会報「商工とやま」平成23年11月号

特別寄稿
当所カナダ・アメリカ産業経済視察報告
自然や産業観光資源を活かしたニューツーリズムと環境に配慮した街づくりを学ぶ


 当所は、平成23年9月5日から9日間、カナダ・アメリカ産業経済視察団(団長/犬島伸一郎当所会頭)を派遣し、カナダのバンクーバーやバンフ周辺およびアメリカのシアトルを訪れ、自然や産業の観光資源を活かしたニューツーリズム(滞在型・通年観光)の取り組みをはじめ、産業経済の現状、環境に配慮した街づくりなどについて視察し、9月13日に帰国した。


バンクーバー(9/5・6)


◎環境に配慮した街づくり

 2010年冬季オリンピックの開催地として知られるバンクーバーは、樺太(サハリン)と同緯度に位置するが気候は比較的温暖で、「世界で最も住みやすい街」としてエコノミスト(英国)誌が5年連続で1位にランクしている。
 市民の環境に対する意識は高く、市内にはトロリーバスが運行しているほか、道路の渋滞を見越しても車道を減らし、自転車専用道路を確保する等してCO2の排出抑制に努め、環境に配慮した取り組みが垣間見られた。


◎工場や倉庫を再利用した商店街「グランビルアイランド」

 グランビル橋の下に位置する「グランビルアイランド」は、かつての工場や倉庫の建物を再利用して大規模な再開発をした商店街である。連邦政府の直轄下にあり、政府の厳しい審査基準を満たした店舗のみが出店している。新鮮な地元の食材等が手に入ると市民に好評であり、また観光客にとっても魅力的な観光スポットである。視察時は魚や野菜等の市場をはじめ、レストラン、ギフトショップ、芸術家のアトリエ等に多くの市民等が溢れていた。


◎鉱物・森林資源が豊富

 ジェトロ・バンクーバー事務所所長の岡野祐介氏から産業経済についてレクチャーを受けた。
 バンクーバーが鉱業関連企業の集積都市として知られるとおり、カナダは銅、石炭、アルミニウム、天然ガス等の鉱物資源の一大産地で、森林資源も豊富である。新産業としては環境関連分野が、政府のテコ入れもあって急速に伸びている。
 最大の輸出相手国は依然として米国だが、その比率は年々下がり続け、代わってアジア各国の割合が高まっている。特に中国が木材を中心に増大し、2011年上期ベースでは米国、中国、日本の順となり、初めて日本を抜いた。


バンフ、レイクルイーズ(9/6〜9)


◎自然の観光資源「世界遺産カナディアンロッキー」

 約1億2000万年前に海底から隆起して出来たアルバータ州からブリティッシュコロンビア州にかけて連なるカナディアンロッキーの山脈と氷河、そして氷河から溶け出た湖は雄大な自然の観光資源であり、国内外から多くの観光客が訪れている。氷河から溶け出る水には多くの石灰が含まれ、湖面は奇麗なブルーに見える。石灰の含有量や見る角度等に より様々な色合いを見せる。またその景観は周辺山麓の表情によっても変化し、男性らしさ、女性らしさを楽しむことができる。


◎滞在型・通年観光を目指して

 カナディアンロッキーは自然を楽しむ周遊型の観光地として有名であるが、同時多発テロ、サーズ、リーマンショック等の要因で観光客数が減少傾向にある。このため、バンフ・レイクルイーズ観光局では滞在型・通年型リゾートを目指して様々な施策を打ち出し、観光振興に取り組んでいる。その内容について同観光局アジア担当のルーカス・プロチャスカ氏からレクチャーを受けた。
 観光振興には、観光客に長期間滞在してもらうことが重要であり、そのために体験型のメニューを充実させてきた。例えば、雄大な自然を背景に楽しめるスキー、スケート、犬ぞり、ハイキング、釣り、カヌー、ゴルフ、乗馬等のほか、毎日(バケーションシーズンを除く)、何処かでフードフェスタやボート大会等のイベントを開催している。更に政府観光局や州観光局とも連携して観光客誘致のため各種活動に取り組むほか、MICE(企業等の研修、国際会議、展示会等のビジネスイベントの総称)需要にも応えようと、バンフスプリングスホテルに2000人が収容できるホールを備えた。
 現地には市町村レベルの行政区域がなく、バンフでは、町が誕生する100年以上前から、バンフ・レイクルイーズ観光局がこのような観光振興事業を行っている。
 同観光局は1865年に設立した事業者の独立団体で、国立公園内の事業者の約70%が加入している。収入源は会員の売上に追加されているTIF(Tourism Improvement Fee)費というサーチャージである。TIFの料率は業種等で異なるが、ホテル業の場合は2%である。従って、会員のホテルに宿泊した場合は、宿泊費に2%(TIF)+5%(GST:消費税)+4%(州政府観光局への目的税)+7%(サービス料)=18%が加算される。運営費の約75%は、宣伝等の誘致活動として費やしている。


