「商工とやま」H14年10月号

富山市価値創造プロジェクト(6)

芸術の秋 美術館に行こう
富山県立近代美術館 山口松蔵館長に聞く


「芸術の秋」です。美術館の魅力や利用法などについて富山県立近代美術館館長の山口松蔵さんにお話を伺いました。みなさんもこの秋、ぜひ美術館を訪れて心豊かなひとときを過ごしてみませんか。また、「富山市価値創造プロジェクト」と「美術館」がどんな関係があるか考えてみませんか。

[価値資源としての美術館]

 当所が進めている「価値創造プロジェクト」において、「“価値”とは、人々が日々の生活の中で、あるいは社会にとって、役に立つと考え、大切にしたい、誇りに思う、自慢したい、他の人にも奨めたい、と思うモノ・コトや暮らし方の総称である」としています。そうした価値資源を私たち自身がもう一度再発見・再構成して、富山の「価値」として認識し、自信をもって富山からの情報発信し、元気な富山にしていくことが目的です。
 そういう意味で、富山県には、県外あるいは国外から高く評価されている美術館が数多くあり、優れた美術作品を収蔵し,展示しています。まさに、富山の価値資源の一つであると言えます。

[生活の中の美術]

――「美術」とは何でしょうか?

 例えば、部屋をきれいにしたい。そうだ、絵を飾ろう。花の絵がよいか、山の絵にしようか。カーテンはどんな柄がよいか考えるでしょう。それが美術なんです。

――それだったら「美を意識する心」は誰にもありますね。

 そうです。子供が砂場で山を作る。おばあちゃんが習字を習う。おとうさんが自動車を選ぶ際に、どんなスタイルがいいか、どんな色にしようかあれこれ考える。これらはすべて美的なものを求める活動です。美術はいつも私たちの身近にあるんです。

――生活と美術は密接につながっているんですね。では、なぜ私たちは美術館へ行くのでしょうか?

 三つあります。一つは、日常の嫌なことや退屈なこと、そういう生活を切り替えることは必要です。エプロンをはずして美術館に行く。休日に仕事のことを暫し忘れて美術館にいく。友人を誘って美術館に行く。きっと何かいいことがあるはずです。
 二つめは、ルーブル美術館をはじめ,ヨーロッパの多くの美術館はもともと宮殿だったものを活用しているように、日本の美術館も環境のよいところにデサインされた立派な建物となっています。ですから、美術館へ行くとリッチな気分を楽しむことができます。
 三つめは、作家の命をかけた仕事に接することができるということです。

[美術に命をかけた作家]

 例えば、一枚の絵が百億円もするゴッホも、生前売れた絵はたったの一枚。しかも画材も買えないゴッホをかわいそうに思って友人が買ってあげたものといいます。若くして彼はピストルで自らの命を断ちますが、その際駆けつけた弟に「生きていてもいいことはないから」、といって絶命したそうです。きれいな作品を見て幸せな美術家の人生を想像してはいけません。お金もいらない、名誉もいらない、ただ優れた作品を後世に残す。その一念で美術に命をかけた人たちの作品の前に足を止めて鑑賞してください。

――美術館は入りにくい、美術はわからない、という人がいますが…

 公共の美術館は、みなさん(県民・市民)のお金で美術作品を購入し、展示・運営されています。従って、みなさん(県民・市民)がオーナーなのです。別荘を訪れるように気軽においでください。わかる、わからないよりも、きれいだ、ダイナミックだ、というように素直に作品を観ていただければいいと思います。命を懸けて残した作品は、音楽であろうと、美術であろうと、必ず私たちの心を捉えるものです。

[心で捉えたもの]

――それでも抽象的な作品は難しいと思われがちですが…

 ネクタイやスカーフの柄も抽象的なデザインが多いと思いますが、みなさんそれぞれの好みで選ぶでしょう。抽象画も同じような感覚でいいと思います。抽象画で有名なピカソという画家がいますが、彼も最初は写実的な人物画などを描いていて、15歳の頃には世界で最も優れた画家といわれていました。その後、画風を変え、目に見えるとおりに描くのではなく、心で捉えたものを描きたいと思うようになったのでしょう。セザンヌもそうですね。

――絵画にも大きな流れがあるんですね。

 はい。簡単な絵画の歴史を知っているといいでしょう。王侯貴族の肖像画をカラー写真のように描いた時代、農村の美しい風景を描いた時代、セザンヌやピカソのように多くの画家が新しい絵画を求めた時代…。馬車から自動車、そして飛行機へと変わったように、絵画にも流れや歴史があるんです。

[感動は美術館でこそ味わえる]

――美術館では展示作品について解説してもらえるのでしょうか?

