会報「商工とやま」平成21年12月号

特集
富山名産「昆布巻かまぼこ」を、地域ブランドとして全国へアピール。


 富山の食卓に、そしてお祝の席に欠かせない「かまぼこ」。しかし、あまりにも身近な食品だけに、その奥深い魅力について、まだまだ知らないことも多いようです。長い歴史のなかで培われた富山独自の味や形。そして、低脂肪、低カロリーで良質な蛋白源が手軽に取れる健康食品としての新たな魅力を、富山県蒲鉾水産加工業協同組合の代表理事組合長の奥井健一氏と、事務局長の青柳茂氏に伺いました。


かまぼこの歴史


 かまぼこの歴史は古く、神功皇后が生田の杜で、旅の道すがら魚の身をすりつぶし、槍の矛先に塗り付けて焼いて食べたのが始まりとされています。その形が植物の蒲の穂に似ていたことから、「蒲穂子・がまほこ」が訛って「かまぼこ」になったと言われ、現在のちくわがその元祖とか。しかし、奥井氏によると、これとは別の説があるとのことです。

 「実は、がまほこの話は、後世の人が作ったものではないかと言われています。『加摩保古・かまほこ』という古い言葉があり、これは魚をすり身にした保存食品という意味で、こちらが本当のルーツではないかと考えられているんです。
 また、平安中期の1115年の文献に、宴会の席に出されているのが記録されていることから、11月15日をかまぼこの日として、様々な活動をしています」


かまぼこの種類


 かまぼこは、全国各地で様々な製法で作られています。富山では、蒸しかまぼこが一般的ですが、他にも、地域ならではの食文化を伝える多彩なかまぼこがあります。

◆蒸す…蒸しかまぼこ、蒸し板かまぼこ、焼板かまぼこ(蒸板かまぼこの表面を焼く)、す巻きなど 
◆焼く…焼抜きかまぼこ、焼ちくわ、笹かまぼこ、伊達巻など 
◆揚げる…揚げかまぼこ(関東ではさつまあげ、関西ではてんぷら、鹿児島ではつけあげなど)
◆ゆでる…はんぺん、なると、つみれ、すじなど 
◆風味かまぼこ…カニ風味のかまぼこなど 
◆ケーシングかまぼこ…魚肉ソーセージなど 


地域ブランドとして、「昆布巻かまぼこ」を認定


 富山県かまぼこ組合(富山県蒲鉾水産加工業(協)))では、「富山名産 昆布巻かまぼこ」を地域ブランドとして広くピーアールしています。昆布巻かまぼこは、魚のすり身の白と、昆布の黒のコントラストも鮮やかな、まさに富山を代表するかまぼこの一つ。江戸時代にさかのぼるという歴史ある昆布巻かまぼこは、長く人々に愛されてきたその伝統と知名度から、昨年、地域団体商標(地域ブランド)に登録されました。

 その認定基準は、必須アミノ酸を5%程度以上含有していることと、「富山の蒲鉾十箇条」を守ることです。全国紙などでも取り上げられて反響も大きく、全国からの問い合わせが相次いだとのこと。特に、都会での昆布巻かまぼこの人気は高く、東京のアンテナショップでの売り上げは、かまぼこの中ではナンバーワンだそうです。


富山らしさを全国へ


 「他県のような板付きのかまぼこではなく、均等に昆布の味がゆきわたるように渦巻き状に巻き上げられ、見た目の楽しさも味わえるよう工夫されているのが富山の昆布巻かまぼこの特徴です」と語る奥井氏。

 北前船で運ばれた北海道の昆布を使った料理は、富山ならではの食文化として様々な形で発展してきましたが、昆布巻かまぼこはそれを代表する名物の一つです。昆布巻は材料の吟味や製造に、実はかなり手間暇がかかるとのことですが、それだけに、富山ならではの独自性が生かされた地域ブランドと言えます。

 「他県のかまぼこの産地にお住まいの方にも、その美味しさや珍しさから、贈答品としてもとても喜ばれています。地元富山の方にも、その良さを再発見していただき、全国にもさらに積極的にアピールしていきたいですね」と、青柳氏も今後の意気込みを語ります。


