会報「商工とやま」平成21年11月号

特集汪驪ニと人材を結ぶジョブ・カード制度
助成金を受けながら、人材確保・育成しよう


 厳しい経済環境の中にあって、将来を見越した計画的な人材の育成と雇用は、多くの企業にとって難しい課題となっています。今回ご紹介するジョブ・カード制度における職業能力形成プログラム「有期実習型訓練」は、これまで、職業能力形成の機会に恵まれなかった求職者にとっては正規雇用への大きなステップとなり、また、自社ニーズに合った人材を雇用、育成したい企業側にとっても国の助成制度などさまざまなメリットがあります。この訓練制度を活用して、意欲あふれる優秀な人材の雇用に成功した県内企業の事例をご紹介しながら、当制度のメリットについてご紹介します。


非正規労働者を正規労働者へ


 ジョブ・カード制度とは、平成19年2月の「成長力底上げ戦略」で示された「人材能力戦略」の一環として打ち出された政策で、就職氷河期などで急増した、若年者の非正規労働者を正規労働者へと導くために国によって構築された制度です。

 平成20年4月には、厚生労働省から日本商工会議所へジョブ・カード制度の業務が委託され、以来、各地商工会議所で普及がすすめられてきました。

 富山県では、同年6月に、富山商工会議所内に設けられた富山県地域ジョブ・カードセンターが中心となり、県内企業への普及活動が行われています。


企業内のキャリアアップにも


 職業能力の形成機会に恵まれない方とは、原則として、過去5年以内におおむね3年以上継続して正社員として働いたことがない方です(学卒後6ヵ月以内の方を除く)。

 つまり若年者ばかりでなく、正社員経験の少ないフリーターや子育て終了後の女性、また、すでに企業内でパートやアルバイトとして雇用されている非正規労働者でキャリア・アップしたい方も対象となります。

 さらに、異業種への転職を目指す人も対象に加えられるなど、企業などの要望をもとに、対象者の拡大と基準の緩和がすすめられ、年々使いやすい制度となってきています。



「ジョブ・カード」とは


 富山県地域ジョブ・カードセンター企業開拓推進員の関野浩さんに、ジョブ・カード制度の概要と、そのメリットや県内での実施状況について伺いました。

 「ジョブ・カード制度では、求職者がハローワークなどで、キャリア・コンサルタントの指導を受けながら、ジョブ・カードを作成します。

 ジョブ・カードとは、『職務経歴』『学習歴・訓練歴』『免許・取得資格』『キャリアシート』からなるファイルのことで、それぞれに詳細な書き込みをします。自分の適性や能力などを「棚卸し」することで、自身の強みや課題を発見でき、能力向上の一助になると同時に、希望の就職先へのアピールにも活用することができます」。



13社で訓練を実施し、正社員も誕生


 キャリア・コンサルティングを受けた求職者は、職業能力形成プログラム(職業訓練)の有期実習型訓練認定を受けている求人企業で、3ヵ月から6ヵ月間、実習と座学を組み合わせたカリキュラムに基づいて訓練を受けます。企業が必要とする実践的な職業能力を高めることで、訓練修了後には正規雇用化を目指す制度です。

 「既に県内でも、62社が有期実習型訓練の実施企業として協力を申し出て下さいました。そのうち、約24社が訓練認定先企業となり、13社で実際に求職者の訓練が行われています。これまで6社で、訓練修了後11名の方々が正社員として採用され、希望に満ちたスタートを切っています(平成21年9月末現在)」。



企業側のメリットとは


 企業側のメリットとしては、第一に、自社ニーズに合った人材を確保できることです。キャリア・コンサルタントの指導によって、通常の履歴書だけではわからない、細かな職務経歴などがジョブ・カードに記載されるため、求職者側、企業側双方にとっても、ミスマッチが起きにくい仕組みとなっています。

 次に、訓練期間の経費については、国からの「キャリア形成促進助成金制度」を活用することができます。これによって企業は、経費の4/5から1/3等の助成金を得ることができる大きなメリットがあります。また、訓練実施にあたり作成するカリキュラムは自社の研修体制の構築や見直しができ、優れた人材をしっかり確保・育成するチャンスともいえます。

 そして、このような国の施策に協力し、企業の社会的責任(CSR)を果たすことにより、企業のイメージアップをはかることができます。



訓練コーディネーターが支援


 ジョブ・カード制度では、これまでにご紹介したようなさまざまなメリットがありますが、自社の訓練カリキュラムの作成や書類作成となると、日常業務の忙しさから二の足を踏んでしまう人事・労務担当者の方も多いかもしれません。