シアトル(9/10〜12)


◎バスと電車が地下トンネルを走り、道路の渋滞を緩和

 ダウンタウンの地下には、地上道路の渋滞を避けるため、バスと電車(ライトレール)専用の「ダウンタウン・トランジット・トンネル」(1990年開業)がある。
 バスは地上でも運行しており、地上・地下の両方とも6時〜19時は運賃が無料である。また、2009年に開業したダウンタウンとシアトル・タコマ空港を結ぶ電車の車賃は1ドル75セント。切符の確認は殆どしていないようだが、不正乗車が発覚した場合は90ドルの罰金が科せられる。
 当視察団もこのトランジット・トンネルのバス等を利用して、商業集積地等を視察した。


◎新たな客層で賑わう商業集積地「パシフィックプレイス」

 ダウンタウンの一角にある、官民が協力して創り上げた「パシフィックプレイス」には、高級ブランド店からカジュアルショップ等、約40店舗が入居している。この「パシフィックプレイス」が出来た効果としては、人が集い中心市街地の活性化に繋がったことや、客層が変わり同地域の治安回復にもなったことが挙げられている。


◎世界の優良企業を生み出した街

 シアトルは、ボーイング社、スターバックス社、マイクロソフト社、アマゾン社等、世界の優良企業を生み出した街としても知られている。
 当視察団は、マイクロソフト社の各施設を車窓から視察した後、ボーイング・エバレット工場へと向かった。
 1916年に誕生したボーイング社は、アメリカ唯一の大型旅客機メーカーで、ヨーロッパのエアバスと世界市場を二分する巨大企業である。
 人口の約3割が同社に関係すると言われるほど地域へ与える影響が大きく、2001年のシカゴへの本社移転はシアトルにとって大きな打撃となった。
 敷地面積は約5万5740・(東京ドームの約27倍)。組立工場は約1338万5千・の容積があり、ギネスブックに世界一大きな工場と紹介されている。工場内の3階から旅客機の747型、767型、777型、787型が何機も組み立てられている様子を見ることが出来た。ここだけでしか見られない、この壮大な光景は産業観光として大きな価値資源である。
 なお、3000m級の滑走路の脇には完成後のテスト飛行を待つ機体が何機も並び、その中にはANAが導入する最新鋭の787型機もあった。


視察を振り返って


 今回訪問したカナディアンロッキーは、世界有数の観光地であり、雄大な自然は観光資源として魅力的だが、神秘の大自然を見る観光に頼っていては観光客数の減少に歯止めをかけることが出来ないようである。そこで、現地では新たな観光資源の魅力付けとして「体験する観光」を提案し、滞在型観光につなげている。加えて、体験メニューの整備やリゾート開発は、自然との融合が上手く図られ、拠点となる町としての役割も明確化しているようであった。また、国立公園内の道路にはガードレールやがけ崩れ防止用のフェンス等も無く、動物の生態系を守り、自然を自然のままに保護する姿勢が窺われた。

 一方、シアトルのボーイング・エバレット工場の壮大なスケールは、これぞ産業観光の核施設であると強く印象に残った。
 振り返って富山を見てみると、北陸新幹線の開業を間近に控え、観光を取り巻く環境は激変することが予想される。富山には立山・黒部アルペンルートや世界遺産五箇山をはじめ砺波平野の散居村周辺等の観光資源は数多く、しかも殆どが1時間半圏内にあるため、富山市も観光の拠点と成り得るのではないか。これらの資源、利点を活かした観光振興の推進に、カナダの事例は参考になると感じた。


  報告者/当所産業振興部次長 加藤 泰喜


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