会報「商工とやま」平成30年2・3月号

誌上講演会「まちづくりセミナー」

「ここ」ならではの資源と人を活かしたまちづくり
多治見まちづくり株式会社ゼネラルマネージャー 小口 英二氏


多治見市の紹介

 多治見市は、昭和15年に誕生しました。古くから陶磁器やタイルなど美濃焼の産地として発展し、昭和50年代の丘陵部の宅地開発や平成18年の市町村合併などにより、現在では11万人を超える東濃地方の中核都市となっています。名古屋から電車で30分程度のベッドタウンで、昼間は3万人程度が流出しますが、名古屋からのお客さんも多い所です。
 近年、夏の暑さが話題になっており、多治見は「日本一暑いまち」というPRをしてきました。最近聞いた話では、東京から移住しようとした人が「多治見は暑いから嫌だ」と言って、他県を選んだそうで、暑さはマイナスにも働きます。そのため、PRに使ってもあまり良くないのですが、地球温暖化が叫ばれる中、逆転の発想で、暑さ対策が先進的であるとPRすることで、地域の魅力につなげていければとも思っています。

多治見まちづくり株式会社

 私が所属している多治見まちづくり株式会社は、中心市街地活性化法ができたときにTMO(まちづくりを運営・管理する機関)として設立された会社で、市、商工会議所、地元信用金庫、商店街組合、地元企業が出資しています。現在、社長以下常勤役員1人、社員5人、パート20人が在籍しているほか、国の補助金も活用し、中心市街地活性化の専門家を2人招いています。中心市街地を構成する人・組織が市と連携してまちづくりをしていくのが当社の在り方です。
 商店街の課題には、後継者問題、お客さんの減少、空き店舗・空き地、建物の老朽化、宅地開発、郊外大型店の進出、若者の減少、まちの特徴がなくなっていること、地域格差など、いろいろあります。
 当社は、中心市街地再生のために官民連携の接着剤となって、まちの一員として持続的に現場で活躍することを経営理念に掲げています。また、商業の活性化、空き店舗の魅力づくりと情報発信をミッションとしており、多治見ながせ商店街などの多治見市中心市街地区で「まちを元気にする」事業を行っています。

美濃焼のまちならではの事業を展開

 具体的には、多治見ながせ商店街での「うつわとごはんカフェ温土」という焼き物をテーマとした飲食店の経営や、商品開発・物販事業、クラフトショップ(場所貸し事業)、テナントミックスや空き店舗への出店サポート、多治見駅北立体駐車場の指定管理、虎渓用水広場(多治見駅北広場)の運営、商店街との連携事業などを行っています。

・「うつわとごはんカフェ温土」
 うつわとごはんカフェ温土(以下、「カフェ温土」という)は、2010年にオープンしました。器をテーマにしていて、地場野菜などが食べられます。
 私は、まちの皆さんの意見を聞こうと、夜な夜な集まって会議を開いていたのですが、商店街の皆さんが集まることができる場所が少ないので、自分たちの拠点となる施設としても利用できるカフェを持つことにしました。
 店内では陶芸ができたり、美濃焼の器を使ってその場で食事を提供したり、展示販売するスペースがあります。編み物教室などいろいろなイベントも開催するなど商店街の会議や交流会も開くことができるお店になっています。

・「クラフトショップながせ」
 クラフトショップながせは、多治見ながせ商店街にある地域産品の展示販売を行う施設で、空き店舗を活用しています。当社の事務所を兼ねており、展示販売の他、集会や会議、コンサートや上映会など、多治見のまちなかに人が集うきっかけとなることをコンセプトとしたコミュニティスペースとなっています。テナントを募集し、入居が決まったら、また違う空き店舗をクラフトショップにして、2号館、3号館と増やしてきています。

