会報「商工とやま」平成21年7月号

特集1
さらに進化した、スーパー高専へ。
 〜産学の連携強化で、地域産業を活性化し、時代が求める人材を育成〜



今年10月、国立富山工業高等専門学校と国立富山商船高等専門学校が統合され、新しい国立富山高等専門学校が誕生します。工学・人文社会・商船という多様な文化と専門性を備えた教職員やカリキュラムのもと、さらに実践的で意欲的な教育が行われることになります。

また、学校を拠点に地域や産業界との連携を深めるさまざまな取り組みも始まっています。地域産業の活性化と、実践力を備えた優れた人材育成を目指して、富山から全国へ、そして世界へと、視野と活動範囲を広げる富山高専の取り組みについてご紹介します。


10月に、新・国立富山高等専門学校が誕生


富山高専は昭和39年に設立され、今年で45周年。また、富山商船は明治39年に設立され、103年の歴史を誇ります。10月の統合によって、工学系と人文系の学科を備えた、日本で初めての総合高専が誕生することになり、注目を集めています。

新富山高専の本郷キャンパスには、10月から「機械システム工学科」「電気制御システム工学科」「物質化学工学科」の3学科が設置され、現在、富山商船がある射水キャンパスには「電子情報工学科」「国際ビジネス学科」「商船学科」の3学科が置かれます。

両校とも、中学を卒業後、5年間の一貫教育が行われ、卒業時には準学士の称号が与えられます。さらに、卒業者を対象にした「専攻科」で学ぶと、大学卒業と同じ学士(工学または商船学)の学位が得られ、大学院へ進学することも可能です。現在、両校を合わせて1、600人以上の県内外出身の学生が学んでいます。



ソフトパワーを地域振興のエンジンに


これまで富山の産業界に多くの優秀な人材を送り出し、長年にわたって地域に貢献してきた富山高専。今秋の統合を目前に控え、これまで以上にT地域密着Uをキーワードに、高専の持つソフトパワーを地域振興に活かそうという試みが始まっています。その具体的な取り組みについて、同校の産学共同教育推進センター長で、機械工学科教授の本江哲行氏、同校の産学連携コーディネーターで特命教授の古河秀一郎氏、同じく産学連携コーディネーターで特命教授の定村誠氏にお話を伺いました。


企業や地域とのさらなる連携を


本江教授は企業側から見ると、まだまだ富山高専の敷居は高いと思われがちなことや、一般の方の富山高専の認知度が低いことなどから、地域や企業との連携をより強化していきたいと意気込みを語ります。

「本校は、大学などと比べても規模が小さいことで、統合による総合力が活かしやすい環境にあります。今まで以上に、地域や企業に貢献できる学校づくりをすすめ、世の中のニーズに合った教育を実施したいと考えています。

そこで、学内に地域人材育成推進本部を設けました。地域イノベーションやCOOP教育(産学協働教育)、学生のためのキャリア教育、小中学生の理科への関心を高める出前授業・公開講座など、地域や企業と積極的に連携した活動を進めていきたいと考えています」。

地域人材育成推進本部の中には、地域活性テクノセンターと産学共同教育推進センターが設けられ、企業との共同研究はもちろん、地域での連携教育などに携わる専任スタッフが配置されます。


東海北陸の高専の拠点校として企業を支援


富山高専は、文部科学省が推進する、産学官連携戦略展開事業のなかで、東海北陸地区の高専の知的ゲートウェイ構想の拠点校として位置付けられています。この事業は、東海北陸地区の9つの高専が連携して、高い水準の研究成果やコンテンツ等を、地域の産業界で有効活用することを目的としています。富山高専が果たす役割について、古河特命教授に伺いました。

「本校は、東海北陸地区の高専の言わばハブ校として中心的な役割を担います。各地の高専のシーズと企業側のニーズを結び付ける、企業と高専の『知の仲人』のような働きをしたいと考えています。企業の皆さんには、さまざまな課題や研究について、気軽に本校に相談していただければ、東海北陸地区のそれぞれの高専の得意分野をご紹介し、皆さんの課題解決に向けて、さまざまなコーディネートをすることが可能となっています」。


