会報「商工とやま」平成26年11月号

特集1 県内企業人材養成モデル推進事業 事例紹介
社会基盤の「見えない安全」を守ります

総合診断会社・補修コンサルタントとして高い信頼を獲得
 株式会社アイペック  


   富山商工会議所は、富山県が実施する「県内企業人材養成モデル推進事業」を受託しており、新規学卒者と中小企業のマッチングとサポートを行ってきました。

 「県内企業人材養成モデル開発事業」を受託した企業では、新規学卒未内定者等を1年間雇用し、人材養成計画のもと、実務や訓練等が行われます。平成22年度以来、これまでに87社で128名が採用されました。本誌では、この事業を活用して人材養成を実践した企業をご紹介しています。

 今回は、平成24年度に当事業を活用した株式会社アイペック代表取締役社長の吉岡裕一さんと、専務取締役の東出悦子さん、当事業によって育成・採用された非破壊検査部の川井章太郎さんにお話を伺いました。


見えないものをみる


 株式会社アイペックは、構造物や設備機器の検査、解析、補修コンサルティングの分野で、富山、北陸はもちろん全国でも幅広く事業を展開。1976年に富山検査として創業し、2010年には、その幅広い業務を反映して、社名を株式会社アイペックに変更しました。

 同社は創業以来、「見えないものをみる」を社是に、道路、橋梁、発電所、公共施設などの社会インフラの検査、診断、解析などの保守点検業務で幅広い実績を積み重ね、確かな信頼を獲得しています。


構造物の長寿命化を目指して


 高度経済成長期につくられた構造物が40〜50年経過し、補修や建替えが必要とされるいま、同社の検査・診断業務は、ますます重要となっています。吉岡社長は次のように語ります。

 「橋梁、トンネル、道路などの老朽化は大きな問題となっていますが、何かが起きてからでは遅いわけですね。原因はさまざまですが、例えば地震などが起こると、問題がある箇所から壊れます。常に安全性を保つために、初期の段階で問題に対応し、事故を起さないための対策をしておくことが何より重要なのです」

 橋やトンネルなど、私たちが普段何気なく通っている場所の老朽化は、表面からはわかりにくいものです。全国に2メートル以上の橋は約70万橋あると語る吉岡社長。

 「修繕するにしても社会インフラの検査・補修には大きな予算が必要となります。予算も限られるなかで、何を優先させ、暮らしの安心・安全を守るのか、その判断や選択が、今後さらに重要となっていくのです」


全国でも高いレベルの技術者集団


 株式会社アイペックの業務のひとつに、構造物を破壊せずに検査する非破壊検査があります。非破壊検査には、磁粉探傷検査・浸透探傷検査、超音波探傷検査、X線透過検査、ひずみ測定など、さまざまな方法があるとか。

 「例えば、電車の車軸など、中の部分に目にみえない亀裂が入っていないかを当社で検査しています。また、溶接部はX線透過などによって有害な傷を発見し、防止策などをアドバイスしています」

 そのほかにも、橋梁やトンネル、発電所、プラント、石油タンク、公共施設の建屋、スキー場のリフトなど、多岐にわたる構造物検査の実績を誇ります。

 現在社員は約70名。同社のような幅広い分野で対応可能な技術と人材を持つ企業は北陸ではあまり無いと言います。

 「当社は、社団法人日本溶接協会が認定する、非破壊検査事業者A種にランキングされています。これは、高い技術を持った有資格者が多数いる企業の証で、北陸でのAランクは当社だけです」と語る吉岡社長。

 同社ではあらゆる構造物の検査や診断を手がけるため、それに伴って必要となる資格や知識も多岐にわたります。建築、土木、溶接、コンクリート、電気、エックス線、地下タンク、高圧ガスなど多様な分野で高度な資格を持つ技術者を多く有しているのが強みとなっています。


短期間で急成長した川井さん


 今回採用された川井さんは、育成期間の1年の間に、主に非破壊検査部門の実務全体を網羅する、OJT、OFF・JTの教育訓練を受けました。川井さんは、訓練期間を通して職場の上司や先輩たちと密にコミュニケーションを取りながら、徐々に職場や仕事に馴れていきました。

