「商工とやま」H14年11月号

富山市価値創造プロジェクト(7)

「価値創造」について語ろう


 当委員会では、今年一月以来、全体委員会や3つの分科会において、「富山市の価値創造」をテーマにディスカッションを行ってきました。
 近く、第一ステージの取りまとめを発表しますが、今回は、3つの分科会の座長に分科会や全体委員会で出た意見やそれぞれの「富山市価値創造」ヘの思いを語っていただきました。

白 倉 三 喜 座長(魅力づくり分科会)
宮 地 秀 明 座長(人づくり分科会)
山 下 隆 司 座長(賑わいづくり分科会)
(聴き手は編集部)

 

[緑の十字路の再整備と活用]

――私たちの身近なところに自慢できるものや他人に奨めてみたいと思うものがありますね。

白倉
 例えば、城址大通りは、中央分離帯や歩道にはケヤキなどが大きく成長し、緑のトンネルになっています。これに交差する形の松川には観光遊覧船があり、その両岸(歩道)はサクラ並木、また、その下には著名な作家による彫刻が30体ほど設置されていますね。それに続く城址公園には、郷土博物館や美術館、図書館のほか、先人の銅像や歌碑、句碑などもあります。このあたり一帯は文化ゾーンを形成し、散策するには適したところで、富山市の価値(魅力や自慢したいもの)の一つといっていいでしょう。
 この価値にさらに何かを組み合わせたり、ストーリーを編集したりして、新しい富山市の魅力価値が創造できないものか、という観点から議論を始めました。
 城址大通りは、幅員が36メートル、片側3車線で中央分離帯を持つまさに富山市の戦後復興事業とその後の発展のシンボル的な道路です。
 ところが分科会では、その車道の1車線分を削減して歩道を広げれば、歩行者がゆったりと歩けるようになる。そうしたら、市民のフリーマーケットや屋台も可能になるだろうし、大道芸人の演技、祭りやパレードなどのイベントにも利用できる。いわば「道路公園」にしたらどうか、というアイデアがありました。


[道路を整理し、市民・民間に開放]

宮地
 確かに、これまでのクルマ優先の道路づくりを見直して、歩行者や観光客にも優しい道路への転換は重要だと思いますね。
 県庁南側の松川沿いの道路を廃止して、松川の水辺や緑の空間と一体的に市民の憩いの場所に作り変えたら面白いのでは、という意見がありました。休日には民間企業や個人がフリーマーケットやオープンカフェ、屋台などを出店させることも認めていい。同様に、桜木町北側の道路も、屋台がたくさん並ぶ楽しい空間ができたらいいなという意見もありました。


[新幹線開業は10年後…今から駅のイメージを]

――北陸新幹線が10年後には開業することになっていますし、在来線を高架化することも近く日程に上がってきます。

白倉
 在来線高架化はまだ決定した訳ではありませんが、それを前提にした富山市の街づくりを進めていく必要があると思います。まだまだ10年先のことだ、ではいけません。駅の南北一体化の方法、新幹線高架下の利用方法、公共交通とクルマの分担のあり方、中心商店街地区との回遊性問題など、様々な都市課題を検討し、合意する必要があります。
 それらは、行政が考えればいいという問題ではなく、われわれ市民や民間サイドがもっと意見やアイデアを言うべきです。


[市民からアイデアを募集]

――駅および駅前地区は、富山に降り立った人が最初に富山のイメージを形成するところですね。

白倉
 新幹線富山駅に関して、駅舎はガラスをふんだんに使用し、ホームからは立山連峰を望むことができるようにする。内部空間には太陽光を取り入れ、立山杉や植物を植えたらどうか。また、大きなガラスのオブジェを展示したり、ブローチなどを製作できるガラス体験ミニ工房を設置するなど、いろいろなアイデアが出されました。
 それから、新幹線や在来線の高架下空間には一定の飲食や商業施設は必要ですが、大規模なものは不要だ。むしろ、交通結節点としての利点を活かして、県庁や国の出先機関などを誘致したらどうか、という意見もありました。
山下
 新幹線富山駅のデザインについては、早急に検討を開始すべきで、そうしないと、どこの都市にもあるようなコンクリートの塊になってしまう恐れがあります。一般の市民や子どもたちからも広く意見やアイデアを求めたらどうでしょうか。


[人づくり戦略]

