「商工とやま」平成19年11月号
特集  薬都・とやま 300年以上の歴史と価値を再発見しよう!
其ノ三 「薬都とやま」のあたらしい未来へ

 300年以上の歴史を持ち、多分野にわたって現在の富山の産業発展の大きな礎となった富山の薬。そして、先用後利という独自の販売システムで全国に薬を広め、親しまれてきた「売薬さん」。江戸時代から現代まで、様々な時代の変化の中で、いくつもの荒波を越えて受け継がれる薬の伝統。
 しかし、国際競争の激化、少子・高齢化の進展、ドラッグストアの進出、薬事法の改正など、業界を取り巻く環境は、今まさに、大きく変わろうとしています。今回の特集では、富山の薬業の今を見つめながら、変わりゆく薬都とやまの未来像を探ってみたいと思います。



■全国シェア1位の配置薬業

 県内の医薬品製造メーカーは94社、114工場となっています(平成19年1月)。また、全医薬品の生産額を県別にみると、富山は2636億円で全国8位となっています。大まかには、医薬品生産の7割が医療用医薬品で、一般用は2割、配置用は1割となっています。また、人口一人当りの生産額は24万円で全国2位。医薬品製造従業者数は人口1万人当たり60人で全国1位です。そして、配置販売従事者数は1864人で1位(ここまで平成17年)。配置用医薬品生産額でも231億円で全国1位と、全国シェアの約5割を占めています(平成16年)。

 やはり配置薬では、生産額、従事者ともに全国トップの地位にある富山県。しかし、全国的には配置販売業に従事する人はそれほど減っていないにもかかわらず、県内の配置従事者の数は、年々減少傾向にあります。これは、県内では、ほとんどの配置業者が一人帳主と呼ばれる個人による小規模な事業者であることが要因です。県内の売薬さんの平均年齢も60代と高齢化が進み、後継者不足が大きな課題となっているのです。平成18年末には、配置販売従事者数は1707人となり、対前年比で157人も減少しています。


■個人経営からの脱皮が課題

 社団法人富山県薬業連合会常務理事の松澤孝信氏に、県内の配置薬業の現状についてお話を伺いました。

 「県内の配置薬業は昔から家族経営が多く、高齢化や後継者不足によって配置従事者が減っていることや、ドラッグストアの進出で、配置薬メーカーの経営環境も一層厳しさを増しています。当連合会では、後継者の育成とともに、懸場帳の取引相談や売買斡旋なども行ない、懸場帳の保全に取り組んでいます。そして、個人経営から脱皮し、法人化や合併の推進を図るなど配置薬業の振興・発展に努めています」と、業界全体で、環境変化への対応に取り組まれています。


■「富山のくすり」は団体商標に

 一方、県薬業連合会が特許庁に出願した「富山のくすり」という言葉が、団体商標として今年7月31日に認められました。業界活性化を目指し、昨年に出願していたものです。県内での地名入り団体商標の登録は「井波彫刻」以来2件目で、全国的な知名度を有するものとして位置付け、認定されました。今後は、ロゴの統一デザインを決め、薬のパッケージなどに用いて、イメージアップとブランド力の強化を図ります。


■「富山くすりフェア」を開催

 県薬業連合会では、新規学卒者や一般社会人を対象にした就職ガイダンスを開催したり、平成5年から「富山くすりフェア」を県内や全国で開催しています。これは、300年以上も前から全国の家庭で愛用され、現在も配置用から医療用まで広く使われている「富山のくすり」を一般の人達にわかりやすく紹介するイベントです。今年も、おわら風の盆に合わせて、CiCの「いきいきKAN」で開催されました。会場には展示コーナーや体験コーナーが設けられ、くすりの販売も行なわれました。

 また、富山北部高校のくすり・バイオ科の生徒達が、錠剤の製造過程を実演したり、情報デザイン科の生徒たちが制作した、富山のくすりをテーマにしたタペストリー(織物の一種)も展示されました。県内には、富山北部高校の他に、滑川高校にも薬業科があります。県薬業連合会では、この2つの高校の生徒達に業界を紹介した小冊子を配布したり、製薬工場や薬業施設への見学会などを開催し、若者の薬業界への理解や就職促進にも努めています。

◆「富山くすりフェア―越中富山くすり屋横丁」

 9月1日(土)〜3日(月)に、JR富山駅前のCiCビルで開催された。
 昭和30年代の街並みをイメージした会場に、配置薬の仕組みを紹介するパネル、柳行李や懸場帳の薬業関係資料の展示されたほか、産学官連携で開発した滋養強壮保健薬「パナワン」の紹介、配置薬の販売等も行われた。
 おわら風の盆に合わせ、県薬業連合会などでつくる実行委員会が開催しているもので、観光客を含め多くの来場者で賑わった。




