会報「商工とやま」平成23年12月号

特集1
森林を再生するための、CO2オフセット・クレジットを販売中
富山市の新たな取り組みとは


 富山市では、環境省の「オフセット・クレジット(J−VER)制度」で、富山県内初の認証を受け、森林による二酸化炭素(CO2)の吸収量をクレジットとして発行・販売しています。

 今回は、富山市の森林の再生に向けたJ−VER制度への取り組みについて、富山市農林水産部森林政策課森林整備係の浅野貴和係長と、同課の赤坂悟知技師にお話を伺いました。


カーボン・オフセットとは


画像  森林は整備をすると木々の成長が促され、CO2を多く吸収できるようになります。

 富山市は今年3月から、富山市内の森林において間伐により増加するCO2吸収量をJ−VERとして発行し、企業などへの販売をスタートしました。運営にあたるのは、富山市カーボン・オフセット運営協議会です。

 カーボン・オフセットとは、自分の温室効果ガス排出量のうち、どうしても削減できない量の全部、または一部を、ほかの場所でのCO2の排出削減や森林等による吸収量でオフセット(相殺)することを言います。

 カーボン・オフセットの仕組みを活用した商品・サービス・イベントは年々増えています。例えば、商品の製造・使用に伴うCO2排出量に見合ったクレジットを調達し、その分のコストを商品の料金に上乗せして、CO2がオフセットされた商品として提供するなどの例があります。

 カーボン・オフセットの取り組みを通じて、省エネなどによる経費削減だけでなく、CSR(企業の社会的責任)活動としての社会的評価の向上や、それに伴う、商品・サービスのブランド化といった効果があると考えられています。

 これまで、全日本空輸株式会社のカーボン・オフセットプログラムやワタミ株式会社のカーボン・オフセット付きカクテルの販売、そのほかにもガソリンや年賀状、旅行、イベントなど、さまざまなカタチで活用されています。

 また、日本は京都議定書において、2008年から2012年の平均で、CO2などの温室効果ガス排出量を、1990年比で6%削減する義務を負っています。しかし、2007年度の排出量は、1990年比で9%上回っていて議定書の目標達成には大幅な排出削減が必要です。

 特に最近では、オフィスや家庭等からの排出量が増加し、産業・運輸にかぎらない全ての部門における排出削減の取り組みが必要とされています。


カルビーが富山市のJ−VERを購入


画像  富山市が発行するJ−VERは、環境省が平成20年にスタートさせた国内の温室効果ガスの排出削減・吸収量を促進するためのオフセット・クレジットです。第三者機関の検証を経て認証されたクレジットは市場で売買されています。

 今年3月、富山市では第一弾として富山市の人工林の間伐により増加するCO2吸収量224トンのJ−VERを販売開始し、今後、平成24年度までの吸収量増加分、約4000トンの販売を目指しています。

 これは、間伐による木の成長量などから算出したCO2吸収量が元になっています。

 富山市カーボン・オフセット運営協議会では、J−VERの売買による資金を市内の森林組合へと還元することになっています。

 先頃、カルビー株式会社カルネコ事業部が富山市のJ−VERを20トン購入して話題となりました。これは、販売促進支援等を行う同事業部の収益の一部を森林保全活動に当てるものです。富山市では引き続き、残りのJ−VERを販売しています。

 発売開始時期が3月ということもあり、東日本大震災を受けてスタート時の反応は鈍かったとのことですが、今後、カルビー株式会社と同様の動きが県内企業にも広がっていくことが期待されています。


J−VERの魅力とは


 J−VERはISOに準拠した制度設計により認証され、二重使用を排除した登録簿システムを採用していますから、信頼性が高いクレジットとして企業側のリスク低減が可能です。

