会報「商工とやま」平成28年2月号

誌上講演会「まちづくりセミナー」
生き残る店・商店街になるために

 〜地域に愛される店づくり・商店街づくり〜 木暮経営企画研究所 代表 木暮衣里氏


 私は行政、商店街の両方からの依頼を受けて皆さんと一緒に活性化に向けて取り組んでいます。行政の方々にとっては担当業務として、商店街の方々にとっては自分たちのお店の仕事がある中で、ほぼボランティアという状況で、それぞれ大変な努力をされておられます。今日は皆さまと一緒に富山県の商店街、お店をどうすれば良くしていけるかについてお話させていただきたいと思います。


商店街活性化の3つの柱


 私が委員を務めた全国商店街振興組合連合会(全振連)の近代化研究会の平成24年度のテーマは「商店街の新たな可能性を目指して」でした。そのときに挙げられた3つの柱をまずご紹介します。
 1つ目が、集積としての魅力づくりです。いくら商店街でイベントなどをしたとしても、お客さまにお金を落としてもらわないと、一般的に考える活性化にはつながりません。
 実のところ、お客さまは商店街に買い物に来るのではなく、自分の気に入ったお店に来るのです。現在ある1店1店がいかにお客さまを呼べるかがポイントで、そういう店が集まって商店街の魅力となると思うのです。
 2つ目が、強みづくりです。たくさん商店街がある中で、何か他とは違う部分があり、強く印象に残るということがブランドのポイントです。では、現代の商店街の強みづくりには何があるのかと考えると、再生、創造、発信の3つだろうと思います。
 再生で有名なのが豊後高田の昭和の町です。7つの商店街と商工会議所の方々が昔のまちなみを再現しました。今ある資源をいかに輝かせるかが重要な点です。
 創造で有名なものには静岡県富士市の「つけナポリタン」が挙げられます。富山市では「ガラスの街づくり」を推進されていますね。
 また、発信というと、インターネットをすぐに考えてしまいがちですが、インターネットを使わない方も多いので、紙媒体なども併せて、常に発信し続けていくことが大切です。
 ホームページを開いている富山の商店街を調べてみたのですが、強みづくりでいいなと思ったのが千石町通りです。「千石こまち」というゆるキャラがあって、「がんこもん」という職人の町に住む職人の頑固さを表現したすごく良いテーマがあるのです。
 3つ目が、お得意さまづくりで、「喜ばせて、馴染んで、役立つ」がキーワードです。
 全振連の近代化研究会の中でこのキーワードが出たのは、ナイトカーニバルで有名になった埼玉県秩父市のみやのかわ商店街の事例があったからです。みやのかわ商店街に行くと、きれいなまちなみなのですが、お店はぽつんぽつんとしかなくて、人が全く歩いていないのです。この商店街の一番有名な取り組みは「出張商店街楽楽屋」というもので、商店街のいろいろな業種の有志が手を挙げ、高齢者の施設に自分の商品を持ち込み販売するのです。そうすると、行った先の医療機関や施設、そこに入居されている高齢者のご家族が商店街のお客さまになってくれることで、商店街にきちんとお金が落ちているのだそうです。
 お得意さまづくりに関しては、砺波駅前商店街の取り組みもいいなと思いました。ここはアーケードをきれいに花で飾っていらっしゃるのです。また、射水の中新湊商店街の灯籠川柳の催しも、和の伝統を生かした大変良い取り組みだと思います。


商店街の苦悩


 活性化の取り組みをしていかねばならないことは分かっているのですが、思うように進まないところが非常に多いのが現状です。その要因となる商店街の苦悩を3つ挙げてみます。
 1つ目は、圧倒的に「組織力が弱体化」していることだと思います。かつては「モノ」を販売するお店が集まっているのが商店街というイメージでした。今はそういうお店が少なく、新しく出てくるのは美容院や飲食店、整体やマッサージなど労働集約型のお店で、商店街活動に人を出すのはなかなか難しい状況だと思うのです。さらに、「モノ」を販売するお店と、飲食・サービスのお店とでは、イベントをしようとしても必ずしもニーズが一致しないという問題があります。特に今は高齢化で後継者がいない中で、人もいない、アイデアもない。お金はいろいろな助成金が利用できるだろうけど、それに取り組むだけの時間もないことがとても多いと思います。
 2つ目は、商店街に期待される「社会的責任の重さ」です。コミュニティーの中心になりましょう、高齢者の面倒を見ましょう、子育て層を何とかしましょう、環境問題に取り組みましょうなど本当に大変だと思います。こういう社会的責任を果たすことは大切ですが、それによってすぐに活性化できるかと言うと、そう簡単にはいきません。
 3つ目が「地域住民やお客さまとのギャップ」です。振興組合法ができた昭和37年頃は商店街に楽しみがぎっしり詰まっていました。今は大型店等が行う大掛かりなイベントに慣れ、目の肥えているお客さまが「商店街に行ってみようか」という気になるほどのイベントや仕掛けづくりはとても大変なことです。


