会報「商工とやま」平成22年4月号

特集
 平成21年度富山市ヤングカンパニー大賞発表
 富山発、価値ある技術提案で、世界と企業をつなぐ。
 グランプリ大賞受賞「株式会社リンク大洋」の提案力


 富山商工会議所では、新分野へのチャレンジや全く新しい発想・技術で頑張っているT創業間もない企業Uを顕彰し応援する「富山市ヤングカンパニー大賞」を平成13年度から実施しています。9回目を迎えた今回は、商工会地区も含めた富山市全域から9社の応募があり、審査の結果、グランプリ大賞には株式会社リンク大洋、奨励賞には日本エレテックス株式会社、審査委員長特別賞には有限会社山勝の各社が選ばれ、1月26日に当所で表彰式が行われました。

 ヤングカンパニー大賞の審査基準として、1つ目には、今後とも企業の成長発展が見込まれること。2つ目には、新しい発想や技術への取組み等、経営革新に積極的と認められること、または、将来的に雇用機会の増大に期待が持てると判断されるという、これら2つの要件に該当する企業であることが求められます。

 今回は、グランプリ大賞に選ばれた、株式会社リンク大洋代表取締役社長の荒川公一氏に、同社の取組みについてお話を伺いました。


大洋グループのメリットを生かす


 株式会社リンク大洋は平成16年に、香港に本社を置くシリコンラバー・プラスチック成形品の大手メーカーである、大洋集団有限公司の日本支社として設立。現社長の荒川氏は同社の2代目社長です。荒川氏は前職では富山市内の電子部品メーカーに勤務し、製造技術や設計・試作品製作に携わっていました。その時に大洋グループとの取引があったことから、前社長に大洋との提携をアドバイスしていました。しかし、前社長は会社設立からまもなく、家庭の事情により経営から退くことに。そこで急遽、荒川氏がメーカーを退職し、平成17年から自らリンク大洋の経営に携わることになりました。

 「以前、勤めていた企業では、中国、韓国、台湾、マレーシア、フィリピンなど、さまざまな国のメーカーとの取引がありました。その経験から、世界規模の企業体力があり、品質が良く、日本の大手メーカーとの取引がある安定した企業として、提携先は大洋がいいのではないかと前社長に提案したのです。大洋は当時、日本に拠点を持っていなかったため、大洋にとっても大きなメリットがあると考えました。設立にあたって大洋から出資を受けることができ、同社を主な仕入れ先、製造委託先とする商社としてスタートしたのです。その後、思いがけず自分が経営者となりましたが、当初想定していた通り、大洋グループのメリットを生かした技術提案でお客様に好評をいただいています」


スピーディーな技術提案で、大手メーカーの信頼を獲得


 社名のリンク大洋は、親会社である大洋とリンクするという意味とともに、同社の製品や技術を通じて世界と企業をリンクするという意味が込められています。荒川社長は、世界各地に拠点をもつ大洋グループという大きなバックグラウンドを得て、自身の得意分野である、携帯電話やカーオーディオなどのシリコンラバー製品の開発に取組んでいます。

 現在リンク大洋のスタッフは8名。ものづくりに精通したスタッフによる柔軟でスピーディーな技術提案力で、次々と日本の大手メーカーとの取引を成功させ、業界での信頼を獲得しています。同社では、全世界の大洋グループ共通のビジネス環境認識に基づいて、高い顧客満足度を目指しています。

 「第一に、価値ある技術提案が当社の一番の強みです。そして、高いクオリティ、国際競争力のあるコスト、納期への対応、環境への配慮など、いかにお客様に満足していただくか、大洋グループが一丸となって取組んでいます」


インパクトのある技術提案型営業を


 リンク大洋では、日本のメーカーと直接打ち合わせをして基本設計を考え、試作品製作や生産は中国の大洋で行うのが営業スタイルとなっています。荒川社長をはじめとする技術スタッフが、直接、日本のメーカーの担当者に試作品を持って出向き、綿密にしかもスピーディーに、顧客がストレスを感じないように対応できるのが大きなポイントとなっています。

 「お客様との打ち合わせには、必ず『もの』を持っていくのが当社のやり方です。いまでは3Dソフトなどで、パソコンの画面上ではどんなこともできます。しかし、本当に動作するかは、実物でないとわかりません。営業力というよりも、やはり圧倒的な技術提案力が大切ですね。ものづくりの技術、速さ、そして価格競争力が当社の強みであり、それが、お客様に選ばれる理由なのだと思います」

 新規開拓の営業に出向くときも、これまでに製品化したサンプルファイルを用意し、紙では伝わらない、インパクトのある営業を心掛けていると語る荒川社長。実物を見せて五感に訴える技術提案で、顧客に強い印象を残す工夫をしているそうです。