 また、国内プロジェクトのみに発行されるクレジットとして、富山市の取り組みのように、地域に密着したプロジェクトに貢献することができます。

 このJ−VER制度は、全体としてボランタリーな取り組みのため、マーケティングやCSRにおいて、環境への企業の貢献を差別化することができます。

 また、今回の発行元である富山市など、地域とのつながりが深まり、商品や企業活動にJ−VERをプラスすることで、商品や企業活動の再評価に結びつけることができます。

 さらに、算定・報告・公表制度の報告の義務のある企業などが、調整後温室効果ガス排出量(調整後排出量)の算定に、J−VERを使用することが可能となっています。


富山の森林を整備して暮らしや海を守りたい


 富山市では、富山市と森林組合による間伐促進型森づくり事業「森のチカラ」富山プロジェクトを進めており、その中で、今回のJ−VER事業に取り組んでいます。これらの取り組みによって植栽や間伐を適切に行い、林業の活性化や雇用の創出、森林の健全性を確保する狙いがあります。

 富山市の森林は、市全体の面積の約7割、約8万6000ヘクタールを占め、そのうち人工林の割合は約16%、約1万3400ヘクタールで、天然林の割合が高い自然環境の優れた地域です。

 森林は、木材供給や水源かん養、国土の保全機能、レクリエーション機能、生物多様性、そしてCO2の吸収源としてなど、市民の生活や動植物にさまざまな恵みをもたらしています。また、森林地帯から海に流れ込む栄養豊富な水は、富山湾の豊かな漁場を育んできました。

 このプロジェクトでは、個人所有の山林についても適切な間伐を実施することで、CO2吸収量をクレジット化し、その売買による収益で、地域の課題である森林境界の明確化や木材運搬用の道路整備など、継続的な森林管理などを目指しています。


台風やゲリラ豪雨による流木被害を防ぐためにも


 一方で、国産材の需要や価格の低迷、山村地域の過疎化・高齢化などによって、手入れがされず放置されている人工林が増えているのは全国的な傾向で富山市でも同じです。これらの理由で、近年は木材の生産機能は著しく低下しています。

 また台風による大雨や局地的なゲリラ豪雨による土砂流出、そして流木などの被害も懸念されています。

 「実際に、平成11年と平成16年には、台風によって上流の飛騨方面から大量の流木が富山湾まで流れ、漁業者に大きな被害が及んだこともありました」と浅野係長は振り返ります。

 この台風による流木被害をきっかけに、平成19年から昨年度までの4年間にわたって、富山の漁業者や森林ボランティア、きんたろう倶楽部のメンバーの皆さんらが参加して、飛騨市と連携した森づくりの交流事業が行われました。


成熟期を迎えた人工林


 まさに成熟期を迎え、間伐や伐採の必要に迫られていると言います。

 「昭和40年頃に植えられた木が、45年ほど経ち、成熟期を迎えています。ここまで、少なくとも3回ぐらいの間伐とともに、枝打ちなどの作業も必要とされていたはずですが、そういった整備がなされずに大きくなった林は、言わば、もやし林のようになってしまっています。

 光が入らないことで下草も生えず、細い木ばかりが密集した林は、激しい雨で土砂が流され、木が倒れることによって流木被害につながることもあります。いまの時期だからこそ、適切に間伐することで、少しでも木を太らせ、山を守りたいと考え、富山市では間伐などの整備に力を入れているのです」

 間伐するだけでなく、その木を山から運び出すための道路整備などについて、国や県の補助にプラスして富山市でも補助を出し、山林所有者に少しでも負担のかからないような施策がすすめられています。


森林の境界がわからない


 森林整備において、大きなネックとなっているのが、山に人が入らなくなり、所有者自身も森林境界が分からなくなってしまっていること、とお2人は語ります。

 「世代が変わり、知恵や情報が継承されないことで、個人所有の森林の境界がわからなくなってしまっているケースが数多くあります。

 かつては、境界に隙間をあけたり、大きな石を目印にしたり、また樹種を変えたりといった工夫がされていたのですが、木が大きく成長してみな同じような林になってしまい、境界が非常にわかりにくくなっているのです。

