会報「商工とやま」平成27年2・3月号

誌上講演会 「まちづくりセミナー」
日本一元気な商店街から活性化の取り組みを学ぶ

ハードとソフトで次世代を育てる

 赤羽スズラン通り商店街振興組合 理事長 森岡 謙二氏


はじめに


 私は、赤羽スズラン通り商店街の理事長と赤羽全体の8商店街から成る赤羽商店街連合会の会長を兼務しています。他に、東京都北区の教育委員を3期、二科会の評議員、審査員を務めていますが、このような役職に就いていたことがこれからお話しするスズラン通り商店街の振興に非常に役立ちました。

 実は、富山に来るのは初めてですので、富山に関するニュースを見てきました。富山湾が世界で最も美しい湾クラブに加盟した、あるいは高品質の漢方薬が開発されたという素晴らしいニュースがある一方で、商業地区に関しては、郊外型の大手のショッピングセンターに取られてシャッター通りが大変増えているという記事がありました。しかし、これは富山だけではなくて全国的な現象ですので、この機会に皆さんと一緒にどうしたらいいかを考えていきたいと思います。

スズラン通り商店街環境整備の経緯


 スズラン通り商店街(愛称「ラ・ラ・ガーデン」)の周辺にある幼稚園(再築)、プラウドシティ赤羽、クレヴィア赤羽等のマンション、ダイエーの店舗(再築)は全て、平成24年に完成しています。そして、北区立赤羽岩淵中学校が平成26年4月に開校しました。「地域に合わせた学校づくり」をコンセプトに完成したことで話題になっています。でも、これらは同時期に、偶然完成した訳ではありません。

 スズラン通り商店街には平成21年頃にまちづくり委員会のようなものがあり、独自の予算で200万円を計上して、勉強会を開いていました。主な課題の中に、平成9年に造ったアーケードのメンテナンス費用をどうするかということもありました。

 このアーケードは、長さは334m、高さは3階ぐらいで、道幅は12〜13mあります。ちょうど規制緩和の時だったので、「高度化資金」を借りて、30億円程掛けて造ったものです。ところが今では、道幅が8mでないとアーケードができないことになり、東京都内でこの高さのアーケードで道幅が13mの所はスズラン通り商店街だけになりました。運良くできたものの、電気代、腐食や天井の傷みなど、アーケードのメンテナンス費用が相当掛かります。それで、勉強会を始めている時期にたまたま「地域商店街活性化法」ができたので、それに応募することになりました。

 ところが、実際は、法律ができて初めての事業を素人が行うのは大変でした。私は、補助金をもらうのがこれ程大変なことかとつくづく思い知らされました。何度、埼玉の関東地方整備局へ行ったか分かりません。「商店街のやりたいこと、計画していること、特にソフト面を必ず2つ以上入れて計画を出してください」と言われたので、駐輪場や子育て支援、ミュージアムストリート、彫刻など、自分の関係していた役員の立場を活用していろいろなものを発案したわけです。

資金調達の苦労


 しかし、やっと認可が下りそうになったところで山にぶつかりました。1つは、「補助金が3分の2だから、3分の1だけ商店街で払えばいいのではないか」と思われるかも知れませんが、それは最後の決算の話で、初めはこの環境整備事業に掛かる約3億3000万円全額を商店街が用意しなければなりません。これをどうするかという問題です。

 その約3億3000万円を銀行から借りても、必ず個人保証を付けなさいとか、いろいろな条件が付きます。商店街の理事長だけならはんこを押す肝っ玉の太い理事長もいるのでしょうが、理事全員というと恐らく皆無だと思います。先の高度化事業の30億円は平成29年に返済が終わるのですが、それがあともう少しで返済が終わるという時に、また役員さんにメンテナンスといいながらも新たな補助金を取る話をするのは難しいなと思っていた時に、その高度化事業の資金が役に立ちました。

