会報「商工とやま」表紙 平成15年度
平成15年度『第7回世界ポスター・トリエンナーレトヤマ2003(IPT2003)』シリーズ
この年、富山市で「第7回ポスター・トリエンナーレトヤマ2003」が開催されました。
富山県立近代美術館のご協力により、受賞作品を表紙としてご紹介させていただきました。


4月号 「YOYO」横尾忠則(日本)(2002年)
会報表紙  最終回は世界ポスタートリエンナーレトヤマ審査員の横尾忠則先生の作品です。
 横尾氏は、日本を代表するイラストレーター、グラフィックデザイナー、そして画家として、 常に時代の最先端で活躍する芸術家として国際的に知られています。1980年にニューヨークで開かれていたピカソ展に 接したのを機に、画家としての活動に重きを転じ、多方面でその多彩な才能を発揮しています。
 記憶のなか、幼い頃の思い出、ときには過去の自らの作品に立ち戻り、神話、夢、物語など、 多次元との交流から紡ぎ出されたものを自由奔放に表現しています。絵画に限らず、ポスターの制作にも旺盛なエネルギーが 投入され、様々なイメージが混沌とする横尾スタイルともいうべき手法で、数多くの作品が次々と精力的に作られています。 このポスターは自作の「想い出と現実の一致」(1998)という絵画作品をもとにして制作されたもので、 切り抜かれた図像やフラットな色面によるグラフィックならではの空間を演出しています。デザインとアート、 あるいは過去と未来、西洋と東洋、聖と俗など、さまざまに対極する領域をなんなく往き来し、自由に解き放たれた創作姿勢が、 横尾の魅力です。


2・3月号 「水滴」新村則人(日本)
会報表紙 「第7回IPT2003」A部門銅賞作品。
 瀬戸内海に浮かぶ小さな島・浮島(うかしま)にある「新村水産」は、作者・新村則人の実家であり、表紙写真は、その水産会社のイメージポスターである。
 全体が銀色に輝いて見えるのは、背景に魚が並べられている様子で、写真は、ソフトフォーカスにしてぼんやりとして見える。その手前に、ガラス板に水滴であらわした新村水産の英文字「Shinmura Fisheries」を浮かび上がらせて、水中の泡のようにも見え、ファンタジックな世界を創り出している。この美しい銀鱗、清らかな海中を想起させるこのポスターは、単なる企業広告のみに終わらず、海の環境に対する問題も声高でなく、自然に観る者に意識させ印象づける。その発想と洗練された構成にIPT2003のA部門において銅賞を受賞した。


1月号 「KAZUMASA NAGAI DESIGN LIFE‐1993」永井一正
会報表紙 今回は世界ポスタートリエンナーレトヤマ審査委員長の永井先生の干支にちなんだ作品。

 手足をひろげて、こちらを見る猿は歯をむいて笑っているようだ。眼を見開き、耳と尻尾を立て、トンと足を踏み込んだような姿。永井一正氏がここ十数年にわたり、動物をテーマにしたポスターを作り続けている。
 この作品では、顔と尻尾は具象的な表現をとり、体は直線で表わした真黄色の色面で出来ている。抽象的な形と具象的な形の組み合わせることで、画面全体に明快でいきいきとした生命感を表している。
 今年は申年。猿と言えば「見ざる、言わざる、聞かざる」の三猿を思い浮かべるが、この猿は「よく見る、よく聞く、よく言う」で、活動的である。

今年は、行動を伴った良い年にしたいですね。



12月号 「カルメン」ランボウ,グンター(ドイツ)
会報表紙 「第7回IPT2003」A部門銀賞作品。
 ランボウのポスターの魅力は、テーマとなる対象をまったく新しく解釈しなおして、象徴化するところにある。明快で簡潔な表現をとっていて、不要なもの、余計なものを一切排除した劇的な図像で、見る者を魅了する。
 このポスターは、カールスルーエ、バーデン国立劇場でのオペラ「カルメン」の上演告知のためのものである。ひき裂かれた真っ赤なドレスが、漆黒の中に鮮やかに浮かび上がる。情熱的で野性的なジプシー女カルメンの恋愛悲劇を象徴的に表現したものである。「詩的」「文学的」ともいえる方法で、凡庸に陥ることなくドラマチックに仕立て上げ、力強いグラフィックのフォルムと確信に満ちた明快さをあわせもって、人々の眼に印象づけ、そのイメージはいつまでも消えることがないほど強烈である。


