当所と富山市が主催し、創業・設立から間もない優れた成長企業を表彰する富山市ヤングカンパニー大賞。平成30年度の大賞には株式会社「黒崎鮮魚」が選ばれました。代表の黒ア康滋さんによると、来年2月上旬から新店舗で鮮魚などの品揃えがWEBで確認できる「ライブ販売」を始めるとのこと。新ビジネスの展望や、ほかの分野と連携したサービスについてお話を伺いました。
仕入れルートを拡大
黒崎鮮魚は平成27年10月、株式会社になったそうです。鮮魚店を営んでいた黒アさんの父・明保さんと青果物を商う家から嫁いだ母・睦子さんが結婚し、スーパーの鮮魚部門を担っていました。個人事業主だったのを法人化し、新店舗へ移転して新しいビジネスに着手します。黒崎鮮魚は県内の全漁港の鮮魚を、手頃な価格で飲食店や消費者に提供しています。
「大学2年の時、父親がくも膜下出血で倒れたため、卒業後にUターンし、家業を継ぎました。平成10年ごろ、このあたりはスーパー3社がポイント合戦でしのぎを削り、当店の売り上げはどんどん減っていた。当時は素人だったので、どうしたらいいか悩みました」
慶應義塾大商学部出身の黒アさんは冷静に現状と向き合ったそうです。外部環境分析から自分の商売の強みと弱みを考え、商品特性を踏まえて商売をしたいと考えました。
「うちの商売の特徴は、(1)在庫がきかない、(2)価格の変動が大きい、(3)品質にばらつきがある、(4)安定供給が難しい、(5)商品が劣化しやすい――ということ。そこで仕入れルートを県内の全漁港にわたって開拓し、また、大きな水槽を2基購入していけすとして使うようにしました」
漁港によって漁の方法が違い、魚の種類も違う。毎朝、漁港に電話して情報を集め、「富山の朝獲れ」をできるだけ安く、新鮮なものを調達しています。時化で水揚げがなくても当分はもちます。
県西部や県外から来客
国道8号に近く、田んぼの真ん中にある黒崎鮮魚の駐車場は約20台分しかありませんが、ひっきりなしにお客様が来店されています。平日は約450人、土曜日は約600人も訪れるそうです。
「顧客の内訳は1割が飲食店の店主・料理人で、9割が一般の人です。売り上げで見ると飲食店は全体の6割、一般の客は4割となります。一般客の購入額は少ないですが、そういうお客さんに支えられています。商圏は広く、砺波方面や県外からもいらっしゃいます」
商品の品揃えは時間帯によって違います。午前9時半から同10時半までは飲食店の店主・料理人が食材を求めに来ます。店頭で「この部分を落として」などの要望にも応じます。同11時以降は一般の客向けの刺し身や惣菜が充実。商品には水揚げされた漁港のラベルが貼られています。
「飲食店の顧客を増やしていったのは自分の代からです。午前4時から漁港に電話をして水場げの状況を聞き、入ってきた鮮魚をSNSなどに投稿して、品揃えを知らせます。『甘鯛がないから、ノドグロはどう?』などと提案する。料理人と相談しながら、料理の引き出しをどんどん広げてもらうのです」
「仕入れの代行をしている」という感覚とのこと。顧客に何を提供すればいいかを常に考え、「良いものを安く」というスタンスです。
買い支えで生産者支援
黒アさんは、漁師とのコミュニケーションも積極的に図っています。例えば、魚の死後硬直を遅らせることで身の引き締まった刺し身になる「神経締め」。手間が掛かる分、価格も上乗せになりますが、鮮度の高い魚を提供するためには必要です。そこで、神経締めした魚を料理人に勧めるなど「買い支え」をしてもらう。これにより、「新鮮ブランド」の品質の確保と適正な価格での流通が実現します。
「漁師と仲良くすることでいい魚が入ってくるようになります。神経締めは、富山湾の魚をプレミア付きで売るということです。今は商品が安く買い叩かれる時代です。しかし、それでは生産者の志気が上がらない。だから支えるのです。また、熟成させて食べるなどの方法を取っている店もある。それについても協力します」
飲食店に安くておいしい鮮魚を提供すれば、店の評判も売り上げも上がります。また、手間をかけた分は価格に反映する。黒アさんは「生産者・飲食店・消費者が喜ぶWin.Winの関係ができてしまえば、誰も損はしない」と強調します。
「信頼関係ができることによって、どういう売り方ができるかというと、例えばベースとなる食材は注文し、『あとはお任せ』などとしてもらえる。魚種の指定がなければ無理をして遠くの漁港から高い魚を仕入れる必要もないわけです」
これが「ミシュランガイド 富山・石川(金沢)特別版」の星獲得店や掲載店の料理人、スターシェフたちから支持を得ている理由なのではないでしょうか。
よきもの≠一緒に売る
黒アさんは今、営業の合間を縫って、新店舗の準備に追われています。飲食店の顧客などにライブカメラで品揃えを見てもらい、WEBで注文できる。もちろん、店頭販売もします。また、肉や手づくりのハム・ソーセージなどの食肉加工品を扱う「メツゲライ・イケダ」や、10数件の青果物の生産農家なども出店する予定です。出店者はライブカメラで見て品切れだと、やってきて補充できるそうです。
「新しい店舗は、現在の店舗から数百メートルの距離です。自宅も近い。『黒崎屋』といいます。『富山のよきもの≠売る店を一緒にやりましょう』と、こだわりのある生産者に声をかけました。販売手数料やテナント料はいただきますが、顧客を紹介し合ったり、配達手段を共有したりするなど、利点は多いはずです」
WEBによる注文とクレジット決済により、請求書などのやりとりは不要となります。業務は効率化され、データが蓄積されるので、顧客台帳ができていくことになります。
「自分の頭の中にしかなかった顧客データを社員と共有できますし、飲食店は『昨年どんな食材を使っていたか』と過去のデータを振り返ることもできるでしょう。後継者の育成にもつながる。いろんな成果が期待できると思います」
富山湾に面した全漁港から海の幸が集まる「黒崎屋」。どこに居てもWEB上で品揃えを見て、鮮魚を「ポチッ」と購入できます。地産地消の拠点でありながら、県外の消費者へ「富山ブランド」をアピールする場ともなります。2月の新店舗オープンから目が離せません。
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株式会社 黒崎鮮魚
富山市寺島624-3
TEL:076-435-0983