 高度化事業は平成9年に始めたのですが、20年で5年据え置きなので、返済は15年です。当時、据え置き期間を置かずに初めからお金を集めていましたので、5年間のお金が貯まっていたのです。その資金があったおかげで、私一人の保証を付けただけで、金融機関が全額融資してくれました。15年間の返済計画も認められて、申請はOKが出ることになりました。

 ところが、最後の最後に、モニュメントは補助金の対象にならないと言われたのです。彫刻には価格が高いものもあります。それで困って「彫刻部分は取り消しにする」と言うと、「この計画はなかったことにしてほしい」と言われました。私はすぐに緊急理事会を開き、彫刻のお金をどうやって捻出するかを話し合いました。

 私が二科会の審査員ということが役立ちまして、彫刻の先生方に協力を求めたところ、年に15万円、5年間の展示というリースで了解を得ることができました。その資金には、まちづくり勉強会のお金として計上していた200万円を急きょ振り替えることにしました。

 それで、やっとOKが出て、3億3000万円程の予算で環境整備事業を行いました。その事業が、以下にお話しするモニュメントや「ララちゃんのおうち」、照明のLED化、駐輪場の設置です。

各整備事業と課題


 現在はその各事業でいろいろな問題点が挙がっています。

@駐輪問題

 スズラン通り商店街は12時〜20時は歩行者天国です。この時間帯に雨が降ってくると、アーケードがあって駅に近いので、ここが無料の大駐輪場になるのです。緊急車両が来ても、一切入れません。ちなみに北区の赤羽は全国で不法駐輪がナンバー1で、ナンバー2は池袋です。

 それで、商店街の道幅13m、相互通行の道路の片側車道をつぶして一方通行にして、駐輪場を設けたのです。平成23年にこの対策を実施したところ、東京都がその成果を調べにきました。ワースト1が一遍にワースト4に下がったからです。週刊誌等でもかなり取り上げられました。しかし、無料駐輪場ですから、3年程経つと、今度はどんどんスズラン通り商店街に集中してきたのです。今は土日になると1000台はありそうなくらいで、本当にいっぱいです。

 1週間くらい前に初めて、北区の産業振興や駐輪対策の方から「一緒にどうしたらいいかを考えましょう」と話がありました。機械設置を検討しているのですが、周辺の空いているスペース全てに機械を設置するなら、うちも設置するというのがスズラン通り商店街の方針です。

Aリース後のモニュメント

 モニュメントは5体申請したのですが、設計上4体しか置けないことになって、吉野毅先生をはじめ、有名な4人の先生方にお願いしました。そのうち何カ月かすると、吉野先生が日本芸術院賞を受賞することになりました。恐らく近々、芸術院会員になられると思います。作品にはだんだん付加価値が付いてきています。リース期限が近付いてきたので、先生方に「あと1年延長して6年にするので、その後は寄贈していただきたい」とお願いし、幸いにも了解を得たのですが、これでまた別の問題が出てきました。

 それは税金問題です。問題は所有者です。北区が持つのか、商店街が持つのかということです。今は北区が保管・管理をしているので、税金が全部ただになっているのです。しかし、商店街で持つとなると、占用のような税金を払わなくてはならなくなります。また、付加価値が出てきてしまう可能性があり、吉野先生レベルだとやはり何千万円という資産価値がつくのです。ですから、あと2年程経つと、誰が所有するのかという問題が起きてきます。これはまだ全然解決していません。

B照明のLED化

 この事業で照明をLEDにして、電気代がぽんと半分になりました。科学の進歩のおかげですね。

 実はこの工事を始める時にあちこちに見学に行って驚いたのですが、暗い商店街が多かったのです。LEDの直下は確かにぱっと明るいのですが、その下まで行かないと明るくない。暗く感じるのです。それで補助金を申請する時の入札前に、各社のLEDのチェックをしました。業者任せにすることが多いそうですが、うちは全部比較し、一番明るくて、一番信頼のあるLEDを選択しました。その当時ではきっと一番明るいLEDが付けられたのではないかと思います。