喜びを分かち合う細工かまぼこ


 富山ではお祝い事や結納、結婚式に欠かせない細工かまぼこ。鯛や鶴・亀などの細工かまぼこを親戚やご近所などにお裾分けして、ともに喜びを分かち合う習慣があります。明治、大正、昭和の初期には結婚式の祝いの膳を、数多くの色鮮やかな「料理かまぼこ」が彩りました。その「料理かまぼこ」が簡略化されて、現在のような籠盛りへと変化していったのです。

 様々な型で形作られ、鮮やかな色彩で絵柄が描かれる細工かまぼこは、まさに職人の腕の見せ所。結婚式の細工かまぼこは、現在もすべてオーダーメイドで、一つひとつ丁寧に、心を込めて仕上げられていきます。満足に細工かまぼこができるまでは10年かかるといわれています。昨今は、婚礼にかまぼこを用意する家庭は減少傾向ですが、富山の伝統の職人技を、永く後世に伝えていきたいものです。


かまぼこ消費ランキングで富山は全国トップクラス


 富山市の1世帯あたりの年間のかまぼこ支出金額は、平成20年の資料では6422円で、全国で、仙台、長崎に次いで第3位となっています。富山県人のかまぼこ好きは、やはり、全国でもトップクラスです。

 「ちくわや揚げかまぼこは、かなり下位なのですが、かまぼこがやはり好まれていますね」と奥井氏。魚肉練製品全体でも、全国で10位の支出額を誇っています。


良質な蛋白源として


 かまぼこの製造方法は江戸時代にはほぼ完成し、その後、あまり変化はありませんでした。一番大きな変化は、昭和40年代に冷凍すり身が登場したこと。その他に、食品添加物の開発、機械化の進展、冷蔵設備や包装技術の発達、流通革命などがあり、昭和50年代には、全国でかまぼこの総生産量が100万tを超えます。良質な蛋白供給源として、かまぼこは国民の食生活に重要な役割を果たしてきたのです。


かまぼこの原料


 明治・大正時代は近海のアジ・カマス・ニギス・ヒラメなどがかまぼこの原料として使用されていました。現在はアメリカで生産されるスケソウダラの冷凍すり身が主流です。

 スケソウダラは、アラスカ湾やロシアのベーリング海、北海道のオホーツク海など、北洋でトロール船で漁獲されて三枚におろされ、皮や筋を取り除き、すり身になります。その他にも、様々な魚のすり身が世界各国から輸入されています。

 日本海でもトビウオやホッケ、シイラなどが取れて、原料として使われています。さらに、富山の特徴を出すために、シイラやトビウオなどの地元の魚を使ったかまぼこも作られています。

 しかし、奥井氏によると、海外でのかまぼこ人気の高まりから、原料が日本に入りづらくなっているそうです。

 「また、地球温暖化の影響からか、海水温が高くなり漁場が北へと移動しています。港から遠くなることで燃料費がかさみ、すり身の価格が高くなっているんです。それが、製品価格に反映できないため、各社は大変苦労しています」


若者にかまぼこを


 平成に入り、子供たちや若者の食生活の多様化や嗜好の変化、さらに孤食、コンビニ食の浸透によって、かまぼこの需要は減ってきています。そこで、県内の各メーカーでは、若者をターゲットにした趣向を凝らした様々な新商品が開発されています。奥井氏は、日本のごはん文化の一つとしてのかまぼこを、もっと若者に広め、食べてもらいたいと考えています。

 「若者にもっとかまぼこの良さを知ってもらい、食べてもらいたいですね。かまぼこには最初から骨もありませんから、学校給食などにも適していると考えています。かまぼこは、まだまだ多様な可能性を持った食品なんですよ」


ヘルシーな健康食品として世界が「SURIMI」に注目


 奥井氏によると、実は海外ではかなり以前から、かまぼこが食べられ人気となっているとか。生魚を食べる習慣のないアメリカやヨーロッパでは、カニ風味の香りと味付けで食べやすいカニカマが大人気とのこと。さらに、鳥インフルエンザや狂牛病などの影響から、肉をやめて魚が食べられるようになったことも人気を後押ししたそうです。1995年頃には、ほとんど日本で作られていたかまぼこが、2005年には、外国での生産量の方が多くなっています。

