「商工とやま」平成21年1月号

当所スペイン産業経済視察報告
歴史的建造物を活かしたまちづくりと環境にやさしい自然エネルギーの活用を学ぶ

 当所は、平成20年11月10日から9日間、スペイン産業経済視察団(団長 犬島伸一郎当所会頭)を派遣し、歴史的建造物を活かしたまちづくりへの取り組み、また、太陽光を利用した自然(再生可能)エネルギーによる発電の取り組みなどについて、その実際に触れながら理解を深め、11月18日に帰国した。



11月10日(月)・11日(火)


■行政が強力にリードする「歩いて暮らせるまち」づくり

 スペイン第2の都市で、1992年のオリンピック開催地としても有名になったバルセロナでは、個性的建築物で知られる天才建築家・ガウディが設計した「聖家族教会(サグラダ・ファミリア)」の建築が1882年から現在も続いており、世界から観光客を集めている。

 2000年の歴史を誇るバルセロナではあるが、聖家族教会と同様に、市全体のまちづくりは現在も続いており、カタルーニャ建築士会のジェラルド氏からバルセロナのまちづくりについての説明を聞きながら、市内を視察した。

 バルセロナ市は中心市街地の専門店を守るため、レジ100台以上を持つ、いわゆる大型店の中心市街地への出店を認めておらず、郊外にのみ立地できる。では、なぜ行政は中心市街地の専門店を保護するのだろうか。

 中心市街地の建物の多くは、1階が専門店で、2階以上がアパートになっており、アパートの住人は1階にある専門店の従業員であり、消費者でもある。大型店が中心市街地へ出店することによって専門店がなくなれば、住人の働き場所がなくなり、同時に生活の必需品が身近に購入できなくなるなど、住みづらく魅力のないまちになってしまうことが容易に想像できる。

 また、高齢者が半径500メートルの範囲で歩いて生活することができるためにも、中心市街地の専門店は重要な存在であり、さらに、食料品市場(マーケット)が中心市街地の40ヵ所に計画的に配置されている。バルセロナ市がリードする中心市街地のまちづくりコンセプトは、まさに「歩いて暮らせるまち」である。



■建物の多くは再利用

 基本的に建物は石づくりであり、よほど老朽化していない限り壊さずに再利用している。例えば、4階建ての建物の1階・2階はそのまま利用して、3階・4階だけを新しくするといった方法だ。

 前述した市内40カ所に計画的に配置されたマーケットのうち、私たちが訪ねたマーケットの建物は1850年代の修道院を改修して再利用したものだとの説明を聴いて驚いたが、建物の中には2000年前の遺構が発掘・保存されており、バルセロナが持つ歴史の奥深さを実感した。



11月12日(水)・13日(木)


■EU域内で優等生のスペイン 経済もマイナス成長の危機

 ジェトロのマドリード事務所を訪問し、戸塚所長からスペインの経済動向、今後の見通し、日本から進出企業など日本との関係、エネルギー政策などについて説明を聴き、質疑応答や意見交換をして情報収集した。主な内容は以下のとおり。

・外国からの観光客受入数は年間約5,800万人(2006年)で、スペインの人口約4,500万人を遥かに上回る。世界の総観光客数の6・9%を占め、フランスに次いで世界第2位であり、また、11都市もの世界遺産指定都市を擁する観光立国である。

・国内総生産(GDP)は世界第8位(2007年、日本は第2位)の経済大国であり、一人当たりのGDPでは22位の日本に迫る25位。今後の為替レートの変動によってはスペインが日本を上回ることもありうる。

・スペイン経済はここ数年3%台の経済成長率を維持してEU域内の経済を牽引する優等生であったが、2008年は、世界的な金融危機の影響や国内の住宅バブルの崩壊などもあって、景況感は一気に悪化している。

・企業倒産は1年間で3・6倍に増加、建設・不動産業が約半数を占める。雇用面でも1年間で失業率が3・3ポイント悪化して11・3%となった。

・こうした国内経済の失速に対して、スペイン政府は減税や中小企業支援、失業対策などの景気刺激策、さらに金融安定化策などを相次ぎ投入しているが、効果が出るまでには時間がかかると見られている。



