会報「商工とやま」平成28年12月号

シリーズ 老舗企業に学ぶ28
伝統と革新は老舗の暖簾(のれん)を継承していくための両輪 有限会社女傳(おんなでん)商会


 富山県内で最も古いかまぼこ店である有限会社女傳商会。昆布巻きかまぼこを発案し、富山のかまぼこを全国に広めてきました。
 進取の精神に富む同社の足跡と展望を、六代目で代表取締役社長の女川弘さんにお話を伺いました。



嘉永3年に創業 かまぼこを富山城主に献上


 有限会社女傳商会は、初代の女川傳右ェ門さんが嘉永3年(1850年)に創業。当時の富山城主・前田利友公に献上したのが始まりです。当時、いたち川と松川が合流するあたりには魚市場があったそうです。
 「初代の傳右ェ門は、富山湾の魚を使ってかまぼこの製造を思い立ち、屋号を『女傳』と定めました。地の利を生かして新たな商売をスタートし、富山城主に献上するなど、なかなかのアイデアマンでした」と弘さんは話します。
 二代目は傳右ェ門の名を継いだものの、傳一郎に改名。その後、五代目まで傳一郎を継承します。
 「二代目も豊かな発想で、その後の定番商品となる、北前船で運ばれてくる北海道産の昆布を使った昆布巻きかまぼこを誕生させました。弊社では昆布巻きや赤巻きなどの渦巻きかまぼこを総称して献上巻と呼んでいます」
 三代目以降も独自のアイデアで、女傳かまぼこの存在感を高めていきます。時代に即して商品を開発し、販路を拡大していく意気込みは、現社長の弘さんにも引き継がれています。
 「三代目は鮮魚の流通システムを確立することに尽力しました。四代目は戦後の物資がない時代に合弁会社の富山蒲鉾製造販売所(現在の(株)梅かま)を立ち上げ、軌道に乗った後は女傳に戻り、昭和30年代から当時はまだ珍しかった通信販売を始めています」



心配りの行き届いたサービス


 歴代社長について、特に印象に残っている仕事を伺ってみました。
 「四代目が、贈答品の発送日をわざわざはがきで知らせていたことです。ネット社会となった現在ならいざ知らず、大量生産が一気に加速した高度成長期に、量だけでなく質を高め、心配りの行き届いたサービスを始めていたことは驚きです。
 先代、先々代から引き継いできた全国のお客様は、今では膨大な顧客データとなっています。一時期、かまぼこの消費量が激減し、苦しい時代もありましたが、何代にもわたってお付き合いが続いているお得意様は命綱でした。私の代で挑戦しているのは、新たな客層の開拓。邪道だと言われることは覚悟の上で、まったく新しい発想の商品を提案しています」
 五代目の在任中、現社長も手伝って開発したチーズを混ぜ込んだかまぼこは、ロングセラー商品となっています。
また、瓶詰めのオイル漬けかまぼこは、パプリカやブラックオリーブなどとイタリアンドレッシングを合わせてあり、一見するとチーズのよう。和食の材料という固定概念を打ち破り、オードブルやビール・ワインなどの洋酒に合うつまみとしての食べ方を発信しています。
 「中心が一つの円ではなく、中心が二つ以上ある楕円を目指す発想が大切です。これだけ食文化が広がると、お客様のニーズに応えていかねばなりません。中心の一つは献上巻、白雪(やわらか)、雁がね(焼きかま)などの定番商品。そしてもう一方は、チーズやオイルと合わせた商品などです。女性の視点を意識すると、ヒットにつながると感じます」



