会報「商工とやま」平成24年6月号  【 特 集 】

変わりゆく社員食堂に注目!

有機米と地産地消の日で、健康と食の安全への意識を高める。

株式会社タイワ精機の取り組み


 有機米を自社で栽培し、月に1回、社員食堂で「地産地消の日」を設けるなど、安全な食の推進と社員の健康増進に積極的に取り組む富山市の株式会社タイワ精機。今回は社員食堂に注目して、同社の井芳樹会長と、管理部の大谷博志課長、広報課の大上普子主任にお話を伺いました。


社員食堂で地産地消メニューを


 株式会社タイワ精機は、1976年創業。家庭用から業務用まで約30種類の精米機の製造と販売を手掛け、コイン精米機では全国で52%のトップシェアを誇ります。

 同社では2008年に研修室を改装し、社員のコミュニケーションの場として、また安全な食への関心を高めるために新たに食堂スペースが設けられ、日替わりのメニューが提供されるようになりました。

 調理設備を備えていないため、調理は株式会社エムテーランチに委託しています。配膳スタッフもエムテーランチから派遣され、みそ汁やご飯などはあたたかなものが提供されています。

 食堂では日替わりのおかずとともに、自社で栽培したり契約農家から購入した有機JAS認証米の白米や一分づき米が出されています。いずれも自社で精米していますが、一分づき米は玄米の成分を損なわないためビタミンやミネラルなどの栄養価が高く、しかも一般の炊飯器で炊くことができるそうです。

 「白米と一分づき米を半々にしたり、一分づき米だけにしたりするなど、自分の好みに合わせて量も種類も選択できるようになっています」と話す井会長。

 さらに、月に1回、「地産地消の日」を設け、できるだけ富山県産の材料を使ったメニューが提供されています。

 メタボ健診がスタートした頃、井会長は所属する経済同友会で地産地消委員会の初代委員長となりました。会員企業の社員食堂では毎月1回「地産地消の日」を定めて、県産の農産物などを中心にしたメニューを提供することを提言しました。

 「我が社でも社員に健康になってもらい、少しでも食への意識を高めてもらえたらと考えています」

 この動きは同社のほかに北陸銀行などでも始まっています。

 3月30日のメニュー内容は、県産豚肉の生姜焼き、南砺市や立山町の山菜の天ぷら、小矢部産卵の卵焼き、氷見産のかぶ旨煮、山田村産の春菊の桜和え、富山市産の水菜昆布漬け、みそ汁には高岡産の白菜や里芋といった豪華な地産地消メニューが揃いました。

「そのときに手に入る材料によって、一食あたり600円から650円で、社員は250円の負担で食べられます」と話す大谷課長。調味料を含めて約8割以上が富山県産になるように、メニューが考えられているそうです。

 「栄養士さんは大変苦労して、献立を考えて下さっています。今日はお肉でしたが、なるべく野菜や魚を中心とした献立になるようにお願いしています」と話す井会長。この日はおかずだけのカロリーが約330キロカロリーで、ごはんの量で各自に合ったカロリーに調整することができます。

 このほかにも、月に1回、「うまいもんの日」が設けられています。お重に入った一食あたり1000円の豪華メニューを、社員は250円の負担で食べられるのです。

 大上主任は社員の意識変化について次のように話します。

 「社員食堂の取り組みをきっかけに、食への関心は高まり、意識の変化が着実に現れていると思います。朝礼では主任以上がさまざまなテーマで話をするのですが、食べ物の話題が多くなっています。私自身も県内ではまだ数人しかいない『ごはんソムリエ』の資格を取りました。また、実際に食事でメタボが改善された社員もいるんですよ」

 大谷課長も、家庭で有機玄米や無農薬の野菜などを取り入れるようになり、意識が大きく変わったそうです。


病気をきっかけに食生活を改善


 経費削減で食堂が無くなる企業が多い一方で、新たに食堂を設け、これほど有機米や地産地消にこだわり、食を大切にするのはどうしてか。実は、井会長自身の病気が大きなきっかけでした。

 「5年前に体の3カ所にがんが見つかり、主治医からは手術や抗がん剤を勧められました。しかし私は、それを一切断り、以前から関心のあった食事療法を実践して免疫力(自然治癒力)を高めることで、がんを治したいと先生にお話ししたんです」

 以来、好きな肉を減らし、魚や野菜を中心にした食生活に変え、発酵食品などを積極的にとるようにしたそうです。そして、「白米ではなく栄養価の高い一分づき米を食べるようにした」と語る井会長。

 ただし、医師の強い勧めもあり、最低限の治療として月に一度のホルモン注射をしているそうです。また、カテーテルを使って、肝がん細胞に血液が行かなくなる処置はしました。しかし、それ以外は手術も抗がん剤も無く、食事改善だけで過ごしてきたとか。今ではがん細胞はすっかり小さくなり、元気な毎日を過ごしています。

 「いろいろな本が出ていますが、これまで私が研究実践してきたことは正しかったのだと思っています。

 一分づきの米や、野菜、魚を中心にした食事内容はもちろんですが、何より食べ過ぎが多くの病気の原因となりますので、朝はリンゴとヨーグルトだけにして、そのかわり昼と夜はしっかり食べるようにしています。お酒もよく飲みますが、ご覧の通り、とても元気です」