■産学官で、富山オリジナルブランド医薬品を開発

 富山には多様な医薬品メーカーがあるとともに、富山大学や全国唯一の富山県薬事研究所や富山県薬用植物指導センターなど、全国的にも珍しい機関が充実しています。これらの機関では薬業の発展を目指して、医薬品、薬剤、和漢薬、バイオテクノロジーや新薬の研究などが積極的に行なわれています。そして、産・学・官が一体となり、創薬・育薬研究の振興を目指す、フォーラム富山「創薬」も設立されました。産学官の交流や連携によって、大学、研究機関での研究成果が地元産業へと還元され、新たな医薬品の開発が促進されています。

 また、平成13年には産学官による「富山オリジナルブランド医薬品開発研究会」が設立され、県の薬業界全体の発展につなげる目的で、平成17年には全国で初めて産学官連携により開発された、オリジナルブランド医薬品「パナワン」が誕生しました。配置薬業の活性化と同時に、「富山のくすり」のブランド化をさらに進められています。

 「パナワン」は滋養強壮保健薬で、薬用ニンジンを基本に11種類の生薬を配合した丸薬です。平成18年1月から発売が開始され、当初の目標の3万本が販売されました。今後も、第二、第三の富山のオリジナルブランド医薬品の開発と「富山のくすり」のブランド力強化に期待が高まります。

◆とやまオリジナル医薬品「パナワン」

 薬用ニンジンを主薬に、11種類の生薬を配合した滋養強壮保健薬。富山県薬業連合会、旧富山医科薬科大学(現富山大学)、富山県の産学官連携で初めて開発された。動脈硬化や免疫バランスの調整、血中脂質の低減といった効果が実験により明らかになっている。  一般の薬品やドラッグストアでは販売せず、配置薬専用の医薬品として平成18年1月から販売中。 価格は540丸入り(大人1ヶ月分)で8,820円。



■医薬品販売制度の見直しとセルフメディケーションの普及

 昨年、薬事法が改正され、配置販売業に従事するためには、都道府県が実施する資質確認試験に合格し、登録販売者になることが必要となりました。既存の配置販売業者は経過措置によって従来通り事業を継続できますが、配置員の資質向上の努力義務が課せられています。県薬業連合会では研修会などを積極的に実施し、配置員の資質の向上に取り組んでいます。

 松澤氏は「ドラッグストアなどで一般用医薬品が安く買える時代だからこそ、副作用についての説明や健康相談に応じられる身近なアドバイザーとして、売薬さんの必要性をPRしていきたいですね。配置薬によるセルフメディケーションの普及と、地域保健医療への貢献のためにも、一層の資質の向上を図りたい」と語ります。今後は価格ではない、人による、配置販売ならではの「価値」を、改めて多くの人々に訴え、再認識してもらうことが重要となっています。


■アウトソーシングで新たなチャンスが生まれる

 医療用医薬品の世界でもグローバル化が進み、国際的な企業の合併・買収などで巨大な外資系企業が誕生しています。世界的に見るとアメリカやEUの製薬メーカーがやはり圧倒的な力を持っています。そして、外資系企業の国内市場への進出も進む中、日本の製薬メーカーも国際競争力をつけるために、合併や分社化に取り組んでいます。

 そのような状況の中で、日本の企業の国際競争力を強化するため、薬事法が改正されました。企業の経営活力ができるだけ発揮できるよう、従来の製造の概念から、「製造」と「元売り」が分離され、新しく元売りについての承認、許可制度が設けられました。これによって、以前は部分的にしか認められなかった医薬品製造の完全なアウトソーシングが可能になりました。安全対策上の企業責任は明確に規定した上で、企業経営の自由度が増すことになり、様々な経営形態の派生が期待されています。

 前富山県薬事研究所所長で、株式会社廣貫堂マーケティング戦略本部長補佐の津野敏紀氏は、「富山の医薬品製造においてのアウトソーシングは、全国に先駆けて進んでいます。富山のメーカーには長年の技術的な蓄積があり、県外大手メーカーからの信頼も厚い、高い技術力を持った企業が多いのです。特に軟膏剤、ハップ剤、目薬などの製剤技術では高い評価を得ています」と地元業界の強みを説明されています。

 アウトソーシングの完全自由化で大きく動き始めた製薬業界にあって、富山のメーカーにも大きなビジネスチャンスが生まれているようです。


■超高齢化社会とジェネリック医薬品の利用促進

 超高齢化社会へと進み始めた日本。政府は増大する国民医療費の削減に向けて薬剤費を抑えるため、ジェネリック医薬品の利用を促進しています。ジェネリック医薬品とは、厚生労働省が先発医薬品と同等と認めた後発医薬品のことで、先発医薬品の特許満了後に、有効成分、分量、用法、用量、効能及び効果が同じ医薬品として新たに申請され、製造・販売される安価な医薬品です。また、製品によっては大きさ、味、においの改善、保存性の向上等、先発医薬品よりも工夫されたものもあります。