繊細な菓子かまぼこ


 伝統と革新は老舗の暖簾を継承していくための両輪だといえるでしょう。弘さんは、ほかの業界から学ぶ姿勢を常に大切にされているようです。
 5年前に和菓子のように繊細な「菓子かまぼこ」という商品を発売しました。これは老舗和菓子店の社長のアイデアからヒントを得たそうです。
 「富山のかまぼこは大きすぎるからもっと小さくした方が良い、ということや、渦巻きかまぼこに季節感がないことを指摘され、菓子かまぼこを考案したのです。前田家にちなんで梅の形で、桜、枝豆、銀杏、エビなど四季の食材を合わせた小ぶりの商品にしました」
 10年ほど前からはOEMでブリやホタルイカなどの加工品も扱っています。
 「富山を代表する海の幸も、富山に来なければ味わえないというのは残念に思います。魚介類は現地で味わう新鮮なものが一番おいしいのは百も承知ですが、かまぼこを遠方の方へ送る際、ブリやホタルイカを味わっていただくきっかけになれば幸いです。
 また、かまぼこに加工品を合わせることで素敵な贈答品になると考えています。ほかにもチーズの入った商品を複数種類集めてデザイン性が高いパッケージに詰め合わせた商品もあります。
 お客様の要望に応え、満足していただこうとする気持ちを大切にしていきたいですね」



材料は本物にこだわる


 かまぼこの始まりは、魚のすり身に串を刺して焼いた調理法によります。一説では、串に刺したすり身が植物のガマの穂に似ていたことから、蒲鉾≠フ語源になったとか。かまぼこは歴史が長く、奥が深い食べ物です。
 「女傳のかまぼこは、淡白な中に魚本来の味が色濃く残る味わいです。黄グチ、ハモ、ミギスなどのすり身を石臼で練り上げて作ります。水は軟水で、またミネラル分を豊富に含む赤穂の天塩や隠し味としてモンゴルの岩塩を使います。焼きかまぼこの表面に塗るみりんは、3年熟成させたもの。材料はとにかく本物にこだわっています」
 ほかにも、砂糖は優しい甘さで体を冷やさないとされるてんさい糖≠使用します。材料の選定、製法のすべてに理由があり、最上の仕上がりを目指しています。味の追求に妥協はありません。熟練の職人は女傳一筋約40年、初代傳右ェ門から脈々と伝承される技を受け継ぎ、培った目と舌と手を頼りにかまぼこを練り上げます。主な工程を手作業にすることで、機械による生産では決してできない味わいを出しているのです。
 「素材へのこだわりは13年間、総合スーパーで肉のバイヤーとして勤務した経験からではないでしょうか。同じ種類の牛でも雄雌、育て方などで味はまったく異なります。魚や調味料も同じことが言え、厳選された素材を使うことで、品質、安全性を担保できます」



きときと市場とやマルシェに出店


 高たんぱく食品で、様々なシーンで求められるようになったかまぼこ。弘さんは柔軟な発想と独自のアイデアで販売戦略を立てておられます。
 「ブランディング戦略の一つとして、ガマの穂の中に女傳と書いた新しいデザインのロゴマークをつくりました。また、ロゴとは別に「鄙(ひな)びた」の鄙≠ニいう字をラベルや紙袋などの模様として印刷しています。
 雅(みやび)とは対極にある地方の温かみのある味わいをアピールしたいですね。
 また、昨年3月に『きときと市場とやマルシェ』に出店しました。高級感のある店づくり、包装紙、化粧箱、発送専用紙袋、ダンボールにまでデザインの統一感を持たせています。
 大切な方への贈り物にしていただいたり、一緒に召し上がったりしていただきたいですね」
 きときと市場とやマルシェの店内には行くたびに目を引く商品が並んでいます。面白いものがあるかまぼこ屋さんとして、富山県民にも観光客にもすっかりおなじみ。丹念に練り上げられたすり身の伝統の味と、新しい味覚やデザインとのコラボレーションなど、今後も女傳のかまぼこから目が離せません。



有限会社女傳商会
富山市新川原町5‐19
TEL:076−432−2107

●主な歴史
嘉永3年、初代傳右ェ門が富山湾の魚を使ってかまぼこの製造を思い立ち、時の富山城主前田利友公に献上。屋号を「女傳」と定める
大正初期、二代目傳右ェ門改め傳一郎が北海道の昆布を使って「昆布巻き蒲鉾」を創作
昭和7年、三代目傳一郎が富山冷蔵を設立。鮮魚の流通システム充実に貢献
昭和17年、四代目傳一郎が国策のもと、富山市内の蒲鉾業者と合同で富山蒲鉾製造販売所を開業
平成19年、六代目社長に弘さんが就任
平成27年、北陸新幹線開業に合わせ、「きときと市場とやマルシェ」に出店