会報「商工とやま」平成24年4月号

特集
富山市ヤングカンパニー大賞・大賞受賞企業紹介

炭素繊維パネルを使った、あたらしいコンクリート構造物補修工法で全国へ
株式会社AKITEC


 当所ならびに富山市は、新分野へのチャレンジや革新的・独自性の高い発想・技術で頑張っている「創業まもない企業」と「第二創業に成功された企業」を顕彰し応援する「富山市ヤングカンパニー大賞」を実施しています。

 今年度は富山市全域から12社の応募があり、審査の結果、大賞には株式会社AKITEC(秋テック)(建設業)、優秀賞には株式会社TYRANN(ティラン)(まつげエクステ専門店)と株式会社センティア(テニス・ヨガスクール)が選ばれました。

 そこで今回は、大賞を受賞した株式会社AKITECをご紹介します。



コンクリートの劣化がすすむ


 株式会社AKITECは平成18年に設立され、土木建築資材の加工や販売、土木建築工事の設計、施工、監理、請負および環境に関するコンサルティング業務などを行っています。

 今回、富山市ヤングカンパニー大賞では、土木工事の中でも特に、トンネルなどコンクリート構造物の補修、設計、対策工事の分野で独自に開発した技術とその将来性が評価されました。

 まず、同社がコンクリート補修の新技術を開発した背景について、代表取締役の秋田浩志氏にお話を伺いました。

 「公共事業の減少によって、土木建築業界は非常に厳しい環境におかれています。一方で、昭和30年代後半から40年代前半にかけての高度経済成長期につくられた様々なコンクリート構造物の多くが劣化してきている問題があります。

 当時はまだ、生コンクリートの作り方にしてもすべて人力ですし、構造物の作り方も技術力は低く、中には非常に粗悪なものがありました。コンクリートは100年もち、永久の構造物とも言われていましたが、その作り方次第で、実際はそれほどもたないということがわかってきたのです」

 当時は人が手で練って生コンクリートを作っていたため、水分が多かったり、逆にセメントの配合率が異常に高かったりと、品質にはかなり大きなバラツキがあるのです。

 「トンネルに関して言えば、コンクリートの打設方法も昔は下から順番に上へ型を当てながら打って、一番上は最後にコンクリートで蓋をして終わるような感じでした。つまり、何か起きると崩れたり、はがれ落ちたりし易いという状態です。また、コンクリートの厚みは35センチで施工したと言っても、当時は手作業のため均一でないことも多いのが実情です」

 さらに、コンクリートは打ち始めたら時間を空けないで打っていかないと、コールドジョイントというつなぎ目ができてしまい、構造的に弱くなります。現在はそのつなぎ目をうまく処理できますが、当時はまだその技術はありませんでした。

 全国各地のトンネルが施工から40年以上経ち、あちこちで補修が必要になっているのですが、公共工事の予算が削減される中で、実際に崩れなどの問題が発生していないものの補修工事となるとどうしても後回しにされてしまうのが現状です。各地で危険な状態を目の当たりにし、秋田社長は「これからは補修・補強することをもっと考えていかなければならないのではないか」とその必要性を強く感じたそうです。

 そこで、同社が土木資材メーカーとの連携によって開発したのが炭素繊維パネルを使った補修工法です。秋田社長が目指したのは、誰でも簡単に、安全に施工ができること、そして、薄くて耐久性があって、適材適所の対応力とコストパフォーマンスがあることでした。


BFAパネル工法


 同社がすすめているのは、炭素繊維のパネルを使用するBFAパネル工法です。炭素繊維は強くて耐熱性があり、しかも軽い素材です。

 BFAパネルは、パネルにエポキシ樹脂を塗って炭素繊維を貼り、きれいに脱泡したものです。パネルは工場でつくるので仕上がりも品質も均一なものが製造できるほか、土木工事に適した1メートル×2メートル規格でムダが出ないことが特徴です。

 パネルの片側には炭素繊維が10センチほど出ていて、現場では、それをつなぎながら連続して貼り合わせていきます。

 「BFAパネルは取扱いが簡単で、経験のない人でも施工が比較的楽にできます。これまでは、パネルを貼る前の、トンネル内のはがれ落ちた箇所や、凸凹に傷んだ箇所の下地処理が大変でした。

