会報「商工とやま」平成23年5月号

特集1
苦しい時こそ夢を持ち、知恵を出して前進しよう
  〜会員の皆さまへのメッセージ〜 会頭 犬 島 伸一郎


 日頃、皆さま方には商工会議所活動にご理解とご協力をいただいておりますことに、先ずもって御礼を申し上げます。

 今年2月15日から20日までインド経済視察団に参加してまいりました。インドは人口が12億の大国です。物事はどちらから見るかで大きく異なりますが、もしこれだけの人口で経済成長が軌道に乗れば大きな力になって大変なことになるでしょうし、他方では、これだけの人々の経済レベルを引き上げることは大変難しいようにも思いました。

 しかし、彼らが生きるために一所懸命なことは間違いなく、我々日本人が失ってしまった人間力やひたむきさ、熱気を持っているように感じました。「衣食足りて礼節を知る」という言葉がありますが、もしかしたら我々は豊かになり過ぎて「衣食足りて礼節を忘れ始めている」のではないでしょうか。権利だけの主張やアリバイ作りが非常に目立ち、国家あるいは他人が何かしてくれないかという依存心だけが助長されて、生気すらも失いつつあるような気がしてなりません。この点には、我々商工会議所も心していきたいと思います。


日本経済低迷の理由


 ここ20年間、日本経済はずっと低迷を続けていますが、その理由は何だったのでしょうか。1989年にベルリンの壁が崩壊し、自由主義国家群と共産主義国家群とが融合しました。我々にとって特に影響が大きかったのは、中国の安い労働力が自由市場に参入してきたことです。この安い賃金の標準化には随分長く時間がかかり、これが終息するまでデフレと空洞化が続いてきたことが第1の要因だと思います。

 そして世界経済がグローバル化する中で、アメリカは主導権を握るためにIT革命や証券化ビジネスなど次々に知恵を出してきました。日本はそれを迎え撃つために構造改革などをやりましたが、ついて行くのが精一杯だったことが第2の要因だと思います。

 第3の要因は、この間にアメリカが世界の殆どの紛争に介入し、ばら撒き政策によるドルの下落傾向のままで、逆に日本の円高が継続してきたことです。そして日本の政治は、20年前を最後に劣化の一途を辿っており、このような状況の中で残ったものは、財政赤字、産業の空洞化、資産価格の下落、少子高齢化、東京一極集中の問題です。

 加えて、今まで意識していなかった領土問題のほか、石油・穀物・鉄・石炭をはじめとして資源が無いという現実に改めて直面しています。特に直近では中東情勢が大変不安定な状況にあり、この行方によっては再び景況に大きな影響が出るのではないかと懸念されます。


閉塞状態を抜け出すヒント


 このような困難な状況が続く時は、元に戻って考えてみてはどうでしょうか。かつて輝いていた時代の日本には何があったか、体制はどうだったかについて考えてみます。

 当時の日本には年功序列と終身雇用という独自の労働の仕組みがあり、政治家や経営者には将来への長期的なビジョンがあって、しっかりした経営理念や経営哲学を持った人たちが大勢いました。経営側から見ても、ある程度の抑制が効いていて、国や地域のために、あるいは従業員、得意先、株主などのために、とバランスのとれた考え方がごく普通だった気がしますが、今はどうでしょうか。

 一方、従業員側にはワーカーホリック(労働中毒)という言葉があるくらいに、働くこと自体が目的のような時代でした。各生産現場では何とか製品を良くしようと技術面でもひたむきさがあって、働くことは悪ではありませんでした。大企業と中小企業の関係も、その連携は見事なまでに確立されており、お互いに相身互いという精神が働いていたのではないかと思います。

 官僚は天下り先や退職金など自身の心配よりも、かつては本当に志が高く、国家や企業のために何ができるかを徹底的に考える習性がありました。こういったことが日本を輝かしい存在にまで押し上げた原動力だったのではないでしょうか。そして、この閉塞状態を抜け出すためのヒントはこの中にあるのではないかと思うのです。


夢と希望を持って前進


 これは20年前とは限りませんが、もっとも大きな違いは、当時には希望と夢を与えるような動きがあったことです。1つは故池田勇人元首相の所得倍増計画。マニフェストではなく、公約として「あなた方の所得を倍にする」という言葉は我々に夢を与えました。もう1つは故田中角栄元首相の日本列島改造論。「日本の真ん中を分断している山をくり抜き、みんなが出稼ぎをしなくてもいいようにする」ということが、当時の我々に大きな夢と希望を与えたように、夢と希望があれば前へ進めるのだということを、もう一度かみしめておきたいと思います。


役割分担で共存し合う


 しかし、現実は相当厳しく、東南アジアを中心に生産拠点が移転して国内の空洞化はとどまるところを知りません。これは特に我々中小企業にとって大変な問題です。

 私がいつも申し上げているように、安心・安全・高品質にはコストがかかるし、これを維持するには大変な努力も必要です。だから、大企業を含めて我々自身が安売りに走らず、商品・サービスに自信が持てるように努力して、空洞化を何とかしようとするのが真の経営者の態度だと思うのです。

 また、地域内でチームとして対応していくこと、例えば医薬品業界が既にその域に達しているように、集積のメリットを活かすことを考える必要があります。

 そして、これだけ海外進出が進むと、東南アジアとの共存はもはや避けることのできない問題なので、今後はどう役割分担するかの見通しをしっかり立てて対応してくことも必要です。1つのヒントは、デジタル型のものはどうしてもコスト競争になるということです。何とかアナログで勝負ができないのか考えて欲しいと思います。


苦しい時こそ、知恵が出る


 精神論になりますが、苦しい時や不振の時には知恵が出るものだと思います。このような時こそ、当所は皆さんと共に悩み、知恵を出して前進していきたいと思います。

 そのためにも、皆さまの意見をよく聞いて、親身になって相談にのり、皆さまの声をまとめて県や市の施策に活かせるように繋げ、地域の発展にお役に立てるよう新年度も活動してまいります。

 会員や議員の皆さま方の一層のご理解とご協力をお願い申し上げまして、私の挨拶とさせていただきます。


 本挨拶は、3月11日に発生した「東日本大震災」の前日のものです。  このたび被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。


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