会報「商工とやま」平成25年10月号

特集1 
消費税引き上げに向けての対応
 第1回 消費税率の引き上げと価格転嫁対策


 消費税は、平成26年4月1日に8%、平成27年10月1日に10%へと2回にわたる引き上げが予定されています。政府は、消費税率の引き上げに伴う、中小・小規模事業者の経営に及ぼす影響を最小限にとどめるため、価格転嫁対策、経過措置など、様々な措置を講じていくとしています。今回は、実務面からみた、税率の引き上げが利益・資金繰りに与える影響、価格転嫁対策などについて2回にわたり専門家による解説をしていただきます。(本稿は平成25年8月31日現在の情報に基づき執筆しています)


はじめに


 平成26年4月からの消費税率引き上げまで、もう間もなくとなりました。景気回復の兆しが若干感じられるこの頃ですが、税率引き上げに当たって、実質の経済成長率2%程度を目指したいわゆる「景気判断条項」が、ここに来て問題になっているようです。


消費税率の引き上げと、税率引き上げに伴う経過措置


 税率は次のとおり2段階で引き上げることが予定されています。

 ただし、適用開始日以後に行われる資産の譲渡等のうち一定のもの(請負工事等)については、改正前の税率を適用することとする「経過措置」が講じられますから、国税庁の「消費税法改正のお知らせ」等を参考に、的確な対応をお願いします。






実務面から見た、税率引き上げが利益・資金繰り等に与える影響


(1)定価の設定
 税率の2段階引上げを踏まえて、売価(売値)を決定する必要があります。

 1.値ごろ感
  税込198円の商品を204円、207円で販売しても値ごろ感はまったく感じられません。
  現在、値ごろ感を売りにしている商品は、今後の税率引き上げを踏まえた場合、いつから、どれだけの価格(値幅内)で、どれだけの数(量)を売るのかという計画を立てる必要があります。したがって、売りたい商品の見直しを含め、全商品の価格を、新たな感性で見直すことが早急に必要です。


 2.売価(売値)の引き上げ時期
  10円に満たない引き上げ幅なら少し我慢しても……と考えられる方、後になって値上げができる保証はありません。どこかの時点で値上げをしないと、3%、5%の引き上げ分を自ら直接かぶらざるを得なくなります。事業者自身の負担が増すとともに、事業経営そのものが成り立たなくなることも想定されます。
  また、短期間に2度の値上げということになると本当にできるのかということになります。
  直前に思い付きのような形で決めることのないよう、事前の周到な準備が必要です。
  さらに、便乗値上げではないかというクレームを回避するためにも、事前の値上げの検討も含め、今後の方針を早急に決めておく必要があります。

【ポイント】適正な転嫁額
 ・売上原価+間接費(間接費の増加額を見込んで価格を算出する)
 ・行き過ぎたコスト削減は逆効果(特に人件費)
 ・年間の稼働率を考慮し、低い時期への対策
 ・事業全体を通しての利益確保等
 《注》平成23年8〜9月に中小企業庁が実施した「中小企業における実態調査」では、売上げ5千万円以下の事業者の65・4%が、一部もしくはほとんど価格への転嫁ができないと回答しています。



(2)資金繰り

 1.今後の実感
 今でも多くの方々が、「消費税は預り金だという説明は分かるのだが……」と感じられているようですが、今後はますます納付消費税額が増えたと感じられることになるでしょう。
 次に税率引き上げによる税額を単純な簡易課税計算によって比較した表がありますが、問題はこれだけの納税額を事前に確保しておくことはとても困難だということです。
 今後は、資金繰りをどうするかが事業の存続に直接に、しかも大きく影響してきます。

 2.簡易課税による納税額の比較

【ポイント】 消費税の預り時期と納付時期のズレによる資金不足
 ・多くの資金が必要になる(納税預金等の活用)
 ・滞納があると融資が受けにくくなる
 ・運転資金の確保等











(3)システム改定
 1.機器の確認
 最初に、現在使っている販売管理ソフト・会計ソフト等が、そのまま使えるのかどうかの現況確認が必要です。 機器によっては簡単な設定変更でそのまま継続して使えるものもあるでしょうから、機器の購入先に確かめておいてください。
 また、必ずしも新しいものを購入する必要はありませんが、現在使っている販売管理ソフト・会計ソフト等が相当古くなったため、この際、更新しようとする場合には、時期によっては業者の予定が込み合いますので、相当早くからの準備が必要になります。
 注意をしたいのは、法人の場合、平成26年4月決算から新税率の影響が生じます。平成26年4月決算は本年5月からすでに始まっています。

 2.実務上の問題点
 第1番目に請求書の作成があります。一般的には10日締め、20日締め、25日締めの請求書が多々見受けられます。平成26年4月には、これら中途での締めの場合、請求書を2通に分けて送付するように準備をすれば問題はないと思います。
 例えば、平成26年3月26日から3月31日までは5%、4月1日から4月25日までは8%というように4月に2通送付します。1回分余計な手間はかかりますが、分かりやすく明示することによって得意先の納得を得ることができるのではないかと思います。

 3.価格の表示に関する特例(平成25年10月1日から可能となる価格表示例)


おわりに


 今後、価格転嫁が一部分しかできないなど様々な問題が生じることと思われます。

 そのような場合には、まず、富山商工会議所の消費税転嫁対策窓口での相談をお勧めします。

 また、業種によっては「資産の譲渡等に適用される税率等に関する経過措置」が、詳細に定められていますので注意をしてください。事業内容 ・ 規模等によっては、税理士等専門家を利用することも一つの案ではないでしょうか。


 北陸税理士会富山支部
税務支援対策部長 久保  毅

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