 「そこで、企業の皆さんのお手伝いをするのが、当センターの訓練コーディネーターです。国が各業種に合わせて作ったスタンダード・モデルをもとに、各社独自の訓練カリキュラムを一緒に組み立てていきます。客観的な視点から整備ができるので、企業側にとっても大きなメリットになると思います。

 また、カリキュラムの作成ばかりでなく、認定申請に必要な書類作成のお手伝いもしています。ですから、企業の皆さんにも、安心して取り組んでいただけます。

 この制度を利用することによって、人材育成に前向きな企業であるということがピーアールできますし、ぜひ多くの経営者の皆さんに活用していただきたいですね」。



ジョブ・カード制度を活用した事例紹介


 ジョブ・カード制度を利用して4月から訓練を実施された「とうざわ印刷工芸株式会社」では、訓練生としてデザイナーと製本スタッフの2名を受け入れ、7月までの3ヵ月の訓練を修了した後、2名とも正社員として採用されました。いずれも、同職種での勤務経験はありましたが、最新のソフトや製本技術については未経験でした。

 今回の訓練制度を利用して、2名の方は最先端の印刷技術やDTPデザイン、印刷工程全般にわたって学ぶことができました。さらに同社の社訓や理念、働く意義についても理解を深めるなど、技術だけではない充実した訓練を受けています。



大きな成果に満足


 この制度を利用して非常に満足している、と語る同社東澤忠夫取締役副社長。

 「今回の訓練カリキュラムは、訓練コーディネーターの支援をいただいたおかげで、当社の思いが反映できた中身になりました。これは、なかなかすばらしい制度だと思いますね。近年、新卒者を入れてじっくり教えるという時間がなかなか無くなってきていますが、最新の技術を学ぶには、やはり座学で基本を学ぶことが大切です。

 そういった意味でも、国の助成を受けながら、座学を含めた充実したカリキュラムで人材育成ができ、当社の業務内容に合致した、意欲あふれる人材を採用することができたことは、本当に良かったと思っています。それに、人に教える時は、教える人も同時に勉強になるものです」。

 何をどう教えるか、指導する側の社員のスキルアップにもつながっており、その効果を実感されています。



企業は人なり


 また、同社では技術的な指導だけでなく、お客様の満足を第一に掲げる同社の理念についても研修を行い、企業が存在すべき理由、そして働く目的や目標を理解してもらうことに努めたといいます。

 「金儲けということだけではだめですね。いかにお客様に喜んでいただけるものをつくるかという、当社の目的をまず知ってもらうことが大切です。お金のためだけなら、すぐに人は辞めてしまいますから」。

 T企業は人なり、人は心なりUと語る東澤副社長。ジョブ・カードを利用する求職者も、どういう気持ちで取り組むかが一番大切になってきます。



意欲が高い求職者


 「最近の新卒の学生さんは、就職するまでが一所懸命で、入ってからは安心してしまって勉強しない傾向があります。でも、ジョブ・カードを活用し、面接に来られた求職者は、ここで本採用にしてもらおうという気持ちがあり、意欲が違うんですよ。今回採用した二人も本当に意欲が高いですね。まさに、人生がかかっていますから。それに、二人ともとても能力があります。これからの活躍と成長に大いに期待していますし、安定した仕事に就いた二人の人生を、今後も応援していきたいと考えています。

 私は、『夢あるものは、目標あり、目標あるものは計画あり、計画あるものは行動あり、行動あるものは成果あり、成果ある人だけが幸せになれる』とよく言っているのですが、やはり、夢を持つことが大切です。その夢のために、会社も社員も、お互いに協力してやっていけるのですから」。

 人生や働くことの意味を投げかけ、夢を大切に、意欲的に働く人を応援したいと熱く語る東澤副社長の言葉は、めでたく採用されたお二人はもちろん、多くの人にとっても、温かで貴重なアドバイスとなることでしょう。



制度を利用して就職してみて


 今回無事に訓練を終え、正社員として採用されたお二人にもお話を伺いました。

○デザイナーの斉藤勉さん
 「これまでは小規模のプロダクションで働くことが多かったのですが、今はたくさんの社員の人達とともに楽しく働いています。訓練期間もたっぷりあり、最新のソフトもしっかりと勉強できてとてもよかったです。新しいスタートということで意気込みも十分です」。

