会報「商工とやま」平成23年11月号

特集1 富山から、本物の舞台芸術を発信し続けていきたい
             財団法人富山市民文化事業団の取り組み


 オーバード・ホールを拠点に、世界や日本の一流アーティストを招聘し、県内外の皆さんに質の高い舞台芸術を提供している(財)富山市民文化事業団。この春、自主事業として制作される富山発のオリジナル・プロダクションによる本格的ブロードウェイ・ミュージカル『回転木馬』が、いよいよ3月25日から3日間にわたって上演されます。

 今回は、全国的に見ても高い評価を得ている同事業団の取り組みについて、同事業団の常務理事でオーバード・ホール館長の菊川順良氏、同プロデューサーの奈木隆氏にお話を伺いました。


年間18万人以上を集客


 富山市芸術文化ホール・愛称「オーバード・ホール」は昭和29年に建設され、老朽化していた「富山市公会堂」の後継施設として、また「国民文化祭とやま96」の主会場として平成8年に富山駅北にオープンしました。

 オーバード・ホールは地域の芸術文化の一層の飛躍を図るための施設として、富山市公会堂では対応しきれなかった、多機能な舞台転換ができる機構や十分な舞台スペース、優れた音響・照明機能を備えた施設として建設。「とやま都市MIRAI計画」に基づき調和と品格のある都市機能を集約する富山駅北地区で、賑わいを創出する文化施設を目指しています。

 2200席の客席数は県内最大で、3面半舞台は、オープン時から大きな話題となりました。国内外のオペラ、バレエ、ミュージカル、演劇、クラッシックやロックコンサート、その他、式典、講演、国際会議など、芸術性の高い舞台はもちろん、幅広いジャンルで数多くのステージやイベントなどが開催されているほか、市民参加によるミュージカルやオペラの創造・発表の場としても活用されています。開館以来の延べ利用者数は270万人以上(平成21年度まで累計)。不況下にあっても、年間18万人以上の集客を誇り、多くの方々に親しまれています。


優れた舞台技術スタッフ


 オーバード・ホールの運営にあたっている(財)富山市民文化事業団は、富山市により昭和57年に設立され、オーバード・ホールの開館に合わせて組織が強化されて以降、芸術文化の振興のために多くの自主事業を開催してきました。貸し館としても幅広く利用されていますが、オーバード・ホールの人気の理由はどこにあるのでしょうか。

 「一度オーバード・ホールを使うと、また使いたいと言われるアーティストがとても多いんですよ。設備面でのメリットに加え、スタッフが高い評価を得ているのがその理由です。優れたスタッフと共に仕事ができるということは、大きな誇りであり、本当にうれしいものです」と話す菊川館長。

 2年前からプロデューサーを務める奈木氏も、名実ともに日本屈指の劇場だと語ります。

 「オーバード・ホールは舞台機構が充実しているだけでなく、舞台技術のスタッフが本当に優秀です。照明・音響・舞台のプロが集まっていますから、世界のどんなハイレベルな集団が来ても、すぐに対応できるのが強みですね」


もっといい舞台、いい作品を


 オーバード・ホールがプロデューサー制を採用して以来、奈木氏は全国公募で選ばれた2代目のプロデューサーです。奈木氏は俳優として「安部公房スタジオ」作品や商業演劇などに出演し、東京ディズニーランドのオープニングキャスト、サンリオピューロランドのショー制作課長、宮崎のシーガイア・オーシャンドーム、トヨタ自動車出資の「ラグーナ蒲郡/ラグナシア」のエンターテイメント組織の立ち上げなどに携わり、ミュージカル・演劇の企画制作や舞台運営、そしてプロデューサーとして幅広く活動してきました。奈木プロデューサーが考える、これからの公共ホールのあり方、目指すべき方向性とはどんなものなのでしょうか。

