会報「商工とやま」平成21年05月号

特集
創刊六〇〇号記念 三月十日開催の通常議員総会における会頭挨拶より
共に知恵を出し、共に力を合わせて乗り越えましょう
〜会員の皆さまへのメッセージ〜  会頭 犬島伸一郎



 日頃、皆様方には商工会議所活動にいろいろとご理解とご協力をいただいておりますことに、先ずもって御礼を申し上げます。

 年明け以来の日本経済。三月に入りまさに最悪の状況を呈しております。ご案内の通り、株価は下がる、金詰りで資金繰りが大変だ、それから政治はと言えば、これまた形容の仕様がないといいますか、迷走が続いているわけです。

 アメリカ発と言われているこの不況ですが、単に金融だけにとどまっていれば、それほど大きな影響はなかったのですが、実はそれ以前のところの「信頼」ですとか、「信用」というものまでも傷つけてしまい、それが実体経済にまで影響を及ぼしてしまったところに問題の根深さがあります。それがさらに波及して株価を押し下げ、一種の閉塞状態に落ち込んでしまいました。で、どうやってここから脱出するのかというのが焦眉の急の問題としてあるわけです。


貿易立国・日本の先行指標は、同じ貿易立国である韓国


 ただ、比較的「良い」といわれていた日本ですが、実はここへきてその実態が徐々に明らかになってきました。

 日本は戦後一貫して加工貿易を中心とした、いわゆる貿易立国ということで日本を支えてきた輸出産業に全精力を傾注して、即ちいろいろな政策、あるいは税制、為替など、ありとあらゆるものを総動員して貿易立国でやってきたわけですが、ただ残念なことに、この分野に集中しすぎてしまった嫌いがあります。例えて言えば米作り、米はいろんな品種があるのですが、コシヒカリだけに集中をしたために、いろんな病害虫やら、嵐がくると一辺にやられるというような、そういう現象を呈し始めてきています。今朝の新聞でもご案内の通りですが、日本の貿易の経常収支が赤字になるというのはここ暫く見たことがありません。しかしながら、日本と同じように貿易立国を目指してきた韓国では、既に一年ほど前から経常赤字で、もの凄いウォン安です。今の円との関係では約半分まで落ちており、日本の先行指標みたいな形です。


底は三月、モノの動きは第一・四半期終盤から


 アメリカ、ヨーロッパも酷いですけれども、私は個人的な見解として、恐らく今三月が底ではないか、と予想しています。アメリカで最大の懸念は、GM(ゼネラルモータース)がどう決着を迎えるのか。日本でいう民事再生法みたいなものを適用するのか、あるいは政府が支援をして救済をするのか。もう一つは銀行最大手のシティバンクの行方も見えない部分がありますが、この問題も近々結論を見るだろうと思います。

 では、何故三月が底かと申し上げますと、現在の経済状況を見る場合、第一に、今までうまく動いてきたものが壊れてしまったものと、第二に、在庫が溜まり過ぎて、その解消を待っている在庫循環に伴う景気の回復という二つの側面から見てみる必要があります。先ず前者ですが、壊れてしまったものは沢山あります。それは今までアメリカが自動車や、あるいは住宅などを変な売り方で売っていました。これらの業界はなかなか戻りにくいでしょう。この落ち込みは約二〜三割あるのではないかと思われます。往時のバブルの時と比較して見ると、低水準で動かざるを得ないかもしれないという要因があります。次に後者ですが、そうはいっても日常生活を送っていく上で、どうしても生活必需品的なものは、ある一定の限界を超えると買わなくてはいけなくなります。それが恐らく三月辺りから少しずつ動きが出てきて、第一・四半期が終わる七月頃からはこの在庫循環に伴うモノの動きが出てくるのではないか。そして、ちょうどリーマンブラザーズが倒産して一年を迎える九月過ぎぐらいからは、多少とも正常な動きが定着してくるのではないか、とこのように思っているわけです。

 しかし、先ほども申し上げましたように、壊れてしまったものは、暫くは戻らない。したがって従来型の経済活動からみれば二割ないし三割下押ししたところで動き始めるのではないかと思います。日本は、この加工貿易、もちろんこの後もこれ以外の生きる道はなかなか見出しにくいのですけれども、その他の分野でどう力を発揮するかということが本当の意味で問われています。例えば、エネルギーや食糧、資源の問題であるとか、このような諸々の問題をいくつも内包しながら、また少子高齢化という構造的な厄介さを抱えながらもこれを克服していかなければなりません。このような中で、大企業はむしろ中小企業よりも早めに行動をしているわけで、これを中小企業がどう乗り越えていくかというのが最大の難関といっていいでしょう。