東京大学に次ぐ研究機関として


高専1校では規模が小さくても、全国に55校設置された高専を総合すると、実は文部科学省からの運営交付額、教職員の数などは、東京大学に次いで、日本の高等教育機関では2番目の規模となっています。複数の高専が連携することで、スケールメリットや相乗効果が生まれ、多くの企業にとっても有益な情報を得やすくなります。また、今まで以上に地元産業界のニーズに即した研究が行われていくことになり、レベルの高い総合力・対応力が期待できます。

同校では、国内にとどまらず、県内企業も数多く進出する中国でもリサーチをしたり国際会議を開いたりするなど、海外の教育機関や企業との連携を図るゲートウェイとしての機能も備えています。海外進出や現地企業との交流においても、頼りになる存在となりそうです。


子供たちの理科への興味を喚起


富山高専では地域の児童・生徒への出前授業や公開講座を通して、子供たちの理科への興味・関心を集めるSPP(サンエンス・パートナーシップ・プロジェクト)などを実施してきました。地元NPOの自然学校などと協力して行うサイエンス・キャンプも人気を集めています。

「これらの授業や講座は毎回とても好評で、教職員だけでなく、学生が企画や実験、当日の進行に積極的にかかわっています。子供たちや地域の方と触れ合うことができ、学生達にとっても、大切な学びの場となっています」と話す定村特命教授。理科離れを防ぐための地道な活動が、未来の富山の産業を担う、人材育成につながっていきます。


T2PROJECT「元気なフレッシュエンジニア育成プログラム」


富山高専では、問題解決型学習「PBL(Problem / Project-Based Learning)」が行われています。これは、グループで1つの課題を設定し、問題解決にあたるもの。学生の主体性に重きを置いた、これまであまりなかった学習方法です。

また、このPBLの手法を使った、企業の若手社員とその上司を対象にした「フレッシュエンジニア育成プログラム」も注目を集めています。

若手技術者の基礎力アップを目指し、T2PROJECTの一環として、技術振興会の会員向けに実施している研修プログラムです。また、このプログラムは、若手だけでなく、職場の上司も参加することで、より実践に即した問題解決力を身につけることができるという、富山高専独自のユニークなものとなっています。


T2PROJECT・富山高専技術振興会とは


富山高専技術振興会は、富山県のさまざまな企業と富山高専とで構成され、産学連携、異業種間交流を通して、実践的な人材育成、知的財産資源の創造につながる技術革新、地域経済の活性化を目指しています。現在、法人会員120社、個人会員4名が入会されています。

会員対象の平成17年度から平成20年度にかけての「フレッシュエンジニア育成プログラム」へは約42社、延べ109名(上司研修参加14名を含む)が参加しています。参加者の声として、他社や他分野の技術者と意見が交わせて良かったという声や、上司や部下の気持ちを互いに聞くことができて、その後のコミュニケーションがよりスムーズになったなど、さまざまな反響が寄せられています。

「意見を取りまとめたり発表する力がつき、会社へ戻ってからの社員の雰囲気が変わったと、多くの企業の皆さんからご好評をいただいています」と語る定村特命教授。より多くの企業の参加を呼び掛けています。


企業間交流とマッチング


企業間では難しい技術者同士の交流も、同校のプログラムを介すことで容易となり、同じ富山にいながら実はあまり知らなかった、お互いの企業を知る貴重な機会となっています。普段はなかなか実現できない、他社の工場見学を希望する若手技術者も多く、今後、県内企業のマッチングにもつながっていくことが期待されています。


新会員募集中


富山高専では、技術振興会の会員企業を募集しています。法人は1口3万円の年会費で、技術者教育や、フォーラムへの参加、技術相談、共同研究への補助金、公開講座や出張技術講習受講など、多方面からの支援が受けられます。本江教授も、会員企業の募集を呼び掛けています。

