会報「商工とやま」平成29年10月号

シリーズ 老舗企業に学ぶ37
人のつながりが「まちの電気屋さん」の看板支える 株式会社K−DIC(ケィ・ディック)


 株式会社K−DIC(ケィ・ディック)は明治25年(1892年)ごろに「黒田金物店」として創業し、約125年の歴史を歩んできました。電気釜などの家電製品が普及し始めた時代に電気屋に転じて躍進し、地域とのつながりを密にしたサービスを充実させています。「まちの電気屋さん」として地域に愛され続けている同社の黒田保光社長と、社長のお父様である黒田保之助会長に話を伺いました。

長柄町に「黒田金物店」を創業


 初代店主・黒田才之助さんは、稲刈り用の鎌、炊事用の鍋・釜などの金属製品のほか、ほうき、ござなどの家庭用品を扱う店として、「黒田金物店」を富山市長柄町に開業しました。その店を才之助さんの息子である宗平さんが二代目として引き継ぎ、長男・保之助さん(現会長)が後に三代目となります。
 金物屋から電気屋になることについて、保之助さんは、「金物屋の一角に電機部を構えて家電製品を扱うようにしたのは母(ソノさん)のアイデアです。各家庭では、かまどで鍋釜を使ってご飯を炊いていたのが電気釜になるなど、家電製品の普及が進んだ時代でした。台所から時代の変化を敏感に察したのでしょう」と話します。
 金物屋に併設されていた電機部は、時代の流れに合わせて拡大され、「まちの電気屋さん」になっていったのです。



利は元にあり。時は金なり。


 保之助さんは、富山商業高校を卒業した後、大阪の因幡電機産業株式会社で5年8カ月にわたって修業をしました。最初の2週間は、「国誉(こくよ)(現在のコクヨ株式会社)」の創業者である黒田善太郎さん宅で居候をしたそうです。初代・才之助さんの母・トキさんが、善太郎さんのいとこにあたります。富山を離れ、大阪に出て成功した善太郎さんの暮らしぶりや、事業主としてのスケールの大きさに触れたことも20代の思い出です。
 修業を終えて故郷にUターンし、家業を継いだ保之助さんは、昭和47年、富山市新根塚に倉庫を建てました。「善太郎さんから授かった言葉が、倉庫の新設を後押しした」と振り返ります。「利は元(仕入れ元)にあり。時は金なり」。倉庫の充実により、すぐに商品を届けられたことが得意先からの信頼につながりました。



地域のために


 保光さんは、平成21年に社長となりました。社屋2階にイベントルームを作り、無料で「IH使い方教室」や「パソコン教室」などを行う他、PTAや青年経済団体の活動、県内の教育機関へ講演に出向くなど、地域との交流にも時間を割いています。保光さんは、トップセールスや現場対応で多忙な毎日ですが、「これまで地域に支えられてきたため、地域貢献の活動は当然」と話します。
 その思いを業界で共有しようと、保光さんは、県内の電気店で組織する県電機商業組合に青年部を発足。組合青年部で、高齢者世帯などでの家電製品を通じた「生活のお困りごと」に対応する新サービスを開始しました。「まちの電気屋さん」が連携すれば、幅広い地域のお客様に対応できるほか、お客様の自宅に訪問することなどにより生活を見守り、地域の安全により貢献できるとの考えからです。若手経営者が連携して暮らし全体をサポートすることにより、子供からお年寄りまでの全世代が住みやすい地域づくりのお手伝いをしたいと考えています。
 「インターネット販売や、大型量販店は、1円でも安く売ることがサービスですが、うちは価格競争をしていません。人のつながりで商売をしている会社です。いつものお客様から、『テレビが壊れたからすぐ持って来て!』と言われ、テレビの大きさや値段を聞かなくても、お客様が使いやすい商品を選んでお届けします。家の間取りに加え、お客様の生活スタイルを知っているからこそのサービスをこれからも提供していきたいのです」



女性スタッフで「チームきらり」


 K−DICは、よりソフトできめ細やかな相談業務ができるよう、今年4月に女性だけの営業スタッフ「チームきらり」を組織しました。重い商品の運搬や取り付け工事は男性社員へ引き継ぎますが、最初の相談・訪問時やパソコンの設定などは、女性スタッフが対応します。
 女性ならではの発想やニーズをしっかり受け止める体制を、一層強化していく方針です。



新しい事業展開とともに


 現在、日本の家電メーカーは苦戦を強いられていますが、「人の生活を楽にする」という家電の価値は変わらないはずです。
 K−DICが新たに行うのは、高齢者に特化したIoT(Internet of Things〈モノのインターネット〉/モノをインターネット経由で通信させること)製品による付加価値サービスを向上させる事業です。
 例えば、冷蔵庫の開閉や、血圧などの健康状態を遠方に住む家族に自動で通知したり、冷蔵庫内の牛乳が
少なくなったことをセンサーが感知し、自動で発注を行ったりする製品の普及に取り組んでいます。IoT製品の活用により、高齢者の生活を守り、お困りごとを解決できるほか、自立支援にもつながります。この事業は、国から補助金が交付されており、当補助金申請に係る事業計画の作成等は当所が支援しています。
 保光さんは、平成23年に「経営理念」を策定しました。そこには、父から受け継いだ「まちの電気屋さん」の心構えが生きています。  黒田家が代々大切にしていることは、「人のつながり」。時代に対応したサービスが、「まちの電気屋さん」の看板を支えてきたのです。



K−DICの「経営理念」


(1)私たちは、お客様の家族となり、暮らしに喜びを提供します。
(2)私たちは、人と人をつなぎ、思いやりの輪(和)を創ります。
(3)私たちは、ともに成長し、共に喜び、幸せに生きます。




株式会社K−DIC(ケィ・ディック)
富山市西田地方町2−12−3
TEL076−425−8650
●主な歴史
明治25年(1892年)ごろ 黒田才之助が長柄町で「黒田金物店」創業。
明治36年(1903年) 黒田宗平が誕生、長じて二代目となる。
昭和40年(1907年) 三代目の黒田保之助がK−DICの前身となる「黒田金物店電機部」をスタート。
昭和63年(1988年) 社名を「K−DIC黒田電機商会」に変更。
平成17年(2005年) 社名を「有限会社K−DIC」に変更。
平成18年(2006年) 西田地方町にショールーム兼社屋を新設。
平成21年(2009年) 社名を「株式会社K−DIC」に変更。社長に四代目となる黒田保光が就任。保之助は会長に。