「商工とやま」平成19年4月号
特集 専門学校から吹いてくる、新しい風

 春は入学、卒業、就職など、多くの若者が人生の新しい第一歩を踏み出す季節です。
 また、景気の回復にともない、新規学卒者をはじめとした若年労働力の確保難やパートタイマーの正社員化など雇用をとりまく情勢も変化しています。
 少子高齢化をはじめ、大きく変動する社会環境の中で、社会や企業とより密接なコミュニケーションをはかり、将来の日本の産業界を担う優れた人材育成に取り組んでいる専門学校。今回は、特徴のある教育であらたな方向性を探る、専門学校についてご紹介します。


■専門学校とは

 専門学校は法的には「専修学校」と位置づけられています。県内には35校の専修学校・各種学校があり、そのうち社団法人富山県専修学校各種学校連合会(以下、富山県専各連)に加盟している専修学校が23校あります。専修学校は学校教育法で、「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図る」ことを目的にした学校とされています。実践的な職業教育や専門的な技術教育を行う教育機関として、多岐にわたる分野でスペシャリストを育成しています。

 また、専修学校とは、修業年限が1年以上、授業時間数が年間800時間以上で、生徒が常時40人以上の要件を満たす学校のことで、課程によっては高卒程度の学力が必要です。実社会で役立つ様々な資格や技能を身につけ、産業界にとって、より必要とされる人材を育成する目的があります。また、この他にも、各種学校と言われる学校があります。修業年限は1年以上(簡易なものは3カ月以上)、年間授業時間数は680時間以上、入学資格は不問です。


■専門士は短大・大学へも編入可能

 昭和51年に学校教育法が一部改正され、専修学校の設置基準が定められました。専修学校には、中学卒業後に高等課程(高等学校相当)を学ぶ専修学校と、高等学校卒業者が学ぶ専門課程を設けている専修学校とがあります。主に専門課程を設けている専修学校が、一般的に「専門学校」と呼ばれています(以下、「専門学校」は専修学校(専門課程)を指す)。

 また、次の要件を満たした課程で、文部科学大臣が認めた専門学校の修了者には、「専門士」の称号が与えられています。専門士は、大学・短大へ編入することも可能です。

《専門士》
・修業年限が2年以上
・総授業時数が1700時間以上
・試験等により成績評価を行い、その評価に基づいて課程修了の認定を行っている
 さらに、平成17年度から、次の要件を満たした課程で、文部科学大臣が認めた専門学校の修了者には、「高度専門士」という新たな称号が与えられることになりました。高度専門士は大学院へも進学が可能となっています。

《高度専門士》
・修業年限が4年以上
・総授業時数が3400時間以上
・体系的に教育課程が編成されていること
・試験等により成績評価を行い、その評価に基づいて課程修了の認定を行っている


■ニーズに合わせ柔軟な学校運営

 学校教育法の第一条に定められている「学校」として、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校、幼稚園があり、これらの学校は第一条校と呼ばれています。専門学校は法的にはこの第一条校には含まれず、その他の教育施設として位置づけられています。そのため、国からの補助金はありません。公的援助がない反面、比較的自由に、時代に即応した学科を設けることができます。学生や社会、企業のニーズに合わせて柔軟な学校運営ができるという一面もあるのです。

 しかし、平成18年度で全国には専門学校が2、996校あり、約66万7千人の学生が在籍しているといいます。長年の実績と現状を考えると、第一条校の「学校」として認められていないという点に、驚きを感じる方も多いのではないでしょうか。


■少子化と県外進学率の高さ
 富山県内の平成18年3月の高校卒業者は9、955人(男子5、009人、女子4、946人)で、前年より554人(5・3%)減少しています。平成8年の14、758人と比較すると、10年間で4、803人も減少していて、少子化が加速していることがわかります。

 高校卒業者が減少し続けていること以上に、富山県ならではの大きな問題があります。それは、県外の大学・短大、専門学校への進学率が高いことです。

 平成18年3月卒業の県内高校生のうち、大学進学で富山県内に残る割合(県内大学への進学率)は、18・4%で全国38位です(石川県は34・4%で15位、福井県は25・4%で23位)。大学の収容率でも富山県は49・9%で、全国36位(石川県は107・2%で10位、福井県は49・2%で37位)と極端に低くなっています。また、県外の専門学校への進学率(流出率)は、毎年ほぼ50%前後で推移しているといいます。県内にも様々な分野の学校がありながらも、多くの高校生が県外へと進学している現状がわかります。

※大学収容率…自県の大学入学者数÷自県出身者入学総数×100


■専門学校への進学率は約2割

 県内の専門学校には、平成18年度では3、338人の学生が在籍しています。

 平成18年3月卒業の県内高校生のうち、専門学校への進学者は1、853人で全体の約18・6%となっています。全国的にみても専門学校への進学者は毎年約2割で推移しています。その他、県内高校卒業生の大学への進学率は51・4%で、全国第14位(大学学部への進学率は41・1%、短大本科への進学率は9・4%)となっています。

 また、専修学校(全課程)卒業者の就職内定率(3月末時点)は、毎年87%前後で推移し、うち約85%は県内企業への就職となっています(大卒者の内定率は90%前後で、うち約45%が県内企業への就職です)。

 富山県専各連では、高校の進路指導の先生方に、「資格取得や卒業後の進路が明確で、目的意識を持って学ぶことができる専門学校は、進学先として、今の時代のニーズに合った価値ある選択肢の一つ」と呼びかけています。


