「商工とやま」平成20年8・9月号

特集
  企業の成長は、経営者と人財の健康から

〜健康診断を積極的に活用して、生活習慣病を予防・改善しよう〜

 今年の4月からスタートした、特定健診・特定保健指導が、大きな話題となっています。また、昨年の11月に稼動したとやまPET画像診断センターには、これまでに多くの方が訪れ、がんの早期発見とより効果的な治療への期待が一層高まっています。

 これらの検診を積極的に活用して、生活習慣病やがんの早期発見・早期治療に努め、経営者はもちろん、従業員やその家族など大切な「人財」の健康を守り、経営のさらなる安定と発展を目指したいものです。

 今回は、富山県健康増進センターの大江浩所長と、とやまPET画像診断センターの宮内勉センター長にお話を伺いました。




◇ メタボ健診で、生活習慣を見直そう。 ◇

■医療保険制度の大改革

 日本では、生活習慣の変化や高齢者の増加で、糖尿病・高血圧・脳卒中・高脂血症など生活習慣病の人やその予備群が増加しています。生活習慣病を原因とする死亡は、全体の約3分の1にものぼると推計されています。4月から始まった、生活習慣病予防のための新しい健診・保健指導について、富山県健康増進センターの大江浩所長にお話を伺いました。

 「今回の特定健診・特定保健指導は、25年ぶりの医療保険制度の大改革です。昨今増え続けているメタボリックシンドローム(代謝症候群)に着目し、40歳から74歳までの方を対象にした特定健診・特定保健指導によって、生活習慣病の減少と増大する医療費の抑制を目指しています。また、医療保険者に実施を義務づけているのも大きな特徴です。対象者は、加入している医療保険者が指定する健診機関で受診し、必要な方は継続した保健指導を受けることになります」。

 医療保険者とは市町村国民健康保険、国民健康保険組合、健康保険組合、政府管掌保険組合、共済組合等のことです。医療保険者には、特定健康診査等実施計画(5カ年)の策定を義務づけています。そして、健診や保健指導の実施率、メタボリックシンドロームの減少率により、平成25年度から後期高齢者医療制度支援金の加算・減算が実施されることになっています。



■メタボリックシンドローム診断基準とは

  男性で腹囲が85cm以上、女性で90cm以上の人で、脂質異常、高血圧、高血糖のうち、2つ以上に当てはまる人はメタボリックシンドローム(1つの人は予備群)となります。平成18年の国民健康・栄養調査結果によると、40歳から74歳のメタボ該当者は、約960万人。予備群者数は約980万人となっています。男性の2人に1人、女性の5人に1人が該当することになります。また、糖尿病が強く疑われる人と、糖尿病の可能性が否定できない人の合計は1、870万人。高血圧症の人は約3、970万人。脂質異常症の疑いのある人は約1、410万人にもなります。これらの疾患は個々の原因で発症するというよりも、特に内臓脂肪型肥満が大きな原因の1つであると考えられています。


■内臓脂肪型肥満とは

 肥満には内臓脂肪型肥満と、皮下脂肪型肥満がありますが、男性は内臓脂肪型肥満(リンゴ型)が多く、女性は皮下脂肪型(洋ナシ型)が多いと言われています。内臓脂肪は腸のまわりにつくもので、おなかがぽっこりでた体型の人が内臓脂肪型肥満と考えられます。一方、腰まわりやお尻、太ももなどの下半身を中心に脂肪がたまるタイプの肥満は、皮下脂肪型肥満と考えられます。

 「この内臓脂肪こそが、メタボリックシンドロームに大きく関わってくるのです。しかし一方で、内臓脂肪は皮下脂肪に比べて比較的減らしやすい脂肪であることが証明されています。内臓脂肪はダイエットによる効果の出やすい脂肪とも言えるのです」。