活性化を実現するために


 では、どうすれば活性化を実現していけるのでしょうか。やはり女性や若者の力、さらに連携の力が絶対的に必要と言えるでしょう。
 例えば、富山市中央通り商店街の「さんぽーろママSUN会」の取り組みは面白いと思います。今、20人で活動されていて、近々、アーケードや空き店舗に小学生の子供たちの絵、約880点を展示する絵画展をなさるそうです。土曜日には農業高校から仕入れたシクラメンを飾り、また販売もされていて、これが17年も続いているのだそうです。
 また、高岡市の末広町商店街のがんばるおかみさん会「べっぴん倶楽部」では、商店街のゴミ拾いをしたり、万葉朗唱の会のときに万葉喫茶「べっぴん」を開店しています。この1年ほどは人数が集まらないので活動されていないそうですが、たまに集まって話し合いをされておられるようですので、「また何かしてみようか」という声が出ると良いと思います。


連携先候補


 アンケート調査で連携先を聞くと、行政、商工会議所、まちづくり会社と答えられる商店街の方が結構いるのですが、これは厳密に言うと連携ではなくて、支援だと思います。
 連携先としては地域内外の商店街、町内会、老人会等は非常に伝統的なところだと思いますが、教育関係では小学校のママさんクラブや高校生というケースもあり、学校側でも商店街と一緒に何かやろうというところが多いと思います。
 最近非常に増えているのがNPOとの取り組みです。NPOは専門性が高く、子育てや障害者支援、高齢者支援、環境など様々な分野で商店街のとても大きな味方になってくれると思います。商店街には行政とのつながり、まちとのつながり、横とのネットワークがあります。子育て支援をしたい、高齢者支援をしたいといっても、そういう場がない、行政とのつながりもない、お金も自分たちでは準備できないという連携先があれば、商店街の場所や組織をうまく活用してもらえるような仕組みづくりを考えるべきだと思います。
 また、地域内外の大型店や企業との連携もあると思いますが、九州で今すごく多いのが医商連携、医療機関との連携です。全振連の青年部長が所属する熊本市の健軍商店街では、商店街の近くにあるクリニックや医療機関と連携してマップを作り、健康筋肉体操をしたり、空き店舗に看護師に来てもらって血圧を測ったり健康相談に乗ってもらうという取り組みをされているのです。
 それから、私が一番好きなのが学生との連携です。私は美大生と連携する活動をよくするのですが、富山市でも平成25年度から「学生まちづくりコンペティション」をしていますね。これはもう3年続いているのですが、学生グループに街なかを賑わせる企画を出してもらい、採択したものに一定の金額を補助するものです。そして、学生と企業、商店街が一体になって、学生の目線で作り上げた企画でまちを盛り上げていきます。今年度は商店街の中でウエディングを行うなど、面白いことを企画しています。


連携のポイント


 連携して何かを行う際には、「目的」を明確にする、互いの「ニーズ」や「メリット」を尊重する、「ポジション」を考えることがポイントです。
 連携の「ポジション」を考えるというのは、商店街が主体となるか、他がなるかで目的や相手との関係も変わってくるので、それを考慮するということです。必ずしも商店街が主体でなくても、相手の企画に乗ることがあっても良いと思います。
 他に重要だといつも思うのが、「キーパーソン」です。その現場、仕組みをよく知っていて、物事を動かせる人がキーパーソンであり、それをいかに発見するかが大切と思います。
 そして、多様な組織を招き入れる「開かれた商店街」への脱皮です。商店街を舞台に、いろいろな連携先がどうしたら楽しんでくれるか、協力してくれるかという視点も必要でしょう。
 よくよく見ればいろいろなところで「小さな連携の芽」があるので、それを商店街の全体的な取り組みに繋げるといいと思います。
 富山県商店街振興組合連合会(県振連)の青年部長さんのお話によると、富山県の青年部も、他県と同じく人数が減って、多い時代は40人近くいたメンバーが、今は5人になったそうです。それで、県振連に限らず他所の商店街、あるいは個店で面白いことをやっている人や情報を持っている人とSNSなどで繋がりをもち、情報交換する仕組みを整えたりしておられます。これからはそういった青年層や若い女性たちが、いろいろな商店街、個店等と連携を深めながら活躍していくのだろうと思います。


青年・女性が活躍するポイント


 青年部や女性会の皆さんが活躍し、これからも若い方々が希望をもって起業できるように、商店街としてのビジョン・将来展望を描くということも重要です。東京の自由が丘商店街は、12の商店街で1つの振興組合をつくっているのですが、そこがどうしてここまで高い人気を持って生き残っているかというと、1980年代、商店街がコミュニティー機能を持った人間的な都市空間を取り戻そうという機運が高まった中で、新旧の経営者みんなで話し合って、商店街の先輩達が守って来た「自由」という地名を大事に、自分達の手でビジョンをまとめたからだと思います。ビジョンに向かって進んでいくときには、目標となる存在が大変励みになるものです。まちづくりや商店街活動などの事業でも良いですし、お店を頑張っている先輩女性や若い方などの人でも良いので、目標があると青年部や女性会の活動も非常に楽しくなると思います。
 ただ、青年部、女性会の活動は試行錯誤が大事だと思いますので、例え失敗しそうでも、親会の皆さんにはそれを温かく見守る懐の広いところを見せていただければと思います。親会以外の第三者の応援者の存在が助けになることもあるでしょう。


