会報「商工とやま」平成22年6月号

特集1
 野菜と果物で21世紀の日本を救いたい
 富山青果物商業協同組合の取り組み



 日本人の食生活は大きく変わり、特に若い世代で、野菜離れ、果物離れが進んでいると言われています。ビタミンや食物繊維などが豊富な、新鮮な野菜や果物を毎日食べることは健康な体をつくるために不可欠であり、生活習慣病の予防や改善にもつながります。

 今回は、富山八百屋塾などを通して、市場関係者はもちろん、一般消費者に野菜と果物の良さを伝え、消費拡大と意識改革につなげようと取り組む富山青果物商業協同組合の小川健一理事長と、同組合常務理事で富山八百屋塾塾長の島林寛氏にお話を伺いました。


富山八百屋塾開催のきっかけ


 富山八百屋塾は、「野菜と果物が21世紀の日本を救う」というテーマのもと、富山青果物商業協同組合青年部が中心となって平成16年からスタートしました。青果店や市場関係者はもちろんのこと、一般消費者も参加して、共に学ぶ勉強会として話題となっています。現在は、富山中央卸売市場のジャンボせり台で、月1回、月末の土曜日、朝7時から八百屋塾が行われています。開催のきっかけについて、島林氏は次のように語ります。

 「以前から、組合では各地域で料理教室を開催するなどの活動を行い、地域の人達にも好評でした。しかし、八百屋塾を始めた直接のきっかけは、第1に、組合員の数が減ってきていることです。30年前には、360名の組合員数でしたが、現在は、127名になっています。組合員が皆で勉強することで、野菜と果物の消費拡大につなげたいという思いがありました。

 そして、もう1つは、香川短期大学名誉学長の北川博敏先生のレポートを読んだことです。北川先生によると、高松市教育委員会が市内の小学4年生の健康診断を実施したところ、2570人の受診者に対して高脂血症22%、肝臓障害10%、肥満13%、高血圧2%となり、何らかの異常のある子供は全体の29%にものぼるという結果が出たのです(平成15年調査)。約3割の子供がすでに生活習慣病ということは、子供のうちは元気に過ごせるとしても、20年後、30年後には日本は大変なことになってしまう、と先生は警鐘を鳴らしています。これは、高松だけでなく全国的な傾向として、富山にもあてはまるのではないかと考えました。調べてみると富山には残念ながらデータはなかったのですが、もし同じ傾向にあるならば、脂肪を摂りすぎている現代の食生活を見直し、野菜と果物をもっと食べて健康になってほしい。日々、野菜と果物を取り扱う私たちだからこそ、将来の日本のために何かしなければ、という強い思いから始めたのです」


野菜ソムリエの関心を集めて


 八百屋塾には、組合員以外にも、早朝にもかかわらず、一般参加者として野菜ソムリエなどを中心に、毎回、熱心な女性参加者が多く集まっています。これは、北陸農政局富山事務所の「食育ネット」からのメール案内等によって、様々な分野の方に参加を呼びかけたためとか。また、活動の詳細は富山八百屋塾のブログでも紹介されています。

 月毎に、旬の野菜や果物などのテーマが設けられ、最新の市場概況や、多彩な品種、美味しい食べ方、栄養等について、市場の荷受け担当者が講師となり、話をして下さいます。また、塾の終わりには、試食でその美味しさを実際に味わうことができ、お土産として、試食した野菜や果物が用意されています。しかも、受講料は無料とあって、その評判は口コミで広がっています。最近は新聞で紹介されたこともあり、問い合わせもさらに増え、ますます人気が高まってきているそうです。

 「塾に参加した野菜ソムリエの皆さんは、八百屋塾の様子をブログに書いて下さり、広く情報発信していただけるということで、私たちも歓迎しています。熱心な方が来て下さることで、市場関係者もいい刺激を受けています。私たちも教える立場として、さらに幅広く深い知識と情報を身につけることが必要となりますから、お互いに学び合える、良い相乗効果が生まれているのではないでしょうか」


今後は地域での開催も


 朝7時に開催される理由は、市場の競りが終わり、仕事が一段落したところで関係者が集まりやすい時間だからとのこと。ただし、次の仕事までの間の、約1時間という限られた時間のため、まだまだ伝えきれない部分も多いとか。