 「いまはテレビやインターネット、ゲームなどが気軽に楽しめる時代になり、演劇などの舞台芸術が衰退して、なかなかスマッシュヒットが出ない時代です。本当に素晴らしいものと、そうでないものとを見極める眼力もどこか弱くなってきている。そんな時代だからこそ、いい舞台、芸術性の高いものを発信し観客数を増やしていきたい。芸術性とコストバランスの両面で、公共ホールがやるべきことを考えていきたいですね」

 奈木氏が考える「いいもの」とは、嘘ではないもの。知名度ではなく、作品の持つ力が確かにあるかどうかということ。

 「公共ホールは日本の文化創造において、非常に高いレベルで貢献しています。文化庁ではいま、劇場や公共ホールのあり方について、新たな方針を打ち出そうとしているところです。オーバード・ホールの実績は全国的にも高く評価され、一目置かれている存在です。ぜひ私たちも、公共ホールとしての今後のあり方を、国の検討の場でも提言していきたいと考えています」


全国に先駆けたプロデューサー制


 国が公共ホールでの芸術監督制やプロデューサー制を推進しようとするなかで、オーバード・ホールはオープンした当初から、全国に先駆けて芸術監督制・プロデューサー制を取り入れてきました。特に自主事業の制作・運営はプロデューサー無しでは不可能で、制作のすべてに関わるのがプロデューサーの役割だといいます。

 「劇場にはどうしても必要な人材があり、まずは劇場を司る館長。それから芸術監督もしくはプロデューサー、そして技術監督です。この3者が一体になって、それを支えるスタッフの協力もあってはじめて、いい劇場が運営されていくのです。私たちも、この体制でさらに完成度の高いものを目指していきたい」と奈木氏は語ります。


充実した練習専用施設


 菊川館長によるとオーバード・ホールのもう一つのメリットとして、呉羽にある富山市民芸術創造センターとセットであることがあげられるとか。同センターは練習専用の施設で、事業団で管理しています。特にリハーサル室、舞台稽古場は本番のオーバード・ホールと同様の環境で、音響・照明設備なども備えています。

 奈木氏も、日本一の施設で、世界でもトップクラスだと言います。

 「劇場を作ってもリハーサル室の少ないところが多いなかで、呉羽には40以上の練習室があります。いつかはオーバードで発表したいという予備軍もたくさん稽古しておられますし、プロにとっても利用しやすい環境ですね」


富山発の『回転木馬』上演間近


 3月に上演される『回転木馬』はアメリカのミュージカルの黄金時代につくられ、1945年にブロードウェイで大ヒットした作品。明治維新以降に入ってきた西洋文化ですが、いまこそ本当の意味で西洋の文化を理解し、私たちの文化として咀嚼して、表現できる土壌ができたのではないかと語る奈木氏。

 「これほど贅沢なミュージカルづくりはない」との言葉通り、出演者は84名。バレエシーンはボリショイバレエのファーストソリスト・岩田守弘さんが振り付け、自ら出演するという豪華さです。ミュージカルシーンの振付けは、アメリカの本場のミュージカルを経験し、ディズニーランドでも活躍したクリス・チャベスさんが担当。特別出演の剣幸さん、石田太郎さん、岩田守弘さんの3人以外は、全員がオーディションで選ばれた実力派が揃っています。


地元富山から多くの出演者が参加


 主要キャストの一人、主人公の娘役(Wキャスト)には、富山の石井千智さん。ミスマリンという回転木馬のオーナーの美人おかみ役に、富山の柳川玄奈さん、ジガー・クレイギン役には富山の劇団のメンバー、中島亮さん、紡績工場の社長・バスコム氏役で同じく富山の森隆俊さんが出演します。

 その他、キャストの半分以上は富山県出身者となっていて、本番への期待が一層高まります。


富山ならではの仕掛けを随所に


 脚本は翻訳からやり直し、原作の『リリオム』という名作戯曲の視点からも見直したとか。脚本も演出も、新たな仕掛けが随所に施されています。演出家の宮島春彦氏は劇団四季で、日本で初めてウエストサイドストーリーを日本人で上演した際の演出家。これまで富山でも数多くの作品を演出してきた方です。

