会報「商工とやま」平成23年11月号

特集1
 映画のロケ地として、富山県の魅力を内外へ発信
 富山県ロケーションオフィスのあらたな取り組み11


 富山県を舞台にした映画がここ数年相次いで公開されています。そのほかにも、全国放送のテレビドラマや旅番組などのロケ地として話題となるケースも数多く見られます。  今回は、今年7月に設立された富山県ロケーションオフィス(TLO)のスタッフの皆さんにお話を伺い、映画やテレビ番組のロケ地誘致で見えてくる地域活性化や観光振興の新たな可能性を探ってみたいと思います。


まもなく公開の『RAILWAYS』でも制作に協力


 ここ数年、『劔岳 点の記』『ほしのふるまち』など、富山県を舞台にした映画が数多く制作されています。そして、いよいよ11月19日から、(全国では12月3日から)『RAILWAYS(レイルウェイズ)愛を伝えられない大人たちへ』が公開となります。

 『RAILWAYS』は、雄大な立山連峰や自然豊かな富山の風景を背景に、三浦友和さん演じる富山地方鉄道の運転士とその家族の絆を描いたこころ温まる物語です。オール富山ロケで行われたというこの映画の撮影には、富山県ロケーションオフィスのスタッフが様々なカタチで協力しています。

 富山県ロケーションオフィスは富山県観光・地域振興局観光課内に設置され、スタッフは観光課主幹の宮崎一郎さん、ロケーションコンシェルジュの木寺彩乃さん、観光企画係主任の清田義之さんの3名です。

 宮崎主幹と木寺さんが主に映画のロケを、清田主任は旅番組や旅雑誌などのロケを担当しています。


より組織的なロケ誘致を


 富山県ロケーションオフィスは、富山県内での映画撮影をスムーズに行うことができるよう、富山県の総合的な窓口として7月1日に発足しました。また、県庁内の組織に加え、県内のフィルムコミッション、市町村、関係団体等と連携して、組織的に映画撮影の支援を行うことを目指しています。

 県内にはほかに、高岡フィルムコミッション、なんとフィルムコミッション、富山フィルムコミッション、フィルムコミッション氷見市映画支援会があり、県と合わせて5つのフィルムコミッションが設立されています。

 富山県ロケーションオフィスの活動内容は、主に次のようなものがあります。・映画会社・制作部への情報発信・提供、・シナハン、ロケハン、ロケ等への同行、・ロケにあたっての支援、・県内各フィルムコミッションでアテンドしている場合の後方支援、・各種手続きに関する支援、・ロケ候補地情報の公募などです。


ぜひ、ロケ候補地になってほしい


 映画会社が富山でロケ地を選ぶ場合には2つのパターンがあると言います。ひとつは、最初から富山を舞台にした物語で、富山で撮影をすることが決まっている場合。そしてもうひとつは、台本のイメージに合った場所を、全国の候補地から選ぶ場合です。

 全国にフィルムコミッションが設立され、ロケの誘致競争が激しくなるなか、より多くの映画を富山で撮影してもらうためには、ロケ候補地をどれだけ確保し、制作部に提案することができるかが課題だと宮崎主幹は語ります。

 「最初から富山と決まっている場合でも長期の撮影ではロケ地は何カ所も必要になります。今回の『RAILWAYS』の場合も50カ所以上で撮影されていますが、実際は、その何倍もの候補地を制作部の方と一緒に回って探しています。ですから、日頃から候補地の情報をどれだけ多く持っているかが大切なんです」

 木寺さんも、次のように話します。

 「富山でなくても撮影できるシーンも、県内でできるだけ多く撮影してもらえるように、一緒にロケ地を探すなど、積極的に働きかけています」

 制作部の要望に柔軟に対応し、富山での撮影の機会を増やすためには、県内各地の情報の蓄積と、ロケ候補地をもっと増やしていくことが重要です。

 「ぜひ、富山商工会議所の会員企業の皆さんにもご協力いただき、ロケ候補地に立候補していただきたい」と、皆さんは力を込めて語ります。


あたりまえの風景が、貴重なシーンになる


 では、映画のロケ地にはどんな場所が求められることが多いのでしょうか。

 「映画には日常のシーンが多いので、制作の方と何気ない風景を探すことが多いのですが、それが難しい点でもありますね。

 富山ではあたりまえだと思っている、かつての日本を感じさせる風景や、いまでは少なくなった、古いレトロな建物などが、これまでかかわった映画ではよく選ばれています」

 『RAILWAYS』では富山地方鉄道の駅舎などが使われ、味のある風景が映し出されています。『劔岳点の記』でも岩峅寺の駅が、美術スタッフの手によって、より明治時代の趣のある駅舎となり、現在でもそのときのベンチなどが残されています。

