会報「商工とやま」平成22年12月号

特別寄稿
当所フランス産業経済視察報告
観光・コンベンション大国Uに学ぶ 〜景観を維持し、環境に配慮した、個性を活かすまちづくり〜

 当所は、平成22年9月27日から9日間、フランス産業経済視察団(団長/犬島伸一郎当所会頭)を派遣し、フランスの隣国モナコを含めて南仏のコートダジュール(ニース、カンヌ)およびプロヴァンス(アルル、アヴィニョン)、そして首都パリの各都市を訪れ、中心市街地の活性化や世界遺産を活用した観光振興、地球温暖化を意識した交通政策・都市政策への取り組みなどについて、その実際に触れながら理解を深め10月5日に帰国した。


ニース、モナコ(9/27・28)


◎景観への配慮から生まれたハイブリッドトラム


 フランスでは地下鉄のある大都市をはじめ、特に地方の中核都市でトラム(路面電車)の導入が進んでいる。そのなかでコートダジュールの中心都市で人口が約35万人のニースでは、2007年11月24日に開通した。パーク&ライドが徹底され、街なかに車の乗り入れができない仕組みになっており、交通渋滞の解消につなげている。

 そこで、我々もトラムに乗車してみた。運行間隔は3〜5分で待ち時間も苦にならない。平日にもかかわらず、乗車率はかなり高い。街の北部から中心街を通って東部までの約8・7Hの区間に電停が21か所設置されていて、バスへの乗り継ぎや駐車料金に便宜が図られている。チケットは1枚1ユーロ(約115円)。

 また、街並みとの調和を図るためトラムの架線をなくし、バッテリーに蓄えた電気で走るハイブリッドトラムを採用しているのも大きな特徴である。街の中心部以外は架線から電気をもらって走るものの、マセナ広場やガリバルディ広場にさしかかると運転手はパンタグラフをたたみ、架線のない区間はバッテリーで走る。こんなところにもニース市民の景観保全への意識の高さが感じられる。

 なお、プロムナード・デ・ザングレはニースの海岸に沿って走る全長約3・5Hの大通りで、美しい海岸線が続く観光地。ここに隣接してトラム2号線が2016年に建設される予定である。


◎優遇税制やMICEで世界中のセレブを集める小国、モナコ


 フランスの隣国モナコ(公国)は人口が約3万2千人で、バチカン市国に次ぐ小国でありながら、世界中から企業家や資産家が集まってくることで有名である。その理由の一つにはモナコの優遇税制にある。付加価値税はあるものの、所得税、住民税、不動産取得税や固定資産税がなく、相続税も直系親族間にはかからないことなどが、セレブたちの支持を集める大きな要因となっている。

 また、モナコが新たに力を入れているのがMICE(マイス)である。MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等が行う報奨・研修 旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、イベント、展示会・見本市(Event/Exhibition)の頭文字からなる造語で、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称。MICEに欠かせない温暖な気候と充実した施設、洗練されたホスピタリティーを備えたモナコは、治安の良さでも世界トップレベルを誇っている。確かに街の至るところに監視カメラが設置され、真偽のほどは定かでないが、トラブルが発生するとわずか数分で警官が飛んでくるといわれるほどである。国際的な自動車レースとして知られるモナコグランプリをはじめ、コンベンション誘致や誘客に向けた取り組みにも意欲的である。

 日本でも2010年を「Japan MICE Year」(MICE元年)として、MICEの開催適地であることを集中・積極的に海外に向けてアピールしている。


カンヌ(9/29)


◎国際コンベンション都市に変貌したカンヌ


 人口約7万人のカンヌは現在、フランス第二の国際都市へと躍進を遂げた。毎年5月に開催されるカンヌ国際映画祭がきっかけとなり、どこにでもあるような港町が大きく変貌した。ベルリン、ヴェネチアと併せ、世界三大映画祭として一躍世界中に名前を知られるようになった。その舞台となる建物が、市のメインストリートにあるパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレである。

 現在はシーズンオフがないといわれるくらい、年間を通していろいろなイベントが開催されるなど、国際コンベンション都市として世界中から多くの人々が集まってくる。


アルル、アヴィニョン(9/30)


