会報「商工とやま」表紙 平成17年度
平成17年度「富山を描く120景」シリーズ
富山県立近代美術館のご協力により、絵画という視点で合併後の新・富山市の価値資源をシリーズでご紹介


4月号 「立山」麻田鷹司
会報表紙  薄紫の空の下、鈍く輝く雪の立山が銀箔で表現され、手前の山々の稜線が、リズミカルな二等辺三角形で連なっている。その足元には大きく蛇行する神通川がある。

 作者は実際の立山の形にこだわるよりも、山の険しさと厳しさ、麓近くの遅い春の訪れを、銀箔の使い方やぼかし、「垂らし込み」の技法などを駆使した独特の風合いのある画面で表現した。麻田は、豪雪だった年の4月に、雪空の下で立山を取材したという。その彼が「心眼」で描きたいと願ったのが本作である。
文:富山県立近代美術館


2・3月号 「雪中瑠璃鶲」(せっちゅうるりびたき)西内利夫
会報表紙  熊笹が真新しい雪で頭を垂れる中を、一羽の青い鳥が飛ぶ。瑠璃鶲の雄は美しい青い羽で身を包んだ小鳥である。
d  京都で活躍した西内は、雪景色を好み、「雪の色はあたたかく明るく美しい」と熱心に話していたという。草木を包み込むような雪のやわらかさの「白」を画面の中心とし、植物と鳥がその瑞々しさを際立たせている。
 普段は高地に住む瑠璃鶲は、冬に麓におりてきた。めぐりあった光景に、雪を得意とした画家の本領が発揮されている。
文:富山県立近代美術館


1月号 「圏外富山湾想像図」清河恵美
会報表紙  「富山を描く」というテーマを、宇宙から富山を見るという独自の発想で表現した作品。作者は地図を参考に、見たことがない想像の風景を描いたという。白い雲間からみえる青く深い海とその湾の形。宇宙から見ても紛れもないその富山の目印は、豊かな深みをたたえている。
 日本画の絵具を盛り上げ、立体地図のように凹凸をつけるなど、伝統を重んじつつも束縛されない手法で描かれた。富山も「地球」の一部という視点とその表現方法は、見る人を明るく楽しい気分にしてくれる。
文:富山県立近代美術館


12月号 「白銀の峰」大野俊明
会報表紙
 心も晴々とする深秋の空のもと、呉羽山展望台から市街地、そして新雪まぶしい立山連峰を展望する。青空と白銀の山の響きあい、山の麓からビル街にかけてのもやのような空気のやわらかさ、手前の褐色の木々へと、なめらかに視線が移動する。
 大野は、細かな写生を基礎として、強い色や輪郭線を使わずに本作を描いた。晴天にそびえる立山に出会うまで、画家は3日通ったという。光のベールに包まれたかのような温もりのある風景は、作家の感動を我々に伝える。
文:富山県立近代美術館


11月号 「常願寺川」小泉 淳作
会報表紙  茶褐色を帯びた晩秋の山々。所々に葉を落とした木々と立山杉に覆われた山は、厳しい冬に備えている。山々の谷間を下ってきた一筋の川の流れが常願寺川と合流する場所を、作者は対岸の山から描いた。
 富山地方鉄道の線路が、橋と無人駅、小さな集落を越え、常願寺川と平行して立山へと進む。細密に描き込まれた山々の濃い色彩の中、一層映えるのは、雄大な自然を表す空と霧と常願寺川、そしてささやかな人の営みを連想させる小さな橋の「白」である。
文:富山県立近代美術館


10月号 「霽(なが)れゆく神通川」上原 卓
会報表紙  神通川は清らかな水をたたえ、下流へと流れる。穏やかな筆使いによる絵巻物のような平面性。単純化された山と色のにじみが醸し出す空模様、それを強調するのは手前に描かれたススキである。
 「霽れ」は通常「晴れ」と同意で、雲や霧が晴れ、展望が開けることをいう。上原が取材したとき、晩秋の神通川は、雨雲が立ち込め、時折光が差し込んでいたという。目の当たりにした感動を題名にも託したのだろうか。
文:富山県立近代美術館


8・9月号 「風の盆」大森運夫
会報表紙  哀愁を帯びた胡弓の音色で有名な「風の盆」を描いた日本画。手前には踊りの出を待つ乙女が二人。背後に踊りの様々な一瞬を捉えた姿が描かれている。7つの踊りのポーズの中、大きく腕を広げる男踊りが1つだけある。
 「風の盆」には、顔を見えないようにした婚姻前の若者が踊る、というしきたりがあるという。手前の頬に赤みを帯びた彼女の視線が、まるで密かに想いを寄せる青年に向けられているようにも思える。皆が目深にかぶる笠が金色で描かれており、その印象を一層強める。
文:富山県立近代美術館


7月号 「東猪谷の石仏」小嶋悠司
会報表紙  麻布の上に大きく描かれた3体の石仏。麻布の風合いと色味は、石仏が長年の風雨にさらされたことを伝える。大沢野から細入の緑豊かな「野仏の里」ののどかさより、背後にも何者かの気配があり、積年の想いの強さを感じる。
 越中と飛騨を結ぶ街道の要所である猪谷には、かつて関所があった。石仏たちが祭られたのは、関所では人々が迷い苦しむ出来事も多かった為だろうか。心の闇に光をもたらす不動明王は、今日も土地の刻まれた想いを優しく見守っているようである。
文:富山県立近代美術館


6月号 「高山城址」原 精一
会報表紙  新緑のまぶしい季節にはじめて富山県を訪れた画家は、何気ない景色を描きたいと思ったという。
 原精一は日本独自の油絵を追及した作家である。本作では説明的な描写を避け、大胆でリズミカルな筆触で躍動感ある風景をとらえている。
 山田温泉から山田川に沿うように音川方面に向かうと、小高い丘がある。自然に覆われ、歴史の痕跡が消えた場所を、画家はその観察眼で見つけ出したのだろう。木々がそびえるこの一角は、かつて高山城があった。
文:富山県立近代美術館


5月号 「富山黎明」中根 寛
会報表紙  呉羽山の木々の間から立山連峰を望む。まさに朝が始まろうとしている瞬間である。雪化粧の立山と朝靄の中のビル街。まっすぐ流れる神通川は、澄んだ空を映す。神通大橋からは幾本か道があり、緑の田畑と家々へと広がる。
 明け方の風景を得意とした中根寛は、本作でも連山から朝日が昇るという富山独特の黎明の姿を描いている。
 ひと気のない風景だが、生活する人々の気配が漂う。朝焼けに輝く立山連峰が一日の始まりを見守っているようである。
文:富山県立近代美術館


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