「商工とやま」H14年7月号

特集

「人が輝く。街が躍る」 富山市中心市街地活性化へ

〜(株)まちづくりとやま〜


 地方都市における中心市街地の地盤沈下を食い止め、活性化するため、平成10年に「中心市街地活性化法」が施行されました。この法律に基づき、各都市では、中心市街地活性化を進めるための機関(TMO=Town Management Organization)の設立が進められ、現在は全国で186のTMOの設立が認可されています。富山市でも、平成12年7月に「(株)まちづくりとやま」(社長は石田淳富山市助役)を設立しました。本誌では、今年4月にこの「(株)まちづくりとやま」(以下「富山TMO」といいます)の副社長(代表取締役)に就任された松井幹夫氏(前富山市商工労働部長)へのインタビューを通して、この富山TMOが果たす役割や今後の展望についてご紹介します。

 

◆富山TMO設立の背景
 中心市街地の空洞化は富山に限ったことではなく、全国各地で問題視されています。その背景にあるのは、車社会の進展もありますが、地価や家賃などの高さ、それに富山の場合は、市民の強い一戸建て志向があります。郊外の道路や区画が整備され、あわせて駐車場の確保の関係から、住宅をはじめ大型商業施設(ショッピングセンター等)や病院、美術館・博物館などの集客施設が郊外にどんどん立地していき、結果として、富山市中心市街地の空洞化が進みました。魅力ある都市には、人々が集り、賑わいのあるい空間や核(中心市街地)が必要です。そこで、富山市の中心市街地の活性化を推進する機関として富山TMOが設立されたわけです。

◆第3セクターとしての利点を生かす
 都市や中心市街地の活性化に果たす行政の役割は大きいものがありますが、行政が提案し、民間がこれを受け入れる従来型の街づくりの手法では、今後の地方都市同士の競争には、負けてしまう恐れがあります。これからは、民間も責任の一端を持ち、街づくりを提案し、自ら実行することが重要であり、それを行政が財政面や人材面で後押しする形が求められています。この富山TMOも、行政だけではなく、中心商店街や地元商業者、民間企業、商工会議所も出資する第3セクターとして設立されました。

◆総合的な視点を取り入れる
 これまでの街づくりは、どちらかというと、商店街の活性化の取り組みは、それぞれの各商店街が行ってきており、中心商店街全体としての連携・協力はほんの一部に限られていました。また、行政も個々の商店街に対する支援が主であったほか、消費者や市民は、ショッピングのみに関心を向け、富山における賑わいある核としての中心市街地の重要性をあまり考慮してこなかったように思います。
 TMOは、中心市街地全体を総合的にマネージメント(経営)するという視点でとらえ、行政や商工会議所とも連携を図りながら、この地域全体の活性化のための様々な事業を企画し、実行に移す中心市街地のまちづくりを管理・運営する組織です。また、TMOを通すことによって国の有利な支援を受けることが可能となります。

◆主な事業
 この富山TMOは、2年前の7月に、市、商工会議所と民間企業から各1名の出向職員でスタートしました。2年目の昨年からは徐々にエンジンがかかり、3月には、商工会議所の試行を受けてのコミュニティバス「まいどはや」(現在の中央ルート)の運行を開始したほか、新規に商売を始めようとする若者を対象としたミニチャレンジショップ「フリークポケット」(中央通り商店街)の運営を正式に引き受け、同じくシニア対象の「まちなか西遊房」(西町商店街)の運営をスタートさせるなど、開業意欲のある方々を支援してきました。特に、平成9年7月のオープン以来、フリークポケットから「巣立った」卒業生の中からは33名の方々が自分のお店を持つに至っております。今年は、「フリークポケット」や「まちなか西遊房」の入居者のニーズに適した研修を開催するなどして、創業意欲のある方々に対する支援をさらに強化していきます。