 「かまぼこは海外では『SURIMI PRODUCT』や『KANI KAMA』と呼ばれ、世界共通の言葉です。アメリカではかつて、イミテーションクラブという名でカニカマが販売されていました。イミテーションという言葉には、日本人が抱く悪いイメージはなかったようなんですが、全国かまぼこ連合会でFDA(アメリカ食品医薬品局) に出向き、呼び名を変えてもらったといういきさつがあります。

 西海岸から東海岸へとカニカマ人気は広まり、カニカマを食べる世代のこ とをカニカマジェネレーションと呼ぶくらいです。やがてヨーロッパにも広がり、カニカマに代表されるSURIMIの生産量は、海外ではいまも、どんどん伸びている状態です」


健康食品として見直されるかまぼこ


 かまぼこは100gで約100キロカロリーと、低脂肪、低カロリー。良質な魚の蛋白質が含まれたヘルシーフードとして、世界での人気が高まっています。

 日本でも研究が進められ、糖尿病、高血圧、大腸がん、活性酸素などへの抑制・改善効果が期待できるとの結果もあります。メタボ改善や生活習慣病の予防・改善に、かまぼこをもっと活用してみてはいかがでしょうか。

 さらに、かまぼこはすでにすり身となっているために、鮮魚などに比べて消化吸収が良く、今後は医療や介護の分野でも期待できそうです。


富山の人にこそ、もっと良さを知ってほしい。


 毎年、全国かまぼこ連合会では全国のかまぼこを集めた品評会を開催し、優れた商品を表彰しています。今年の水産庁長官賞には、県内から5件が選ばれました。長官賞にこれだけの数が県内から選ばれた年は珍しいとのことで、それだけ品質の高い、美味しいかまぼこが県内で作られているという証でもあります。

 富山市内のホテルなどでは、朝食や宴会にかまぼこが使われることは、ほとんど無いといいます。そこで、奥井氏は、県外客が集まるイベントのメイン料理として大きな鯛のかまぼこを出してもらったことがあります。

 「結果は大成功で、その美味しさは皆さんに認めていただきました。この事実を、県内の方にも再認識していただき、富山を代表する地域ブランドとして、全国に広めていけたらと考えています」
 昨今、伝統ある食文化を見直し、現代人に合った、新たな食生活を探る様々な試みが始まっています。皆さんも、今一度、ヘルシーフードであるかまぼこの良さを再認識し、毎日の食卓で、そして贈答に、もっと活用してみませんか。そして、富山ならではの特徴あるお土産として、全国に積極的に広めていきたいものです。



富山県蒲鉾水産加工業協同組合
富山市清水元町4番8号
TEL:076-421-0116
http://www.t-kamaboko.jp/



★必須アミノ酸とは?

 必須アミノ酸とは、たんぱく質を形成しているアミノ酸のうち、人間の体内では合成されず、食物から補う必要があるアミノ酸のこと。主に天然素材に多く含まれており、必須アミノ酸の数値の高さは天然素材の含有量が多いことを表わしています。必須アミノ酸は、鮮魚の使用割合や水の具合で数値が変化します。
 但し、数値が高い程、美味しいとは必ずしも言えないとのことです。

富山の蒲鉾十箇条

一、富山の蒲鉾たる品質を守るための努力を怠らず、その品質については、企業(店)同士の理解を得ることができること。
二、原材料、副材料などすべてを吟味し、富山の蒲鉾の名をけっして辱めないこと。
三、原魚の持ち味を生かして高たんぱくの製品を製造していること。
四、蒸し蒲鉾であること。
五、富山の蒲鉾本来の製法・技法・技術を頑固に守り、将来もそれを尊重する意志を持っていること。
六、富山県に本社(本店)があり、なおかつ経営の拠点が富山県にあること。
七、富山県内に自社(自店)の製造工場を持つこと。富山県以外に製造工場がある場合は、必ず自社(自店)工場であること。
八、富山の蒲鉾業者としての三十年以上の歴史を有し、周囲からも同業者からも広く認知された企業(店)であること。
九、富山の蒲鉾を大切にする信念をもつ経営者が携わる企業(店)であること。
十、富山県蒲鉾水産加工業協同組合の組合員であること。


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