会報「商工とやま」平成23年6月号

特集1
大工とつくる木の家 − 社団法人富山県建築組合連合会の取り組み


 社団法人富山県建築組合連合会は、富山県内の大工及び建築関連業に携わっている皆さんで組織されています。富山の気候風土に合った木造住宅と、匠の技を守り伝えようと活動を続ける同会の取り組みについて、会長の丸田和重氏にお話を伺いました。

大工さんの地位向上を


 社団法人富山県建築組合連合会は、昭和9年(1934)に設立された富山県建築協会を前身とし、戦後、富山県大工工事組合に受け継がれて、さらに富山県建築組合連合会と改称し、昭和41年(1966)に社団法人となりました。一時は約8000人の組合員が加入していたそうですが、現在は全体で約5100人となっています。

 組合員の77%を占めているのが大工さんで、そのほか、建具工、塗装工、左官工、タイル工、足場工、鉄筋工、電気工、石材工、瓦工、造園工、木工、建築設計など、建築にまつわる様々な職種の方が個人で加入しています。

 しかし、建築不況の中、大工さんたちの日当も下がり、現在は1万5〜6000円程になっているとか。これは、県の基準賃金である2万6000 円を大きく下回っています。

 「会社組織に所属していない個人の大工の場合、ボーナスなどの手当などもありませんから、大変厳しい状況があります。組合員数が減っているのは、高齢の方が引退される自然減に加えて、不況の中で別の仕事に転職する方もおられることや、若手に大工のなり手が減ってきていることがあげられます」

 現在、最も多いのは60代の組合員で約1500人。続いて、50代の約1330人、30代の約1100人、40代の約550人の順となっています。そして、20代の組合員は現在400人ほどで、40代と20代の組合員が特に少ないことが分かります。

 組合では、一人親方をはじめ工務店の経営改善や、組合員の福利厚生・共済活動などの事業に取り組んでいます。丸田会長は、大工さんをはじめとした組合員の地位向上と待遇改善のために、今後も様々な形で組合としての活動を試みていきたいと語ります。


「匠」の技を伝えたい


 組合では、伝統工法である木造軸組工法を継承し、次世代へと伝えていきたいと活動を続けています。

 「担い手育成事業として、年に一度、全国青年技能競技大会という技術を競う大会があり、若手を選出するとともに、技術・知識を磨いて大会に参加してもらっています。また、富山、魚津、高岡、砺波に4つの訓練校があり、県内各地の伝統的な建物や古民家の解体現場を見学するなど、伝統工法について学ぶ場を設けています」

 各訓練校は、高度な大工の技能・技術を持つ後継者を育成するため、厚生労働省の認定を受けて運営されており、魚津では2年間、その他3カ所は夜間で3年間で卒業することができます。意欲あふれる訓練生が働きながら大工の技能・技術を学んでいますが、残念ながら最近は入学者が減ってきています。


技術が途絶える危機感


 丸田会長は今こそ、訓練校できちんと学んで、技術を身につける大切さを訴えます。

 「新築の場合、材料はほとんど工場でプレカットされて現場で組み立てる場合が多く、若い大工は、取り付け屋のような感覚でいる方が多いのではないでしょうか。でも、例えば、増築を依頼された場合、大工は独自に木を加工して施工することが多いのですが、この先15年も経つと、それを出来る人がいなくなるのではないかと危惧しています。

 材料を見て工夫して使うという大工本来の技術の継承が、いまの建築のあり方では難しいですね。決まりきったことはできるけれども、応用して建てる技術が身に付かないんです。ですから、極力、職人になるにあたっては訓練校で学び、昔からの大工の技術を学んできてほしい。その上で新しい方法を考えるのがいいと思います。現場で覚えようと思っても、現状ではなかなか難しいのです」

 コストダウンや納期短縮、若手の担い手不足など、大工さんを取り巻く厳しい環境の中で、いかに技術を継承していくのか。施主側も、できるだけ安くあげたいという思いがありますが、様々な立場の人がそれぞれ危機感を持って対処していかないと、大切な技術が継承されず失われてしまうという現実が、すぐそこまで近づいているのです。


大工さんに出会う日


 連合会では年4回、機関紙「匠」を刊行し、組合員への情報提供と、相互の交流を深めています。また、毎年8月に、「大工さんに出会う日」という県下一斉のキャンペーンを展開しています。県内各地のショッピングセンターなど12箇所を会場に、子どもたちを対象にしたトンカチ教室を開催。大勢の親子連れなどが大工さんと一緒に作品づくりに汗を流しています。さらに住宅相談や耐震構造のデモンストレーション、募金活動など、大工さんや建築への理解を深めてもらう活動を行っています。


県産材で、風土に合った家づくりを


 家づくりは、一世一代のものづくりです。しかし、最近では住宅展示場で買い物をするような感覚で家づくりを考える人が多いのではないかと語る丸田会長。もちろん、施主によって好みや事情は異なりますが、やはり、世代を超えて住み続けられるような、風土に合った材料を使った、長持ちする家づくりを提案したいという思いが募ります。

