会報「商工とやま」平成23年 月号

特集1
家族みんなで健康診断を受けて、生活習慣病を予防しよう
全国健康保険協会(協会けんぽ)富山支部の取り組み


 メタボリックシンドロームという言葉は、私たちの暮らしの中にすっかり定着していますが、実際に自分がそうかもしれないと思っても、自分一人ではダイエットや運動は、なかなか続かないもの。そこで今回は、全国健康保険協会富山支部の皆さんに、健康診断の重要性と、健康づくりのポイントについてお話を伺いました。


協会けんぽとは


 中小企業等で働く従業員やそのご家族の皆さんが加入されている健康保険(政府管掌健康保険)は、従来、国(社会保険庁)が運営していましたが、平成20年10月1日、新たに全国健康保険協会が設立され、その協会が運営することになりました。同協会が運営する健康保険の愛称を「協会けんぽ」といいます。これは健康保険がもっと身近なものとなるよう公募で選定されたものです。

 保険料については、全国一律の保険料率から、地域の医療費の違いを反映した都道府県単位保険料率に移行し、協会けんぽでは従業員の「生活習慣病予防健診」と扶養のご家族の「特定健康診査」の受診率の向上を目指すとともに、保健指導などの「健康づくり」に力を入れ、地域に密着した健康保険の運営に取り組んでいます。



従業員本人だけでなく、扶養家族の受診率の向上を


 協会けんぽに加入している事業所は全国で約160万、富山県内では約1万6000で、全国のほぼ1%にあたります。40歳以上の被保険者数は平成22年度推計で13万7955人。同じく40歳以上の被扶養者数(推計)は4万1156人となっています。しかし、それぞれの健診の受診率を見てみると、従業員本人が受ける生活習慣病予防健診で52・9%、その扶養家族の方が受ける特定健康診査で18・2%となっていて、平均すると44・9%と想像以上に低いことが分かります。

 その背景には、協会けんぽの加入事業所の約6割が従業員4人以下の小規模事業所ということもあるようです。企画総務グループリーダーの佐伯卓也さんは次のように語ります。

 「多くの事業所の方々に、当協会の実施する生活習慣病予防健診を受診していただいていますが、比較的小規模な事業所の場合、費用や時間の面から受診されないケースがあるのではないかと思われます。また、やや簡便な労働安全衛生法に基づく健診を実施される場合が多いようです。実はこの健診の場合も、各事業所から健診データを提供いただくことにより、健診の実施件数にカウントできることになっています。その方法がやっと整いまして、今年度から本格的に取り組み始めたところです。

 また、扶養家族の方の受診率が特に低くなっていますが、これは、受診方法が変わったことなどのお知らせがまだ十分に行き渡っていないことが原因ではないかと考えています。

 協会けんぽでは、従業員及び扶養家族ともに受診費用の補助を行っていますが、何より大切なのは、扶養になっているご本人の健診への動機づけを高め、制度への理解を深めていただくことです。

 なぜ健診が必要なのか、皆さんの意識を変えていただくために、私たちは今後も広報などを通じて積極的な働きかけを続けていきたいと考えています」



健診と保健指導の実施率次第で、保険料負担が重くなる


 では、なぜいま健診が重要なのでしょうか。一番の理由は一人ひとりの健康を守ることはもちろんですが、増大する医療費の抑制が大きな課題となっているからです。

 「協会けんぽ富山支部が取り扱う医療給付費は、平成21年度で約454億円、また、加入者(従業員とその扶養家族)1人当たりの年間給付金額は平成22年度推計で約11万4000円となり、毎年増加しています。保険料率は収入と支出のバランスで決まります。財政状況が年々厳しくなっているため、平成21年度の保険料率は8・19%、22年度には9・31%に、そして平成23年度からは9・44%へと大幅な引き上げをお願いせざるを得ませんでした。

 さらに、平成24年度末に、特定健診が70%、保健指導が45%という国の定める実施率を下回っていると、高齢者医療拠出金などの財源である特定保険料率に対し、保険者ごとにペナルティが課せられることになっています」

 保険料率はその使い道から大きく2つに分かれており、医療給付費・現金給付などの「基本保険料率」、高齢者医療拠出金などの「特定保険料率」がそれぞれ決まっています。つまり受診率(実施率)が低ければ、その分特定保険料率が高くなることになり、事業主及び従業員の皆さんの負担が増えることになります。場合によっては、年間で1人当たり1万円ほど負担が増える可能性もあるそうです。

 ちなみに、現在の特定保険料率は3・62%です。ここから平成21年度には富山支部で307億円が支出され、扶養家族を除いた加入者1人当たりにすると年間で13万600円もの金額を支出していることになります。

 しかし、保険者としては皆さんの保険料をさらに上げるわけにはいかない、と健診の実施率向上に力を入れています。協会けんぽだけでなく、健康保険組合や各市町村も同様です。