■風力発電では世界第3位、太陽光発電では世界第4位を誇る

・スペインのエネルギー政策では、エネルギー資源別の消費量を見ると、石炭や石油、天然ガスが80%以上を占めるが、これら資源調達の対外依存度が非常に高いことから、風力や太陽光、太陽熱などを利用した再生可能エネルギー(RE)の活用を進めており、2010年までに総発電量に占めるRE発電量を現在の約20%から30%に引き上げる目標を打ち出している。

・風力発電では、発電総設備容量が毎年平均25%以上も増加しており、ドイツ、アメリカに次いで世界第3位の設備容量を誇り、その設備を日本にも輸出している。また、ソーラーパネルを利用した太陽光発電は2006年以降、導入量が急速に伸びており、導入量ではドイツ、日本、アメリカに次いで世界第4位、2007年の伸び率は対前年比で450%に達し、断トツの世界第1位である(2位はイタリアの約150%)。



11月14日(金)・15日(土)


■赤土の大地に広がる大規模な太陽光発電パネル

 グラナダからバスでセビリアに向かう。途中、高速道路を走る車窓からの景色は、延々とオリーブ畑が続いていたかと思えば、一転して赤茶けた土の大地が広がり、季節的に野菜などの収穫が終わった時期だったのかもしれないが、地平線の彼方まで同じ景色である。地平線から太陽が昇り、地平線へと太陽が沈む光景は感動的であった。

 また、道路沿いには11月の陽射しにキラキラ反射しながら並ぶ大規模な太陽光の発電パネルが所々で見られた。ジェトロ・マドリード事務所の戸塚所長から説明を聴いた再生可能エネルギーを使った発電施設を目の当たりにし、スペインにおけるRE発電の取り組みが着実に広がっていることを実感した。



11月16日(日)・17日(月)


■「スペインの高速」AVEは日本の新幹線並みの快適さ

 コルドバからスペインの新幹線AVEに乗車し、マドリードへ向かった。スペイン国内の新幹線の施設距離は1,579キロメートルで、日本、フランスに次いで世界第3位の営業距離を誇っている。

 AVEの座席は特等と1等、2等の3クラスに分かれており、特等と1等には食事サービスや、天井からのモニターでビデオ上映があるなど、航空機との競争を強く意識している。我々一行は1列と2列に分れたシートでくつろぎながら、日本の新幹線と同様、AVEの快適な乗り心地を楽しんだ。

 スペイン政府は2010年までに全土で7,000kmに及ぶ高速鉄道の建設計画を構想しており、計画がもし完全に実行されれば他の先進国に例を見ない高速鉄道網が完成することになる。

 以上ですべての視察を終了し、帰国の途についた。



■古くからの遺産を生かしながら新しく再利用するまちづくり

 スペインの建物は大理石やレンガ造りが基本で、日本のような木造建築ではないため、何世紀も前の建物を改修して再利用することが可能である。

 バルセロナの中心市街地でもそうした事例を数多く見たように、歴史的な建築物を壊さずに再利用するという考え方、文化がまちづくりの根底に流れていることが強く感じられた。

 他から何か新しいものを持ってくるのではなく、古くからの遺産を大切に生かしながら新しく使う考え方を、富山のまちづくりなどに大いに参考にしていきたいと思う。



■太陽光や風力を活用した環境にやさしい再生可能エネルギー

 ヨーロッパとアフリカの接点に位置するスペインの気候は、沿岸部は温暖な地中海性気候の影響により、一年を通して日照が多く、降水量も少ない。

 また、人口密度は日本の約4分の1で、郊外には赤土の大地が広がっており、スペイン政府はこうした環境をうまく活用した太陽光や風力による発電を積極的に支援している。

 再生可能エネルギーとして分類されるこれらのエネルギー源は、石油などの限りある化石燃料と違い、ほぼ無限と言え、近い将来、いわゆる環境にやさしい自然エネルギーとして主役の一角を占めるのではないかと感じられる。

 CO2排出量の低減や環境対策の面で、生産活動や市民生活においても、自然エネルギーの活用をこれまで以上に考えていかなければならないと思う。

 報告者/当所中小企業支援部副部長 富田光國


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