「商工とやま」平成26年12月号
特別寄稿    〜当所オランダ・ドイツ産業経済視察報告〜
     
  第6次産業で世界が注目するオランダとモノづくりの国ドイツを訪ねて

 当所は平成26年9月4日(木)から8日間、オランダ・ドイツ産業経済視察団(団長/木繁雄会頭)を派遣した。
 今回、視察団はオランダの首都であり産業の中心であるアムステルダム、第6次産業で世界中から注目されるフードバレーの視察やドイツ有数の芸術都市ドレスデン、バイエルン王国の歴史を育んだ文化都市ミュンヘンの革新的技術を有するモノづくり企業の現場を視察し、9月11日(木)に帰国した。


■オランダ王国

 オランダ王国は、立憲君主制で、東はドイツ、南はベルギー、北と西は北海に面している。首都はアムステルダムで、政治の中枢は王宮・国会・中央官庁等があるデン・ハーグとなっている。人口は約1679万人、国土面積は約4・2万キロ平方メートルと九州とほぼ同じである。
 産業は、全GDPの2/3を占める金融・流通を中心としたサービス、化学、電気、食品加工業が主要である。  またGNPの10%を農業・食品加工業が占め、アメリカに次ぐ世界第2位の農業生産物輸出国である。


■ドイツ連邦共和国

 ドイツ連邦共和国は、欧州の中部に位置し、首都はベルリンである。国土面積は約35・7万キロ平方メートル(日本の約94%)で、人口は8052万人。日本に次ぐ世界第4位を誇るGDPは、欧州債務危機の影響を受けながらも成長率がプラスで推移している。また、産業界と研究機関による緊密な研究開発活動は、先進的な技術で世界をリードする自動車、化学、医療、機械などの主要産業を下支えしている。
 しかし、東西ドイツ統一後20年以上経過した今日も、東西間の経済格差は依然大きく、政府は旧東ドイツ地域再建を重要課題として引き続き取り組んでいる。


■ドイツ・ドレスデン(9/4・5)

◎ガレキから再生した芸術都市
 最初に訪問したドイツのドレスデンは、「エルベのフィレンツェ」とよばれるザクセン州の州都であり、17〜18世紀にザクセン王国の都として繁栄した街である。第2次世界大戦の折、多くの建物が空襲により焼失、瓦礫と化したがゆっくりと着実に復興を遂げ、かつての美しい街並みを取り戻した。
 旧市街のドレスデン城で、高さ8m、全長100mの外壁画「君主の行列」や「歴史的な緑の丸天井」を見学した後、最初の目的地、フォルクスワーゲン・ドレスデン工場を視察した。

◎環境に配慮したガラスの工場
 フォルクスワーゲン・ドレスデン工場は旧市街地区にあり、市の中心地までは歩いて15分程で大きな公園の一角にある。
 2001年に建設された工場はガラス張りのモダンな建物で、とても工場には見えない。中に入ると、床面は工場には珍しいフローリング仕様で、従業員の足の負担を軽減すると共に、明るく清廉な雰囲気を感じさせる。
 ここでは1日24台のフェートンを生産しており、1台1台手作りゆえに工房と呼ばれているそうだ。コンベアの車と車の間に置かれているユーティリティBOXは必要な部品と工具をコンピュータ制御により自動で補給しながら工員のもとへと運んでいる。
 環境への配慮を重視しており、5q離れた部品倉庫から部品を工房へ運ぶのに使われるのが、カーゴ3と呼ばれるブルーの貨物用路面列車(トラム)である。トラック3台分の部品を載せることができるのだが、驚くことに市内を走る普通のトラムと線路を共用し、ダイヤの中に組み込まれて動いているという。
 この工房は同社のイメージ戦略の一環として一般見学を受け入れており、産業観光のヒントとなる施設であった。
 その後、ツヴィンガー宮殿のアルテ・マイスター絵画館を訪問し、ガイドの絶妙な解説で、フェルメールやラファエロなどの名画を鑑賞した。


■オランダ・アムステルダム(9/6〜8)

◎自由と寛容の国
 オランダ・アムステルダムの歴史的な建物と運河、最新のLRT、そして自転車専用道路が織りなす風景は、どこを切り取っても絵になる。
 「アムステル川に築かれたダム」という名の通り、アムステルダムは縦横無尽に張り巡らされた運河の街であり、海運が盛んで貿易港として栄えた街である。世界初の株式会社であるオランダ東インド会社は巨万の富を得、それまで王侯貴族のものであった芸術を、世界で初めて一般市民のものとした。それ故オランダには60を超える美術館や博物館があり、世界屈指の中世絵画の傑作を所有している。
 我々は、ファン・ゴッホ美術館やアムステルダム国立美術館、政治の中枢であるハーグにあるマウリッツハウス王位美術館で、ゴッホ、レンブラント、フェルメールなど珠玉の名作を鑑賞した。