 日本肥満学会では「まずは3kgの減量、3cmのウエスト短縮を!」と「サンサン運動」を提案しています。


■メタボで脳卒中、心疾患の危険が増大

 「メタボリックシンドローム対策の根拠となっているのが、第一に、肥満者の多くが糖尿病、高脂血症、高血圧症などの危険因子を併せ持っていること。第二に、その危険因子が重なるほど、脳卒中、心疾患を発症する危険が増大することです。そして第三に、生活習慣を変え、内臓脂肪を減らすことで、危険因子が改善できることが挙げられます」。

 肥満、糖尿病、高血圧症、高脂血症といった危険因子は動脈硬化を進行させます。動脈硬化が進むことで全身の血管がもろくなり、様々な障害をおこします。

 平成5年度の健診結果と15年度の一人あたりの医療費をみると、肥満、血圧、脂質(コレステロール)、血糖値等に異常がある人ほど医療費が高くなり、すべての項目で異常がある人は、異常が全くない人に比べて3倍の医療費がかかっています。


■従業員の健康は企業にとっての大きなメリット

 心臓病や脳卒中、腎臓病、糖尿病は、生活機能の著しい低下を招きます。これらの疾患は、職場で重要な役割を担う50歳代から60歳代で発症しやすくなります。貴重な人材が病に倒れて休業した場合、企業の損失は大きなものとなります。そうなる前に、日頃から経営者や従業員が積極的に生活改善、メタボリックシンドロームの予防・改善に努めることが重要です。健康維持は、生産性の維持であるとともにコスト削減にもつながり、経営リスクを減らすことにもなるのです。


■特定保健指導とは

 これまでの健診はいわゆる「受けっぱなし」のことが多く、その後の治療や生活改善にはなかなか結びついていなかったのも事実です。今回スタートした特定健診では、メタボリックシンドロームやその予備群の人を見つけ出し、3つのグループに階層化して、医師・保健師・管理栄養士などの専門家が次のような保健指導を行います(図1)。

 なお、富山県健康増進センターではこれらの支援体制・メニューを整えており、施設内だけではなく、企業に出向いて健診・指導することができます。


■食習慣の見直しと運動の習慣づけ

 日頃何気なく食べている食事のカロリーを知って、その高さに驚いた経験はありませんか。普段の生活で消費するカロリーに比べて、食べたり飲んだりする量が多ければ、当然のことながら太ってしまいます。自分の食生活に無関心だったり、炭水化物ばかりの食事など、バランスの悪い食事をしていると、メタボリックシンドロームになりやすくなります。生活習慣病の多くは、自らの意志や行動によって予防が可能です。自分の食べたものを記録してみたり、食事を良く噛んでゆっくり味わってみるなど、簡単なことから、自分のライフスタイルを見直してみませんか。

 また、1日に30分程度の早足でのウォーキングも継続すれば効果があります。企業のトップが率先して生活習慣を改善し、従業員にも呼びかけることで、健康な暮らしが生まれ、企業の成長へとつながっていきます。経営者や従業員が心身ともに健康であるためにも、生活習慣病の予防・改善に積極的に取り組んでみませんか。




◇ PET検査を組み合わせて早期発見! ◇

■精度の高いがん検診を

 富山県は、がんによる死亡率が全国よりも高く、がん医療や検診体制の充実が求められています。そのような中で、最新式のPET/CT装置とサイクロトロン・薬剤合成設備(PET検査に使う薬剤を製造する装置)を備えた「とやまPET画像診断センター」が、昨年の11月20日に診療を開始しました。とやまPET画像診断センターの宮内勉センター長に、お話を伺いました。


