会報「商工とやま」平成23年 月号

特集2 「もしも」の連鎖倒産から会社を守る


 手形取引や売掛金債権を持つ企業であれば、たとえ自社が健全経営をしていると言っても、取引先の予期せぬ倒産により突然に経営状態が悪化することがあります。また、しっかりと取引先の与信管理をしていたとしても、倒産の前兆が全く分からないケースもあり、取引先のまたその先の取引先が経営破綻し、取引先が連鎖倒産することも考えられます。

 とりわけ、今年3月の東日本大震災に関連する経営破綻が北陸3県で10件(7月末現在)発生しており、今後も予断を許さない状況とみられています。経営者としては常に経営の革新を目指していくことが至上命題である一方で、家族や従業員のために、増大する連鎖倒産リスクから何としても会社を守る使命があります。

 そこで、当所は会員事業所の企業防衛に役立てていただくため、2つの制度を備えています。1つは国の制度である「中小企業倒産防止共済制度」。もう1つは大阪商工会議所と伊藤忠商事(株)が開発した「グループ取引信用保険制度」です。

 今回はそれぞれの制度の特長についてご紹介しますので、会員の皆さんのご事情に応じたリスク対策にお役立て下さい。


国の制度「経営セーフティ共済」


 中小企業倒産防止共済制度(愛称「経営セーフティ共済」)は、取引先が倒産して売掛金債権等が回収困難になった場合に、共済金の貸付けが受けられる制度です。この制度は中小企業倒産防止共済法に基づき、国が全額出資する独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。

 加入対象は中小企業で、引き続き1年以上事業を行っている方です。現在、全国で約30万社(富山県内では3498社)が加入しており、うち約8割は法人事業所です。業種別にみると、建設業と製造業がそれぞれ2割強となっており、この2業種で全体の約半数を占めています。


■環境に合わせて制度を改正


 厳しい経済状況から、当制度はセーフティネットとしての機能拡充を図ろうと、平成22年度に法を改正し、共済金の貸付け対象に私的整理を追加するなどの改正を行いました。(図1参照)。

■図1 経営セーフティ共済の改正について

≪平成22年7月より実施≫
・私的整理(一定の条件を満たすもの)も「倒産」として認める。
≪平成23年10月より実施≫
・共済金の貸付限度額の引上げ(3,200万円⇒8,000万円)
・掛金の積立限度額の引上げ(320万円⇒800万円)
・掛金月額の引上げ(80,000円⇒200,000円)
・償還期間を貸付額に応じて延長(5年⇒最長7年)
・早期償還手当金の創設

 また、東日本大震災の発生を受けて、取引先が被災した共済契約者を守るための特例措置として、「災害による不渡り」と「特定非常災害による支払不能」が追加されています。

 以下、改正後の内容で説明します。


■掛金を積み立てて万一に備える


 毎月の掛金は5千円から20万円の範囲(5千円単位)で自由に選べ、税法上損金(法人)、または必要経費(個人)に算入できます。

 この掛金は積み立てられ、取引先が倒産した場合には、「回収困難となった売掛金債権等の額」と「掛金総額(前納掛金は除く)の10倍に相当する額(最高8千万円)」のいずれか少ない額の範囲内で共済金の貸付けを受けることができます。

 平成22年度の共済金貸付実績は、2476件、約195億円(富山県内では20件、1億1445万円)で、1件あたりの平均貸付額は786万円(同572万円)となっています。


■8割が18日以内で貸付けが決定


 連鎖倒産を防ぐためにも、共済金の貸付けは迅速な処理が求められます。

 中小企業基盤整備機構では、書類を受け付けるとすぐに取引先の倒産の事実と被害額を確認し、早いものでは10日以内で、8割は18日以内で貸付を行っています。これは非常事態の対処として安心できる実績です。


■掛金は掛け捨てではありません!


 掛金は納付月数によって異なりますが、12カ月以上納付していれば、契約者の都合による任意解約でも掛金総額の80%以上の「解約手当金」が支給されますので、掛け捨てではありません。40カ月以上の場合は返戻率が100%になるので、例えば退職金資金に充てる等の活用方法もあります。


■事業資金に一時貸付金制度を活用


 取引先の事業者が倒産していなくても、緊急的に事業資金(運転・設備)が必要になった場合には、解約手当金の範囲内で貸付けが受けられる「一時貸付金制度」があります。これは無担保、無保証人(有利子)の活用しやすい制度です。


■中小企業の強い味方「経営セーフティ共済」


 経営セーフティ共済は、毎月の掛金を積み立てながら、取引先の倒産など緊急的な資金調達として当面の資金繰りをバックアップする、中小企業の皆さんの強い味方です。

 是非、当制度をご活用ください。

「経営セーフティ共済」
 お問い合わせ先 当所専門相談課 076-423-1172



当所会員事業所限定「グループ取引信用保険制度」


 「グループ取引信用保険制度」は、加入事業所の取引先が債務の支払いを履行しないことによって、加入事業所が被る損害に対して保険金が支払われる保険です。加入事業所(商工会議所の会員事業所)の保有する売掛債権(=保険の対象)に対し、伊藤忠商事(株)(=保険契約者)が複数の引受保険会社と取引信用保険契約を結んでいます。