◆コミュニティバス運営事業
 昨年3月に運行開始した「まいどはや」バス(中央ルート)は、乗車料金が1回100円(小学生以上)ということもあって多くの市民の方々に気軽に乗っていただいています。特に、それまではバスの便が悪いため、なかなか一人ではショッピングや散歩などの外出ができなかった高齢者の方には好評です。
 今年4月には、この「中央ルート」に加え、新路線の「清水町ルート」の運行がスタートしました。これらの2ルートによって、自宅から駅や中心市街地の回遊性を高め、来街者の増加を図っています。

◆インキュベータ・オフィス事業
 7月下旬に完成予定の中教院東地区(中央通り東街区)の再開発ビルには51戸の住宅がありますが、その2階には、富山市が貸し事務所を開設することになっています。SOHO(小規模・在宅事業)などに安価で貸し出し、起業しやすい事務所環境を整備し、情報通信関連やデザイン関連分野、パソコン市民講座などオフィス系事業者を育成するとともに、商業者との交流を通して商店街の活性化を図ることを目的としています。この事業についても、富山TMOが富山市から受託することにしています。
 これ以外にも、インターネットを通してコミュニケーションを図る「情報発信事業」や街の賑わいを創出する「イベント開催事業」「共通駐車券事業」「カード化事業」なども実施に向けて検討しています。

◆まちづくり公房で活発な意見
 富山TMOの事業の中でも特徴的なのが、市民参加による街づくりを推進する「まちづくり公房運営事業」です。これはTMOの基幹として位置付けている事業です。
 「まちづくり公房」は、まちづくりや活性化に関心の高い方々(商業者、地域住民、市民)で構成され、意見交換や議論をしながら、まちづくりや活性化のアイディアを検討し、市民の手によるまちづくりの実践を目指しています。
 いくつかの事業実行委員会がありますが、現在、実現の方向に向かって動いているのは「まちづくりサロン(仮称)」の開設です。これは市民の皆さんからの提案を具現化しようとするもので、お子様連れの方にもゆっくりとショッピングしてもらうための託児施設やお年寄りの方などがお茶を飲みながらくつろげる休憩施設としての機能を果たす施設を来年度(平成15年度)の事業化に向けてコンセンサスを図っているところです。

 


VOICE
柔軟な発想と感性で、まちに活力を。

(株)まちづくりとやま 代表取締役副社長 松井 幹夫 氏

 

◇民間人になられて2ヶ月ですが、何か変化は?
「もともと“役人らしからぬタイプ”でしたので」

 自分で言うのもなんですが、私は市役所勤務時代から“役人らしからぬタイプ”と言われたくらい(笑)比較的柔軟な発想ができるほうだと思っております。それは、民間の人とも数多く接する中で育まれてきたように思います。今後は、38年間の行政経験を生かし、これまでに培ったネット、フット、ヘッドの3つのワークを活用しながら、行政と民間の橋渡し役を務めることができれば、と考えています。

◇行政マン時代の思い出は?
「忘れられないのは、厳しい状況の中で成し遂げた二つの事業」

 今も強く印象に残っている事業としては、福祉部時代の愛育園(児童養護施設)と慈光園(特別養護老人ホーム)の合築です。当時、全国的にも大変厳しい環境の中でしたが、私の胸には恵まれない境遇の子どもたちと、人生を積み重ねてきたお年寄りが新しい家族として共に生活していける場になればという思いがありました。全国でも稀な試みでしたが、地域の皆さんをはじめ数多くの方々の協力を得て成し遂げることができました。
 もう一つはコミュニティバスの実施です。当初は商工会議所で試行され、その後行政側で対応したわけですが、なぜ中心部だけなのか、という市民の声があったほか、既存の路線バスとの絡み、行政内部での調整など、課題が沢山ありました。しかし、富山市の中心部は県都の中心部でもあり、そこには歴史や文化もあります。何とか、空洞化を食い止めたい、コミュニティバスが活性化の一翼を担うに違いない、という信念を持って取り組み、ようやく実現に至りました。どちらも厳しい状況の中で成し遂げた事業でしたので、今も決して忘れることはできませんね。