・「商展街」
 6年前から、「商店街全体をギャラリーに」をコンセプトに、多治見ながせ商店街の各店で作家の陶磁器作品を展示販売する「商展街」というイベントを行っています。最初は、当社と酒屋と雑貨屋の3社だけで始めたのですが、1回やってみると、店舗と作家それぞれが持っているファンを共有することができ、ファンが2倍になるという成果がありました。
 それから、作家が店内に展示場所を作り、良いセンスでDMなどを作って情報発信をするので、店舗を活性化するきっかけにもなっています。
 徐々に市も参画し、市から一部予算をいただいた年もありましたし、予算がなくても同時期に行われる市のイベントのポスターやチラシに「商展街」の広告を載せていただいたこともありました。
 参加店は15ほどで、売り上げは作家、店舗、事務局(当社)が7対2対1で分けます。参加店舗を増やしたいと思っていますが、なかなか伸びない現状があります。なぜなら、儲かる店と儲からない店がはっきりするからです。例えば、子供用の服屋では子供向けの食器が割と売れるので、作家がその店に合ったものを展示販売するといいのですが、そうでなければ「売れないからもういい」という店舗もあるからです。
 ただ、このようなイベントを続けていくと、作家は商店街を何となく近寄りやすい場所と認識するようになり、いつの頃からかカフェ温土などでお茶を飲んでいる光景が見られるようになりました。私がカフェを始めたかったのも、そういう風景を作りたかったからです。

・「虎渓陶酔広場」
 中心市街地の賑わいづくりの拠点となっている虎渓用水広場で、平成28年に初めて、「虎渓陶酔広場」を開催しました。これは、美濃焼の盃で地酒を楽しんでいただくイベントです。チケット制で、9つの酒蔵に各3種類の地酒を提供していただくので、27種類のお酒を楽しむことができます。
 特典として、好きな盃を持ち帰れるようにし、会場では当日の専用通貨・タイルコインで料金を払ってお酒を飲めるようにしました。このイベントは、市外から来た方には非常に評判が良く、今後さらに改良していきたいと思います。
 これらのほか、当社ではテナントミックス事業を行っています。空き店舗を改装して、1店舗を2店舗に分け、きれいな内外装にして貸します。改装後には、入居者募集の周知をかねて、そこでマルシェイベントを行います。入居者の顧客ターゲットが共通する場合は、共同で広告を出すようなこともお手伝いしています。

今後の課題と解決に向けて

・郊外大型店との差別化
 今後の課題は、大型店の出店です。多治見のまちなかから車で約20分の所に、県内最大級といわれる大型小売店が4年後にオープンします。また、その近くには、既にアウトレットモールなどもあります。脅威ですが、我々はターゲットの違いをしっかり認識し、違う商売をするべきだと考えています。

・多治見らしさの期待に応える
 多治見は焼き物の産地で、地元の人にとっては焼き物が身近にあふれ過ぎて、「多治見では陶磁器は買うものではなく、もらうものだ」と言います。作家たちも「東京へ持っていくと、倍の金額で売れるのに多治見では売れない」とよく言っています。地元ではない人が多治見に期待しているものは何かということを、地元の人がきちんと理解し、この多治見の良さを再認識してほしいと思っています。
 当社では、各地から視察に来られた方々には、焼き物を作っている場所やミュージアムなどを案内します。すると、ものすごく興味を持ってくださって、「また来たい」「もう1泊してあそこにも行ってみたい」などと、リクエストをいただきます。  それから、多治見では春に「陶器まつり」(多治見市観光協会が実施)、秋に「茶碗まつり(多治見美濃焼卸センター協同組合が実施)」というイベントがあって、春は16万人、秋は15万人程度が訪れます。爆発的な来場者があるイベントで、この日になると多治見市内はもちろん、隣の土岐市や名古屋方面まで宿泊客があふれます。多治見ならではのものと多治見に期待するイメージがしっかりマッチしているから、これだけの人が来てくれるイベントになっているのだと思います。
 また、平成28年には、多治見に「モザイクタイルミュージアム」という産業観光の施設ができました。建築家の藤森照信さんが手掛けた建物で、雑誌にも取り上げられるミュージアムなので、とてもインパクトがあります。ここでは美濃焼モザイクタイルを張る体験などもでき、インスタ映えするような写真が撮れるそうで、若い女性がたくさん訪れています。市は当初、年間2万人程度の集客を見込んでいましたが、ふたを開けたら年間20万人に上りました。
 なぜこれだけの人が訪れているかというと、藤森建築の魅力と同時にモザイクタイルが多治見のイメージとして注目されているからだろうと思います。
 当社も、外から期待されていることを地元の人たちがきちんとやっているか、そして事業として自分たちがやっていることは本当に外の人が期待していることなのか、商店街に対する期待にきちんと応えられているのかを、いま一度考える必要があると考えています。
 多治見には良い場所がたくさんあるので、あとはその情報をきちんと発信していくことと、その場所に行きやすくすることが必要です。

