスの街とやまは、着実に成長を続けています。今後はさらに市民に親しまれ、富山独自の地場産業として発展していくことが期待されています。それには、芸術作品としてのガラスだけでなく、例えば建設業界では画一的な窓ガラスを建物のデザインにあわせてひと工夫をするためにガラスの専門的知識や技術を持つ人材が必要とされているように、様々な分野でガラスを活かせるきっかけづくりも必要だと思います。

 当所は「富山市価値創造プロジェクト」を推進しており、市民参加による価値資源の共有と情報発信活動など、様々な事業に取り組んでいます。

 今回ご紹介した「ガラスの街とやま」の取り組みは、街の新しい観光資源の再発見と新たな産業育成や、街の活性化等につながっていくものと期待されます。皆さんも、もっと気軽にガラスに親しみ、暮らしの中でガラスを通したコミュニケーションを楽しんでみてはいかがですか。

■ガラスの街とやまホームページ
http://www.city.toyama.toyama.jp/glasscity/index.html


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