会報「商工とやま」平成28年5月号

シリーズ 老舗企業に学ぶ23
一世紀を超えて受け継がれてきた大工の技と心 有限会社北岡工務店


 富山市向新庄で一世紀以上にわたり、家づくりの技を受け継いできた有限会社北岡工務店。確かな腕を持った大工職人としての歩みと、家づくりの特長について、代表取締役の北岡好夫さんにお話を伺いました。


明治33年に創業


 有限会社北岡工務店は、明治33年(1900)に、初代の北岡松次郎さんが当時の新庄町荒川村(現富山市荒川)で創業したのが始まりです。
 「松次郎は私の曾祖父ですが、その父親の覚右衛門も大工をしていました。松次郎は明治33年に分家して独立し、商売を始めたのです」
 空襲ですべて焼けてしまったため、過去帳など、その後の詳しい資料は残っていませんが、祖父で二代目の清直さん、そして父で三代目の兵二さんが家業を継承していきました。昭和25年には北岡工務店を設立しています。
 北岡社長も幼い頃から、祖父や父の仕事を間近で見ながら育ちます。
 「祖父も父も頑固な職人でした。ずっと一般住宅の建築を手がけていましたが、絶対に手を抜くことはなく、気概を持って一軒一軒、大切に取り組んでいました。祖父も元気なうちは自転車で会社まで来ては、いつも、いろいろなものを作っていましたね」
 昭和48年には向新庄に作業所を移転しています。



道具の手入れがすべての基本


 北岡社長は昭和25年生まれ。高校を卒業後、父の兵二さんの元で大工の修行を始めました。
 「昔の親方や職人たちは弟子に手取り足取り教えるということはありませんでした。親方の仕事を見て、自ら勉強し、そして、悩みながら仕事を覚えていったものです」
 兵二さんから教わったのは、まずは道具を大事にすることでした。
 「例えば、カンナの歯の裏側がきれいに磨かれていないと、木を削っていても、すぐに刃がこぼれてしまいます。また、ノミの頭の納め方など、道具を見ればきちんとした大工かどうかはすぐにわかります。やはり、道具の手入れは大工の基本。いい道具が、いい仕事をしてくれるんですよ」
 かつては板に平面図やそれぞれの場所の柱の高さなどを記した「矩計(かなばかり)」をつくり、それをもとに木材に墨付けしては家を建てていました。柱の高さや向きなど、矩計を基準にしながら、すべての材料についての情報を頭のなかに入れていくことも兵二さんから教わりました。現在はプレカットがほとんどですが、いまでも北岡社長は矩計を作成しておられ、その方がパソコンよりも、より詳細な寸法が分かるのだそうです。



樹齢数百年の立山杉を使って


 また、父の兵二さんについて、特に印象に残っている仕事を伺ってみました。
 「私が修行に入って間もない頃、父は樹齢数百年の大きな立山杉を使い、茶室を兼ねた座敷づくりをしたことがあります。柱、天井板、回り縁、そして、建具などのすべてに、その立山杉を使うため、自分で図面を書き、柱が何本取れるかといった計算をしながら、取り組んでいたのを思い出しますね」
 滅多に手に入らない貴重な材料である樹齢数百年の立山杉。木の個性とその使い方を見極めながら、見事な職人技で、全体に統一感のある美しい仕上げを施していったそうです。
 仕事にとても厳しかった兵二さんから、難しい課題を次々と与えられ、鍛えられていったと振り返る北岡社長。20代で二級建築士や技能士などの資格も取得しながら技術を磨くうちに、早くから墨付けを任されるようになりました。30代になると、現場の主な仕事全体を管理していたそうです。
 平成7年には有限会社北岡工務店へと法人化し、会社も現在の場所へと移転しました。平成14年には好夫さんが社長に就任。兵二さんは一昨年、94歳で亡くなりましたが、晩年まで道具を大切に手入れし、趣味として大工仕事をすることを楽しみにしていたそうです。



時を経ても変わらぬ美しさ、強さ


 元来、大工職人たちは、特に仕口や造作などの部分で、丁寧な仕事をすることに努めてきました。なぜなら、そこは、大工の技量が表れると同時に、家を長持ちさせるための要になる部分だからです。
 「金具を使わない、昔から大工が大事にしてきた柱の組み方などの技術を、私もやり直しをさせられるくらい、父から徹底的に教えられました。
 最初から最後まで、きっちりとした仕事をして家を完成させ、お客さまに引渡しますので、当社で手がけた家は何十年経っても異常も、狂いも出てきません。完成後、わずか10年、15年で手直しするといった必要は決してありません」



富山県産の無垢材の家


 北岡工務店では、天然の木、無垢材での家づくりを基本としながら、リフォームや新築など、さまざまなご要望にお応えしています。富山で育ち、富山の気候風土に合った富山県産スギやヒノキ、マツなどをふんだんに使った住宅は、いずれも木目の美しさ、良さが活かされていて、強度も十分あります。
 「1本、1本、木には個性があり、すべて違っています。1本の柱をどこに、どんな向きで、どう使うかを考えながら家づくりを進めます。無垢の木を使えば仕上がりの美しさはもちろんのこと、ずっと、長持ちする家になります。施主さまも、職人も思いを込めて、丁寧につくっていくことができるのです」



高い評価を得る風格ある佇まい


 北岡工務店では伝統的な家から、モダンな住まい、洋風住宅まで、さまざまな住宅を手がけており、多くの顧客から支持されています。木の温もりと風格ある佇まいが高く評価され、平成17年には『とやま木造住宅コンクール最優秀賞』を受賞しました。
 地元の杉などの無垢材や漆喰の壁、民芸調の造作家具など、長年にわたり自然素材の良さを見極めてきた北岡社長ならではの技と意匠、そして、思いが宿っています。
 「当社で手がける家は、いずれも冬は暖かく、夏は涼しい家です。手間はかかりますが、これからも1本、1本、木の顔を見て、それを活かしながら、個性ある家づくりを続けていきたいですね。それはやはり、職人にしかできないことだと思います」
 家づくりの中でも特に和室や茶室などには、職人としての高い技術と経験が必要になります。お茶についての作法や知識を学ぶことも必要だと、北岡社長は父からお茶を習うように勧められました。日本の文化を深く理解しながら、技を受け継いできた丁寧な仕事振りが、ここにも表れています。平成3年には兵二さんが勲五等瑞宝章を、平成12年には北岡社長が優秀施工者建設大臣顕彰を受賞しています。
 一方で、現代の家づくりでは、和室のある家は減り、和室や茶室などを手がけることができる高い技能を持った大工職人がどんどん少なくなってきているのも事実です。
 「大工、左官、建具屋、畳屋など、伝統的な日本建築の技術や文化は、いままさに危機的な状況を迎えています」と話す北岡社長。これまでも人材育成に取り組んできたそうですが、もはや、一社で改善できることではなく、今後に向けて、社会全体での大きな課題となっています。
 木を活かし、時が経っても味わいを増す美しさ、強さ、そして快適さが続く家を、高い技術を持つ職人たちが手がける北岡工務店。新築、あるいはリフォームをお考えの方は、一度、相談しみてはいかがですか。


有限会社北岡工務店
富山市向新庄町8丁目4−56
TEL:076−411−5545

●主な歴史
明治33年に初代、北岡松次郎さんが富山市で創業 
二代目清直さんが継承 
三代目兵二さんが継承  
四代目好夫さんが継承、平成14年に代表取締役に就任