 「今後は、地域のコミュニティセンターなどで開催し、ゆとりある時間の中で、お話をしていくことも検討しています」

 これまでは組合の青年部で開催していた事業ですが、今後は組合の事業として拡大し、地域の皆さんにより近い場所で、野菜や果物の良さ、大切さを伝える活動を広げていきたいと語る両氏。今後の展開に期待が高まります。


一箱4000円のトマト


 3月27日に行われた八百屋塾では、天候不順の影響で高値が続く4月の野菜概況の説明からはじまり、トマトと輸入フルーツをテーマに、様々な品種の紹介や栄養価について説明が行われました。実は日本でもっとも食べられている野菜はトマトだそうです。

 そして、最近人気のフルーツトマトですが、糖度が10度から12度もある、高糖度の「匠」や「ロッソ」など、果物屋さんなどで化粧箱入りで一箱4000円で売られている高級トマトも紹介されました。

 さらに、輸入フルーツの紹介では、オレンジ、バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、パイナップル、アボガド、マンゴーなどの品種や栄養価、食べ方などの説明が行われました。


果物は生で食べてほしい


 バレンシアオレンジは、100%果汁として加工されたものが一般によく売られていますが、濃縮還元ジュースでは、食物繊維などは加工の段階で取り除かれてしまうため、体にとっていい部分は少なくなっていることに触れ、ぜひ、生で果物を食べて欲しいと島林氏は訴えていました。

 その他、グレープフルーツの効能や、パイナップルに多く含まれるビタミンB1や食物繊維、消化吸収を良くするタンパク質分解酵素などについても紹介。また、森のバターと言われるアボカドは、ビタミンA・Bが豊富で脂肪含有率が高いことなどの説明も行われました。

 「新しい果物や野菜などは毎年たくさん生産されていて、品種も年々変化しています。そのような最新の情報も、組合員も含めて、もっと知ってもらいたいですね」


ファイトケミカルとは


 島林氏は、日頃から独自に勉強を重ね、県内ではまだ数少ない、食の検定の2級を取得。産地や食べ方、栄養価についても詳しく解説して下さいます。

 「ファイトケミカルという言葉をご存じでしょうか。植物栄養素という意味で、野菜や果物の色や香り、苦味成分などのことです。実際は1万種くらいあるらしいのですが、解明されているのはまだ1000種類くらいです。一例をあげると、ブドウやブルーベリーなどの紫の成分のアントシアニンや緑茶のカテキン、赤ワインのタンニン、ニンジン・カボチャのベータカロチンや、トマトのリコピン、そしてポリフェノールなどがあります」

 いま話題のものばかりですが、サプリメントなどで摂取するよりも、果物や野菜を通して自然に体に取り込むのがいいと話す島林氏。

 「特に果物は熱の影響も受けず、生で食べることができるのでお勧めです。まだまだ果物には未知の可能性があるのではないかと考えています」


日本の野菜や果物の消費量は世界的にみても少ない


 果物の消費量について1970年と2000年を比較すると、イタリアをはじめ各国では増加が見られるのに対して、日本は1970年からほぼ、50L代で推移しています。

 また、日本の野菜の消費量も年々減少し、2000年にはヨーロッパやアメリカ、韓国などと比べて少なくなってしまいました。アメリカでは、がん予防を主な目的に「5 a day(ファイブ・ア・デイ)プログラム」という官民一体となった運動が1991年から始まりました。これは、1日5皿分以上の野菜(1皿の目安は70g)と200gの果物を食べることを目標にしています。その結果、野菜や果物の摂取量が増え、生活習慣病での死亡率が減少傾向になるなど、この運動の成果が広がっています。

 ところが、日本でもこの取り組みは行われていますが、確かな成果にはつながっていないようです。日本では果物は「嗜好品」として捉えられ、消費は少ないのですが、例えば子供のおやつも、スナック菓子ではなく果物にすることで、自然で質のいい栄養や食物繊維を摂取することができます。まずは、大人の意識を変えていくことが大切なのかもしれません。