――地域づくりは、ハードばかりではなく、ソフト面も重要ですね。

宮地
 人づくり分科会では、「富山で自慢できるものは?」と聞かれたときに「何もないちゃ」と答えるのではダメだ、という問題意識から出発しました。基本になるのはやはり私たちが街に誇りや愛情を持つことです。そのために富山のことにもっと関心をもたなければならない。富山の歴史や人物、文化、町並み景観などいろいろなことに興味を持ち、考え、知るということが大切なのだと思います。

――そのことが「価値創造」の基本ということですね。

宮地
 また、長期的な展望をもって取り組まなければならないと思います。家庭や学校で、小さい時から富山の歴史や人物の話をどんどん聞かせてあげたらよい。そうすれば将来を担う子供たちが自然に自分たちの街、富山への関心、興味を持つようになる。これも「価値創造」にとって重要なことだと思います。今はこうした努力が少し足りないのかも知れないですね。
 今年話題になった佐々成政に関して言えば、子供たちに誰よりもまず、前田氏入城前の富山城主であった成政のことをもっと知らせてあげればよい。そのための仕掛けを考えてみたい。例えば成政を正当に評価をしてくださった遠藤和子さんの著作もありますが、ボランティアの協力を得て、漫画や子ども向けの歴史物語、ビデオなどを作成して、教材として学校に配布したらよいのではないでしょうか。


[世界ポスタートリエンナーレ]

山下
 県立近代美術館が3年に1度開催している「世界ポスター展」(世界ポスタートリエンナーレトヤマ)は世界的に高く評価されている展覧会であり、いわば富山市の大きな価値の一つです。また、富山のデザインの水準も高いものがありますが、残念なことに、市民の多くは、そのことをあまり知っていないようです。私たちは、来年の8月に開催される第7回「世界ポスター展」と連動して、「デザイン都市・とやま」のイメージづくりの仕掛けができないだろうか、と研究しています。例えば、このトリエンナーレの開催に合わせて小中高生を対象としたポスターコンクールを開催するとか、各種ポスターをジャンル別に掲示するとか、商店街などに展示するのもいいのではないか。アイデアはあります。


[立山ビューポイント]

――富山市のキャッチコピーに「立山あおぐ特等席」がありますが、立山の景観も価値資源の1つですね。

宮地
 絵葉書などに呉羽山の山頂から見た立山連峰の景観写真がよく使われていますが、ビジネスで富山市にやってきた方を呉羽山まで案内するのは実際には難しい。もっと、街なかでのビューポイントが欲しいですね。
山下
 富山市役所の展望台からは、360度の展望が開け、それこそ「立山あおぐ特等席」の1つになっています。
 案外知られていないお奨めビューポイントは、駅前のシック(CiC)ビルの15階です。ここなら、駅前であるし、電車に乗るまでの時間を利用すればいい。
宮地
 そもそも、街なかでの立山ビューポイントをもっと市民の方に知ってもらいたい。行政だけに任せるのではなく、民間企業でもできることは協力したいですね。


[アルプス交響曲]

宮地
 オーストリアの作曲家リヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」を富山市の価値創造に活用できないか。ヨーロッパ・アルプスの雄大な自然を管弦楽で描写した曲で、美しい景色や時に過酷な自然現象を音楽にしているこの交響曲を、北アルプス・立山をあおぐ富山市で演奏する競演会、アルプス音楽祭を開催するというアイデアを聞いたことがあります。
 市の文化事業団や市民オーケストラ、桐朋アカデミーオーケストラ、高校のブラスバンドなどの協力を得るほか、民間企業の協賛があれば、富山市の新しい価値になるにちがいない。


[路面電車の延伸活用]

――かつては自動車交通の妨げになるとの理由で、路面電車は各地で廃止され、全国に19都市にしか残っていないそうですが、その1つが富山市です。路面電車の活用に関して何か意見はでましたか。

白倉
 富山市も1路線(南富山〜富山駅前〜富山大学前)が残っているだけですが、在来線の高架化ができれば、その路線を駅北の自遊館から日赤病院あたりまで延伸したらどうかという意見がありました。通院やお見舞いの需要は見込めると思います。
 ついでに言うと、富岩運河環水公園あたりに瀟洒な中層マンションを建てたらどうか、あそこなら眺めも環境も良いし、日赤病院も近いので需要はあるのではないかという意見もありました。
 また、かつてのような、市内循環ルートを復活したらどうか、との意見もありました。


[路面電車の歩道からの乗り降り]

