「商工とやま」平成19年7月号
特集 ●災害ボランティアについて、考えよう●
被害の拡大を防ぎ、被災者を的確に支えるネットワークづくりへ

 1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越地震、そして、今年の3月25日に発生した能登半島地震と、大規模な災害が各地で相次いでいます。富山県は地震や災害の比較的少ない県だと言われてきました。しかし、歴史を振り返れば、安政5年(1858)の大地震での常願寺川源流部大崩壊と、その後の土石流による大災害の例もあります。

 安政の大地震から、すでに150年近い年月が経過している現在、県内でも、いつ、どこで大規模な災害が発生しないとも限りません。今回は阪神大震災をきっかけに注目されるようになった、災害ボランティアについてご紹介します。官民一体となった活動で、県内外で活躍する災害ボランティアの取り組みを見ながら、日頃からの防災への備えの重要性について改めて考えてみたいと思います。


■ボランティアをより効果的にする

 防災とは、災害を未然に防ぎ、災害が発生した場合には被害の拡大を防ぎ、復旧を図ることです。そのためには、行政に頼るばかりでなく、日頃から市民レベルで災害に備えた訓練・啓発につとめ、災害が発生した場合の応急・避難生活支援、復旧・復興・生活再建のための具体的な方法やプロセスを学ぶことが重要です。

 阪神大震災を機に注目されるようになった災害ボランティア。震災以後、全国各地で、多方面からの支援がボランティアの手によって実践されています。しかし、まだまだ一般の私たちの防災や災害ボランティアへの意識は低いのが現状ではないでしょうか。

 迅速な復旧と支援活動のためには、ボランティア同士のネットワーク化と現地での受け入れ体制が重要となっています。

 富山市では、災害時のボランティアの円滑な受入れや効果的な活動展開のために、「富山市災害ボランティア活動指針」が設けられており、災害時に「市災害ボランティア本部」運営の中心となる「富山市災害ボランティアネットワーク会議」を設置しています。平常時から行政とボランティア関係機関・団体が相互に連携・協力して、災害ボランティア活動支援体制を構築しておくことを目的としています。


■YMCAの活動を活かして民間の力を

 富山市災害ボランティアネットワーク会議の会長で、財団法人富山YMCA総主事の島田茂さんに、民間での災害ボランティアの現状と課題等について伺いました。

 「YMCAは産業革命時の1844年、イギリスのロンドンで誕生しました。近代化の中で青年たちが都市に集まり、互いに学び合い、全人格的に成長することを目的に設立されました。また、世界YMCA同盟は国連よりも先に1855年に誕生し、さまざまな国の災害や戦争で傷ついた人々を支援してきました。大正12年(1923)の関東大震災や、第二次世界大戦後の復興支援も行ってきた歴史があります。現在、日常的には、青少年の健全育成活動の他に、東アジアの国などの生活支援なども行っています。

 阪神・淡路大震災の際のNGO・NPOの活動でも、YMCAが中心となり、ボランティアネットワークの事務局として活動しました。物資や人の調整を行い、復興をよりスピーディーにするための支援に加わりました。もともとYMCAの職員はボランティア活動のコーディネートをする訓練を受けてきたこともあり、この時の民間ボランティアによる主体的な活動は大きく評価されるようになりました」。

■つながるボランティアネットワーク

 2000年(平成12年)8月1日に、富山で初めての異業種によるボランティアネットワーク「NGO・NPOネットワークとやま」が立ち上りました。設立にあたって災害ボランティアネットワークをつくることも目的の一つでした。その後、富山市では市民参加型のボランティアの育成と災害ボランティアネットワークをつくるため、横浜市などの例を参考にして、2003年に公設民営の富山市災害ボランティアネットワーク会議を設置することになったのです。

 翌年には、新潟や福井の水害、そして、中越地震が相次いで発生します。

 「中越地震発生時には私もすぐに現地に出掛け、その後はYMCAのネットワークを活用して、子どもたちのメンタルケアなどにあたりました。今回の能登半島地震でも七尾から門前へと出掛けましたが、人が住んでいない家が多かったり、余震も続いていたこと。そして、現地での受け入れ態勢が整っていなかったことなどから、ニーズがあまりなく、ボランティアはあまり入れない状況でした。住民の人たちが自立してやろうというときには、外部のボランティアは活動を控えた方が良いこともあります。短期にどっと押し寄せるのではなく、長期にわたったケアも重要だと考えています」。


■日常での継続したケアが大切

 YMCAでの海外や国内支援での経験から、物資というよりは、精神的な支援を継続していくことが大切だと語る島田さん。新潟の小千谷市では、子どもたちのキャンプやレクリエーションを通したストレスマネージメントを継続して行っているそうです。

 「避難所でも、被災者自身もボランティアができるようにすることや、非常時だけでなく、日常生活でのお年寄りや障害者、在日外国人などへの福祉の充実をはかることが大切です。お年寄りや独居の方は、一人でもんもんと苦しんでしまうことがあります。例えば、新潟の水害の際には、災害後、家の2階で、一週間寝たきりだったお年寄りを富山のボランティアが発見し、救助したという例もあります。そして、この時、川の向こう側はまったく被害がなく、普通どおりに日常生活が営まれているのに、その反対側では悲惨な状況が続いていました。川を隔てて、まるで別世界のようでした」と島田さんは振り返ります。すぐそばにいても、「対岸の火事」のように思ってしまう人間の心の隔たりを感じたそうです。


