会報「商工とやま」平成23年6月号

特集1
ソーシャルビジネスが、新しい地域社会をつくっていく
〜志のある地域活動を持続可能にしていくために〜


 地域の暮らしを支え、地域の魅力を引き出すビジネス(地域課題解決・地域資源活用ビジネス)として、ソーシャルビジネスがいま注目を集めています。今回は、東海・北陸コミュニティビジネス推進協議会の世話人で、株式会社ヒューマン・サポート取締役で経営コンサルタントとしてご活躍の石橋孝史氏に、ソーシャルビジネスの可能性についてお話を伺いました。

持続可能な豊かな暮らしへ


 「ソーシャルビジネス(SB)」とは、地域の様々な課題に向き合い、ビジネスの手法を使って解決していこうとする活動の総称です。政府が掲げる「新しい公共」の重要な担い手の一つとして、いま注目されています。

 ソーシャルビジネスは、地域の新たな産業を生み出し、第一次産業など既存の産業も活性化させ、雇用創出につながるほか、多様な価値観を創出し、社会問題と経済問題を同時に解決する切り札としても期待が高まっています。数年後には2兆円規模の産業になると予測されています。

 これまで、地域や社会における課題は行政など公的機関が対応してきましたが、社会的課題が増加し、質的にも多様化・困難化していることを踏まえると、それら課題の全てを行政が解決することは、難しい状況にあります。この問題にはこれまで様々なNPO法人が立ち上がり、その多くがボランティア的な思いで取り組んできましたが、その志にビジネスの視点を取り入れ、事業として持続を目指すのがソーシャルビジネスというわけです。

 企業をはじめとする組織や個人の社会的責任を表現し、持続可能な「豊かな生活」「豊かな仕事」を実現していくソーシャルビジネスに、今後、新たな希望を見出していく人が、ますます増えていくのではないでしょうか。

●ソーシャルビジネスへの期待
 ・新たな公の担い手
 ・新たな産業・雇用の創出
 ・新たな社会的価値、生きがいの創出
 ・地域活性・社会経済全体の活性化


ソーシャルビジネスの柱は、「社会性」「事業性」「革新性」


 ソーシャルビジネスの定義に沿う活動には、「社会性」「事業性」「革新性」が見られます。

 まず、環境問題、少子高齢化、人口の都市部への集中、ライフスタイルや就労環境の変化等に伴う高齢者・障害者の介護・福祉、青少年・生涯教育、まちづくり・まちおこしなど、地域の課題解決に取り組むことを事業活動のミッションとしている「社会性」。次に、そのミッションをビジネスの形として、継続的に事業活動を進めていく「事業性」。

 そして、新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発・活用したり、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出したりする「革新性」です。これら3つが大きな柱となっています。


富山にもすでにあるソーシャルビジネス


 富山県内でも様々なNPO法人が志を持って立ち上がり、地域の課題を解決しようとしていますが、ボランティア的な団体が多く、事業として持続可能な収益を上げているところは、まだまだ少ないのではないかと話す石橋氏。

 しかし実はすでに富山でも、ソーシャルビジネスに取り組むNPOや会社が数多くあると言います。

 例えば、富山型デイサービスの『このゆびと〜まれ』や『にぎやか』。発達障害やひきこもりの若者が社会と接する訓練の場としてコミュニティカフェを運営する『’YSさくらカフェ』。そして、自然農法で米や野菜、加工品などを作りながら、都市住民のファームステイ・農業体験などに取り組む『有限会社土遊野』などがあります。さらに、富山市中心市街地でコミュニティカフェ「ポエシア・ブランカ」を運営している『株式会社ランプット』は、各種セミナーや勉強会を開催し、様々な人が集う社会人の学びの場を提供しています。

 このように、株式会社、NPO法人、中間法人など、多様なスタイルの団体がソーシャルビジネスに取り組んでいます。


ソーシャルビジネスへの理解を広めたい


 「いまご紹介した県内の例もそうですし、ソーシャルビジネス・ケースブックにも選ばれた高齢者の社会参画による地域活性化を実現した徳島県の『いろどり』などの成功例もあります。富山ではソーシャルビジネスは、やっと認知され始めたところ。自分のやっている事業がそうだと気づいていない方も多く、社会でもまだ理解されていないのです。