○製本スタッフの宮元貴也さん
 「以前、少し経験はありましたが、間がだいぶ空いていたので、不安もありました。ですが、とても丁寧な指導でよかったです。今は正社員に採用され、生活も安定し気分も楽になりました。今後は、それぞれの機械を一人でもしっかり動かせるようになっていきたいですね」。



訓練修了後も続くメリット


 訓練を受ける求職者は、ハローワークで事前に訓練実施企業の訓練カリキュラムの詳細を確認し、キャリア・コンサルタントによる指導を受けているので、仕事の内容もより具体的に理解しており、ミスマッチを避けることができます。また、企業側にとっても、よりニーズに沿った求職者を訓練することができ、さらに訓練期間中に求職者の適性をじっくり見極めることができるというメリットがあります。

 また、訓練修了後には企業側と求職者がそれぞれ評価を行います。内容は基本的な職業能力や技能・技術に関するもので、企業側が事前に作成している「評価シート」に記入します。これにより、求職者は自分自身の弱みなども、第三者評価できちんと把握できるため、正規雇用が決まれば更なるスキルアップに、もし正規雇用にならなかった場合でも、他の企業への就職活動に役立てることができます。

 一方、企業側にとっても、採用後の指導・援助がしやすくなり、双方へのメリットは訓練修了後も続くというわけです。



介護分野でも活用


 今回ご紹介したとうざわ印刷工芸株式会社以外にも、今年7月22日(水)に開催した当制度普及促進フェアで紹介した、社会福祉法人光風会の「ながれすぎ光風苑」など、介護分野での成果の例もあります。

 ながれすぎ光風苑では、20代の介護初心者の女性に3ヵ月間の訓練が行われました。一般の学生向けの実習にはない長丁場の訓練で、訓練生も自分の素の部分が出たり、施設のいい面、いやな部分が見えたこともあったかもしれません。しかし、その一方で、職員の皆さんは教えることの難しさを感じつつも、教えながら、改めて日々の業務の見直しや確認ができたといいます。

 また、長い訓練を通して「教える側も教えられる側も共に成長することができた」、訓練修了後に訓練生から「職員として働きたい」と言われた時は、「訓練生を受け入れてよかった」と訓練に携わった職員すべての思いが一致し、この制度のメリットを多くの方が充実感とともに、実感されています。



労働力の質的向上なくして、日本の将来はない。


 ジョブ・カードセンターの関野さんは、質の高い人材が訓練に訪れる確率が高い当制度をもっと活用してもらい、企業側のさまざまなニーズに今後さらに柔軟に応えていける制度にしていきたいと語ります。

 「少子高齢化の中で経済成長するのは容易ではなく、労働力の質的向上なくしては、日本の将来はありません。今は人材育成に時間とお金をなかなか投入できない経済状況ですが、この制度を利用することで、企業は国の助成を受けながら、自社の訓練体系を確立していくことができます。

 日本の企業のあらゆる業種・分野において、将来の幹部や中堅社員になっていくような優秀な人材を、社会全体で育てていくことが必要な時代です。企業の社会的責任を果たす意味でも、より多くの企業の皆さんに当制度を活用していただきたいですね。そのために、私たちもさまざまなお手伝いをしていきたいと考えています。皆さんのお問い合わせを、心よりお待ちしています」。


■お問い合わせ先
 富山県地域ジョブ・カードセンター(富山商工会議所内)
 TEL:076-423-7050(直)



学生向けに、職場見学会を開催!

 当センターは、ジョブ・カードを活用した職業能力形成プログラム(職業訓練)への参加を促すため、学生を対象に職場見学会を開催しました。
 同プログラムのうち、有期実習型訓練を導入し、正規雇用につながったとうざわ印刷工芸株式会社を見学。実際に訓練に携わった担当者から訓練時の話などを伺いました。
 このほか、ジョブ・カードの制度内容や記入方法等に関する研修も行いました。


 富山県地域ジョブ・カードセンターでは、求職者向けに上記職場見学会(学生・一般向け)、企業向けにジョブ・カード制度普及促進フェア等を実施し、当制度の普及促進に努めています。
 また、有期実習型訓練を実施される企業向けには、訓練実施計画の作成、訓練の実施準備、訓練実施上の課題解決、職業能力の評価の実施等について各種支援をしています。
 お気軽にご相談下さい。




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