「商工とやま」H14年12月号

価値創造プロジェクト(8)
いい仕事、未来へ。


「富山市価値創造プロジェクト始動宣言

 神通川の大改修、北陸鉄道開通からおよそ100年、戦後復興から50余年、駅北地区整備事業着手から10余年。20世紀の富山市は「日本の都市開発モデル」と呼ぶべき歴史でした。しかし、公共財源の逼迫、少子高齢化の進行、生活環境の悪化、賑わいの喪失、市民意識の沈滞など、現在の富山市には様々な都市課題が重くのしかかってきています。
 そうした中、10年後には北陸新幹線が開業し、富山市に新たなステージが開かれます。果してその時に「富山市は輝いている」だろうか。
 当所は、今年1月に、富山市価値創造プロジェクト特別委員会を設置し、これからの富山市づくりにどのように取り組むべきかについて検討してきました。このたびその第一ステージの報告書をとりまとめましたので、その概要をお知らせします。

《市民が発意し、実践する》

 もはや都市づくりを、行政まかせにする時代は終わり、市民から発意し、市民が選択し、市民が実践する時代です。それを行政が支援してくれます。現有の価値資源を見直し、時代に合わせて再構成し、富山市ならではの都市づくりに、一つひとつ着実に取り組む姿勢と行動が求められています。


《富山市が輝くための選択を》


 多くの市民が、富山市を自然環境にも恵まれ、「住みやすい街」であると認識しています。ひとことで言えば、「まずまずの街」ということでしょうか。次のような問いにどれを選択しますか。

市民の選択―1 まずまずなのだから、変えていく必要はない? それとも、もっと活気のある魅力的な街に変えていきたい?
 いま「着手しない」ことは、「現状維持」ではなく「衰退」を意味しています。

市民の選択―2 事が起こってから考えればいい? それとも、今から着手して、未来に働きかけていく?
 10年後の新幹線開業のタイミングを富山市にとってのチャンスと捉えるか否か。その決断のために残された時間は決して多くはありません。

市民の選択―3 誰か(行政)が変えてくれるのを待つ? それとも、市民自らの手で変えていく?
 富山市は、私たちの街です。私たち市民が日々を暮らし、空間に憩い、時間を楽しむ街です。  現状を「変えていく」ことを、「いま」から、「市民の手で」始めよう。これが、富山市価値創造プロジェクトの選択であり、起点です。


《「価値」から発想する》

 富山市価値創造プロジェクトでは、文字通り「富山市の価値とは何か」から考え、発想していきます。
 「価値」とは、日々の生活の中で、自分にとって、社会にとって役に立つと考え、大切にしたい、誇りに感じる、ときに自慢したいと思うコト・モノ・暮し方の総称です。それらは、日常生活の時間や、身の回りの空間の中に息づいており、その中にある大切なもの、本質的なことに気付き、目を向けることが「価値」探しの始まりです。


《埋もれている価値を再発見》

 富山市の「価値資源」を今日の眼、未来視点で個々に評価し直してみる必要があります。これから「価値」になっていくものはどれか。もう忘れ去られていたものの中にも、これからの「価値資源」が埋もれているかもしれません。佐々成政の再発見・再評価も、そのひとつと言えます。
 そして、これらの「価値資源」をある文脈(コンテクスト)の中において、関連する「価値資源」と組み合わせてみることで、資源単体が「価値」の塊として輝いてきます。それが富山市の「価値」です。それを時代の流れの中で評価し、ある視点から束ねてみる。その一連の行動を、市民一人ひとりが実践していくことが「価値創造」です。ゼロから何かを生みだそうとすることよりも、富山市の中にすでにある「価値の素」に新しい光をあてて輝かせることが大切です。


《価値創造のための仕組み》

 富山市という舞台で、価値資源という素材を有効に活かしていくために、もう一つ必要な機能、それが「仕組み」というソフトです。次のとおり5つ設定しました。

(1)「集める・集まる」仕組みづくり
 北陸地区の中央、富山県の中心に位置し、陸・空・海の交通結節点を持つ富山市は、人やモノが「動く」「交流する」上で、稀に見る好条件を備えている。
 富山市の中心に「集める」ことによって、「まずは富山市に行ってみよう」と思わせる仕掛け。そうしたモノや情報が「集まってくる」ためのネットワーク拠点を整備する。

(2)「結ぶ・廻る」仕組みづくり
 富山市は価値資源(文化施設や観光名所等)が市内各所に散らばっており、駅周辺地区も鉄道が南北に分断している。市内交通網も十分に活用されていない。その結果、都心部が本来「歩いて楽しい街」としての高いポテンシャルを有するにも関わらず、クルマ社会をより一層加速させている。
 点在する価値資源を「つなぐ」仕組み、徒歩や自転車などによる移動そのものが楽しめる仕組み、および都心の回遊導線を設定する。