■健康診断の利用者が多い

 「当センターは、富山県、県内各市町村、県内各企業からの出資金を管理する株式会社により整備され、県内全域の各医療機関や企業が、医療や健診で共同利用する、我が国初のシステムをとっています。県内の8つのがん診療連携拠点病院に加え、公的病院などと連携した富山型がん診療体制でがん医療を推進しています(図2)。現在2台のPET/CT装置で、1日に最高で16人前後の検査が可能です。また、6月30日現在で、約1、400名の方が受診されています。保険診療の方は約800名、健康診断(自費診療)の方は約600名です。料金は保険診療の場合は3割負担で約3万円、1割負担で約1万円です。健康診断の場合は89、500円となりますが、これは全国的にみても決して高くない料金です。これまで県外に出掛けてPET検査を受けていた方も、県内で受けられるようになって旅費などの負担も減り、よく利用されているようです」。

 また、健康診断での利用者には、今年4月より、市町村・企業・健康保険組合等で助成制度の導入が進んでいるほか、夫婦や親族(2人以上)で受診される場合や、前回の受診(同センター利用)から3年以内の場合の割引制度が設けられ、より受診しやすくなっています。


■PET/CT検査のしくみと特徴

 がん細胞は、どんどん増殖するため、正常細胞のおよそ3倍から20倍のブドウ糖を消費します。この性質に着目したのがPETによるがん検査です。ブドウ糖に似せた、微量の放射能を含んだ薬剤(FDG)を注射して、全身への分布状況を撮影します(この薬剤はほとんど副作用のないものです)。

 PET装置で撮影すると、がん病変が光って見え、がんのある場所や、大きさがわかります。みるみる大きくなる・転移しやすい、たちの悪いがん病変であるほど、たくさんの薬剤が集まり、強く光って見えます。ただし、脳や心臓などもブドウ糖を使って活動しているため、がんではないところも光ります。そこで、身体の地図に相当するCT画像と重ねることで、PET検査薬がどこに集まっているのかが詳しく確認できます。これまでのPET単独検査に比べて、格段に診断の精度が向上しています。


■転移や再発も発見!

 PET検査は、がんの早期発見はもちろん、転移や再発の発見にも威力を発揮します。ほぼ全身を一度に撮影できるため、がんの広がりや転移の発見に有利です。PET検査で全身へのがん病変の広がり具合を確認し、個々の患者に応じた適切な治療方針の確立に役立てます。

 保険診療の方は、後日、主治医から検査結果をもとに説明を受けることになります。健康診断の方は、後日結果が郵送されてきます。画像はCDに記録されていて、治療に役立てられます。


■PET検査だけでなく、従来の人間ドックやがん検診の受診を

 PET検査も万能ではなく、胃や腎臓、膀胱、前立腺がんなど、発見しにくいがんがあります。従来の人間ドックやがん検診とPET/CT検査を組み合わせることで、より精度の高いがん検診となり、早期発見にも役立ちます。

 「当センターでは、様々なPET検査薬を製造する設備が整っています。今後は、認知症の早期診断、心臓病の検査などにも対応できるよう、検査薬の研究・開発もすすめていきたいと考えています」。

 このように、富山県内でも、生活習慣病やがん医療の環境が良くなってきています。これらを最大限に活かし、健康上の不安をできるだけ取り除けば、日々の活動に専念でき、より良い結果につながるはずです。

 富山商工会議所は今年も9月に、会員事業所の経営者や従業員の皆さんを対象とした「生活習慣病予防健診」を実施しますので、これを機会に、先ずは身体の状態をチェックしてみませんか(詳細は本誌同封のチラシをご覧ください)。


財団法人富山県健康スポーツ財団 富山県健康増進センター
富山市蜷川373番地
お問い合わせ時間 [月曜日〜金曜日 9時〜17時]
TEL:076-429-7575  FAX:076-429-7146
URL:http://www1.coralnet.or.jp/zoshin/

医療法人財団とやま医療健康センター とやまPET画像診断センター
富山市蜷川388番地
お問い合わせ時間[月曜日〜金曜日 9時〜17時]
TEL:076-411-5200  FAX:076-429-7326
URL:http://www.pet-toyama.jp

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