 「地元の人があまり気づかないような場所が選ばれることが多いのですが、映画にとってはそれがとても貴重なシーンになります。富山にはまだまだそういう場所がたくさんありますし、発掘していきたいですね。そして、地元の方にはぜひ、自分たちの地域に自信を持っていただければと思います」


地元の宝を再発見 ロケ誘致によるメリット


 県内でこれまでにロケ地になった地域では、映画をきっかけに大きな盛り上がりを見せ、地元の人による地域おこしが活発になったり、全国からの問い合わせが相次ぐなど、新たな観光名所として人気スポットとなるケースもあります。

 「フィルムツーリズム」という言葉がありますが、ロケ地を巡る旅は、『冬ソナ』人気で証明されたように、日本に留まらず、世界的にも通用する観光メニューです。

 『劔岳 点の記』の場合も映画が大ヒットとなり、立山周辺などロケ地を巡るツアーが旅行会社で独自に組まれるなどの効果がありました。『RAILWAYS』でもロケ地を巡るツアーが大手旅行会社により計画されています。また氷見を舞台にした『ほしのふるまち』では、薮田地区の何気ない風景が美しく描きだされ、地元の人たちが地域を見直す大きなきっかけとなっています。


あらたな交流が生まれる


 清田主任も次のように話します。

 「私はテレビの旅番組や雑誌の取材などを主に担当していますが、今年春に放送された『遠くへ行きたい』では富山が取り上げられ、番組内で紹介されたお店や旅館などへの問い合わせが、全国から数多くあったと聞いています。

 ドラマ『不毛地帯』でロケ地となった富山電気ビルでも問い合わせが多くなり、結婚式の問い合わせや昼食に訪れる人も増えたそうです」

 この夏公開された『乱反射』では、射水市の内川でも撮影されています。いま地元では、その「日本のベニス」とも言われる情緒あふれる景観を見直し、保全する取り組みが始まっているそうです。

 「映画の舞台となることで、地元の人が地域の宝物を見直し、それを誇りにできるようになる。映画制作をきっかけに皆さんが元気になっていくのを見て、その大きな効果を実感しています」と皆さんは話します。

 映画制作という、普段とは違った、外からの客観的な視点で地域を見直すことで、地域の人たちが活気づき、新たな交流が生まれる。私たちがまだまだ気づいていない富山の良さを、映画制作は教えてくれるようです。


ホームページやブログで発信


 富山県ロケーションオフィスでは、映画会社や制作部向けに、ホームページを立ち上げ、ロケ候補地などの情報を掲載しています。また、ブログでは撮影中の様子や、県内での映画制作などの情報を随時更新しています。また、フェイスブックでも同じく最新情報を発信中です。

 みなさんもぜひ、映画のロケ候補地に立候補して、作品の舞台として大切なふるさとの風景をスクリーンに残しませんか。


地元のご協力があってこそ


 ただし、ロケ候補地となるには、映画の内容を選ばないことも大切です。それは殺人事件などの舞台になることも多いためです。それを逆に、面白いと捉えられれば、地元を発信する大きなきっかけになるかもしれません。

 また、映画のロケは、その日の天候次第でスケジュールも刻々と変わっていきます。そういったことに、いかに柔軟に対応するかは、地元の皆さんのご協力がなければできないことです。

 「だからこそ、富山県ロケーションオフィスでは、人と人の結びつきや信頼を大切にしながら、地元にいる私たちならではの調整や提案で、気持ちよく映画制作をしてもらい、また次につなげていきたいと考えています。

 今後は富山県でのロケ候補地をさらに増やして、富山の魅力の発信に努め、地元の方の誇りを高められるようにしたいですね。ぜひ、皆さんのご協力をお願いいたします」


高倉健さん主演映画も


 先日発表された、高倉健さん主演で降旗康男監督がメガホンを取る映画『あなたへ』は、富山県ロケーションオフィスや、富山フィルムコミッション(富山市)などが協力し、無事富山ロケを終了しています。

 この映画は、高倉さん演じる富山刑務所の指導技官が、亡き妻の真意を知るために妻の実家の長崎まで車で旅をするという物語です。出演者はほかに田中裕子、佐藤浩市、ビートたけし、草剛、綾瀬はるかさんなど、豪華キャストが揃います。2012年秋公開予定。富山の魅力をスクリーンで再発見する機会が、今後ますます増えていきそうです。


富山県ロケーションオフィス(富山県観光・地域振興局観光課内)
富山市新総曲輪1番7号
TEL:076-444-6789  FAX:076-444-4404

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