・共通認識を持って行動
 商店街では年間行事を毎年同じようにずっと続けてきていますが、今後どうなるために現在の事業をやっているのかというと明確になっていない現状があります。どのような人がまちに来ていて、何に期待しているかをしっかり考え、進むべき方向を決めなければなりません。
 そこで平成28年には、多治見ながせ商店街のビジョンづくり委員会を立ち上げ、当社のほか、近隣の商店街や市民、市役所、商工会議所、地元の市民活動団体などに集まっていただき、商店街のあるべき姿を話し合う機会をつくりました。現在ではそれが発展して、商店街のメンバーが中心となり、朝会を始めました。朝7時半からみんなで朝食を食べながら勉強会を開いています。  しかしながら、商店街でいろいろなことをやろうとしても消極的な感が否めません。やはり自分の店の売上につながらないからだろうと思いました。そこで現在、儲けるための商店街づくりをテーマにして、データの分析や市場調査などをしています。さらに今後は、実際に儲けるための行動計画を作ろうと考えています。
 商売が順調な若手には、次の展開をそろそろ考えていこうという話をして、人気店が人気店を作っていくことも支援しています。  商店街として、個店として、まちづくり会社として、それぞれが何をするかという共通認識を持って行動することを目指しています。

・「はばたく商店街30選」に選出
 このようなことをいろいろ積み重ねてきたこともあり、平成28年に、多治見ながせ商店街が、中小企業庁の「はばたく商店街30選」に選ばれました。現在それを一つの励みにして、何とかまちを変えていこうと考えています。しかしながら、将来空き店舗が増え、10年後には半分以上の店が閉まってしまうと推測している専門家もいますので、このままでは駄目だという意識だけは皆さんと共有していきたいと思っています。
 当社のまちづくり事業が成功体験となり、まちの皆さんがもっとまちづくりに関心を持ってもらえるきっかけとなればと思っています。そうやって、まち、そして市全体が活性化することを期待しています。

※本稿は平成29年10月24日に富山県商店街振興組合連合会が主催したまちづくりセミナー(於/富山国際会議場)の講演内容を要約したものです。



●講師プロフィール
小口 英二 氏
 1979年長野県岡谷市生まれ。金沢大学で地理学を専攻(中退)。その後、株式会社金沢商業活性化センター(金沢TMO)に入社。2009年より多治見まちづくり株式会社のプロパー社員第1号として事業を推進している。
●多治見まちづくり株式会社
 多治見市の中心市街地活性化を担うまちづくり機関として平成13年12月に設立。
 支援している多治見ながせ商店街は、平成28年に中小企業庁の「はばたく商店街30選」に選ばれている。
●多治見ながせ商店街
 JR多治見駅より徒歩3分の位置にある、東西約400mの62軒のお店。街路灯には商店街女性部によるハンギングバスケットが飾られ、季節の花がシーズン毎に楽しめる。また、各所に防犯カメラを設置しているほか、商店街に公衆無線LANが設置されており来街者の安全と利便性に取り組んでいる。
・主なイベント
4月 春の手づくりクラフトフェアー
8月 夏のカーニバル、「夏の夜まつり・出逢いまつり」
10月 商展街
11月 多治見まつり・武者行列
12月 クリスマスフェスタ
1月 消防出初式・紙ふぶきパレード

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