 「アメリカ版そのままではない、ジャパニーズ・クリエイティビティですね。オーバード・ホールの舞台機構をフルに使った、圧倒的スケールの演出やサプライズがありますから、ぜひ皆さんに見て楽しんでほしいですね」(奈木氏)


60年以上、愛されるテーマ曲


 『回転木馬』のテーマ曲は「You'll Never Walk Alone.(人は一人では生きていけない、独りぼっちじゃない)」です。ミュージカルがブロードウェイでヒットした後、この曲はイギリスでカバーされ、サッカーのリバプールFCのファンが、自分たちの応援歌にしました。60年間、試合が始まる前に、彼らはこの曲を歌ってきたといいます。いまでは東京FCの応援歌にもなっているそう。インターネットで「ユルネバ」で検索して聴くことができます。

時空を越えて、心に響く物語


 「人間の世界は、100年経っても全く変わっていないということがこの物語でよくわかりますね」と話す奈木プロデューサー。『回転木馬』は男女間や家族の愛、そしてDVの問題、学校でのいじめ、自殺、貧富の差、死後や遺された人たち、倫理観など、現代の私たちにも通じるあらゆる問題が描かれています。

 「ここまで深い物語を描いたミュージカルはありません。最後のシーンは原作の『リリオム』にはないものですが、このエンディングは原作者も涙を流して喜んだほどの名場面です。テーマ曲の「You'll Never Walk Alone.」は、まさにすべての人への応援メッセージ。大いに盛り上がる場面を、ぜひ一緒に体験していただきたいと思います」


チケットは驚きの価格で


 国の助成等によって、『回転木馬』の入場料は大人が3、500円、子どもは1、500円という驚くべき価格となっています。奈木プロデューサーによると、家族そろって1万円で楽しめなければいけないというテーマパークの法則があるのだとか。フルオーケストラで生演奏だと、通常、東京では一人1万円は超えるといいます。格安なチケットとなっていますので、ぜひご家族で足を運んでみてはいかがでしょうか。


生の良さを実感できる劇場へ


 「お客さまがホールに入ってこられるとき、ものすごく期待に胸を膨らませた様子でいらっしゃいます。そして、終演後、満足して『ああよかった』と言いながら帰っていかれる方が多い。その様子を間近で見られるのは私たちの大きな喜びでもあります」と話す菊川館長。「ホールの力はすごいものがあり、やはり生の良さは違います。今回の『回転木馬』もぜひご来場いただき、平成23年度にもさまざまな事業を計画していますので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね」

 奈木プロデューサーも、次のように今後の意気込みを語ります。

 「オーバード・ホールでは、平成8年のスタート時から熱いスピリットが脈々と受け継がれ、ここは人々の熱い思いを込めてつくられた場所であるということをひしひしと感じています。新たな芸術文化を富山から発信するために素晴らしい劇場をつくったわけですから、その精神を貫き、いままで以上にいいものを提供し、文化を醸成していかなければいけないと思っています」


 来年度も引き続き、自主制作で本邦初演の名作ミュージカルの上演が計画されているとのこと。今後のオーバード・ホールの公演を、楽しみに待ちたいものですね。豪華キャストとオリジナルの舞台演出で感動の物語を体感できるオーバード・ホールへ、ぜひ、足を運んでみませんか。



■グランド・ミュージカル『回転木馬』
上演日時:
  3月25日(金)18:30開演
  3月26日(土)13:00開演/18:30開演
  3月27日(日)13:00開演      計4回公演
上演会場:オーバード・ホール
入場料金〈全席指定・税込〉:大人券3,500円、ジュニア券(小学生〜高校生まで)1,500円
 *就学前のお子様のご入場・ご同伴はご遠慮ください。
●チケットのお求め・お問い合わせ
 アスネットカウンター(オーバード・ホール1F) TEL:076-445-5511 ▼URL


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財団法人富山市民文化事業団
オーバード・ホール
富山市牛島町9-28  TEL:076-445-5610  ▼URL

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