わずか2週間で試作品を提案


 リンク大洋の独自の経営スタイルと優れた技術提案力について、いくつかの事例をご紹介します。

 「セイコーエプソン社のプリンター開発では、シルバー世代のユーザーを意識した、直径32ミリという、これまでにない大きな操作ボタンの開発依頼を受けました。もちろん、コストも安価でという条件付きでした」

 この難しい課題にもかかわらず、リンク大洋では、依頼を受けてからわずか2週間で、最初の試作品を提案。その後、改良を重ねて製品化に成功し、見事受注を獲得し、日本と中国の両国での特許も取得しました。

 「これほどボタンが大きくなると、どこを押してもまっすぐに押せる製品を安く作るというのはかなり難しいことでした。依頼を受けてから1週間はアイデアが浮かばず、中国に到着して、いよいよ試作品に取りかからなければいけないというその前日の夜でした。ホテルで何も映っていないテレビ画面に映る自分をスイッチに見立てて、頭や肩を押しながらその仕組みを考えていたときに、ひらめいたんです」と開発エピソードをユーモアたっぷりに語る荒川社長。

 ボタンの中に、ペットボトルの底のようなドーム型のラバーをつけることによって、大きなボタンのどこを押してもまっすぐに押すことができるようになり確実な動作性を実現。この「へそ」と呼ばれるラバーの荷重調整によって、押した時のフィーリングも良くなるよう工夫されています。リンク大洋のこの技術が採用されたプリンターはヒット商品となり、同社の技術力と開発スピードの速さが、成功の一助となりました。


将来は完成品の製造へ


 また、電子楽器を製造、販売しているコルグ社からは、電子ピアノ基盤において、スタインウェイ社のピアノと同等の操作感触の実現や、安定した入力性能を実現したいとの開発依頼を受け、実現に成功。課題のラバー以外にも、回路基盤の改善も提案し、この技術でも日本と中国での特許を取得しています。
 この他にも、携帯電話、電子計算機、電子辞書、ウルトラモバイルPC、ノートブックやデスクトップのキーボード、リモコン、コードレス電話など、さまざまな機器のラバー製品の開発を手掛けています。

 また、富士通テンからの提案依頼では、トヨタレクサスにふさわしい高級感のあるカーナビ、オーディオ操作パネルスイッチのフィーリングの実現に成功しています。

 将来はこれらの部品だけでなく、完成品までを手掛けるようになりたいとのこと。リンク大洋の技術力に信頼を寄せる企業から、すでに単体の部品以外の製造注文もあり、徐々にその可能性を広げています。


今後は、地元富山の企業との取引を


 これまで、東京の大手メーカー等との取引を主としてきたリンク大洋。「富山での拡販が今年のテーマ」と荒川社長が語る通り、今回の受賞を機に、地元富山の企業とも、ぜひ取引をしていきたいとのことです。さらに、お客様のニーズをしっかりくみ取ることができる営業センスを兼ね備えた、マルチな技術スタッフを求めているそうです。

 「全部仕事で、全部遊び」と、製品開発にかける熱い思いを語る荒川社長。スピーディーできめ細かなサービスを武器に、確かな技術提案力を持った企業として、同社のさらなる成長と発展に期待が寄せられています。


自社のステップアップに、ぜひ活用を


 来年度には10回目となるヤングカンパニー大賞。応募条件は、原則として、創業後3〜10年程度経過した個人・法人企業であること(※経営多角化・事業転換等による第二創業後、概ね5年以内の方を含む)。本社所在地が富山市内の中小企業であることなどがあります。参加企業は、平成22年度に開催される当所の会員ビジネス交流会(年3〜4回開催)へ無料で参加でき、そのうち1回は参加企業の前で自社のPRをすることができます。さらに、受賞された企業は、当所会報やマスコミで受賞結果を発表する他、当所ホームページに受賞記事と企業紹介を1年間無料で掲載します。

 例年、8月から9月に参加企業を募集していますので、自社のPRや、さらなるステップアップの足掛かりとして、ぜひご応募下さい。



【加藤喬士審査委員長の講評】
 今年度の富山市ヤングカンパニー大賞への応募企業の印象は、小売・卸売業・製造業などの業種カテゴリーを越えた、あるいは跨った企業の応募が多くなっている点や海外進出を視野に入れた企業が多くなったということです。
 グランプリ大賞を受賞された(株)リンク大洋さんは、まさに今年度のトレンドを代表する企業であると思います。
 (株)リンク大洋さんが大賞に選ばれた理由は大きく3つあります。1つは、ワールドワイドの視点に立つ意欲的な事業連携を築いたこと。2つ目は、大手メーカー製品への積極的な技術提案力の実績。3つ目は財務の健全性・安定性です。特に大手メーカーとの積極的な提携や商品・技術の高い開発力、社員や社長の熱意等が高く評価されました。
 今後は、一層の財務体質の強化に努められ、富山を代表する企業に成長される事を祈念しています。


株式会社リンク大洋   八尾町薄島65-8
TEL:076-455-0471 FAX:076-455-0810
URL:http://link-ty.co.jp/

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