 もちろんです。学芸員や解説ボランティアが丁寧に説明しますので、受付などでお申し出ください。その他にもガイドブックや解説ビデオなどもあります。

――画集でも鑑賞できると思いますが…。

 作品が醸し出す空気や感動は美術館でこそ味わえるものです。画集は実際に美術館で作品を鑑賞してから、その感動を追体験するものとしておすすめします。

――富山県にはたくさんの美術館がありますね。

 そうです。彫刻、絵画、陶器、写真、水墨、版画など個性豊かな美術館が多数あります。数も内容も富山県は全国で一番だということも知っていただきたいですね。

[創造力のエネルギーに]

――経営者や働く人にとって美術館の役割は何だと思われますか。

 一つは、作品をとおして安らぎを感じたり、驚いたり…。仕事で心にたまったストレスをリフレッシュできれば、その活力は次の日の仕事に活かしてもらえると思います。
 また、時代が急速に変化するなかで、企業も商店も常に新しいものを創造していかねばなりませんね。美術館はそのエネルギーをきっと与えてくれるでしょう。

[心の中に自分だけの美術館を]

――美術館の役割が改めてわかってきたような気がします。

 県立近代美術館をはじめ、県水墨美術館や富山市佐藤記念美術館、各種ギャラリー、さらには県外、海外の美術館、どこにでも心に残る作品があるはずです。そしてその作品が心に蓄積され、あなただけの美術館ができあがります。辛い時、寂しい時、あなたの美術館はあなたを慰め、嬉しい時は、喜びを倍にしてくれるはずです。自ら足を運んで鑑賞して心につくった美術館は、何よりも素晴しい生涯の宝となるのです。

――ありがとうございました。

 美術館は、富山の価値資源のひとつです。美術館に足を運び、その作品と触れ合うことで、その価値を再発見・再認識しましょう。そして語りましょう、富山の良さ、素晴らしさ、富山の価値を。

●プロフィール●
山口 松蔵(やまぐちまつぞう)氏
昭和15年上市町生まれ。
昭和38年富山大学教育学部を卒業し、県内の中学、高校で教鞭をとる。昭和62年県教育委員会に移り、県芸術文化協会や県文化振興財団の事務局長、新川文化ホール館長、富山県民生涯学習カレッジ学長を歴任し、平成10年富山県立近代美術館館長に就任、現在に至る。

 

私たちの美術館の見どころ

 美術館の魅力や利用方法などについて山口松蔵館長からアドバイスをいただきました。それでは皆さん早速市内の美術館に出かけてみませんか。ここでは、市内にある4つの美術館をご紹介します。

*富山県立近代美術館

<20世紀の美術の流れを概観>
 国内外における20世紀以降の美術の流れを展望し、郷土美術の伝統を確かめ発展させることを基本姿勢に、新しい創造の可能性を見い出すにふさわしい文化拠点として置県百年を記念して設立された。
 常設展としてピカソ、ロートレック、ルオー、シャガールなど20世紀初頭に活躍した作家たちから、現代の新しい表現領域までの作品を6つのコーナーに分けて展示しており、20世紀の美術の流れを概観することができる。

<国内唯一の世界公募ポスター展>
 富山県ゆかりの作家・瀧口修造のコーナーやポスター・椅子を展示したデザインコーナーもある。特に3年に1度開催される「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」は、国内唯一の世界公募ポスター展として注目されている(来年8月に第7回目が開催される)。
 また、より多くの県民に収蔵作品を鑑賞してもらうために、県立中央病院での「ヒーリング・ギャラリー」や市町村の公共施設などでの館外展示も行っている。

<明治以降の日本画の歩みを紹介>
 明治期から戦後期に至る富山県の日本画の歩みを紹介する「郷土の日本画家たち」が9月21日から開催される。石崎光瑤、郷倉千靭らの巨匠をはじめ、篁牛人、豊秋半ニらの異色作家や郷倉和子、下保昭、下田義寛など郷土が誇る作家たちの作品が展示される。

◆企画展
○9月21日(土)〜11月4日(振・月) 「郷土の日本画家たち」(一般500円)
○11月9日(土)〜12月25日(水) 「山本容子の美術遊園地」(一般900円)

■設立/1981年(昭和56年)7月
■所蔵点数/約2200点(ポスター除く)
■開館時間/9:30〜17:00
■休館日/月曜日、祝日の翌日、年末年始(但し、臨時開館日有り。12/26〜来年4/3は改修工事により休館)
■入館料/常設展/200円(大人)※土日祝日は小中高生無料
■所在地/富山市西中野町1‐16‐12 TEL:076‐421‐7111 FAX:076‐422‐5996
■URL/http://www.pref.toyama.jp/branches/3042/3042.htm