(3)「賑わい創出」の仕組みづくり
 都心の顔であるべき中心商店街は、人々に対して「郊外のショッピングセンターとは異なる価値」を提供することが必要条件となる。
 郊外の店の魅力が、生活財の効率的調達、いわゆる「ワンストップ・ショッピング」であるならば、商店街が備えるべきものは、一日という時間を楽しく過ごせる「ワンデイ・ショッピング」の仕組みではないか。
 多様な店揃えに加えて、飲食や娯楽、休憩場所の充実。また、「そこに行けばいつも何か新しいコトが起こっている」こと、たとえばイベントや市民祭りとの連動。リピート客が特典を受ける仕組みを作る。

(4)「遊ぶ・創る」仕組みづくり
 売薬というビジネスモデルの創造、ベンチャー企業の輩出、ますの寿司から近年のガラス工芸に至るまで、富山市には産業創造の実績が豊富に存在し、その創造活動の伝統が根付いている。
 産業は産業、芸術は芸術と区分してしまうのではなく、都市生活を楽しむための素材と捉え、日常の中に採り入れていくことで、富山固有の文化風土、富山市民らしい“遊び心”の発現を促す。

(5)「話そう富山」の仕組みづくり
 「価値」の発見、その「価値」の共有、共有された「価値」の内外への発信。この一連の流れによって、街は魅力的に見えてくる。まずは市民自身が富山市の良さに気付くこと、それを相互に語りあう習慣を持つことから始める必要がある。
 それを域外に発信することが、交流人口の増加につながる。


《5つの価値創造テーマ》

 富山市の魅力や可能性を有効につなぎ、「こんな富山市にしたい」とするイメージを共有し、磨きをかけ明確な個性としていくため、当面、重点的に取り組むべき「価値創造テーマ」として次の5つを設定しました。

価値創造テーマ(1) 水恵・水景
 富山湾、神通川、常願寺川、松川、いたち川、城址堀、環水公園、富岩運河、地下水の音、冬の雪、深層水、立山の積雪、…。その水がもたらす豊かな恵みと、水のある景観の美しさにこだわってみる。やがてそれが富山市民の誇りの源泉となる。

価値創造テーマ(2) 越中味処
   越中富山にも「味処」と呼ばせるだけの歴史と伝統はある。ぶり街道、ますの寿司、富山湾の魚、きときと市場、…。残念ながら、豊富な食材はあっても、独自の料理、食文化が広がらず、市内にそれを味わう場と機会も多くはない。「食」こそ都市の魅力の第一である。

価値創造テーマ(3) 健やか薬都
 富山と言えば薬売り。これだけ知られた地域シンボルは数少ない貴重な財産である。
 一方、世は健康志向、健康商品が成長産業となる時代、この流れを街の魅力に呼び込まない手はない。
 薬はもとより、食材、料理、散策、スポーツ、…、そのすべてが健康づくりの素材となる。それを編集し、事業化、情報化していく。

価値創造テーマ(4) 顔のある街
 特徴的なランドマークやピクチャースポット、人出で賑わう街角、街中からの立山の景観、…。富山市ならではの「拠点」をつくる。そこに、重点的に多機能を集積し、賑わいを生みだす。富山を印象付け、一度訪れただけでも記憶に残る街並み=「顔」を再構成する。

価値創造テーマ(5) 多士才彩
 人が街を創り、街を彩る。人が価値を継承する。人を中心に据えた富山市の価値創造を形にしたい。
 これからの時代、他人と同じように在るのではなく、個性的・自立的に生きることに価値がある。その活動を応援し、伸ばし、それが30数万人分集まれば、おのずから個性ある都市に成長するはずである。


《価値創造のためのマトリックス》

 以上の「こんな富山市にしたい」という「価値創造テーマ」と、先に述べた「仕組み」の組み合わせを通して、「価値創造のためのプロジェクト」を構築していくことが発想の基本形です。たとえば、「水恵・水景」というテーマのもとに、水に関わる様々な価値資源を「集める」方法、「廻る」方法、「賑わい」につなげる方法を考え、その具体策で右記のマトリックスを埋めていく、ということです。


《プロジェクトの提案》

 報告書では、15のプロジェクトを提案していますが、ここでは誌面の関係上、抜粋していくつかの概要をご紹介します。

◎「松川・いたち川・運河」沿いの環境整備と利活用
 市内を流れる松川・いたち川は、市民の心の糧であり、貴重な都市美観の軸を成す。この2つの川から運河そして神通川につながる一連の「水景」の総合的な環境整備(並木、歩道、サイクルロード、休憩所などの整備)を行政等に提案する。

◎「川辺のスノーピアード」への拡大展開
 冬の富山を彩る「とやまスノーピアード」の展開エリアを松川縁まで延長し、屋台の出店などを行うことによって、貴重な冬の観光資源としてのインパクトを強める。同時に、総曲輪商店街につながるエリアにもイルミネーションを延長させ、商店街イベントとの連動を図りつつ、冬季の賑わいの核として、より大きく成長させていく。