 「雨や雪が多い富山では、ベニヤは弱く腐りやすいですね。やはり、無垢の本物の材料を使うことで、建物は長持ちしますし、修理もし易くなります。県産材は高いイメージがあるかもしれませんが、いまは20年前に比べても随分安くなっています。北陸の気候風土で育った木材を使えば調湿性も高く快適に過ごせます」

 ヒノキも、最近は需要が減って安くなっているとか。土台に国産のヒノキを使えば、防虫処理などの加工をしなくても、腐りにくく虫に強く、しかも、関税がかかるロシア産よりも安く仕上がるのでおすすめです。


木の特性を生かして


 北陸は日本でも最も高温多湿な土地柄。この多湿に対する対策が建物の耐久性にとって大切な課題です。なるべく人工的なものに頼らないで、結露や湿気を好むカビ、ダニ、シロアリなどを発生させないためには、調湿性の高い無垢の木材や土壁が適しています。

 木は呼吸していますから、過剰な湿気を吸い、乾燥する時期には吐くという特性があり、紙や布、ビニールクロスよりずっと調湿性の高い建材です。ただし、接着剤で固められた合板は、木質材料といっても、調湿性はほとんどありません。


木材はリサイクル可能な建材


 住宅建築の最近の流れは、環境との共生を実現するため、再生可能な建築資源として、木や土などの自然素材を見直しています。100年は持つ、耐用年数の長い木づくりの家を建てることで、木の生長量が伐採量を上回って需要と供給のバランスがとれ、地球を緑豊かに保ちます。つまり、木材は伐採と植林を計画的に行うことで永久的な循環資源になるわけです。

 古い民家などで使われていた木材などは、昔ながらの「手壊し」で解体すれば、何度も使うことができ、環境への負荷がとても少なくて済みます。

 「昔は、家を建て替えるときに、どこそこの家の材料をもらって使うということがよくありました。建具にしても、昔の戸は寸法が五尺八寸と決まっていましたから、どこの家でもその戸は間に合ったんです。いまは意匠が自由なので、使い回しはできないですね」

 昔の家は材料を大事にして使えるものは再利用したもの。本物の良さを分かっていた人がたくさんいたということでもあり、何度も手入れをして使いたくなるほどのいい材料が使われていたということでもあります。


リフォームが簡単


 100年持つ家を建てるということは、人が2代、3代に渡って住み続けるということ。若いときから高齢になっても暮らしやすい空間をつくるため、家を建てるときは必要なときに増改築に対応できるように、増改築を想定した家づくりが大切です。

 その点、自然素材を使った木づくりの家は、住む人のライフステージに合わせてリフォームがしやすいという優れた特徴があり、リフォームのときに必要になるのが昔ながらの大工の技術です。墨付けや刻みなどの経験により、木の特性や木造住宅の構造について熟知しているからこそ、家にダメージを与えることなく、しっかりリフォームすることができます。

 また、家に長く住むためのコツは、こまめにメンテナンスをすることです。手入れをしながら、愛着をもって長く住みたいものです。


地域のホームドクターとして


 地元の大工さんに依頼することで、メンテナンスに際しても、ホームドクターのように、よりきめ細かな対応が可能になると言います。見積り金額は、一見高く思われがちですが、それは細部まで計算して確かな見積りを出しているからで、分かり易く、安心できる金額が提示されているのです。

「また、一般的に大工さんというと、鉢巻きをして頑固そうなイメージがありますが、最近の大工さんはそういう感覚を捨てて、お客さんの希望を聞いて、できるだけ意見を尊重している方が多いと思います。設計士などと組むことで現代感覚を取り入れた家づくりができますし、家の大事な骨組みさえしっかりしていれば、内装も自由に、多彩な要望にお答えすることができます。

 私たちがよく聞くのは、家はハウスメーカーさんに建ててもらい、メンテナンスは近所の大工さんに頼む方が多いということ。それなら、最初から地元の大工さんに頼んでほしいと思うのですが(笑)、私たち自身も、日頃から地域でのコミュニケーションをもっと密に、大切にしないといけないと思っています」

 困ったときに本当に頼れるのは、やはり地域に根ざした大工さんです。最近は横のつながりが薄れ、近所や親戚に大工さんがいても頼まない人が増えていると言いますが、高齢化社会になると、地域での横のつながりが益々大事になっていくはず。次の代に受け継いでいく大切な財産である家のことは、いつでも相談できて、住み手の暮らしを十分考えて設計し、建築後のメンテナンスにもきめ細かく対応してもらいたいものですよね。そのためには、地域の気候・風土を知り尽くした地元の大工さんや工務店を選ぶことが大事です。そして、計画段階から十分に話し合うことで、より満足できる家づくりが実現できるはずです。

 家の新築やリフォームを考えている方は、確かな技術を持った地域の大工さん・工務店に、一度相談してみてはいかがですか。


連合会には、富山・高岡・両砺波・新川の4つの「地区協議会」の下に、43の支部があり、県内をきめ細かくカバーしています。
ご相談は、地区協議会か、お近くの大工さんまでどうぞ。

社団法人富山県建築組合連合会
富山市西荒屋25番地の4  TEL:076-428-8255  FAX:076-428-8277  ▼URL



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