「商工とやま」H16年6月号

誌上セミナー 改正労働基準法について〔2〕

講師 社会保険労務士 上市 真也 氏

2.解雇に関する改正

(1)解雇権乱用法理

 近年、解雇をめぐるトラブルが増大しており、その防止・解決を図るには、解雇に関する基本的なルールを明確にすることが必要になっています。そこで、最高裁の判決で確立しているものの、これまで労使当事者に十分周知されていなかった「解雇権濫用法理(※)」が法律に明記されました。

 従って、従来と取り扱いが変わるというものではありません。より明確になったとお考えいただければよいと思います。

 たとえば、整理解雇する場合には、次のような要件が必要であるとされています。

(1)人員削減の必要性(特定の事業部門の閉鎖の必要性)
(2)人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性(解雇回避のために配置転換等をする余地がないこと)
(3)解雇対象の選定の妥当性(選定基準が客観的、合理的であること)
(4)解雇手続きの妥当性(労使協議等を実施していること)



(2)就業規則への「解雇事由」の記載

 労使当事者間において、「解雇」についての事前の予測可能性を高めるため、就業規則に「退職に関する事項」として「解雇の事由」を記載する必要があることが、法律上明確にされました。

 既に使用している就業規則に、「退職に関する事項」として「解雇の事由」を記載していない場合には、「解雇の事由」を記載した上で、改めて労働基準監督署へ届け出なければなりません。

 一般的に、懲戒解雇については細かく記載されていても、一般解雇については簡単な記載だけという事業所が多いようです。現在の就業規則を、これから出る書籍などを参考にして、自社に合うように改正していただきたいと思います。


(3)労働契約締結時における「解雇の事由」の明示

 労使当事者間において、解雇についての事前予測可能性を高めるため、労働契約の締結に際し、使用者は「解雇の事由」を書面の交付により、労働者に明示しなければならないことが明確にされました。

 
(4)解雇理由の明示

 解雇をめぐるトラブルを未然に防止し、その迅速な解決を図るために、これまでの退職時等の証明に加えて、労働者は、解雇の予告をされた日から退職の日までの間においても、解雇の理由についての証明書を請求できることとされました(ただし、使用者は、解雇の予告がされた日以後に、その労働者が解雇以外の理由によって退職した場合は、この証明書を交付する義務はありません)。

 この証明書により解雇理由が合理的だったかどうかなどが明確になりますので、取り扱いには十分な注意が必要です。

(以下、来月号に続きます)


※本稿は、2月20日(金)に開催した『改正労働基準法実務セミナー』の一部をまとめたものです。

※「解雇権濫用法理」とは、昭和50年に初めて最高裁の判例として確立されたものです。この判決では「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」と判示されています(最高裁第2小法廷昭和43年(オ)第499号 昭和50年4月25日判決)。


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