■大学全入学時代だからこそ進化をつづける専門学校

 少子化が進み、平成19年から入学者総数と志願者総数が同数になる大学の全入学時代に突入した今、さらに大学・短大・専門学校間での競争は激化しています。特徴あるカリキュラムや産学官での連携、地域に開かれた学校運営を目指し、各学校は様々な取り組みを始めています。そして、企業をとりまく環境も厳しい中、より専門性の高い教育と、企業ニーズに確実に応えるための実践的な技能を身につけた人材が必要とされています。

 県内でも先進的な教育に取り組んでいる学校があります。

 学校法人浦山学園・富山情報ビジネス専門学校では、平成19年に4年制の高度情報システム学科を新設し、企業との連携でつくられるカリキュラム・PBL(Project Based Learning)型システム開発教育に取り組んでいます。さらに、厚生労働省が推奨する若年者就職基礎能力取得支援のための「YESプログラム」として認定された授業が行われており、県内で唯一受講できる教育機関です。


■ISO取得により自らを検証

 学校全体としての取り組みについて、同校校長の永井真介先生にお話を伺いました。

 「当校は平成14年に旧富山経済専門学校から校名を変更しました。時代が求める専門知識の習得や資格取得を目指すとともに、知識、意欲、コミュニケーション能力などを高め、新しい価値観で社会に貢献できる人材の養成=教育付加価値追求型の学校を目指しています。また、ISO9001(品質マネジメントシステム)を取得し、私たちが提供する教育実践が、実社会に受け入れられるものとなっているかどうかを常に検証しています。学校理念や教育目的が単なる掛け声で終わらないように、質の高い教育を維持し、改善していく姿勢を保つために取り組んでいます。

 教育現場は、ともすると閉鎖的になりがちですが、当校ではコンピュータシステムを利用して情報の共有を図っています。学生、保護者、教職員が必要な情報を共有することで、一人ひとりの学生への個別対応がより充実したものにできるし、子どもたちの様々な体験や多様な価値観を理解するためにも、情報の共有はとても大切なのです」と説明されました。


■プロジェクト・マネージャーの育成

 同校は4年制の高度情報システム学科を設け、企業との連携のなかで、高度な技術を身につけたシステムエンジニア、プロジェクト・マネージャーの育成を目指しています。

 企業研究を進めるうちに、県内のIT業界ではプロジェクト・マネージャーが圧倒的に少ないということ、そのためどちらかというと下流の工程の仕事が多くなっていることが分かりました。そこで、業界が本当に求めている、より専門的な知識を身につけた人材の育成を目指し、株式会社インテックとの共同開発でPBLに取り組みが始まりました。PBLとインターンシップを組み合わせることで、より必要とされる専門的な知識を身につけることが期待されています。


■業界が本当に必要としている人材を送り出す

 学生数が減少し続けるなか、これからの専門学校には、どのような経営戦略が求められるのでしょうか。

 永井校長は、「専門学校は今まではニーズに合わせて、必要な学科をつくれば学生は集まってきました。しかし、これから徐々に学生数が減っていく時代に入り、それだけでは不十分です。今後は生涯学習という視点からも、対象として社会人をどのように受け入れていくかということも、今後の課題の一つです。退職する団塊の世代や、再チャレンジの方へいかに柔軟なカリキュラムを組んでいけるかということも重要です。また、第一条校として、認められるよう、さらに国に働きかけていきたい」と、富山県専各連副理事長でもある浦山哲郎学園理事長と共に、積極的に活動しています。

 しかし、一番大切なこととして、「本来の使命に立ち戻り、企業と一緒に、より実践的なカリキュラムの構築をしていくことです。これは、これまでの400社以上の企業とのおつきあいの中で、私自身が感じてきたことでもあります。まず資格ありきではなく、業界が本当に必要としているスキルを身につけた人材を送り出せているかどうかが大切なのです。第三者評価によって、この点は、さらに明らかになっていくでしょう。それができない学校は淘汰されていくと思います。首都圏の有名大学も地方に進出するなど、生き残りをかけた大きな改革に取り組んでいます。専門学校はそれ以上のことをやらないといけません。この5年が勝負になるのではないでしょうか」と力強く語って下さいました。

 当所では「いい仕事、人へ、街へ、未来へ。」をキヤッチフレーズに、富山市価値創造プロジェクトに取り組んでいます。富山情報ビジネス専門学校との連携講座「もっと知ろう!富山の価値2007」の実施のほか、平成19年度から産学連携による学生のキャリアアップやものづくり人材の育成を支援するなど、魅力ある富山の創造を目指し、県内企業と優秀な人材のよりよいマッチングが可能になるよう、今後も多方面から支援していきます。


参考資料/文部科学省「学校基本調査報告書」、同「高等学校卒業(予定)者の就職(内定)状況調査」、同「大学・短期大学・高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査」



【社団法人富山県専修学校各種学校連合会】
住所 〒930-0096 富山市舟橋北町4-19
TEL 076-442-1858 FAX:076-442-1859
URL http://www.toyama‐senkakuren.or.jp/
県内の専修学校23校、各種学校26校が加盟。

学校法人浦山学園 富山情報ビジネス専門学校 校長  永 井 真 介 氏
●プロフィール
 横須賀市立中学校勤務時代、NHKスペシャル「非行0へのスクラム」で非行への取り組みが放映される。1987〜2003年、学校法人臼井学園で勤務。2003年より富山情報ビジネス専門学校勤務、2004年より同校校長。

【富山情報ビジネス専門学校】 住所 〒939-0341 富山県射水市三ケ576
TEL 0766-55-1420 FAX 0766-55-0757
URL http://www.bit.urayama.ac.jp/
設置学科は、工業、商業実務、文化教養、教育・社会福祉の4分野、11学科


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