 いくら整備をすすめたいと考えても、個人の財産ですから勝手に間伐することはできません。ですから、地元の長老の方などにご協力いただきながら、少しでも所有者の方に山に足を運んでいただき、森林境界を明確にしていきたいと考えています」

 代々伝えられてきた、境界などの大切な情報が、受け継がれずに途絶えてしまっている現状のなかで、森林整備には、様々な困難と課題があるようです。

 しかし、その一方で、地域の人々や企業が、森や里山の保全と整備の重要性に気づき、ボランティア活動や企業活動などで、山に足を運ぶ人が増えています。


富山市企業の森づくり促進事業に参加しませんか


画像  富山市ではオフセット・クレジットの運営のほかにも、市の森づくりプランの一貫として、市内の企業と協定を結び、森林の下草刈りや広葉樹の植林などのボランティア活動に企業が市内の森林を活用できるよう、「富山市企業の森づくり促進事業」を行っています。

 現在7社が参加し、各企業が継続した森づくり活動を行っています。富山市では、今後も、参加する企業を募集しているとのことです。

 私たち市民の一人ひとりが身近な森に関心を向け、守っていくことは、今後さらに重要になると考えられます。

 また、企業の社会貢献活動の一つとして社外への大きなPRにもつながります。森づくりを通して、人と環境、そして社会に、さまざまなメリットが生まれていきそうです。


間伐材の再利用


画像  間伐によって生まれた木材は、中には家の構造材として利用できる木材もありますが、それに満たない細い木材などは、さまざまなカタチで活用されています。

 例えば、ペレットや土木資材用のウッドブロック、いくつもの材料を組み合わせることによって強度を増した新開発の建築資材ささら板などです。

 少しでも木材が山に放置されないよう、富山市の森林組合等ではさまざまな間伐材の活用方法を工夫しています。



 CO2の削減と、企業の社会貢献の一つとして、大手企業では次々とあらたな商品やサービスを生み出し、活用しているJ−VER制度。

 富山市の取り組みは、身近な森林を守るための新しい試みとして、今後さらに注目を集めていきそうです。

 富山市のJ−VER制度を活用して、身近な森林への関心を高め、地域社会に貢献する企業として内外にPRしてみませんか。


富山市森林政策課(富山市カーボン・オフセット運営協議会事務局)
TEL:076-443-2019  FAX:076-443-2185


オフセット・クレジット「J-VER」は、次のような活用例があります。

※J-VER=Japan-verified emission reduction

●インフラ事業
・電気やガス、水道の販売にオプションとしてカーボン・オフセットを追加する。
・CSR、企業のイメージ戦略に活用する…自社活動に伴い発生するCO2のうち、自社努力だけでは達成できない排出量抑制分をJ−VERでオフセットする。

●製造業
・環境配慮商品に更にJ-VERを追加する…J-VER付きエコバッグ、クールビズ、エコ家電、エコカーなど。
・通常商品にJ−VERを追加して、エコ商品化。
・イベントや懸賞などに活用。
・自社活動で生じるCO2をJ−VERでオフセット。
・エコ商品・CSRの見える化に活用など。

●金融・保険業
・利子や運用報酬、手数料の一部でJ−VERを購入。
・カーボン・オフセット付きローンの販売。
・被保険者のカーボン・オフセット支援。
・ポイントの還元などにカーボン・オフセットのオプション追加。
・CSRや企業のイメージ戦略に活用など。

●卸・小売業
・販売商品にJ-VERを付けて販売する…J−VER付きエコ商品。J−VER付き木材、家具、自然化粧品、自然食品、J−VER付き通常商品など。
・ポイントの還元などにJ-VERへの交換のオプションを導入。
・個人のカーボン・オフセットを支援する、個人向けJ−VERの販売・償却代行。
・企業のイメージ戦略に活用など。


カーボン・オフセットフォーラム
 環境省が設置した、カーボン・オフセットに関する公的組織J‐COFが運営するサイトで、カーボン・オフセットの仕組み、企業の活用事例等が掲載されている。





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