「商工とやま」平成18年8・9月号

特集
里山のある動物園で、大人も元気になろう

ファミリーパークから発信する、里山のあたらしい魅力
 昭和59年4月にオープンし、今年で22年目を迎えた富山市ファミリーパーク。「見せる」だけの動物園ではなく、呉羽丘陵の豊かな自然環境を生かし、市民ボランティアの人達による参加型の里山保全活動など、全国的にもユニークな試みで注目されています。今回は、ファミリーパークの独自の取り組みや郷土の自然に重きを置く活動についてご紹介します。

■全国的にも珍しい、郷土の動物と自然を伝える動物園

 動物園の建設計画がもち上がった1970年代、動物園は娯楽施設の頂点にあったといいます。しかし、子供たちの自然離れがすでに始まっていた当時、富山市ではただ珍しい動物を見せるのではなく、ふるさとを知る一環として、新しい動物園作りが進められることになります。富山に初めて動物園ができるということで、外国産の動物の展示や遊園地建設も進められましたが、あくまでパークの基本は、郷土の動物を郷土の人に伝えることを目的にスタートしたのです。
 そこで、開園当初から、他の動物園では見られない郷土の動物展示や、教育啓発事業に力が注がれました。動物を展示するのではなく、園内の豊かな自然を活用した環境教育や園内の自然環境調査、保全管理なども行なわれ、自然との調和を大切にしてきました。


■日本の動物が見られなかった全国の動物園

 当時、全国の動物園では、日本の動物はほとんど展示されていませんでした。ファミリーパークは本州のまん中にあって、日本の動物を一番多く見られる動物園となりました。そして、他の動物園では飼育係と獣医しかいなかった時代に、専門の教育担当者が置かれ、その分野でも全国の先駆けとなりました。ファミリーパークは開園後数年で、ユニークな存在として全国に知られるようになったのです。


■里山がある動物園は、他にない

 そして、何と言ってもファミリーパークの一番の特徴は、園内に「里山」があることです。呉羽丘陵の自然を守り、その自然をきちんと伝えていくために、雑木林や湿地はそのまま残されました。施設が点在しているのはそのためです。
 「とんぼの沢という湿地がありますが、当初の設計ではそこにも施設を建設する予定でした。しかし調べてみると、この湿地は自然植生が豊かでいろんな生きものが棲んでいることがわかりました。そこで、園内の自然保護地域の地図を作り、その地域は一切手を触れないということを決めたのです」と山本園長は当時を振り返ります。


■乾燥しはじめたとんぼの沢

 しかし、手つかずで保護していたはずのとんぼの沢が徐々に乾燥し始めてしまいます。とんぼの沢は以前は田んぼだったところ。しかし、山あいの放棄田と同じように、だんだん水の流れが決まってしまい、ススキの原になろうとしていました。
 実はとんぼの沢は、日本でもこの辺りにしか棲んでいないホクリクサンショウウオの大切な産卵場でもありました。沢を守るために、かつての畦の跡を頼りに職員の手で再び田んぼが開墾されました。このことが園内の自然をもう一度見直すきっかけとなります。


■荒れた里山を復活させたい

 園内の自然は、基本的には手つかずで守られていましたが、その大半は孟宗竹林と、手入れされずに薮となった雑木林。実態は荒れた里山となっていました。孟宗竹林では、単一の竹林になってしまい、他の植物も育たなくなってしまい、結果として、丘陵地帯の生物の多様性を維持できなくなってしまうのです。
 郷土の動物を郷土の人に伝えるための展示をし、そのためのガイドや教育活動をしているのに、その動物たちが本来棲んでいた山が荒れて彼等が棲む場所がだんだん減ってきてしまっている。そのことを無視して、飼っている動物の解説だけしていてはいけないと山本園長は考えたわけです。
 しかし、職員数も限られている中で、山の手入れをすることは困難なことも事実。そこで、ファミリーパークでは次の一歩を踏みだすことになります。


■Zoo夢21市民計画市民いきものメイトのスタート

 平成11年度に、ファミリーパークではZoo夢21市民計画を立ち上げ、市民とともに21世紀の動物園づくりを進めていく事業をスタートさせます。柳生博さんらを招いたシンポジウムを開催し、動物園は子供たちのためだけのものではなく、大人こそが楽しめる場所であることを訴えました。園内の自然を舞台に、人と自然の関係を探りながら、動物たちが暮らせる里山づくりをしようと市民に呼びかけたのです。
 平成12年には、この呼びかけに賛同して集まった市民が「市民いきものメイト」を結成しました。かつてこの場所にあった炭焼窯を復元して竹炭を焼き、孟宗竹林を雑木林に戻そうという取り組みが、運動の大きな柱になりました。「里山」や「スローライフ」をキーワードに、茶畑の復元や天蚕、和紙づくりなど独自の活動が行なわれ、現在も続けられています。