山下
 ところが、ある高齢者の方から、「路面電車は道路の真ん中に停留所があるため、危険な感じがして乗りたくない」という意見を聞いたことがありますが。
白倉
 そう意味では、歩道側に寄せて線路を敷設できれば、歩道に設けた停留所から安心して路面電車に乗り降りできるようになりますが、現在の法律ではそれができないそうです。これから路面電車をもっと利用してもらうには、歩道からの乗り降りができるように法律改正して欲しいものです。
山下
 ヨーロッパなどの主要都市の中心市街地では、クルマを進入禁止にして、路面電車と歩行者が共存しているトランジットモールが多いそうです。
宮地
 これからの二酸化炭素の削減などの環境問題を考えると、これまでのクルマ優先社会を是正して、クルマとバス・路面電車などの公共交通、そして歩行者が共存する社会を目指さなければならない。市民や企業も多少不便になるかもしれないが、社会全体のためには、それを受け入れるようにしていくべきでしょうね。


[歴史的な施設の復元]

――富山市の中心市街地は戦災で焼けたため、金沢のように歴史的なものがほとんど残っていない、とよく聞きます。

山下
 あの歴史都市・京都でさえ、復元された建造物が多くあります。ですから、富山市でも、復元する価値のあるものは復元したらいいんです。
 町なか(中心市街地)に薬種商の建物を復元し、その内部を売薬や富山のくすり関係の資料館・博物館にすれば、観光客が沢山やってきて賑わいが生まれるのではないでしょうか。
 現在、堤町通りにある「池田屋安兵衛商店」はもともとは薬の製造販売のお店でしたが、10数年前に観光要素を充実し、あの店構えもあって、今では県外からの観光客が大型バスでやってきているそうです。そのお客さんを、新設する売薬資料館やくすり博物館にも案内し、富山での滞在時間を長くすれば、それだけ消費額が多くなります。


[ストーリーを創る]

――つまり、池田屋安兵衛商店が持っている価値に、別の価値(くすり博物館など)を組み合わせて新しい価値(賑わい・商店街の活性化)を創り出そうということですね。

宮地
 そこから少し離れたいたち川のほとりに石倉町の延命地蔵がありますが、「寿命を延ばす地蔵」という「価値」を加えることで、これからの高齢化社会にもっと注目されていいものだと思う。
山下
 富山の中心市街地に行けば、池田屋安兵衛商店で、漢方薬を購入したり薬膳料理を食べる。その後、近くの売薬や富山のくすり博物館などを見学し、時間を消費してもらう。さらに、石倉町まで少し足を延ばして延命地蔵にお参りし、有り難い水を口にする。そこで、お札やお土産品などを買う。富山の価値をいうとき、長い歴史に育まれた薬都としての価値を根本に置いてみたらどうだろう。美しい立山連峰の景観から健康プラザに至るまで薬都を源にする“健康づくり都市”の豊かなイメージが築かれると思います。そのようなストーリーを作るのも「価値創造」ですね。


[佐々成政を忘れない]

――富山商工会議所では、今年はNHKの大河ドラマ「利家とまつ」を機会に、佐々成政という、これまではどちらかというと埋もれていた富山市の価値資源に光をあて、成政を通して「価値創造」活動を行ってきました。

白倉
 これまでは富山では悪虐非道の武将といわれてきた佐々成政のイメージでしたが、ドラマでは、鉄砲の三段撃ちなどを編み出し、勇猛果敢ではあるが、家族思いの律義な成政像が描かれています。成政役の山口祐一郎さん、妻はる役の天海祐希さんの演技もあって、富山市民のみならず、全国各地の視聴者も成政を改めて評価し直したと思います。
 富山の1つの価値資源として、光があてられてその価値が高まったことは喜ばしいことですが、この際に、先ほど宮地さんがいわれた子供たちに対して分かりやすい教材の開発のほかに、成政の業績や生涯を展示した成政資料室を設置すべきと思います。生涯学習のほかに、観光振興にもつながると思います。
山下
 成政は、尾張(愛知)の生まれですが、施政者としては、越中(富山)での業績が多く語られています。残念ながら、のちの前田氏によって、直接的な史料は残されていませんが、だからこそ、いまの私たちが成政の本当の姿を評価し、後世に語り継ぐことに意味があると思います。

 有り難うございました。
 分科会では、いろいろな意見やアイデアがでたようですが、民間や市民の力でできること、主として行政が実施主体となるもの、官民協力して行うもの、直ちに実行できるもの、予算措置を伴なうもの、中長期的に検討していくもの、など様々です。
 いずれにしても、自分たちの街は自分たちが責任をもって作っていくという自覚の下に、できることから取り組んでいきたいと考えています。


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