■「民」主導での活動を広げてほしい

 行政主導の訓練はよくされているのですが、民主導での活動をもっと盛んにする必要があると話す島田さん。

 「災害時に、あらゆる場面で行政だけで対応することは不可能です。職員自身が被災者であることも多く、24時間体制の仕事やストレスから体調を崩してしまう職員の方もいます。やはり、外部のボランティアをどう受け入れて、有効に活かすかということが大事です。今後もネットワーク会議などを通して、さらに経験値を増やし、行政だけでなく、民間でもできることを増やしていきたいですね。ボランティアは精神性だけでは継続は不可能です。NPO活動への法的、経済的なバックアップも必要です」。

 能登半島地震の際には、小千谷の青年会議所のメンバーもいち早く駆けつけてきたそうです。自分たちが被災した際にお世話になった人たちが、今度は別の地域へと出掛けていくといった動きは全国的に広がっています。

 「企業自体も、良き市民として社会に貢献し、そのような貢献度が高い企業は良い企業だと評価される仕組みができるといいですね。市民参加型の社会のためにも、会社ぐるみでボランティア活動できる企業が育ってほしいと思います。」


■災害ボランティアコーディネーターを養成

 日頃から福祉の現場でさまざまな支援にあたる社会福祉法人富山県社会福祉協議会・富山県ボランティアセンター(以下、県ボランティアセンター)では、災害時には県災害救援ボランティア本部で事務局を担当する重要な役割りを担っています。また、県ボランティアセンターでは平成18年度から各市町村の災害ボランティアセンター設置マニュアルの作成支援を行っており、今年すべての市町村でマニュアルが完成する予定です。

 このマニュアルを基にした日頃の訓練が、防災や減災につながっていくものと期待されています。また、これまでにも、各市町村の社会福祉協議会の職員が、実際に県外などの被災地に出掛けることで、災害救援ボランティアセンターを動かす具体的なノウハウを学び経験を積んできています。

 また、県ボランティアセンターでは、市町村毎の災害救援ボランティアコーディネーターの養成にも取り組んでいます。地元ならではの情報力やネットワークをうまく利用することで、被災の際には、地域のニーズをよりきめ細やかに把握し、ボランティアとうまく結びつけることが可能となるのです。

 能登半島地震でも活動した県ボランティアセンターの中島所長と宮崎主任は、「外からのボランティアを受け入れるための現地での体制づくりと、ボランティアスタッフと現地のニーズをうまく噛み合わせることが何より重要。それには地域のことを普段からよく知っている地元のボランティアコーディネーターの役割りが特に大きい」と語って下さいました。


■全国初の災害救助犬は富山から

 1991年に、民間組織として日本初の災害救助犬協会が富山市で設立されたことをご存知ですか。スイスの災害救助犬をモデルに、富山西ライオンズクラブの結成20周年の記念事業の一環として災害救助犬の訓練が16年前に始められました。

 これまでに阪神・淡路大震災や台湾中部大地震などで多くの行方不明者の捜索にあたり、力を発揮してきました。

 「救助は時間との戦いです。発生から72時間以内に捜索できないと、生存者を発見することは困難となります。阪神・淡路大震災では現場にすぐ行くことができず、残念ながら生存者を救助できませんでした。しかし、この時の活動をきっかけに、年々、救助犬への理解と評価は高まってきています」と話す黒川理事長。

 災害救助犬は主に、地震や雪崩などの自然災害や事故等で生き埋めになった人を捜し出す救助活動の支援にあたります。警察犬は特定の個人の臭いを覚えて追跡するのに対して、災害救助犬は不特定多数の人間の空気中に漂う臭いを探知して捜し出すことができます。

 災害救助犬の存在すら一般の人々にあまり知られていない発足当時、災害救助犬協会と富山県警察はいち早く連携をとり、救助犬(捜索犬)部門を設立。警察犬として災害救助犬が採用され、災害救助犬は1993年から富山県総合防災訓練に毎年参加するようになりました。さらに、1995年からは東京消防庁の要請により東京都総合防災訓練にも参加しています。


■国による災害救助犬の制度づくりを

 現在はまだ、災害救助犬を認定する機関が国内に設けられていないため、協会では1993年から独自の認定審査会を実施しています。また、災害現場への災害救助犬の派遣や、消防、警察などとの連携の方法を研究するため、毎年2月と7月に会員による訓練を行っているそうです。

 「制度も未整備ですし、資金的にも、このまま民間ボランティアだけで続けていくことは大変です」と話す二木副理事長。スイスの災害救助犬が国から認められ、国際的にも認知されているように、協会では今後も災害救助犬のPR、国による登録制度や保険制度、訓練士の認定システムなどの実現へ向けて、強く働きかけていきたいと考えているとのことでした。

 一般の皆さんの支援も受け付けているとのこと。興味のある方は、ぜひ一度連絡してみてはいかがですか。


 災害ボランティアといっても、その分野は多岐にわたり、専門的な技術を必要とするボランティア活動から、誰もが参加することができる活動まで、幅広いものがあります。しかし、今回ご紹介したように、重要なのは、日頃から地元に密着した現場でのニーズや情報を集約し、それぞれのボランティア活動が有効に活かされるようにする体制づくりとコーディネーターの存在ではないでしょうか。

 人命を救い、人の役に立ちたいというたくさんの人の思いや願いを現地で有効に働かせるためにも、日頃からの備え、訓練やコミュニケーション、ネットワークづくりが重要です。当所でも、災害ボランティア活動への理解を一層深め、日常での防災への啓発と支援に努めていきたいと考えています。


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