■「わくわく田んぼ」で、泥んこになろう

 ファミリーパークでは子供も大人も自然の中で遊び、人間本来の生きる力を取り戻すためのさまざまな活動が行なわれています。その中の一つにわくわく田んぼがあります。
 単に外国の珍しい動物を見せるのではなく、子供も大人も、もっと五感を使って活動ができる場を提供したい、との思いが込められています。わくわく田んぼでは、たくさんの生きものがいる泥の中で遊びます。外国の動物についての知識を得るのではなく、身近な生きものの存在を身体で感じられる体験の場になっているのです。


■自然遊びは、生きていく根っこづくり

 現代の子供たちの暮らしについて思うとき、大きな危機感があります。
 「私の小さい頃は、普段は田んぼなどで遊んでいて、夏休みには都会の大きな動物園に連れていってもらったものです。あくまでも遊びのベースは田んぼなどの身近な自然でした。しかし、今の子供たちは、そのような経験をほとんど持っていません。この状況では人が生きていくための力は作られないのです。小さな頃から自然に触れることは、『人間として生きていく根っこづくり』です。五感をフルに働かせて、感性を磨くことが子供の遊びです。五感を使って、現状をきちんと見て物事を判断し、行動する。自然との遊びとは、それらを鍛えるものなのです」と山本園長は主張されます。


■熊問題と「きんたろう倶楽部」

 さらに、熊と里山の問題をきっかけに、ファミリーパークの活動は園外にも広がっていきました。今年の4月に結成された「きんたろう倶楽部」で山本園長は副会長を務めています。放置された里山を、どのように再生し活用するのか。これまでパーク内で実践されてきたことが、園外でも始められようとしています。そして、森や人を元気にしながら、野生動物と人との境界帯をもう一度見つめ、作り直していくことが期待されています。


■これからの動物園に必要なこと

 開園以来、約527万人が訪れたファミリーパークですが、動物園には国の補助などは一切ありません。財政的にも厳しい状況の中で、全国の動物園はどう生き残りをかけていくのかが、大きな課題となっています。
 7月1日、2日には、ファミリーパーク、富山ガラス工房、市民いきものメイト、そして地元の商工会などが一体となった「ガラスと動物/里山フェスタ’06」が開催されました。足もとに、こんなに素晴しい自然や里山があることを再認識してもらおうと呉羽丘陵全体として取り組んだイベントです。
 ファミリーパークでは、市民参加を呼びかけ、地域の課題に対して情報発信できるような動物園を目指し、これからも人と自然をつなぐ役割を担っています。


■夕日がきれいな動物園

 ご存知でしょうか。一般の方はほとんど見ることはできませんが、ファミリーパークから見る夕日は絶景です。今後は来園者がこの夕日を見られるようにしたり、地産地消の観点から、呉羽名物が食べられるレストランやカフェなどもつくりたいと山本園長は夢を語って下さいました。
 呉羽丘陵の身近な里山を再生しながら、人と自然が一体となった活動で、地域を活性化し、情報発信をしていくこと。そして、より親しみのあるファミリーパークとして、富山の元気を創造していくことが期待されます。
 ファミリーパークの取り組みについては、当所が実施している「富山市価値創造プロジェクト」の一つのテーマに掲げ、今後とも呉羽丘陵などの里山保全「きんたろう倶楽部」等の活動を支援し、活力ある富山市づくりに積極的に取り組んでいきます。
 先ずはこの夏、お子さんやお孫さんと一緒に、あるいは大人同士で、私たちの里山のファミリーパークを訪れてみてはいかがでしょうか。

 今回の特集に際しまして、山本茂行園長にご協力いただきましたこと、心より御礼申し上げます。


≪森林浴を楽しみながら、森について考えてみませんか。≫
    市民いきものメイト会長 きんたろう倶楽部事務局長 山田 務さん

 現在約300人の会員が登録している市民いきものメイト。ファミリーパーク内の里山再生を軸に、多彩な活動で知られます。
 「年齢も職業もさまざまな会員が知恵と技術を出し合い、楽しみながら活動しています。これまで40回以上炭焼窯で竹炭を焼いたり、天蚕、ドングリの里親活動なども行なっています」と会長の山田さん。
 また、山田さんは「きんたろう倶楽部」の事務局長としても忙しい毎日です。
 「街の人は、山からたくさんの恩恵を受けています。山が良くなればおいしい水が飲め、海もきれいになり、おいしい魚が食べられる。街の人が山へ行って恩返しをし、山の人も街の人との交流を深められる『山と街の参勤交代』を目指しています」とのことです。
 興味のある方は、ぜひ参加してみてはいかがですか。森林浴をしながら、きっと、気持ちのいい汗を流すことができるはずです。

■お問い合わせ先
 市民いきものメイト事務局 富山市ファミリーパーク内
 TEL 076-434-1234
 きんたろう倶楽部事務局 富山市ファミリーパーク内
 TEL 076-434-1316
 きんたろう倶楽部ホームページ http://kintaroclub.net/

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