 志をもって活動している人たちが、その活動を持続可能にしていくために、ビジネスの手法をうまく取り入れて、事業として継続していこうというのがソーシャルビジネスの考え方です。ですから、私は、ソーシャルビジネスでも一般のビジネスでも、利用者や顧客目線で発想していくことが大事という点では同じだと考えていますし、それが成長していけるかどうかのポイントだと思っています」


中間支援組織を強化したい


 「今後も世話人として、地域住民とソーシャルビジネス、地元企業、金融機関、大学、行政、中間支援組織、地域経済団体など、いままで点でしかなかった事業や人をつないでいくのが、私の役割であり課題だと考えています」と、石橋氏は語ります。

 国や富山県内でも様々な支援を始めていますが、県内に中間支援組織をどう増やしていくかが当面の課題です。

 「持続可能なビジネスのスキームをつくることのできる組織が、今後県内にいくつかできて、事業者さんを支援する体制ができれば、これから立ち上がるソーシャルビジネスの起業家たちは、ビジネスとしても、しっかり自立したカタチで運営できる組織を作れるのではないかと思っています」

 石橋氏が現在支援する事業には、すでに国の支援を受けて取り組みが始まっているものがあり、今後、富山から全国のモデルになるような新事業が立ち上がるかもしれません。


NPOと企業の協働による新たな事業の創出


 いま「連携」が盛んに言われていますが、石橋氏は、今後は、NPOなどの組織と企業の協働による新たなソーシャルビジネスの創出が地域で広がっていくのではないかと話します。

 「地方にはまだまだ可能性があります。志を持った人々による市民活動や地域づくりにビジネスの視点を取り入れることで事業を持続可能なものにして、社会貢献した結果としてコミュニティ益を創出していこう、というのがソーシャルビジネスのテーマです。これからは、企業がNPOなどと協働して地域の特性を生かしたソーシャルビジネスをつくり出していこうとする動きが広がっていくはずです。経済合理性だけではなく、住民と事業者が共に支え合い、地域に深く根付いた持続可能な活動が、今後ますます求められていく時代になると思うのです」

 ソーシャルビジネスとは、「地域で生きるための仕事」であり「地域を活かすビジネス」でもあるのです。


セカンドキャリアとしての意義


 また、定年退職された方が、セカンドキャリアとして、ソーシャルビジネスの分野で活躍することもできるのではと石橋氏は提言します。

 「これまでボランティアでやっていたことをソーシャルビジネスとして事業化すれば、ご自身の強みを発揮して、少しでも報酬がもらえる。年金にプラスできるそんな仕組みがあってもいいと思います。そうすればセカンドキャリアとしてより楽しく、仕事にやり甲斐を感じられるのではないでしょうか。ボランティアは無償でするものという認識を少しずつ変えていけば、お金も回り、地域経済にもいい影響があるのではと考えています」

 ソーシャルビジネスという言葉自体の認知度はまだまだ低いのですが、これからの地域社会をつくる上で、重要な役割を担っていくことは明らかです。

 次に有限会社土遊野の事例をご紹介し、自立した持続可能な暮らしづくりと、人と人が共に支え合う地域づくりについての取り組みをご紹介します。



【ソーシャルビジネス(SB)の市場規模及び事業者数(推計)】

 今後、日本でもSBの認知度が高まり、活動が活発化すれば、その市場規模等は、SBが活発なイギリス以上の規模に拡大するポテンシャルが存在すると考えられています。

 ・市場規模…約2,400億円(推定)⇒数年後には10倍ほどの規模に達すると見込まれる
 ・事業者数…約8,000事業者(試算)
 ・雇用規模…約3.2万人(試算)
  ※1事業者あたり常勤従業員を4名と仮定

<参考>イギリス
 ・市場規模…約270億ポンド(約5.7兆円)※1
 ・事業者数…約55,000事業者
 ・雇用規模…約77.5万人※2
  ※1 英国内閣府「社会的企業行動計画」(2006.)
  ※2 英国産業貿易省中小企業庁記者発表資料(2005.7.11)、2004年末時点

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