◎「越中富山の味づくり」 食材・料理開発&マーケティング
 地元の食材を活かした数々の新しい「富山料理」が登場してくる仕掛けによって、食文化の活性化を図る。
 創作料理コンクールの開催や表彰制度の制定、季節ごとの「越中御膳」のブランド化、パーティにおける「富山料理のもてなし」促進などを、飲食や観光業者などに働きかけていく。

◎「食のフリークポケット」の実験
 飲食店版のフリークポケットで若者のパワーを「食」のシーンで発揮してもらうことで、新しい「富山料理」づくりの活性化を図ると同時に、その実験として、様々な祭りやイベント時における「フリークポケット屋台」の出店を呼びかける。

◎「健康づくりと富山の薬」の情報集約と拠点づくり
 売薬の伝統から和漢薬に関する様々な研究やノウハウの蓄積、今日の製薬メーカーの集積まで、「健康志向」に寄与する富山の資源は豊富である。これらに、医、食、スポーツ、生活習慣など、健康的な生活を構成する様々な要素を加え、「富山版・健康づくりマップ(ガイドブック)」を制作する。

◎越中大手市場への「薬膳食材」エントリー
 平成14年10月からスタートした「越中大手市場」(大手モール)に、薬膳食材の市を併設する。食材・薬種とレシピの解説つき販売、ならびに毎回異なる「薬膳朝粥」の紹介・販売など、薬都・富山ならではのオリジナルな市場となる。

◎市民参加による中核拠点の新しい「顔」づくり
 都心部を構成する中心商店街、富山駅(周辺地区)および都市MIRAI地区は、まさに富山市の「顔」であり、新幹線開業で、その役割は一層重要度を増してくる。これを市民からの声(要望)をとりまとめ、新しい「顔」づくりへと反映させていく。「新駅デザインを考える会」「商店街の顔づくり実行隊」(いずれも仮称)といった運動体を組織し、市民・有識者の声を集約して行政の施策に積極的な働きかけを行う。

◎市民イベントとしてのポスター・トリエンナーレ
 平成15年に第7回を迎える「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」を、美術館の中だけにとどめず、商店街などを舞台に参加型の市民イベントとして企画する。薬パッケージや商業デザインの蓄積、高い印刷技術、さらにはガラス工芸とも連動させ、世界に誇る富山市の看板イベントとして拡大・発展させる。

◎「がんばる人を褒めよう」運動
 話題を呼んだ「飛び出せ富商」やフリークポケットの展開など、若い意欲が成果をあげ始めている。より幅広い人々のやる気に火をつけ、それを評価する市民褒賞制度「Good Working賞」を制定し、老若男女、個人・団体を問わず、富山市の価値創造に挑戦し貢献している人と行動を表彰するとともに、市民に対して積極的に情報発信する。

◎佐々政成に続け! 富山を彩った人物再発見運動
 大河ドラマ『利家とまつ』は、市民による「佐々成政再発見」の契機となった。この逸材を、ドラマ終了後も富山市の貴重な価値資源として継承していくために、さらなる観光資源化、商品化を検討する。また、富山にゆかりのシンボリックな人物の再発見・再評価、そのコンテンツ化(映像化、出版化、イベント化など)を通じて、市民への情報発信と誇りづくり、ならびに観光客へのアピールにつなげていく。


《さあ、動き始めよう!》

 全国の都市で、市民参画による新しいまちづくりの方法が模索されており、本プロジェクトは、まさにそのさきがけとも言える試みです。
 これを実現していくためには、市民の発意や参画をコーディネイトする“事務局”機能と、それをビジネスなどの形で実現していくための“実行部隊”の存在が不可欠です。富山商工会議所、〓まちづくりとやま(TMO)などが中心となって、商店街、各業界団体、大学等の教育・研究機関、NPO等とのネットワークを強化し、それぞれが行っている活動との連携・連動を図ることで、地域のパワーを集め、大きな成果へとつながる道筋を作っていきます。
 まずは、市民一人ひとりが、一つの企業や団体が動き出すことから始めませんか。その小さな一歩が集まって、富山市全体の次への第一歩に結実していきます。

 この報告書は、当所の「富山市価値創造プロジェクトト特別委員会」での約9ヶ月にわたる議論・検討の成果をまとめたものですが、これが「最終報告書」ではありません。多様なプロジェクトを誘発していくための「ガイドブック」であり、具体化への第一歩を踏み出すための「企画書・第一稿」という位置付けです。富山市の価値創造は、あくまで富山市民の自発的かつ主体的な発意と行動によってこそ成し遂げられると考えるからです。

※このプロジェクトの概要を記したパンフレットを作成しました。ご希望の方は、下記までお申し出ください。

富山商工会議所・「富山市価値創造プロジェクト」事務局
富山市総曲輪2‐1‐3(〒930‐0083)
TEL076・423・1112

または、こちらでダウンロードすることもできます。(PDFファイル)


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