富山市全域の学校給食を支えて


 その他の組合の事業としては、組合員の取扱品の共同仕入れ、荷受け・仲卸間の買付け代金の代払事業、学校給食への納入事業、お米の取扱い事業、組合員の事業に関する経営や技術の改善向上、知識の普及をはかるための教育や情報の提供、そして、福利厚生などの事業があります。

 なかでも、富山市の小・中学校の学校給食への一括納入事業は、大きな柱です。約3万7000食分の富山市全域の学校給食に使われる野菜・果物を、毎日、安定供給するという重要な役割を担っています。島林氏は組合の学校給食委員長として、財団法人富山市学校給食会が毎月開催する給食懇談会で司会進行を務め、富山中央青果株式会社とともに、青果物資の価格、産地、数量、品質などの検討にあたっています。

 「安全・安心で新鮮な野菜、果物を子供たちに届けるため、地域の組合員が毎日配送にあたっています。ボランティア的な色彩も濃い仕事ですが、地域のため、子供達のために皆が協力して頑張っています」

 子供達に地域の特産品を認識してもらう意味でも、最近は富山県産のものを使いたいという強い要望がありますが、県内産だけでは数量が揃わないため、地区ごとに日にちをずらすなどの工夫をしています。

 また、昨年末から今年始めにかけては、新型インフルエンザの大流行によって、休校が相次ぎ、直前に納入のキャンセルが続出。そこで、前日のギリギリの時間まで発注を待ってから注文をしたり、通常は朝4時から始める作業を、夜中の1時からに繰り上げたりして、何とかこの大変な時期を乗り切ったそうです。

 子供達の成長を、陰で支えて下さる皆さんに感謝したいものです。


広い視点から安心・安全な野菜を


■平成18年度食料自給率(カロリーベース)(%)
 自給率米を除く自給率野菜果実牛乳魚介油脂
富山761328316712092107537
全国3922947225763571028594
(資料:北陸農政局試算)

 富山県の食料自給率は76%ですが、実は、米が280%くらいあり、その数値を上げています。富山県の野菜の自給率はわずか20%で、富山県の野菜栽培量は全国最下位です。一方、日本の食料自給率は39%ですが、野菜だけでは80%近くあります。

 「野菜や果物について学ぶときは、表面だけをなぞるのではなく、より広い視点から、角度を変えて学んでいくことが大事だと思います。地産地消についても、農薬の管理など、個人では難しいことがあることも一般の方にもっと認識していただき、市場を通して取り扱う野菜や果物の安全性について、広く知っていただけるといいですね」と島林氏は強調します。


組合の歴史


 昭和32年に設立された富山青果物商業協同組合は、昭和48年には中央卸売市場に入場し、平成19年に創立50周年を迎えました。現在の組合員、賛助会員、準組合員の合計は132名。5つの支部に分かれて、地域での活動を行っています。組合員は富山市を中心に県内一円に広がり、高山市、飛騨市、珠洲市からも仕入れに来ている方もいるそうです。

 規制緩和や流通形態の大きな変化、人口減少、少子高齢化などの社会変化を背景に、食の多様化、グローバル化がますます進んでいます。また、一方では食の安全・安心への関心も一層高まっています。そんな中、残念ながら組合員数は減少してきています。

 しかし、小川理事長は、今後は、こんな時代だからこそ地域の小売店の良さが再び見直される時代がきっと来ると語ります。

 「もっと、対面販売の良さを生かしていくこと。その地域、その店にしかないオリジナルなサービスを提供していくことが大切ですね。そこにしかない良さがあれば、お客様は最寄りの店に必ず来て下さいます」


食を通じて、社会に貢献


 「私たちは、野菜と果物という命にかかわる食材を扱っていますが、いかに大切な商品を扱っているかということを常に意識しています。また、仕事を通じて社会に貢献できることが仕事のやりがいや、生きがいにつながっています」

 農業は、生命産業として命に直接かかわる仕事であり、毎日の食べ物が体をつくっていくと語るお二人。昨今、食の安全・安心について様々な情報が行き交っていますが、知っているようで本当は知らない野菜や果物についての正確な情報を、私たち自身が学び、広い視野に立って、毎日の食について見直すことが必要な時代なのかもしれません。

 興味のある方は、ぜひ、富山八百屋塾に参加してみませんか。


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