◎世界が注目するフードバレー
 9/8、アムステルダムから90q離れたフードバレーを視察した。フードバレーはオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域の総称で、1997年に世界規模の食品研究開発拠点を目指して産官学がワーヘニンゲン大学周辺に集積したもの。
 初めにワーヘニンゲン大学リサーチセンターを訪問し、シルケ・ヘミング博士から「省エネ等の温室栽培技術」についてレクチャーを受けた。
 ヘミング博士によれば、オランダのグリーンハウス・ガラスハウスなどの園芸施設は土と決別し、害虫の天敵を使った有機農薬、ICTを使用した労働力の削減や灌水により、経費節約と生産効率拡大を図って過去15年で飛躍的な発展を見せている。合理性を求める傾向にあるオランダでは、施設園芸の進展によって農業とITなどのハイテク技術が結びつき、更なる技術革新を進めるために経済省と農業省が合併した背景等の説明があり、団員からも活発に質問や意見が交わされた。
 午後からは、この視察のメインともいえるフードバレー財団のアンネ・メンスィンク海外担当役員のレクチャーを受けた。
 同財団は大学、研究機関、企業などをコーディネートする専門機関として、2004年にオランダ国内の食品を中心とした企業から資本を集めて設立された。EUやオランダ政府、自治体からの補助金も受けてはいるが、基本的には独立企業体である。
 ここでは20名程のスタッフが企業同士や企業と大学のマッチングをしたり、潜在的なニーズを掘り起こしベンチャー企業を育成するなど、ビジネスチャンスの創造と革新的な技術を生み出すためのコーディネート役を発揮している。中には競合会社同士が組んで研究することもあるようだ。
 オランダのアグリビジネスを支える存在として、同財団には現在、世界中からの視察が殺到している。


■ドイツ・ミュンヘン(9/9〜11)

◎革新的な技術をもつシュライナー社
 9/9の朝、オランダからミュンヘンへ移動し、朝日印刷(株)朝日会長のお力添えをいただき、シュライナー社を視察した。
 ウェルカムセレモニーの後、会社概要のレクチャーを受け、特殊印刷の生産ラインを見学した。
 同社は特殊印刷分野で事業開拓し、顧客のニーズに合わせた商品開発、技術革新を行っている。医療関係のラベルだけで近年の年商は約200億円にも及ぶそうだ。特に驚いたのが、注射針とアンプルの包装印刷技術である。ラベルを開けるとホルダーに注射針が刺さり、医療事故を起こさない工夫が施されている。革新的な技術開発でこのような高付加価値の提案ができる上に、不良率が1%ととても低いことは同社の強みとなっている。安全性を追求し、きめ細かく作業を止めて検査している作業員を見て、ドイツの職人気質を見たような気がした。
 夕方、シュライナー社の幹部を招いての懇談会となった。柔らかな口当たりの飲みやすいヴァイスビアや白ソーセージを楽しみつつ、ドイツ流乾杯の歌や団員によるドイツ語での歌の披露やおわら踊りで大いに盛り上がり、笑いの絶えない時間を過ごした。

◎在ミュンヘン日本国総領事館社
 9/10、ミュンヘン総領事館を訪問し、柳秀直総領事から南ドイツの経済情勢についてレクチャーを受けた。
 EU内では一人勝ちのドイツだが、世界の注目を集めたのは東西統一後、大きくなってからである。
 ドイツではニッチな分野で世界NO1を目指し、高価でも良いものは売れるという考え方があり、輸出を支える中小企業を産官学で支援している。中でも、自動車産業を中心に航空・宇宙、ハイテク等先端産業が集中する南ドイツのバイエルン州、バーデン=ヴュルテンベルク州が好調である。しかし、最近は脱原発の流れで電力料金が上昇しているほか、ウクライナ情勢でドイツには不透明感が強まっているとのことであった。
 午後、ルードヴィヒ1世が王家のコレクションを一般公開するために設けた美術館「アルテ・ピナコテーク」でヨーロッパ絵画の傑作を鑑賞した。夕方、空港へ向かう前に立ち寄ったビアホールでは、アコーディオンとギター演奏者が最後の夜を盛り上げてくれた。
 夜、ミュンヘン空港から全日空直行便で11時間25分のフライトで翌日無事に羽田空港へ到着した。


■海外視察を振り返って

 今回訪問したドレスデン、アムステルダム、ミュンヘンはともに歴史が古く、古い街並みにトラムなどの公共交通が整備され、とてもきれいな環境であった。
 空襲から復活したドレスデン、水との戦いとの連続であったオランダなど富山と共通するものを感じながら、その反面、時間をかけても元の石を再利用し復元したこと、合理性効率性を追求した考え方など、全く日本とは異なる部分など見聞を広げる良い経験となった。
 オランダの農業は、ハイテク化が進むゆえに増大する電力エネルギーの消費と、古くからの有機農業では、増加する人口に対し野菜を供給できないジレンマの中で、施設園芸によって世界第2位の農業生産物輸出国となった。合理的なものを受け入れるオランダの国民性が顕著に表れているのではなかろうか。
 オランダのICTを使った農業は、若者にとって魅力的な産業となっているようだ。良し悪しは別にしても、高齢化が進む日本の農業にとって参考となる面が多々あると感じた。
 今回の視察では、今後の当所活動に活かせる事例としていくつかのヒントが得られたと思う。

 報告者/企画総務部総務管理課長 橋本 英徳


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