総悲観の中でも「楽観」的要素はある


 私は、実のところ「いまの経済の最悪期は一年ほど」と、見ております。それは何故かと申し上げますと、一番目に、今のこの異常な悪さというのは、バブルが壊れたということ。二番目には、既に皆さんの会社で導入していらっしゃる企業会計が時価会計になっていますから、本当の価値はどうであるかということよりも、いくらで売れるのか、ということで評価をされてしまいますので非常に悪くなります。今は誰も買い手がいない中で値決めをしなければなりません。そんな値段で評価をしていますから、全く実態とはかけ離れたところで会計処理がなされている訳です。ところが正常な状態に戻ると、何にもしないでも、戻りだけで利益が出るというような非常に変な会計になっているわけです。ですから、ある程度落ち着きを戻したときは非常に戻りが早いと思います。それから三番目は、企業経営者は、赤字になるか黒字になるかのところでは非常に苦しい決断を迫られます。ところが一度赤字決算でも仕方が無いという決断を下すと、この際二度と赤字決算を出したくありませんから、出せる損失は全部出すということをやります。このことも企業決算の数字を極端に悪くしている一つでもあるわけです。それから四番目は、何が何でもこんな低金利で、各国揃って財政赤字覚悟で需要の増加策を打ち出しています。一年も経てば何らかの効果が出ないわけがありません。このようなことから、私は楽観的にものを見ているところがあります。

 さらにもう一つ付け加えるならば、最大の楽観といえば、日本という国は、百五十年ほどの間に何回もこのようなことを味わわされてきているわけです。ペリーが浦賀にきて、日本を開国したときからちょうど百五十年になります。もう、それは右往左往しながら、それで明治維新をやって、次に日露戦争という国難を乗り越えます。またその後は大東亜戦争でペシャンコになってしまいました。僅かに六十数年前のことなのです。この富山市も爆撃で、ぺんぺん草も何も生えない全くの焼け野原でした。そういった状況を乗り越えて今日の富山市がある。日本は三十数年程前にはニクソンショック、さらには第一次、第二次のオイルショックというのがありました。これらも、国民皆んなで手を携えながらスクラムを組んで乗り越えてきました。また一九八五年のプラザ合意で、円とドルの関係がめちゃめちゃに変化をしましたが、これも何とか乗り越えてきました。十年前には地方の銀行から、大手のゼネコンから、全てが総倒れに近い状態になるとの噂もありましたが、それが僅か十年前のことです。

 今、また、このような状況に見舞われているわけです。グリーンスパンは百年に一度と言いましたけども、我々は十年に一度ぐらいずつ、高低差のある幾つもの山々を昇り降りしながら進んできました。しかも、環境の変化に適応しながらさらに強く、進化を遂げつつ克服してきています。ですから総悲観にならないで、もうちょっと前へ出てもいいのではないか、と思います。 ここで証券業界の格言を一つ紹介しますが、「上げ相場は総悲観の中で生まれる」と言われています。「本当かなぁ」という懐疑心の中で育って、確信の中で「大丈夫やなぁ」という中で醸成をする。そして「幸福感とともに消えていく」と言われています。今、まさにその総悲観の中にいるという具合に考えていいのかな、と思います。


信頼され、支持され続ける商工会議所を目指して


 ご案内の通り、経済を含めて日本は大きな転換期に差し掛かっているようですが、とりわけ地域の経済は非常に厳しいものがあります。当商工会議所もそうした影響を当然に受けておりますけれども、こうした時期だからこそ、商工会議所が率先して、必死になって頑張っていらっしゃる中小企業、あるいは小規模企業の皆さんを支援していくことに活動の軸足を移し、地域や商工会議所がもつ様々な資源を活用して、信頼され支持され続ける商工会議所を目指していきたいと考えています。

 そのためにも会員の皆様方からの声をお聞かせいただきながら、共に悩んで、共に知恵を出し、共に力を合わせて活力ある地域創造に向けて、間断なき努力をしていかなければいけません。そして何をどうすれば、会員の皆様方のお役に立てるのかを、商工会議所所員一同、一所懸命になって考えながら行動していくということをお約束しておきたいと思います。

 そういったことも含めまして、会員や議員の皆様方の一層のご理解とご協力をお願い申し上げまして、私の挨拶とさせていただきます。

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