11月号 「命のための二滴」ほか ケンドリア ヴィッダラヤ校の14人の子供たち(インド)
会報表紙 「第7回IPT2003」B部門銅賞作品。
大きさ/タテ176.0cm×ヨコ118.0cm  「テロ行為」「エイズ」「女性に権利を」「公平な裁判」「献眼」「交通安全」「水は命」「公害」などのテーマで描かれたポスターである。14人のインドの子供たち(12〜18歳)が、それぞれ自分の身の回りにおける関心事をとりあげている。
 IPTのB部門は、自由なテーマで、制作して応募できる。作品は印刷されたものでなくとも、手描きでも構わない。前回より設けられたオリジナル部門であるが、子供たちの参加は珍しく、おそらく今回が初めてである。彼らは当然プロのデザイナーではないが、その豊かな表現力によって入選し、さらに銅賞まで受賞した。「・・・純粋、素朴、無垢という、本来人間が生きていく上で最も重要な性質を、子どもの汚れない自然な感性によって見事に表現されていたからだ。しかも驚くことにこれらの作品の想像力と技術の一致には感動さえ覚えた。正に魂の声を聴くような思いであった。」と審査員の一人横尾忠則氏が語っている。技術的な稚拙さを超え、描くことへの情熱にあふれた表現は切実な心境を伝えていて、彼らの周辺社会の問題は、そのまま世界全体の問題に通じている。


10月号 「悦ばしき黙示録」2000年作、CCCPグラフィック研究所
ドクターペッシェ&マドマゼルローズ(フランス)
会報表紙 「第7回IPT2003」グランプリ受賞作品(3点)の1点
大きさ/タテ176.0cm×ヨコ118.0cm  赤く奇怪な形相、よくみると顔のどの部分をみても魚でできている。髪は魚のヒレ、ひげは尾びれ、瞳に小さな魚が見える。顔の背後には魚の缶詰、タイトル部分には缶切りが添えられている。演劇の内容にあわせたモチーフだろうか、大胆で強烈な印象を与える。この「悦ばしき黙示録」は、若い世代のフランス演劇界を代表する劇作家オリビエ・ピィの創作劇で、日常語に近い台詞を使った「新しい叙事詩」で、喜劇的要素の強い作品のようだ。現代性を持ち、その強い個性とインパクトがその劇場の「顔」となり、開演前の序奏としてまさにドラマティックな演出を見事に果たしている。(本作品ほか入賞作品等は10/19(日)まで県立近代美術館で展示中です。同館にて是非実物をご鑑賞ください。)


8・9月号 「キール週間」1986年作、ピーエル・メンデル(アメリカ)
会報表紙 「第2回IPT‘88」文化部門、銀賞作品
大きさ/タテ118.7p×ヨコ84.0p
 青い背景に白い三角の紙切れが置いてある。底辺にあたる所は手でちぎったものだろうか。たったそれだけのものである。「キール週間」という文字と期間が表示されている。このキールは、ドイツの有名な港湾都市の名前で、ここで開催される有名なヨットレースの告知ポスターである。青は海原、白はヨットの帆、ちぎったところが、ヨットの船体に寄せる波の形である。単純なゆえに、私たちの目をひきつける。大海を望むような印象のポスターである。


7月号 「ポスター・エキスポ」1984年作、ミェチスワフ・グロフスキ(ポーランド)
会報表紙 「第1回IPT‘85」文化部門 銅賞作品
大きさ/タテ67.3p×97.2p
 ポーランドの古都クラクフにあるポスターギャラリーの案内ポスターである。切り抜かれた窓穴から眼が覗き、舌を出している。さらに両手でそのポスターを掲げているように見える。ポスターを見る私たちを向う側から見つめているポスターである。ユーモラスでありながら、どことなく寂しげな雰囲気を醸している。かつての多くのポーランド・ポスターは、作家の手描きのイラストレーションが主体になっており、その描写力の強さだけでなく、まさに背後に封じ込めた機知に富むアイデアが、視覚サーカスともいうべき大胆で驚きに満ちた世界を創り出している。


6月号 「ラフマニノフ」1987年作、カール・ドメニック・ガイスビューラー(スイス)
会報表紙  「第2回IPT’88」文化部門銅賞作品
 大きさ/タテ128.0p×ヨコ90.0p
 カール・ドメニク・ガイスビューラー(作者)は1976年からスイスのチューリッヒ・オペラ劇場ポスターを手掛けてきた。 このポスターはロシアの作曲家ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番、舞踊組曲第2番の公演告知のPRポスターとして制作されたもので、 彼の代表作の一つとなっている。オペラ劇場の建物の一隅だろうか、モノトーンの背景に、バレーダンサーが跳ねた一瞬の姿を、 色鮮やかな線で表している。至って単純な構成でありながら、ドラマチックな効果を演出しており、交響曲の重厚な空間表現に記号化された軽やかな線画がバレエと音楽の躍動感を見事に想起させている。


5月号 「花市場」1990年作、ミシェル・カレ(仏)
会報表紙 「第3回IPT'91」文化・公共部門金賞受賞作品
技法/シルクスクリーン
大きさ/タテ172.2cm×ヨコ117.4cm
 このポスターは、パリ郊外のジャンヌヴィリエ市の花市場のPRポスターとして制作されたもの。 青い背景に横向きの人を表す黒いシルエットと花を表す色鮮やかなブロック、この花束を抱えたイメージは、 当時でも技術的には初歩的なコンピュータグラフィックスの図柄と見なされました。コンピュータグラフィックスが、 高度の技術化により、とかく無味乾燥の表現に陥りがちであったが、あえてその初歩的な画像を大きくクローズアップすることで、 素朴で力強い独創的な図像に作り上げました。


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