 しかし、当社の製品であれば多少の段差も特に問題なく施工できます。と言うのも、まず、パネルをアンカーで仮止めして、その後、内側に樹脂を注入するので、トンネルの駆体通りにパネルと一体化させることができるのです」


調査から施工までトータルに


 BFAパネル工法は、トンネル建設などの各種資材を製造・販売・施工するメーカーでもある、大証二部上場の株式会社ケー・エフ・シーと共同開発しました。これにより、AKITECはトンネルなどのコンクリートの調査、診断、対策工事の設計、その後の補修工事に至るトータルな受注が可能となり、顧客から高い評価を得ています。これを業界全体の技術向上や活性化につなげようと、この事業に共鳴する同業者向けへのBFAパネルなどの資材販売を考えています。

 秋田社長がこの工法の開発に取り組んでから約5年。トンネル補修・補強工事の分野で、新しい工事のあり方を広く提示する同社の存在は、今後業界内で注目を集めていくことになりそうです。


事業の新たな柱として


 秋田社長は岐阜県旧神岡町出身。野球留学生として高岡向陵高校に入学後、野球部でキャッチャーとして活躍しました。

 卒業後は、土木資材を扱う富山県内の会社の営業職を経て、父親が経営する旧神岡町の有限会社秋田組でトンネル工事の技術を学び、土木工事において様々な経験を積みました。そして、現在のAKITECでは、従来型の土木工事を手掛けるだけでなく、新しい技術や工法を提案できる企業を目指し、経営にあたっています。
 今回の新工法は、あるトンネルの補修現場を見たことが発案のきっかけになっており、秋田社長のこれまでの経験が大いに生かされていると言えます。「従来型の土木工事は将来の見通しが厳しい中で、新たな柱となる事業にしたい」と、秋田社長は意欲的に取り組んでいます。

 同社のBFAパネル工法は、ムダのない製造・施工によるコストダウンと安全性・耐熱性の確保が実現できます。大手企業が開発したものに比べて安価に提供することにも成功し、全国各地のトンネル工事などで徐々に実績を積み重ねています。

 1日に短時間しか作業できないという条件に左右されないことも大きな強みで、このほど、横浜市営地下鉄の補修工事で採用されることが決まりました。鉄道トンネル用のパネルには絶縁性のアラミド繊維が使われます。

 現在、BFAパネルの改良に取り組み中で、更なる性能の向上に期待が高まります。


業界全体が育っていくために


 「元気で意欲あるベテランの方々が活躍できないようでは業界が衰退してしまう」と危惧する秋田社長。なぜなら、ベテラン社員と一緒に仕事をしながら、若手社員が多くのことを学んでいくからです。危険で大変な作業の多い業界ですが、BFAパネル工法は誰でも安全に施工ができて無理がなく、定年後の継続雇用が可能になる点も大きなメリットと言えます。更に、安定雇用はモチベーションアップにもつながります。

 また、疲弊が限界に達しているこの業界の将来や、公共事業の本質を考えると、秋田社長は高品質のものを適正価格で提供することが重要だと言います。

 「きちんと調査・診断をして、適材適所、いい材料を適正価格で使っていくことが必要です。材料によっては適さない気候条件があり、それが性能に影響するものもあります。公共工事は安全性もコストも、単年度ではなく、長いスパンで見て、何がいいのかを考えることも大事だと思います。公共事業のあり方について、もっと検討されるべきではないでしょうか」

 北陸新幹線関連で、現在比較的公共工事の仕事があるという富山県。しかし、工事が終了すれば、土木工事の分野では更に厳しさが増しそうです。単なる価格競争やパイの奪い合いではない、新工法による補修・補強事業が、更に注目を集めそうです。


株式会社AKITEC
 富山市神通町3-6-24  TEL:076-413-5016
 代表取締役社長 秋田 浩志
 設 立 平成18年4月
 資本金 1、250万円
 従業員数 26名
 事業内容 建設業(土木、コンクリート補修)

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