 当所は会員事業所の皆さんがこの保険に加入できるように、平成18年3月に伊藤忠商事Mと業務提携しました。したがって、加入対象は当所の会員事業所です。

 商工会議所の会員事業所をまとめて制度構築しているのでスケールメリットが得られるほか、最低の加入条件が引き下げられていて、比較的小規模な事業所や起業間もない事業所でも加入しやすくなっていることが特長です。


■与信管理体制の強化にお役立てください


 この保険は、対象となる取引先10社もしくは15社以上を決め、その取引先の債権残高を提出すると、個別に審査の上、引受支払限度額が決められます。

 通常、取引先の与信管理は経営者の皆さんがしっかりとチェックされていると思いますが、それに加えて、保険会社による審査で二重のチェックをかけることができ、与信管理体制の強化が図れます。


■損失を平準化できる


 加入料は掛け捨てで、全額損金に算入できるとは言え、もったいないと感じる方が多いと思います。しかし、回収不能となるリスクは1期間中に1社とは限りません。

 そんなときでも、毎年一定の加入料を支払うことにより(貸倒償却のイメージ)、回収不能による損害額は設定した支払限度額の範囲で補てんされます。決算書に影響を及ぼすことなく損失を平準化できることは、大きなメリットと言えます。


■保険期間内に発生した売掛債権が対象


 一般的な損害保険とは異なり、グループ取引信用保険制度は保険期間中に発生した売掛債権等が保険の対象となることに注意が必要です。但し、保険期間以前に納品した商品の売掛債権について、新規契約の場合は割増保険料を支払えば対象にすることができます。(図2参照)。


■商工会議所の制度ですから、お気軽に見積もりの請求を!


 この保険は富山商工会議所会員事業所の皆さんのための制度です。スケールメリットがどのくらいあるのか、取引先の審査結果がどう出るのか、見積書で確かめてみませんか。加入するか否かは別として、無料で見積もりできますので、是非お気軽にお問い合わせください。


■「グループ取引信用保険制度」
 お問い合わせ先 当所専門相談課 076-423-1172



■グループ取引信用保険制度
保険契約者 伊藤忠商事(株)(当所は伊藤忠商事(株)と業務提携)
引受保険会社 三井住友海上(幹事会社)、損保ジャパン、あいおいニッセイ同和、日本興亜、コファスジャパン、AIU
加入対象 当所会員事業所
仕組み 予め対象となる取引先を登録し、その取引先毎の支払限度額や年間総支払限度額を設定して制度加入する。保険の対象となる債権が履行されないために被る損害に対して保険金が支払われる制度。
保険の対象 商品引渡日から支払期日までの期間が1年を超えない決済条件で、且つ保険期間中に発生した債権。
対象となる取引先 年商20億円以下の場合は最低10社以上を登録する(年商20億円超の場合は最低15社以上)。
継続的に取引があり、選定には客観的な基準による包括性があることが前提。特定の取引先に限定した引受はできない。
支払限度額の設定 取引先1社につき100万〜3,000万円を設定する。
各取引先への債権残高を提出すると、保険会社が個別に審査し、引受支払限度が設定される。
支払保険金 次の(1)か(2)の低い額
(1)損害額×95%(縮小支払割合) (2)取引先毎に設定した支払限度額
支給までの期間 保険金の支払いは概ね3カ月以内で完了
特長 業務提携する商工会議所の会員事業所をまとめて制度構築しているのでスケールメリットが得られるほか、最低の加入条件が引き下げられていて、比較的小規模な事業所や起業間もない事業所にも加入しやすくなっている。
メリット(1)与信管理 会員事業所独自の審査・管理機能に加えて、保険会社による二重のチェックをかけることにより、「与信管理体制の強化、充実」を図ることができる。
メリット(2)リスクマネジメント 将来における不足の貸倒れ損失をカバーすることにより「損失の平準化」を図ることができる。
メリット(3)リスクアセットの圧縮 売掛債権の回収不能リスクが低減されるため、自社のリスクアセットが圧縮される。
メリット(4)貸倒れ損失の早期回収 万一貸倒れが発生した場合、回収に時間を要するばかりでなく、当面の資金繰りに大きな穴が空くことになるが、本保険により、確実・早期にその穴を埋めることが可能となり、「資金繰りの安定化」を図ることができる。
メリット(5)経理処理 加入料全額を損金に算入できる。貸倒引当金は原則「有税引当」なので、当制度の加入は引当金を積むのと同様の効果が得られ、節税メリットが得られる。



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