 新薬の開発には200億円とも言われる巨額の費用と膨大な時間を必要とするため、先発医薬品はその分、価格も高く設定されます。それに対してジェネリック医薬品は開発費用などのコストが削減できるため、安価となるのです。アメリカ・イギリス・ドイツでは、ジェネリック医薬品が全体の50%を超えるのに対し、日本では10数%にとどまっています。富山にもジェネリック医薬品を主力として生産している企業があります。県外の大手メーカーとの提携によるジェネリック医薬品の製造は、今後さらに大きな可能性を秘めているといえます。

 津野氏はこれからの富山のくすりの可能性について語ります。「ジェネリック医薬品もそうですが、高齢化社会の中で、生活習慣病の克服や三大成人病の根源であるメタボリック対策、アルツハイマーの改善、腰・関節などの痛みの緩和など、お年寄りにも優しい薬、飲みやすい剤型の開発がさらに求められています。また、富山のくすりの原点は和漢薬です。今後も研究機関と地場産業を生かしたパナワンのような富山らしい薬の開発や、バイオ技術を生かした研究開発が必要ですね。そして、健康志向が高まる中、保健機能食品(※)の開発にも大きな可能性があります。観光の面でも、産業観光などをさらに充実させ、富山のくすり全体のイメージアップを図れるといいですね」。

 富山のくすりは、様々な分野で、今後もまだまだ発展の可能性を秘めています。


■富山のくすりを世界へ

 一方で、薬を通した国際交流も進められています。今年の8月には、モンゴルの首都ウランバートルで開かれたWHO(世界保健機関)の国際会議に富山県も参加しました。会議では、アジアを中心とした14カ国の参加者が伝統薬を利用した保健医療サービスの向上について話し合われ、その中で、富山の配置販売システム(先用後利)が、医療が十分に受けられない途上国の人の健康を守るためのモデルとして大いに注目されました。モンゴルでは3年前から、このプロジェクトが実践され、評価されているとのことです。各国からも導入したいとの意向があり、今後、富山が誇る配置販売システムは世界の広い地域で、人々の健康に役立つものと期待されています。

 また、国際的な薬都として知られる、スイスのバーゼルとの交流も始まっています。9月にはバーゼルからの視察団が来県し、県内の医薬品メーカーや富山大学、県薬事研究所を訪問しました。また、10月21日からは富山の医薬品メーカーがバーゼルを訪問し、各企業のPRと現地企業などとの商談を目指します。今後のビジネス交流や共同開発に向けて、注目が集まっています。

 グローバル化が進む医薬品業界の中で、富山のくすりも大きな転換期を迎えています。激しい国際競争の中で、富山ならではのオリジナリティのあるくすりの開発と国内外へのPRが、ますます重要となっているようです。それぞれの企業が得意分野を生かし、世界に誇れるような富山ブランドを生み出すためにも、産学官の連携がさらに必要です。

 当所では価値創造プロジェクトを通して、「健やか薬都」を推進しています。富山の貴重な財産である「富山のくすり」を、産業はもちろん産業観光の面からも支援し、富山ブランドとして世界にアピールできるよう、積極的に支援に努めていきます。



※保健機能食品とは

 食生活が多様化し、様々な食品が流通する今日、消費者の方が安心して食生活の状況に応じた食品の選択ができるよう、適切な情報提供をすることを目的として平成13年に定められた「保健機能食品制度」で、「保健機能食品」は、国の許可等の有無や食品の目的、機能等の違いによって、「栄養機能食品」と「特定保健用食品」の2つに分類されます。

 前者は、特定の保健の用途に資することを目的とし、健康の維持、増進に役立つ又は適する旨を表示することについて、厚生労働大臣により許可又は承認された食品。後者は、高齢化、食生活の乱れ等により、その人にとって不足しがちな栄養成分の補給、補完に資することを目的とした食品(その食品から1日当たりに摂取することとなる栄養成分の量について一定の基準を満たす場合、その栄養成分の機能に関し一定の表示ができる)。

◆スイス・バーゼル交流セミナー

 9月27日(木)に、スイス・バーゼル交流セミナーが富山市で開催された。
 来県中のバーゼル視察団の役員が、現地のバイオ産業の現状等を紹介し、「富山の医薬品産業はレベルが高く、今後とも連携を進めたい」と県内企業や大学を視察した印象も交えて講演した。
 同セミナーは、県薬業連合会がJETRO地域間交流支援(RIT)事業の一環として実施したもので、県内の医薬品メーカー等から約60名が参加した。


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