C女性・子育て支援

 先ずソフト面をやりなさいというのが事業の1つのテーマでした。「ララちゃんのおうち」は、正直言って私は仕方なく研究し始めた事業ですが、今ではすごく評価されています。

 子育て支援を商店街でやるのは難しいと思っていたのですが、女性を支援するのはすごく大事というのがここ1〜2年で分かってきました。主婦の方たちは買い物をされる時にお子さんを連れて歩いてきますので、女性の評価が全然違うのです。ですから、この子育て支援を、初めはソフト事業のために補助金でやりましたが、今は本当にスズラン通り商店街で育てていきたいと思っています。

 というのも、子育て支援だけは家賃補助などの補助金が3年間で、それ以後は出ないのです。スズラン通り商店街には実は空き店舗が無くて、子育て支援をやるということで何とか場所を借りてスタートしました。それが5年契約なので、もうすぐ切れてしまうのです。残念なことに、息子さんへの世代交代をきっかけに更新をしていただけるか心配です。代替わりすると今15万円の家賃が、相場通り、最低でも35万〜36万円になるので、どうするかが課題となっています。

 そしてもう1つ、今、「ララちゃんのおうち」で子供の面倒を見る女性がいなくて困っています。スズラン通り商店街はいろいろな事業の相乗効果で売り上げが増えました。人通りも土日が少し下がるのですが、今は大体3万人ぐらいで推移しています。他方、国も北区も、保育施設をどんどん造っています。そのために保育士やベビーシッターが足りないのです。「ララちゃんのおうち」はNPOの関係で臨時雇いの待遇になっているため、条件のいいところにどんどん引き抜かれてしまうのです。今月も「ララちゃんのおうち」は予約でいっぱいですが、5年後にどうなるか、大変心配しているところです。

事業のポイントは人づくり


 私がこれらの事業を進める上で一番ポイントだと思うのは、やはり人です。特に事務を司っている方たちの育成をうまくやらないと、商店街の生き残る術はないと思っています。

 それは、ちょっとしたことを変えるだけで変わります。スズラン通り商店街では2年程前に定款を変えました。今までは役員は無報酬でしたが、報酬制にしたのです。夫婦で店をやっていると、旦那さんが役員で何かに出るときは店を閉めたりしなければならないので、少しでも役に立ちたいということです。その効果がもう出てきて、役員会に参加する人数が倍になっています。ですから皆さんも、組織に携わっている人達にきちんと払うものは払って、逆に評価もするという形で進んだらいいと思います。

 それから事務員の資金の問題があります。商店街の運営を司っていく事務員を雇うなら、商店街でそれなりのお金を払って雇いたいというのが私の方針です。ただ、お金はあっても、事務員の経費として500万〜600万円という資金を出したら、まず総会を通りません。  

フラッグ事業で資金調達


 これらの人材の資金をどうするか。今、進めているのがフラッグ事業です。商店街の用途で使うフラッグや横断幕は何も問題ないのですが、広告・宣伝媒体としてのフラッグ、横断幕は法律で規制されています。許可が出ないどころか、占用というお金を払わなければならないのです。

 東京都が許可する法律を作ったのでフラッグ事業を進めようとしたら、北区の交通課、占用課、道路公園課の規定に全部引っ掛かって許可されないというのです。でも、北区と商店街の日頃の共働が有効に働き、各部署が一緒になって検討してくれて、「モデル事業としてやりましょう」というラッキーな答えを頂きました。

 フラッグ事業は4週間で300万円程の資金を生みますので、これを事務局の育成に使いたいと思っています。

 今、これを赤羽の8商店街でも広めようと動いています。

地方再生のポイントに…次世代継承を考えたまちづくり


 次世代への受け継ぎを考えてまちづくりをしていかないと、街は衰退していきます。ただ、注意しなければいけないのは、次世代へ継承する場合は一代では駄目なのです。次々に世代が代わるたびに、確かに良い案はあるかもしれませんが、その代で終わってしまえば継承にはならないというのは、肝に銘じておいた方がいいと思います。