*富山市佐藤記念美術館

<東洋の古美術>
 平成14年4月に(財)富山佐藤美術館の財産を富山市が引き継ぎ「富山市佐藤記念美術館」と改名。富山市郷土博物館と一体的に運営することになった。
 常設展としてはいないが、佐藤コレクションを中心にテーマを定めて随時公開している。館蔵品は唐三彩馬、岸駒と岸派の作品や与謝蕪村筆「松林富士図」、藤原定信筆「石山切」、豊臣秀吉の書状など、中国・日本・ペルシアの古陶磁、日本の近世絵画、書跡といった東洋の古美術が中心となっている。また、館内には佐藤家より移築された助庵席、柳汀庵の茶室と総桧の書院座敷がある。
 10月12日からは、茶の湯の道具としても古くから珍重されてきたタイのやきもの「宋胡録」展を行う。
 今後も東洋の古美術を中心に調査研究・収集を行い、その成果を展覧し、質の高い作品を観賞してもらいたいとしている。

◆企画展
10月12日(土)〜12月23日(祝・月) タイのやきもの「宋胡録」展(一般530円)

■設立/1957年(昭和32年)に〓富山佐藤美術館として開館
■所蔵点数/約1300点
■開館時間/9:00〜17:00
■休館日/月曜日、祝日の翌日、展示替期間中、年末年始
■入館料/単館210円(大人)、富山市郷土博物館と共通350円(大人)※土日祝日は小中生無料
■所在地/富山市本丸1‐33 TEL:076‐432‐9031 FAX:076‐432‐9080
■URL/http://www.city.toyama.toyama.jp/shisetu/bunka/kyodohakubutukan.html

*富山市郷土博物館

<富山市の歴史資料を展示>
 昭和29年に城址公園内で開催された戦災復興記念の富山産業大博覧会のシンボルとして建設された「富山城」の中にあり、富山藩や富山市の歴史資料を常設展示している。
「伝前田利長着用銀鯰尾兜」「前田利幹着用萌黄緘鎧」「岸駒『霊猫』」「木村立獄『立山船橋真景図』」のほか、「佐々成政像図」(古川雪嶺筆)は是非観賞してほしいとしている。また、年に数回行う企画展や特別展では、郷土に縁のある美術工芸品の展示も行っている。
 今後も富山の歴史や文化に親しむことができる博物館としていきたいとしている。

◆企画展
 9月29日(日)まで 特別展「富山藩校広徳館」(一般530円)
 10月5日(土)〜2月2日(日) 館蔵企画展「絵地図にみる富山の歴史」(一般210円)

■設立/1954年(昭和29年)11月開館
■所蔵点数/約30000点
■開館時間/9:00〜17:00
■休館日/月曜日、祝日の翌日、展示替期間中、年末年始
■入館料/常設展:単館210円(大人)、佐藤記念美術館と共通350円(大人)※土日祝日は小中生無料
■所在地/富山市本丸1‐62 TEL:076‐432‐7911 FAX:076‐432‐8060
■URL/http://www.city.toyama.toyama.jp/shisetu/bunka/Kyodohakubutukan.html

*富山県水墨美術館

<横山大観、川合玉堂などの水墨画を展示>
 水墨画をはじめとする日本人独自の感性によって育まれた日本文化特有の美を広く紹介し、その素晴らしさを再認識することを目的に設立された。
 明治以降の代表的な作家である富岡鉄斎、横山大観、川合玉堂、加山又造のほか、砺波市出身の画家・下保昭の作品を常設展示している。横山大観の気宇壮大な清涼感あふれる作品「雨後之山」や、近代的なシャープな墨線によって情感が表現されている平福百穂の「晩山残照」、独自の技法によって大自然のエネルギーと東洋的な諦観が表現されている下保昭の作品等を是非ご鑑賞ください。

<上村松園、鏑木清方の巨匠展開催>
 企画展として、10月4日からは、美人画の世界において東西を代表する上村松園と鏑木清方の初期から晩年に至る代表作品67点を展示する「上村松園 鏑木清方展」が始まる。今日までこの巨匠の代表作品による二人展は困難とされていただけに、全国的に大きな反響を呼ぶものと期待されている。

<世界に誇れる水墨美術館>
 これからも、世界で唯一の水墨美術館として、県民一人ひとりが自らの財産として誇りを感じるような美術館としていきたいとしている。

◆企画展
 10月4日(日)〜11月4日(振・月)「上村松園 鏑木清方展」(一般1200円)

■設立/1999年(平成11年)4月
■所蔵点数/約400点
■開館時間/9:30〜17:00
■休館日/月曜日、祝日の翌日、年末年始、臨時休館日
■入館料/常設展:200円(大人) ※土日祝日は小中高生無料
■所在地/富山市五福777(五福山水苑内) TEL:076‐431‐3719 FAX:076‐431‐3720
■URL/http://www.pref.toyama.jp/branches/3044/3044.htm


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