「企業ごとに独自で研修するとなるとかなりのコストがかかりますが、本校での研修は宿泊費などの実費だけをいただくもので、少ない年会費で、多くのメリットを実感していただけるものとなっています。ぜひ、気軽に会員になっていただき、研修や研究に当校のプログラムをうまく活用していただければ、と思います」。


シニアフェローから学ぶ


同校では、企業の第一線で活躍する技術者の協力を得て、教育や研修プログラムの企画立案など、さまざまな活動にボランティアとして参加してもらう取り組みを行っています。現在15名の方がシニアフェローとして活躍されており、最新の技術・知識・情報を持った専門家の話が直接聞けるとあって、学生にも好評です。

「富山高専応援団として、高専の卒業生だけでなく、本校の取り組みに力を貸していただける方を募集して、シニアフェローとしてご協力をいただいています。例えば、PBLの授業の際に、アドバイザーとして評価してもらったり、技術講演会、フレッシュエンジニアの企画立案にもご意見をいただいています。企業の現場からのニーズを聞くことができる、とても貴重な存在となっています」と話す定村特命教授と古河特命教授。

これは全国の高専でもユニークな試みで、積極的に次代の人材育成に協力する、富山の産業界の皆さんの熱き思いが伝わってきます。


企業・産業界への期待とは


本江教授に、産業界への今後の期待を伺うと、産業界と学校の距離をもっと縮めたいとの返事が返ってきました。

「ヨーロッパやアメリカと比べて、日本では学校と産業界の距離は、まだまだ遠く感じます。お互いにもっと自由に行き来できるよう、連携を深めていきたいですね」。


より有効なインターンシップへ


また、学生のインターンシップについても、現在のような2週間という短い期間では企業にとっても戦力になっていない、と本江教授は見ています。

「例えば3ヵ月とか4ヵ月の間、週1回来ることになれば、戦力になります。北欧では長いバカンスがあり、その間、学生が戦力として活かされています。賃金もちゃんと支払われていますし、単なる労働者ではなく、学生の視点から新しい発想がどんどん生まれていて、企業にとってのメリットも大きいのです。そういう意味では社会的機能がうまく働いていますね。

日本でも、土日などに、学生や学校を使う気持ちを持っていただけると、うまくいくのではないかと考えています。海外では普通のことですし、今後はぜひ、そのような展開も検討していきたいと考えています」。


将来は海外での研修も


海外に拠点を持つ県内企業はたくさんありますが、将来は、学生の海外での研修も実施したいと語る本江教授。長期にわたるインターンシップや多彩な学びの場の創造は、企業にとっては、より良い人材を確保するための見極めの期間となり、学生にとってはキャリア教育や、仕事とのマッチングに最適な機会となります。

富山高専では、技術振興会の企業などとの交流を通して、今後は共に人材や技術を育てる環境をさらに充実させ、企業や地域に貢献したいと考えています。


厚い信頼を、地域への貢献に結びつける


富山県内の高校生が卒業後、県内の高等教育機関に進学する率はわずか18・5%。これは全国で下から4番の低さです。一方で、富山高専の卒業生の富山県内の定着率は65%を超えています。地域の活性化のためにも、富山高専が果たす役割は今後ますます重要になると考えられます。

現在の不況下においても、高専の卒業生で就職希望者の就職率は100%。求人倍率は20倍を超えています。また、県内の技術者の15%から20%は、富山高専の卒業生と言われています。高い能力と技術を養う富山高専への信頼は、厚いものがあります。

今後はさらに地元密着型の産学連携をすすめるゲートウェイとして、さまざまな企業や人材を結びつけ、富山を元気にしていく拠点となることが期待されています。皆さんも、自社の課題や研究について、一度、富山高専へ気軽に相談してみてはいかがですか。



国立富山工業高等専門学校
  富山市本郷町13  TEL:076-493-5402  FAX:076-492-3859



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