 私は、商業の方は目の前の利権に走ってしまうところがあると思います。スズラン通り商店街にあるダイエーは、私の父親の代に、確か役員が5人ぐらいで大阪まで行き、中内社長を説得して誘致したものです。その結果、北区の今の場所にダイエーが関東の第1号店を出店したのです。

 その当時から、大型店と共存共栄していかないと街は持たないという話がありました。ダイエーが出てきたら、今度は西友が出てくるわけです。そしてお互いに値下げ競争が始まりました。例えばダイエーが卵を1パック100円で売り出すと、西友が90円というように、主婦層の奪い合いをしていました。

 当時の役員達は、スズラン通りは駅から少し離れていて、隣に一番街という大きな商店街があるので、自分達が伸びていくためにダイエーを奥の所に誘致しようと考えたわけです。当時は、大店法で大型店の進出に大反対の商店街が多かった中で、スズラン通り商店街は、ずるいと言えばずるいやり方で口を閉ざしていましたが、今から考えてみれば、本当に次の次の世代を考えて行動してくれたのだと思います。

エキナカにどう対抗していくか


 今、スズラン通り商店街で一番問題になっているのはエキナカです。北陸新幹線が開業することは富山の発展に絶対に寄与すると思うのですが、私はエキナカの問題だけは、商店街の皆さんが団結して、皆さんに有利になることを考えないといけないと思います。

 赤羽でも昭和60年に新幹線が通った時に、JRのお店は改札の内か外かという問題がありました。駅の東西の交流を考慮してエキナカの外と内の相互通行を良くする、商店街を守るために改札内にすることになっていました。それがある日突然、東西の通路を全部閉鎖することにして、「JRの中のお店も一緒に競争する」と、結局改札外になったのです。ですから、開業以後、既存のキオスクや昔からあったテナントだけが残っているのが現状です。

 そして今、急激な変化が起きています。平成24年に突然、JRがエキナカ商業空間「エキュート赤羽店」を造ったのです。話し合いではなく、このようにやりますという説明会でした。カフェ、スイーツ、デリ、雑貨類のお店があります。これが出来てから、特にスイーツ関係のお店が急激に移動しています。もう殆どの人がエキナカで買ってしまうという状態になり、まちなかにはパン屋さん等がないのです。まちなかに残っているドトールなどのチェーン店もエキナカに出店していく流れになっていますから、今後どうなるか分かりません。

 JRは大体10年、5年という形で改革を進めてくるのですが、10年も経つと商店街の人間も代わり、そのいきさつを知っている人達がいなくなってしまいます。そういう時代の変わり目でポイントを握るのは、やはり事務局なのです。引っ張っていける人、分かる人を育成しなければならない。全国共通の問題と考えて取り組む必要があると思います。

 最後に申し上げたいことは、今、われわれ商業人がすごく弱く、おとなしくなって、ものを言わなくなってしまったということです。今日のような機会を捉えて、皆さんと一緒にどうすればいいかを考えていきたいと真剣に思っています。


●赤羽スズラン通り商店街振興組合

 赤羽スズラン通り商店街は、赤羽駅東口地区の7つの商店街の一角にあり、赤羽駅周辺の発展とともに順調に成長し、東京都北区の中では唯一中核的商業集積を形成。100店舗以上を抱え、道幅、天蓋アーケードは都内最大の商店街。

 平成25年には「オアシスアートラ・ラ・ガーデン」整備事業をスタート。空き店舗の活用による託児サービスや高齢者のためのコミュニティサロンや駐輪場の設置、著名作家の彫刻の設置など文化の香りが漂う安全・安心な商店街、暮らしの広場づくりとして地域住民の交流拠点を整備した。


※本稿は平成26年10月28日に富山県商店街振興組合連合会が主催したまちづくりセミナー(於/当所ビル)の講演内容を要約したものです。


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