 健診や保健指導などを担当する保健グループリーダーの浜岡隆さんも、

「特定健診の実施率は国の目標の70%に対して、富山支部は44・9%となっています。この数字から厳しい状況であることをお分かりいただけると思います。皆さんのご理解を得ながら、目標達成に向け実施率を上げたいと考えています。

 そのためにも、労働安全衛生法に基づく健診を受けていらっしゃる事業主の方には、ぜひデータの提供をお願いします。提供いただければ健診の実施数にカウントでき、実施率のアップにつながります。富山商工会議所会員の皆さまのご協力をよろしくお願いします」

と協力を呼びかけます。



健診と優しい指導で、メタボを改善


 傷病別医療費では、ガンに続いて、高血圧性疾患や糖尿病、その他、高脂血症などの内分泌や代謝疾患などが多くなっています。つまり、生活習慣病が上位を占めていることが分かります。生活習慣病の予防と早期発見によって、健康な生活を守ることができれば、将来へのリスクや医療費を抑え、保険料率も抑えることができるのです。

 「健診でメタボと言われて保健指導の対象者になっても、それは決して『あなたはダメ』と言われているわけではなく、ちょっと生活を変えることで、これから先、明るいバラ色の人生が待っている可能性の高い方ということなんですよ」と語るのは、保健師の石川浩美さんです。

 「腹囲が男性で85センチ以上、女性で90センチ以上の方で、そのほかに血圧や血糖、脂質異常のリスクのある方が、そのリスクの程度に応じて保健指導の対象になりますが、内臓脂肪の断面積が100平方センチ以上になると動脈硬化がより進み易くなり、ある日突然、脳梗塞や心筋梗塞をおこすリスクが高くなります。内臓脂肪はたまりやすく減らしやすい脂肪ですから、ちょっとずつでも危機感を持ってくださる方が増えて、普段から気をつけていただくことで、将来のリスクを減らすことができるんです」

 石川さんをはじめ、保健師や管理栄養士の資格をもった皆さんが、事業所を訪問し、それぞれの方の生活習慣などをうかがって、無理なくできることを具体的に優しくアドバイスしています。その後も電話や手紙などで定期的に生活習慣の改善や運動、食事などについてフォローし、無理なく続けられるように工夫されています。



ごはん1口で、無理なく減らす


 「カロリーで考えると、ごはんですと1口が約30グラムで50キロカロリーぐらいです。これを減らすだけで、計算上は年間で2・6キロの減量ができることになります。つまり、ほんのちょっと食べ過ぎていれば太るということなので、いまの生活からほんの少しだけ、無くても我慢できる分だけ引いていただければ、痩せられるわけですね。

 目に見えて成果が出ると、皆さん喜んで続けてくださいます。でも、体重やお腹回りがなかなか減らないなど、成果がすぐに現れない場合もあります。それは内臓脂肪がたまって代謝が悪くなっているから。でも、確実に体は変わり始めていますし、体調も良くなっていきます。決して無駄ではありませんので、ぜひ継続して取り組んでいただけたらと思います」と石川さんはエールをおくります。

 保健指導と聞くと、身構えてしまう方も多いかもしれませんが、個別指導だけでなく、グループ指導、全社員向けの指導も可能で、随時申込みを受付けています。



家族の暮らしと安心を健診で守っていこう


 協会けんぽ富山支部では今年3月に、NHK番組ためしてガッテンのディレクターを務める北折一氏を招き、「ガッテン流!メタボ撃退術」と題して講演会を県内2カ所で開催しました。北折氏は、働きざかりの家族を突然亡くしたあとの家族が大変な苦労を強いられる突然死に触れ、メタボ対策の大切さを訴えられました。講演会の内容は協会けんぽ富山支部のホームページで紹介されています。意志の弱い人でも続けられる秘訣などもありますので、ぜひ、参考にしてみてはいかがでしようか。

 健診の重要性は分かっていても、日頃の忙しさや費用の面などから、なかなか積極的に取り組むことができない事業所も多いとのことですが、医療費の増大は、結局は保険料として自分たちの負担増につながります。

 メタボを改善して、将来にわたる病気のリスクや従業員の欠勤などのリスクを減らすとともに、医療費の抑制に向けて、一人ひとりが意識を高めていくことが大切です。事業主や従業員の皆さんはもちろん、家庭を守る大切なご家族の健診も忘れずに、みんなで実施率を高める意識と環境を作っていきたいものです。



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 富山商工会議所は今年も9月に会員事業所の経営者や従業員の皆さんを対象とした「生活習慣病予防健診」を実施します。お忙しい方でも、当所専用のコースなので短時間で受診できます。詳細は本誌に同封しているチラシをご覧いただき、お申し込み下さい。

 なお、健診後には協会けんぽへの健診データの提供に、ぜひ、ご協力をお願いいたします。



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