有機JAS認証米を栽培


 井会長は病気になる以前から農薬を使わない有機農法などに関心を持ち、12年前に会社周辺の田んぼを購入し、自社で有機米を栽培する試験田を作りました。コシヒカリのほかに、黒米、緑米などの古代米も栽培しています。栽培には、社員でつくる「タイワ有機稲作研究会(有機研)」(会長/里至博研究部長代理)のメンバー13人が携わっています。

 田んぼのそばにはメダカが泳ぐビオトープが作られ、ここを通って田んぼの水が出入りするようになっています。ビオトープに棲むメダカやトンボなどの生きものは、安全な農業の象徴でもあるのです。

 近くにある施設の子供たちが田植えをする小さな田んぼも作られ、子供たちに農薬の恐さを教えたり、自然を守ることの大切さを伝える教育の場にもなっています。また、子供たちにビオトープを開放して、自由にメダカを獲ってもらうなど、子供たちの遊び場としても親しまれています。これらの取り組みについて、富山県教育委員会からの依頼で学校の先生たちに講演する機会もあるそうです。

 有機研が栽培した有機JAS認証米のコシヒカリは、同社関連の株式会社タイワアグリがインターネットで販売しています。特に県外のお客さまに人気で、すぐに売り切れてしまうとか。そのため、県内で有機米を手掛ける何人かの生産者の方のお米も数量限定で販売しています。残念ながら、昨年収穫された有機米はすべて完売しています。


米ぬかで田んぼの雑草を減らす


 有機研の里会長はじめ社員の皆さんが熱心に取り組んでいる有機米づくりですが、富山で有機JAS認証米を栽培している農家の数は全国最下位だと言います。また、野菜の生産量も全国最下位が続いています。

 「兼業農家が多いことや、お米や水がもともとおいしいこともあると思います。しかし、田んぼの生きものが昔に比べて随分減っていることからも分かるように、環境は悪くなっています。私は、農薬や化学肥料を使わず、自然の土の中にたくさんいる微生物たちの力を借りた有機米をつくりたいと考えたのです。

 有機農法で大変なのは草取りですが、私が出張先でたまたま出会った、『米ぬかで田んぼの雑草を減らす農法』を実践しています。精米機から出る米ぬかを有効活用する方法はないかと考えていたところでしたので、まさにこれだと思いましたね」と振り返る井会長。

 以来約12年にわたり有機米づくりは続けられ、いまでは約1・2ヘクタールの田んぼを所有するようになりました。


タイワ精機の歴史


 タイワ精機は、井会長が41歳の時に勤めていた会社から独立して、仲間7人と立ち上げた精米機を製造し販売する会社です。全てがゼロからのスタートでしたが、小さくても光る企業をめざしてきました。

 「会社経営のモットーとして、3つのことを掲げていました。1つはどんなに辛くても、大手の下請けをしないこと。自分たちで考えたものを自分たちでパテントを取り、自分たちで売りに行こうと考えました。2つ目は、小さなマーケットでも良いから、日本一の商品を作ろうということでした。そして3つ目は、同族会社を作らないということ。これらを創業のときからの信念にしています」

 販売にあたっては、いまでは北海道から沖縄まで全国に顧客を持ち、約400店の代理店と契約するまでになりましたが、そこに至るまでには大変な苦労があったと言います。

 しかしタイワ精機の精米機は、あまり熱を上げずに精米できるため、お米の旨味が残ることや、メンテナンスが楽なことから、全国で高い評価と人気を得ています。

 また、同社の製品は韓国・中国・台湾にも輸出されて人気となっています。

 「昨年はインディカ米(長粒種米)の精米機の研究のためにカンボジアに工場を建てて1年がかりの試験をし、本年2月にはカンボジアのフンセン首相にもお会いして、今後の計画をご説明しました。現地の経済特区で新たに工場を建て、生産を始める。将来はそこからミャンマーやインドネシア、フィリピンなどにも精米機を輸出する予定です」と語る井会長。

 会長の座右の銘は、「創造と感動」だと言います。

 「ただものをつくるのではなく、少しでも良いものへと進歩するために、自分の仕事を創造しようと努力すること。そして、素晴らしい方にお会いしたり、良いものを見て感動することを大事にしたい。そんな中で自然と、人にも感動を与えられるものづくりができ、そういう人になれると思うのです。

 我が社の製品を買っていただいたお客様に、買って良かったと思っていただけたら、私たちはそれで大満足なんです」

 故郷の自然を愛し、農薬や化学肥料を使わない安全な食べ物と土地を次の世代に残したいと話す井会長。そのものづくりの精神と社員食堂の取り組みの根底には、人の為になることをするという一貫した人生のテーマが流れているようです。

 社員食堂のメニューやその取り組みから、その会社の大切なメッセージが見えてくるのかもしれせん。


株式会社タイワ精機 ▼HP
富山市関186番地  TEL:076-429-5656(代)

株式会社タイワアグリ▼HP
富山市関186番地  TEL:076-429-6878



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