会報「商工とやま」平成21年8・9月号

経営応援コーナー
  第3回 売れない時代に売る戦略のつくり方
   〜戦略をシンプルに考えるキーワードとコツ〜



◇戦略をわかりやすく「構想」する、2つのキーワード

図
 前回、戦略の準備段階である「調査」についてお話しました。今回は、いかに分かり易く構想を検討するか?についてご説明します。

 「SWOT分析」の利用で自社(店)の強みを再確認した次の段階として、その強みをどう活かし、それをどう行動に移すかを考えることが「構想」です。構想の検討というと取っ付きにくいので、戦略をシンプルに構想する2つのキーワードをご紹介します。

 それが、CとT、つまり「コンセプト(concept)」と「ターゲット(target)」です。コンセプトは「商品・サービス」、ターゲットは「お客様」とご理解ください。この2つの整合性、即ちコンセプトがお客様にピタッとハマっているかどうか、それが確認できれば「構想」段階はクリアとなりますが、この整合がうまく行かず、戦略が機能しないケースが実は多いのです。



◇コンセプトとターゲットが整合する。戦略成功のポイントはここにある。


 ビジネスには、製造・販売・購入のプロセスの中で、作る人、販売する人、購入する人が存在します。そこで最も重要なことは、購入する人がいて始めてビジネスが成立するということです。

 「他社にない素晴らしい製品を開発したが、消費者はわかってくれない」、という言葉をよく聞きます。賢明な読者の皆さんはそんなことはないと思いますが、実は非常に多いのが現状です。購入する人はその商品が必要だから購入するわけですが、どんなにコンセプトが秀逸だとしても、製造、販売する側が購入する人に受け入れてもらうためには明確な理由が重要なのです。

図  コンパクトデジタルカメラの市場を例にとってみましょう。画質をキレイにする画素数をコンセプトにした競争が続いていますが、700万画素でも800万画素でも消費者には大差はなく、商品を選択する決め手にはなりません。これは技術が素晴らしくても売れるわけではない典型です。一方では、その画素数の争いから抜け出して、ヒット商品を生み出した企業もあります。コンセプトは「薄さ」。これは、技術を見せつけるのではなく、「ポケットサイズ」を求めるターゲット(消費者)のニーズに技術を適合させることで、市場でも一定のシェアを確保しています。

 地域に密着した企業の事例も紹介します。福井県にある、健康にこだわったごま豆腐を扱う食品会社のケースです。

 品質もよく、コンセプトが優れているにもかかわらず、量販店やスーパーでは厳しい競争に巻き込まれていました。

 そこで強みを「健康」に絞り込み、ターゲットを生協に切り替えることで、CTの整合性を図ったところ、健康志向の顧客に愛され、その後、生協との取引は大きく拡大しました。これは、まさにCとTが整合し成功した好事例です。



◇コツは「T→C」へ。ニーズを反映すれば、整合しやすい。


図  CTの整合のコツは…CからTではなく、TからCへ順番を変えてみるのがポイントです。

 ターゲットの視点からコンセプトを見直すことで、今まで気付かなかった商品の良さが見えてくることがあります。

 例えば、現場の作業員がよく宿泊するビジネス旅館では、お客様が何を求めているかを調査し、「2tトラック駐車無料」「工事現場まで近い」といったコンセプトを打ち出すことで、客室稼働率の大幅アップに成功しています。ビジネス書などで紹介される「顧客志向」と同じ考え方で、逆転の発想といえるでしょう。ターゲットからコンセプトを考える。矢印の向きを変えるだけで、これまでにない「構想」を得た事例も多く生まれています。



当所地域力連携拠点事業の専門家/石橋孝史氏((株)ヒューマンサポート/取締役)に執筆のご協力をいただいています。

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