個店の活性化の問題


 私が見ている限り、個店については3つの問題があると思います。
 1つ目は、経営者が自店の価値や存在意義を明確にしていないこと、2つ目に、売り場づくりや情報発信が弱いことです。
 戦後、物が飛ぶように売れた時期には、商品がありさえすれば、特に売り場づくりを考えなくても、情報発信もしなくても良かったでしょう。しかし、今はお客様に来ていただく工夫と努力は必須です。
 3つ目に、経営者が自店のこと以外にやることが多過ぎるのです。商店街にいろいろな問題が持ち掛けられたり、地域から声が掛かれば誰かが対応しなければなりません。自店のことを考えようと思っても、経営者であるご主人はいつも不在がちで、時間がない。私はこれが一番大きな問題だと思います。


個店の活性化ポイント


 個店の活性化も商店街の活性化と一緒で、強みをつくってお得意さまを増やすことです。私が商店街の活性化でご支援させていただく時には、まず、意欲ある女性や後継者のいる店を集中的に回り、経営者から今までのお店の歴史を聞きます。経営者の悩みや今後への想いなどを徹底的に聞いて、売り場の魅力アップや情報発信など、私も一緒になって考えていきます。
 例えば、売り場の魅力アップは全体的に変えられなくても、お店の見た目、ディスプレイを少し変えるだけで、お客さまもお店の方も「何て新鮮なんだろう」となり、それだけでモチベーションが上がるものです。
 平成24年度に富山県が行った「商店街繁盛店づくりモデル事業」に携わって、私が訪問した10店のうち、2つの呉服屋の例をご紹介します。
 一方は、もともと呉服屋で洋服や下着も扱い始めたお店でした。かわいい呉服用の小物や洋品雑貨がたくさん置かれていましたが、その並べ方に脈絡がありませんでした。それで、毎月でも毎週でもいいから、手ぬぐい、手提げ、アクセサリーなど、1分野を選んでまとめてディスプレイし、「手ぬぐいフェア」「手提げフェア」というように打ち出すよう提案しました。お嫁さんを中心に早速取り組まれて、次に行ったときはフェアの年間計画を作って、すごく生き生きとしたお店になっていました。
 もう一方は小さな呉服店でしたが、裁縫が得意な後継者さんが在庫の反物を活用し、かわいい洋服やバッグを作って、安い値段で売っておられたのです。それを店頭の一番目立つ場所に置くように提案したら、それがどんどん売れていきました。
 それから、個店の活性化にはコミュニティー機能を付加することも重要です。お客さまがお店に来て物を買うだけではなくて、おしゃべりして楽しんでいってもらうコミュニティー機能が今は求められますので、サロン、教室、あるいは一緒に外にお出掛けするといった何か楽しませるプラスアルファを考えていきます。
 個店にとっては、売り場の魅力アップや情報発信、コミュニティー機能の付加などの取り組みをどう繋げるかが課題になるのですが、専門家に依頼するのも方法だと思います。


終わりに


 私はいつも、商店街にしても個店にしても、そこでやっている人がどう活性化できるかが一番大切だと思って取り組んできました。どこの皆さんも、悩みながらも一所懸命に活動しておられます。そこに関わる人たちは立場も性格も違い、意見の擦り合わせは相当に大変で、エネルギッシュに前進するタイプとじっくり考えて動くタイプが衝突することもあるでしょう。そんな時は、その両方を繋ぐ役割を誰かが担うか、第三者に入ってもらえばまとまりやすくなります。お互いに理解し合い、高め合えるような方向性を皆さんで見つけていくことができたら、それが地域の活力となっていくと思うのです。


※ 本稿は平成27年10月26日に富山県商店街振興組合連合会が主催したまちづくりセミナー(於/富山県民会館)の講演内容を要約したものです。
●講師プロフィール
木 暮 衣 里 氏
 学習院大学経済学部経営学科卒業後、輸入家具販売会社ショールームに勤務。1991年に経済産業大臣認定・中小企業診断士の資格取得。東京経営企画センター小浜事務所を経て、1992年木暮経営企画研究所設立。
 2003年に早稲田大学大学院商学研究科にて「街と店のブランド構築」について研究。修士号を取得。
 「楽しく・わかりやすく・具体的に」をモットーに、自動車からコンビニエンスストアまで、幅広い分野でのコンサルティングやスタッフ研修、商店街・中心市街地活性化支援を行う。  平成24年度の富山県「商店街繁盛店づくりモデル事業」では講師・アドバイザーを務める。
 現在は産業能率大学・経営学部兼任講師、東京都武蔵野市の商業活性化コーディネーターなども務める。
 主な著書に『モテモテ販売員の接客術』、『接客の心理学』(ぱる出版)、『はじめての接客』(フォレスト出版)、『できるリーダーになるたった5秒の習慣』(中経出版)、『あなたのお店をブランドにしよう!』(すばる舎)など。

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