 また、期間中には資格試験にチャレンジしたり、黒部川の発電所への出張なども経験しています。

 その後も、順調に業務に取り組むなかで、川井さんは短期間で大きく成長したと東出専務は語ります。

 「この事業で川井さんを新卒採用してから3年になりますが、彼はすでに非破壊検査部門で3つの資格を取得し、今年に入ってからは現場のチーフとして、後輩の指導にもあたっています。今後、多くの現場で仕事をしていくには、さらにさまざまな勉強と資格取得が必要になりますが、将来に大いに期待をかける社員の一人となっています」

 川井さんは、次のように語ります。

 「教育期間中も、勉強したことが、次の現場で活かせたり、自分のなかで裏打ちされることで自信につながっていきました。最初は、この仕事の責任の重さに不安な面もありました。でも、先輩たちやいろいろな人のアドバイスを受け、自分の短所を直し、長所を伸ばしながら、現在はいろいろな仕事を任せていただけるようになってきています」

 学生時代は機械の設計・製作を学んだと言う川井さんですが、現在の仕事について、「いろいろな知識の幅を増やしていける、面白みのある職種」と語ります。今後は、非破壊部門で取得できる資格を全て取り、お客さまの要望に的確にお応えするのが目標とのことです。

 吉岡社長も「現場での対応が一番の営業であり、顧客から頼りにされるよう技術・知識を常に磨く向学心を持つこと。そして、目に見えないものをみて、社会の安心・安全を守るためには、誠実な人間であることが何より大切」とエールを送ります。


24時間モニタリングをより簡単に


 あらゆる分野で技術革新がすすむなか、アイペックでは常に技術レベルの向上と、顧客の要望と信頼に応える新商品開発、技術革新に力を入れてきました。そのなかの一つが、「インターネット対応IMSモニタリングシステム」です。

 橋梁の亀裂測定や小水力発電所の電力測定、工事現場等の風速・風向などの監視を携帯電話のFOMAの電波を使って24時間、リアルタイムで行うものです。

 異常時には携帯電話に警報を送信する仕組みになっていて、事務所のパソコン、スマートフォン、自宅のパソコンなど、どこにいてもモニタリングできます。土木、交通、環境、危険物を扱う分野など、あらゆる場面でその可能性が広がっています。

 「これもお客さまの要望から開発した技術です。大規模な独自システムを構築する必要がなく、携帯を活用してより簡単に、便利に、多くの方にご活用いただけるモニタリングの新システムとなっています」と話す吉岡社長と東出専務。


京都の観光用バスにも導入


 すでにこのシステムは京都市内の観光用バスにも導入され、いまバスがどこを走っているかといった位置情報や、乗降客数のモニタリング、観光名所での5カ国語に対応した音声ガイドなどにも活用され、とても好評とのことです。

 新幹線開業を控え、今後は富山県内の自治体などでも導入予定とか。構造物だけでなく、交通・観光の分野でも活用できるこの新システム。魅力ある富山を伝える、大きな武器になっていくかもしれません。今後も多いに期待できる新技術です。


地元企業だから安心を迅速に


 同社の経営理念を伺うと「百年の大計 人と公」と答える吉岡社長。  「企業は社会の公器であり、半永久的な経営を継続し、人を大切にしながら社員も企業も成長していくことが重要」と語ります。

 様々なインフラの検査、解析、補修コンサルティングを行う同社は、まさに私たちの暮らしや社会基盤を縁の下で支えるドクターのような存在です。「この先、何十年も必要とされる、社会的に大きな意義のある仕事」と東出専務も力を込めます。

 永く続く企業であり続けることは、地域を永きにわたって支える力になります。また、地域にあるからこそ、24時間、迅速な対応が可能となっています。今後は、さらに総合的な補修コンサルティング事業に力を入れていきたいと話す同社の皆さん。

 身近だけれど、目にみえない安全・安心を、高い技術力と人間性で見守る同社の存在は、今後も富山、日本の未来を支える大きな力となっていくことでしょう。


株式会社 アイペック
富山市上野新町5−4
TEL:076-438-0808
http://www.ipec-com.jp/


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