◎世界遺産の宝庫といわれるプロヴァンス


 アルル、アヴィニョンに代表されるプロヴァンスは、まさしく世界遺産の宝庫である。町中が世界遺産といっても過言ではない。

 最初に訪れたアルルは画家のゴッホが愛した町として知られ、特に1970年以降はゴッホを観光資源として活用したまちづくりを進めてきた。

 アヴィニョンはフランス南部、ローヌ川のほとりに開けた町で、14世紀に70年間にわたって教皇庁が置かれ、カトリック世界の中心として栄えたところ。城壁に囲まれた旧市街の歴史地区は歴史的建造物の保全に力が注がれている。約3千もの建物が一つひとつ屋根、ファサード、窓、使われている石の種類・色、樹木1本に至るまで市に登録され、現状を変更するときも所有者の自由にはできず、所定の手続きが必要となる。まさに田舎風景のなかに形成された城郭都市である。


パリ(10/1〜3)


◎フランスのバックボーンとブランド戦略


 アヴィニョンから最後の訪問地であるパリへの移動手段には、フランスが誇る超高速列車(新幹線)TGVを利用した。

 ノートルダム寺院、エッフェル塔などを車窓から見学した後、ジェトロ・パリセンターを訪問。次長の田熊清明氏からフランスの経済動向等について説明を聴き、質疑応答や意見交換をして情報収集した。主な内容は以下のとおり。
・フランスは食料自給率が100%を超え、さらに国の消費エネルギーの約75%を原子力発電で賄い、そして軍事力を持つ。この3本柱がバックボーンにあることで国の自立や自信につながっている。また、デラックス商品といわれているブランド商品の開発などを含めて国全体のブランド力を上げるために官民の強力な連携体制が戦略的につくられている。

・実質GDP成長率は2008年が0・2%、2009年が△2・6%、2010年の見通しが1・4%で推移しているが、サブプライムローンの影響は軽微であった。一方、失業率は9・9%(2009年、2010年見通し)、約1割と高く、特に若者や地方での失業率は20〜30%にも及ぶとみられ早期の対応策が求められている。

・国の財政赤字が膨らむなかで政府は「年金制度改革案」を公表し、年金額の減額や支給年齢の先延ばしが検討されているが、労働者のストライキやデモといった反対運動が活発化してきている。

◎市民の足として定着したベリブ


 ところで、パリといえば、今年3月に富山市でスタートした「シクロシティ富山」の発祥の地でもある。パリでは交通渋滞の緩和、二酸化炭素(CO2)削減による地球温暖化の抑制などを目的に、2007年7月からセルフサービスの自転車共同利用システム「ベリブ」が導入された。「ベリブ」とは、フランス語で自転車を意味する「ベロー」と、自由を意味する「リベルテ」を組み合わせた造語である。

 フランスの各都市に波及したベリブは、特にパリでは市民の足として定着している様子がうかがえる。利用料を抑え、好きなときに好きな場所で借りることができるというシステムに加え、利用手続きの手軽さがうけているのだろう。「シクロシティ富山」はこのベリブ型のシステムを日本で初めて導入したもので、富山市においては一層の利用率アップに向けた取り組みが求められる。

 以上で1週間余りに及ぶ視察の日程をすべて終え、帰国の途についた。


◎先進事例を今後のまちづくりに活かして


 今回の視察ではフランスの隣国モナコを含め、南仏を中心にフランスの各都市を訪ねた。どの都市も個性はさまざまであるが、画一的ではなく、それぞれの個性を活かしたまちづくりの手法がとられているのは、いかにもフランスらしいと感じた。また、新しいものも積極的に受け入れると同時に、古いものも大切に残すのがフランス人の美意識だといわれる。景観を維持しつつ環境にも配慮するという姿勢は我々日本人も大いに見習うところがあると実感した。

 自然環境が比較的穏やかなフランスはヨーロッパの中心に位置するため交通アクセスが容易で、しかも豊かな観光資源を有することから受け入れ観光客数は世界第1位を誇っている。たとえば、パリでの最終日に訪れた世界遺産のヴェルサイユ宮殿。ここを訪れる人は年間900万人にも達するという。富山県が誇る立山黒部アルペンルートの入り込み数と比べても、いかに多いかがわかる。しかも、その地位に安住せず、さらに観光資源の潜在力を高めようと観光行政にも力を注いでいる。一言でいうと、確立されたT観光・コンベンション大国Uといった印象を受けた。

 今回視察した事例をそのまま現在の富山市に当てはめることはできないにしても、実行可能なヒントはいくつか得られたと思う。これらを富山のまちづくりに活かしていきたい。


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