◇ご自身の性格を分析すると?
「反骨精神の旺盛なタイプですね」

 私の性格として、筋の通らないことには黙ってはおれない方ですね。行政マンから民間企業(TMO)への転身も、TMOに課せられた中心市街地活性化という重要な任務も、私自身は心地よいプレッシャーとして捉えています。

◇「まちづくり」に対する考えは?
「基本にあるのは”自分たちの街を自分たちの手で”という考え方」

 私どもの会社は、社名が「鰍ワちづくりとやま」で、まさに「まちづくりのための会社」です。中心商店街、商工会議所、行政、そして市民の皆さんがお互いに連携しながら、ともに自分たちの街づくりに携わっていくことは非常に意義のあることだと考えています。
 一番大切なのは、自分たちの住む街の活性化は自分たちの手でという思い、すべてそこから始まるような気がします。

◇まちの活性化には何が必要?
「まずは富山の魅力を私たち自身が再認識し、広く情報発信していくこと」

 富山には立山の景観をはじめ、自然や歴史、文化など魅力ある“地域の資源”がたくさんあります。あり過ぎて、普段は気づかないところがあるくらいで、外からおいでになった人から指摘されて初めて気づくことも多々あります。しかし、これからは、商工会議所が今取り組んでいる「富山市価値創造プロジェクト」でも指摘されているように、自分たちの街の資源は先ず私たちが再発見したり、再認識し、自信と誇りをもって情報発信していくことが重要だと思います。そのことから、富山の街の活力が生まれてくるのではないでしょうか。「街が輝いている、躍っている」イメージこそ中心商店街の役割であり、32万人富山市民の誇りにもなると思います。

◇よく街を歩かれるそうですね?
「観光客らしき人には必ず声をかける。これが私のネットワークづくり」

 私は街を出来るだけ歩くようにしています。よく観光客らしき人に「どこから来られましたか?」と声をかけることがあります。金沢から、時には関東方面からという若い方にもしばしば出会います。また、「インターネットでフリークポケットを知って遊びに来ました」という声を聞くと、嬉しくなりますね。
 これは一つの例に過ぎませんが、私は人と人とのネットワークづくりをとても大切に考えています。人間関係は信頼がないと成り立たないし、会話していく中で情報交換ができたり、楽しさや豊かさが実感できるのではないでしょうか。

◇富山TMOの今後の方針は?
「富山市中心市街地の活性化という確かな足跡を残したい」

 「フリークポケット」は、中央通りの竹嶋身和子さんが香港旅行に行かれた際、狭くても個性的な店がたくさん入居し、活気にあふれた雑居ビルを見て、富山でも同じようなことができないかと考えられたのが発端でした。当初は、無理だという意見の方が多かったようですが、竹嶋さんの発想と熱意、商店街の尽力、そして行政の支援が三位一体となり、今日の成功を導いた……これは一つの例ですが、これこそが街づくりの原点であると思います。
 街づくりの主役は市民の皆さん一人ひとりであり、TMOは、富山の街に寄せる皆さんの期待や願望をしっかりと受けとめるための組織であります。もちろん、今計画中の事業もいくつかあり、それを成功させることも今後の課題でありますが、まずは「自分たちの街をこうしたい」という気持ちや願いには積極的に耳を傾け、一つひとつの声に「どうしたら実現できるだろう」という姿勢で臨んでいきたいと思っています。
 また、設立してまる2年、「まちづくりとやま」という会社の認知度はまだまだ低いようですので、富山市中心市街地の活性化という確かな足跡を残すことで認知度を高めていきたいと考えています。
 今後も、市民の皆さんのご理解とご協力をお願いします。

今後のご活躍を期待しています。有難うございました

鰍ワちづくりとやまの概要
本 店 富山市総曲輪2‐1‐3(富山商工会議所ビル8階)
設 立 平成12年7月7日
資本金 3000万円
代表取締役社長 石 田  淳 (富山市助役)


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